一日十五分の高速音読を初めて1か月。4つの福音書を音読した。素人の思い付きをメモ。福音書の並びは聖書収録順ではなく、聖書学で成立順とされるものにした。

前史: ユダヤ人は前6~7世紀頃にユダヤ王国を建国したが、後に滅亡。以後、他民族に支配され続けている。イエスの時代はローマの支配下で、ユダヤ人の代表が間接統治にあたっていた(ユダヤ人の取税人が嫌われる理由)。ユダヤ人はローマ人に差別されている。ユダヤ教は、従属する派から独立運動をする派までいくつかに分裂していた。主流は律法を遵守しようとするパリサイ派。
用語: 福音書などにでてくる「義」とは神の前で正しい行いをすること。儒教の義理ではないし、共同体の善悪に従うことでもない。「悪」とは、神の前で正しい行いをしないこと。かつてユダヤ人はこのような「悪」を犯したので、神が部族を救済しなかった。かつて人間が「悪」をなしたので(だから「原罪」があるとされる)、あとの人間はその償いをしなければならないと考えることになった。

マルコ伝: ほとんどが奇蹟物語。誕生にまつわる話はなく、イエスは成人した姿で登場。処刑と復活の物語はもっともシンプル。イエスは弟子に悪霊を追い出す権利を与える。家族を捨てろ、貨幣を持つな、定職に就くなというのが神の国運動に参加するために必要。イエスの受難と復活では女性集団が積極的に関わった。
(ワーグナー「パルジファル」はマルコ伝を採用していると妄想。「時は来た」「自らを救わない救世主」などがそれ。)
マタイ伝: 誕生に関する話と語録が加わる。イエスは神の国運動の推進者。イエスの考えを参照するのに便利。非信徒である俺も知っているイエス像はここに由来していそう。イエスの受胎を知らされるのは父ヨセフ。男性優位の考えで書かれているという感想。(パウロの書簡ではもっと男性優位になる。妻は夫の所有物で、従順であれと説いている。また男色も批難されている。)
ルカ伝: マタイ伝とは異なる集団によって書かれたのではないか。イエスだけでなく弟子も医療行為や治療行為を行うようになる。これらの活動の合間に、神の国運動を普及しているよう。女性の集団の記述が増える。イエスの受胎を知らされるのは母マリア。処刑後のイエス復活にあたっては男の集団よりも女の集団の方が寄与していたようだ。マグダラのマリアを中心にしたと思われる女性集団は以下を参照。
以上三つの福音書は共通する資料を参照している(異同はある)。紙は当時とても高価だったので、テキストを参照したというより、似たような伝承を持っている集団で語り伝えられたのだろうなあ。
・この時代は、世界の始まりはせいぜい数千年前のことで、世の終わりも数十年か数百年かで訪れるとみなしていた。時間の感覚が近代以降の人とは異なる。神の国運動は、自分が世の終わりと審判にすぐに立ち向かうことになるだろうという恐怖を鎮める運動といえるか?
ヨハネ伝: こちらのイエスは神の国運動の推進者ではなく、世の光としての権威を広げる運動をしているようだ。奇蹟物語はほとんどなくて、イエスの語録(それは上の三つの福音書と共通しない)が続く。イエスの言葉はキリスト教団に対する批判に対する答えとして語られている。教えを説くより、説教者のための想定問答集、批判者に対抗するロールプレイングの参考書として使われていたのではないか。また上の三つはイエスの敵対者はパリサイ人や律法学者などのユダヤ教の別の分派だが、ヨハネ伝ではユダヤ人全体がイエスの敵対者になる。ユダヤ人ではないキリスト教集団で作られたのではないかと妄想。
(ヨハネ伝には時としてユーモラス。姦淫の罪を犯した女に石を投げろと言われるのにイエスは応えず、地面に何か書きつけながら「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」とだけいう。いつもの論争的、説教的、教師的なイエスはここにはいない。)
・イエスを裏切るユダの役割が福音書によって少しずつ変化している。もっとも古いマルコ伝ではさほど言及がない。裏切った、自死したくらい。それがあとになるほど、イエスの処刑の責任がユダにあるようにされていく。彼の行為に対する非難の言葉もあとになるほど激しくなる。以下を参照。
以下の本を読んでから福音書と使徒行伝を読んだのが、上の感想に影響しています。
2025/06/17 加藤隆「キリスト教の本質 「不在の神」はいかにして生まれたか」(NHK出版新書) 神なき領域で行われる宗教ビジネス。古代で有効だった二重構造は近代以降ではやっかいになった。 2023年
2025/06/20 加藤隆「『新約聖書』の誕生」(講談社学術文庫)-1 現状追認で保守化したユダヤ教の改革者がイエス。口承で布教したのでテキストをつくらない。 1999年
2025/06/19 加藤隆「『新約聖書』の誕生」(講談社学術文庫)-2 キリスト教の拡大は無秩序をもたらしたので、テキストを作り平準化を図る。統一的理解が困難な聖書の権威をささえるのは教会の権威。 1999年
2025/06/23 山形孝夫「聖書の起源」(ちくま学芸文庫) イエスはユダヤ教の禁忌を破って医療行為をするもの、なんだそう。 1976年
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