2025/05/28 大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)-1 中世から反ユダヤ主義は蔓延。近世ではゲットーにユダヤ人を隔離する。 1991年の続き
近世ドイツでは多くの都市で、ユダヤ人はゲットーに押し込められ、ドイツ人(とはいったい誰か)との交流はほとんどなかった。近代になって、フランス革命の影響で市民権が認められるようになり、豊富な金融資産で産業界で成功を収めるようになった。それは差別をなくすことではなく、新たに羨望と嫉妬を生み出す。20世紀になり、資本主義のグローバル化と帝国主義戦争(およびその反動の革命)によって人口が流動化する。戦時中にドイツは東欧ユダヤ人を徴用工として移住させた。多くは敗戦後も帰還しなかった。19世紀にドイツのユダヤ人がアメリカに移住したように、今度は東欧とロシアのユダヤ人がドイツに移住・亡命・難民となる。国際ネットワークを持っていたが、大規模な人的交流がなかったドイツのユダヤ人は〈外〉のユダヤ人と出会う。

4 ワイマール共和国時代のユダヤ人 ・・・ WW1が始まるとドイツのユダヤ人は徴兵に応じ、多数の戦死者を出した(その事実をナチスなどは捏造する)。ユダヤ人の資産家は戦争を援助し、敗戦後のワイマール共和国で閣僚になったりする(がすぐに更迭・辞任。これもナチスのプロパガンダに利用される)。敗戦後、ユダヤ人の革命家・政治家・左派活動家は右翼に暗殺された。もともと教育意識が強いユダヤ人はこのころに工業・科学者・文学者などに多数の有名人を輩出。ワイマール時代、ユダヤ人は人口の1%だったがドイツ人ノーベル賞受賞者15人のうち5人がユダヤ人だった。
ワイマール時代のユダヤ系知識人の活躍は下記参照。
山口昌男「本の神話学」(中公文庫)
生松敬三「二十世紀思想渉猟」(岩波現代文庫)
矢野久美子「ハンナ・アーレント」(中公新書)
戦中や戦後に移住・難民した東欧ユダヤ人の多くは貧しかった。ドイツ在住のユダヤ人の多くが裕福だったので、違いが目立ち偏見が助長された(これもナチスのプロパガンダに利用される)。
一方、ドイツ革命がおこり皇帝が退位し、敗戦ののちに多額の賠償金支払いを命じられた。ワイマール時代のドイツでは不況とハイパーインフレが発生していた。生活の不安と不満が高まり、そこに乗じた極右はユダヤ人に責任を押し付ける。ヘイトデマでしかないプロパガンダに多くの国民がのっかる。極右はそれをばねにして、活動を活発にする。ときにユダヤ人の暗殺も行う。
反ユダヤ主義の蔓延という観点がないと、左翼に原因をみようとしてしまう。
エーリヒ・マティアス「なぜヒトラーを阻止できなかったか」(岩波現代選書) 1960年
5 第三帝国時代のユダヤ人 ・・・ ワイマール時代から第三帝国の反ユダヤ主義をヒトラーからみたのがリンク先。本書と一緒に見ておこう。
2020/03/03 大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書) 1995年
この先のできごとを書くのをとても心が痛い。ナチス政権になってすぐに成立した全権委任法(1933)で独裁体制になる。以降は、ユダヤ人の人権を剥奪し、彼らの財産を奪取することを繰り返す。当初、ナチスはユダヤ人を国外に追放することを計画していたが、1939年のポーランド占領で計画は破綻し、ソ連占領地で行った虐殺を国内でも行うようになった。いつヒトラーがユダヤ人絶滅を指示したかは問題になっているが、1941年9から11月の間に口頭で指示したというので落ち着いている。それが政策として確立したのが、同年10月のヴァンゼー会議。ここで虐殺方法に毒ガスを使うなどの詳細が決まったという。
周辺のリベラル国家はドイツからの難民・亡命者対策をしようとしたが、あまりに多数であり、ナチスが財産を没収するので支援がたいへんだったので、足並みがそろわない。国内にも反ユダヤ運動があり、難民受け入れに積極的でなく、WW2開始とともに消えてしまった。ナチによるユダヤ人虐殺は早いうち(1941~42年)には英米に伝えられていたが、特に対策が取られることはなかった。
第三帝国が行った政策は下記が参考になる。
芝健介「ホロコースト」(中公新書)
小野寺拓也/田野大輔「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」
戦後、戦争裁判でこの事実が明らかになったが、しばらくするとドイツはこの犯罪に目を背けていた。それが転換するのは1979年1月にアメリカで制作した「ホロコースト」がテレビで放映されてから。
本書は1991年刊行なので、その後の経緯は書かれない。ドイツが行った戦後補償や戦争責任は以下を参照。
2017/05/17 高木健一「今なぜ戦後補償か」(講談社現代新書) 2001年
2020/10/01 三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-2 2006年
ドイツに根強い反ユダヤ主義が大規模なジェノサイドに至る(その前には帝政ロシアでユダヤ人のジェノサイドが起きたので、ナチスはその真似・反復とも言えるかも)。隔離によって目に見えない存在にすると人種差別感情が蔓延し、移民難民として流入したり政治家や有名人が出てくると目に見えるようになって暴力が発生する。差別のピラミッドにあるように、暴力やジェノサイドが起きてからでは元に戻すのがとても困難になる。戦後ドイツの政府と知的エリートは戦争責任を明確に示し、教育や啓発を続けていた。それが21世紀のドイツを高く評価する理由になっている。
一方、庶民の極右感情とレイシズムはそう簡単にはなくならず(世代交代と社会の安定がないと無理)、ヨーロッパではとりわけネオナチが多い国になっている。ドイツだけでなく、ハンガリーやルーマニアのような19世紀から多民族国家であるところも、反ユダヤ主義やレイシズムは強い。どうやって克服するかはとても難しい。面倒。
嘆いていてもしゃあないので、個人は社会を変えることができるというオプティミズムでやっていきましょう。
大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)→ https://amzn.to/42bRAL5