odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

聖書「ヨブ記」(口語訳1954年版)) 不条理にあっている不幸な人に「おまえに理由がある」と詰め寄るのは最低最悪の対応法。

 一日十五分の高速音読を初めて3か月。「ヨブ記」に挑戦。

・サタンは神の子のひとり。サタンは主の前に行き話をすることができる。他人を試せとそそのかすと、主は信仰篤い人の庇護をやめ、試練を課す。俺はここに主の自身のなさをみてしまうなあ。それは信仰する人間が神への信仰を懐疑しているからのよう。
・サタンのそそのかしによって主は正しい(神の掟を守っている)人のヨブを試す。資産をなくし、体中にできものをもたせる。生贄にするものがなくなったので律法を守れないようにし、外見で罪人(病気にかかる人は罪人)として救済の対象から外す。神体の痛みや苦しみだけでなく、宗教社会から排除される痛みや苦しみを持たせたわけだ。共同体や宗教組織が援助する対象ではなくなった。

「19:13彼はわたしの兄弟たちを/わたしから遠く離れさせられた。/わたしを知る人々は全くわたしに疎遠になった。/19:14わたしの親類および親しい友はわたしを見捨て、/19:15わたしの家に宿る者はわたしを忘れ、/わたしのはしためらはわたしを他人のように思い、/わたしは彼らの目に他国人となった。」

(この訳での「他国人」は「異邦人」としてもよい。)
・そのようなヨブに3人の友人が訪問する。共同体から排除されたヨブを訪れることは自分もヨブのような罰を受けることになるかもしれない。それでもなお行くことは勇気がいる。三人は神の前の正義ではなく、社会的公正としての正義を実行するのだ。
・主に試され、社会から放逐されたヨブに対して、彼らはヨブにアドバイスする。ヨブが主を呪うのを聞いて、諫め信仰心を持ち続けるよう勧める。あるいはヨブが義でないからと弾劾する。これはまったくだめ。不条理(そう、カミュの「異邦人」ムルソーがあっているのとは比較にならないほどひどい不条理なのだ)にあっているヨブに対する行為はこれではいけない。暴力や差別の被害にあっているひとに「おまえに理由がある」「原因を作ったのはお前だ」と詰め寄っているのだ。おまえの悪いことを直せと要求しているのだ。そんなことはすでにヨブはやりつくしている。それでも不条理から逃げ出せない。もとは気まぐれ(あるいはサタンの扇動に乗っかった軽率な行為)なのだから。弾劾するべきなのは暴力や差別を行っているものなのだ。この時に慰めや寄り添いも不要。それは被害者をさらに孤立させる。ヨブが複数人の弾劾者に心を閉ざしていったように。暴力や差別の被害者にはやってはいけないことばかりを友人たちはしている。
(まさにいま、戦争やジェノサイドによって飢餓にあり、日々殺害されている人たちに対して、「友人たち」と同じことを言えるのか、言ってよいのか。嗤いながらロケットの発射ボタンを押す人のことを棚にあげて、がれきの街を逃げている人たちに何が言えるのか。そういうことです。)
・するべきことは、ヨブの生計が立つように支援することだし、皮膚病を治療することだし、神に対する何らかのアクション(播祭をするとか生贄を捧げるとか)をすることだった。
・その様子を傍観していた主の発言もひどいものだった。暴力や差別の加害を指摘されたときに、主のように開き直りや恩着せがましさで対応してはならない。
・という具合に、ここでは「ヨブ記」を現在の差別問題に引き寄せるアレゴリー的解釈をやってみた。そうでもないと読むに堪えない。
(学生時代に浅野順一「ヨブ記岩波新書を読んで感心したけど、何が書いてあったのだろうなあ。)

 

 「ヨナ書」も読む。主が命じた異郷での布教を拒否したら魚に飲み込まれ、改心して布教に努めたら主は当初の計画を取りやめ、ヨナが神に怒ると神は不条理(乾きと飢え)を返す。ヨナの怒りに神は俺の都合もわかれよという。福音書の「九九匹の羊と一匹の羊」の譬のもとかしら。寓意はよくわからない。
 次の言葉を発見。大江健三郎の「洪水は我が魂に及び」の出所でした。

2:5水がわたしをめぐって魂にまでおよび、/淵はわたしを取り囲み、/海草は山の根元でわたしの頭にまといついた。

 主の命令に逆らってヨナが逃げた街が「ヨッパ」。筒井康隆の「ヨッパ谷への降下」はここから取っているのかな。

 

聖書「創世記」(岩波文庫) → https://amzn.to/4dwRlzv
聖書「ヨブ記」(口語訳1954年版)) → https://amzn.to/4dCwGtU
内村鑑三ヨブ記講演」(青空文庫) → https://www.aozora.gr.jp/cards/000034/card56908.html
聖書「福音書」(岩波文庫) → https://amzn.to/3FhWtef
聖書「使徒のはたらき」(岩波文庫) → https://amzn.to/3H94d2K