オレステイア三部作の第一作。アガメムノン伝説に基づくもので、彼の死を描く。

本書では本編の前に前史が紹介されているが、それだけでは不十分。ギリシャ、ローマ文化の系譜にあるものはアガメムノンをよく知っているだろうが、この国の人びとは記紀神話のキャラほども知らないだろう。そこでwiki(英語)を参照。自動翻訳を使えば大丈夫。
アガメムノンは祖父タンタロス-父アトレウスの三代目。この家は祖父の代から呪われた一族で、殺人、近親相姦、裏切りによって汚されていた。この一族のおぞましい事件は多々あるが、本悲劇で述べられたことだけは引用しておこう。ひどい話です。
「アトレウスはテュエステースの息子を殺し、料理してテュエステースに食べさせ、その後アトレウスは死んだ息子の手足でアトレウスを嘲笑した。テュエステースは神託の助言に従い、自分の娘ペロピアとの間に息子をもうけた。」そうして設けた息子のひとりが、クリュタイメストラの愛人となったアイギストス。「アイギストスが成人すると、テュエステースは出生の真実を明かし、アイギストスはアトレウスを殺した。」
彼はアガメムノン一族への激しい憎悪をもち、いつかアガメムノンに復讐をしようと決心している。
アガメムノンはアルゴスの王としてトロイア戦争に出陣。あいにく彼は復讐の女神(エリーニュース)の怒りを買っているので、うまくいかない。風が吹かずいつまでも出航できないので、娘イピゲイネア(ドイツ語読みでイフィゲニアで、グルックに「アウリスのイフィゲニア」というオペラがある)を生贄にした。そのことに怒り狂ったのが、妻クリュタイメストラ。彼女は娘のためにアガメムノンに復讐すると誓っている。そこでクリュタイメストラとアイギストスの思惑が一致。アガメムノン不在の間に彼を亡き者とする計画を立てるのであった。以上、とても簡略にした前史。
さて見張り番が火の合図(戦勝すれば松明を次々と灯して都に報告する)をみている。クリュタイメストラも来て、合図が届いたのをしる。そして占領したアカイアでは略奪、ジェノサイド、レイプが頻発しているのに心を痛める。アガメムノンが凱旋し戦利品とともに、奴隷になった預言者カッサンドラを連れてくる。闘いの報告のなかでオデュッセウスが行方不明になっていると伝える。アルゴスの都にとっては好ましい報告であるのに、なぜかみな意気が上がらず不吉な予感に怯える。アガメムノンは屋敷の前に敷いた紫の衣を踏んで家に入った(紫の衣はとても高価。それを踏むのは高慢の印)。奴隷娘カッサンドラも館に入るよう命じるが、彼女は気がふれたかのようにこの家は同族の血を流した罪の家であり、災いが起こると予言する。女子が男子の殺害者となり、自分も殺される、しかし運命には抗えないので、犠牲になることを決意する。しばらくして家の中から二回のうめき声。何事ぞと怯えるなか、クリュタイメストラが現れ復讐がなった。市民の憎悪の的、民衆の呪詛を負えるものとなるという。さらにアイギストスも出てきて、新たな王となることを宣言。コロス他一同怯える中、劇は終わる(この後第2部と第3部が続けて上演される)。
「不義は不義を生む。新たな暴慢を産む」とコロスが嘆くように、この運命はいつまでも代々家に取り憑き、周囲を不幸にしていく。このあとはアガメムノンの子供らの代の復讐劇が続く。この運命を断ち切るには、神々による処罰と浄化が必要なのである。(そのせいか、コロスが前の諸作に比べると元気がない。不安に怯え、予言におののき、殺りくに驚くだけ。主張しないで傍観者になっている。)
ここでは神話の論理に乗っ取るように読んでみたが、クリュタイメストラが悪でありいつまでも指弾されるのは、女性が男性を殺したからではないか。この逆であったり、女性が女性を殺す場合は、これほど激しく追及・非難されないのではないか。
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