odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-5 全体主義は市民権を得た者を法体系から改めて追放する運動体(藤田省三)

2021/11/29 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-4 2014年の続き

 

 前回の読書から4年たって中身を忘れてきたので、再読した。このエントリーでは「全体主義の起源」を解説する章のメモを取る。
 前回の感想はリンクの通り。
2021/12/03 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-1 2014年
2021/12/02 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-2 2014年
2021/11/30 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-3 2014年
2021/11/29 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-4 2014年


 前の読書では、とにかく資本主義とそこからの脱落者「モッブ」と植民地の関係に圧倒されてしまった。前回の感想ではそこにフォーカスしたので、ここでは漏らしたことをまとめる。
アレントの著作全体の見立てによると、20世紀は前半が全体主義で、後半はアメリカの繁栄と世界秩序。いずれもろくなものではない(画一主義、核兵器、冷戦、政治的なウソなど)。といって19世紀的な秩序(階級社会と代議制的政党政治)は不可能で望ましいことではない。
・19世紀秩序は国民国家と代議制的政党政治で説明できる。しかしネーションと国家は不一致であり、ネーションが国家の上に立つ全体主義になった。階級の利害を代表する政党は階級制が解体し大衆化したことで、大衆と離れてしまった。大衆が政治参加するのは政党ではなく、「運動」になった。
国民国家は資本主義の帰結として帝国主義に変貌する。特長は、資本輸出、人種差別、官僚制行政。ここには普遍的な統合原理はない。
(普遍主義は、インマニュエル・ウォーラーステイン「新版 史的システムとしての資本主義」岩波書店菊池良生神聖ローマ帝国講談社現代新書を参照。ある理念・イデオロギーを持つ帝国を通じて単一の正義と秩序を確立する考え。したがって古代から中世の帝国と、帝国主義の帝国は無関係。)
ナショナリズム帝国主義は本体対立するが(領土の線引きと資本輸出は一致しないはず)、一体化した。(この指摘は上掲ウォーラーステインと同じ)
・東中欧諸国では、中世から多民族が併存していたので、そのころから民族間の差別があった。これらの国が「国民国家」を作った時、マジョリティのネーションが権力を多く持ち、少数民族が抑圧された。これも人種差別(レイシズム)の起源のひとつ。マジョリティのネーションはレイシズムで共同体内を平等化した。とくにロシアとオーストリアハンガリー
(なるほどドストエフスキーの汎スラブ主義は東欧差別と一体化している)
(前回のサマリーにあるように、植民地からレイシズムが生まれると説明しているが、中世のころから非キリスト教徒を人間と認めなかったり、ルネサンスからの黒人を奴隷にすることは無視されている。そこまで記述を広げると収拾つかなくなるので仕方ない。)

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・法的制度としての国家がネーションの集まりとしての国家に変貌。そこから無国籍者が生まれ、「見捨てられた人たち」が作り出された。孤立したのではなく、どこにも居場所がなく、同化したとしても拒否される。逆に言うと、国家に所属しない(国籍を持たない)と、人権が保障されない。これが国民国家の人権の現状。
(人種差別は国籍を持っているマイノリティから人権を奪おうとする。ジョイスユリシーズ」のレオポルド・ブルームがそういう「見捨てられた人たち」。)
・前回の読みではモッブから大衆が生まれ、全体主義運動に組織化されたと読んだが、どうも違いそう。モッブは階級制からの脱落者(なのでどの階級からもうまれるし、階級的基盤を持つ)。しかし大衆は階級社会が崩壊したから生まれた孤立化アトム化した人々。彼らの利害を代表する政党はないので、運動で組織化される。特長は、破壊の願望と暴力の賛美、運動に巻きこまれて他人を支配することを目的にする。
(その帰結がナチススターリン全体主義運動になる。詳細は前回感想で。)
国民国家体制は、ヨーロッパでさえ適応できない特殊な秩序であり、人権を保障できない(多くの国が国民国家になろうとしたのは、19世紀の世界システムの覇権国であったイギリスがロールモデルになったせいなのかなあ)。ネーションが国家の上にたつありかたと、見捨てられた人々を放置する無秩序がダメ。
・ではどうするか。ネーションに分割されてはならない、経済的な利害で動く政党に依拠してはならない。画一性なき統一を達成することと、複数性を擁護することが重要。
(ここの議論は「人間の条件」ほかの著作によって深められる。)
全体主義は市民権を得た者を法体系から改めて追放する運動体(藤田省三)。無国籍者、難民、国内のエスニックマイノリティ、その他のマイノリティらの安定性を剥奪する運動である。彼らを摘発するのが秘密警察で、収容するのが強制収容所。これが全体主義国家の特長。

 

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2025/04/21 川崎修「ハンナ・アレント」(講談社学術文庫)-6 アメリカの自由を制度化する憲法体制と蓄積された富は20世紀に全体主義国家になることから免れた。21世紀はどうなる? 2014年に続く