odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

望田幸男「ナチス追求」(講談社現代新書) 戦争犯罪を自国で裁く決意が周辺諸国の信用を培う

 1989年の東西ドイツの国境開放は、それまでのソ連と東欧の革命の総決算で象徴のようであったが、実はそこから始まることもあり、それまでやっていたことをいかに継続するかという課題もあったのだ。冷戦終結以降のドイツを回顧的にまとめたのが、以下の本。
三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 2006年
三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-2 2006年
 本書はナチス犯罪追及とネオナチ登場を主題にしているので、上記の書の「第6章 過ぎ去らない過去」が参考になる。


 1945年の敗戦から30年も経過すると、ナチスが犯した犯罪の追求をするにも、加害者も被害者も高齢化する。そのうえ、加害したナチスの党員や軍人は互助組織を作って、国家や組織の追及をかわす陰謀をめぐらしてもいるのであった。そのために、十分な証拠と証人を集められず、1970年以降は告訴する件数も有罪とされる戦犯も減少していったのだった。しかし、敗戦当初は他国の戦犯引き渡しに応じなかった西ドイツも次第に自国による戦犯追及を継続する。当時の刑法民法などでは時効があったものを、ナチス戦犯に関しては時効がないものとした。そういう改善が、周辺諸国の信用を培うことになる。のちのEU設立でドイツがリーダーシップをとれたのは、必ずしも経済的優位による発言力だけではないだろう。
2019/07/12 庄司克宏「欧州連合」(岩波新書)-1 2007年
2019/07/11 庄司克宏「欧州連合」(岩波新書)-2 2007年
2017/05/26 宮島喬「ヨーロッパ市民の誕生」(岩波新書) 2004年

 印象的だったのは、1960年代のできごと。若者がナチス追及の勉強と調査をしている最中に、父と祖父がしゃべらなかったことを聞く。極めて寡黙で人付き合いの悪い父は、ヒトラーユーゲントだった小学生のときに共産党員の祖父を密告。祖父は逮捕されたが、生還。敗戦とナチ崩壊による社会の見方が真逆になり、人の生き方と性格が変わってしまった。それを家族で追及し反目といさかいが生じる。そういう世代間の対決や自己に対する疑惑が起きたのだった(翻って、日本の家族にそのような家族間の断絶はあったのか、ありえたのか)。また自国内の有名人にナチス関与の疑惑があったときに、どのように追及するか。ここでは国連事務総長オーストリアの大統領になったワルトハイムと、ナチの後押しがあり戦後楽壇の帝王になったカラヤンが取り上げられる。彼らは自らは認めなかったが、メディアは繰り返し彼らに問いかけインタビューをした(翻って、日本では戦犯になったものを総理大臣に迎え、慰安所を設置するために尽力した海軍士官を国葬にした)。このあたりの執拗さや潔癖さを著者はドイツ人の精神や嗜好などに見るのだが、そこに原因をみるのはどうか。
2018/04/26 中川右介「カラヤンとフルトヴェングラー」(幻冬舎新書) 2007年
 敗戦後ナチスは地下に隠れたが、1960年代から表立った政治活動を行うようになる。一定の支持層(とくに戦前戦中の党員軍人たち)があったわけだが、1980年代以降の特長はドイツの近現代史を知らない若者がナチスにひかれて、新たな組織を作るようになった。元党員や元軍人の影響を受けていないのでネオナチと呼ばれる。当時は西ドイツの弱小集団であったが、東西統一と中東欧や中近東からの出稼ぎ労働者や移民が増えるにつれて、ネオナチや極右が勢力を増していく。ことにドイツは難民受け入れに積極的であることから、反発する愛国勢力が伸長している。
 という具合に、本書の内容から発展して考えることが重要(事例ばかりなので、問題が深く検討されない)。この後に起きたことと重ね合わせよう。たとえば、2020年になっても90歳以上の老人がナチスの戦犯として訴追されているなど。

www.asahi.com

www.afpbb.com