odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

佐々木力「科学論入門」(岩波新書)-1 古典科学、17世紀の科学革命、フランス革命以後の科学でみる科学の特性と発展

 科学の専門教育に挫折した時、学生の残り時間で科学論を独習した。村上陽一郎柴谷篤弘、トーマス・クーンなどの読書感想エントリーがあるのはそのなごり。しばらく離れていたので、数十年ぶりに科学論を読む。なお、科学論と科学哲学は重なるところが多いが、方法や対象は異なる。後者は自分には難解。
森田邦久「科学哲学講義」(ちくま新書) 

第1章 近代日本の科学技術の性格 ・・・ 「科学」はscienceの訳語として中国の言葉を借用して、明治の初めに使われた。そのscienceも「論証的学問」の知識という意味で使われ、今の意味になったのは17世紀(先に実体があって後から名がつけられたのだね)。振り返ると、科学は古代中世のころの「具体の科学」「古典科学」「近代科学」「非西洋科学」と分けることができる。科学革命は二度あった。一度目は16~17世紀の力学天文学の革命。世界観のひっくり返し。二度目は18世紀の啓蒙主義以降。国家や企業が科学のパトロンになって制度化された。個人が行うものから研究を職業にする専門家が行うものになった。日本の科学は二度目の革命のあとの分化と専門化が進んだ西洋科学を取り入れることから始まった。かわりに日本にあった「非西洋科学」は捨てられる。
(日本の科学の歴史は古いが廣重徹「科学の社会史」、大学の歴史は中山茂「帝国大学の誕生」と天野郁夫「大学の誕生 上下」(ともに中公新書)を参考に。明治政府は自由主義派の英仏モデルの輸入で始まったが、明治14年の政変立憲君主派によって追い出されたので、プロイセンモデルに変更したとのこと。なるほど明治の英才が独留学したのはそのせいか。)

第2章 西欧近代科学の特性と発展 ・・・ 「具体の科学」「非西洋科学」を除く西洋近代科学を3つに区分して特長をみる。社会や思想などとのかかわりを重視。
古典科学: 17世紀の科学革命以前の科学。重要なのは民主主義的な仕組み(深く考えをめぐらし、道理で吟味し、論議する)が一部(中世の大学や修道院など)であったこと。そこに神の権威の解体や平等の関係、公正な競争などが加わって(これは地中海貿易と貨幣経済ができたり、ブルジョワの組合ができたことなどと並行関係)、古典科学ができた。

17世紀の科学革命: ニュートンに代表される。ルネサンスに大学で実験を補助する職人と自然科学に関心をもつ数学者と哲学者が出会ったことが大事。テクノロジーに支えられて実験観察が主たる方法になった。科学の成果は近代的政体に取り込まれ、政治哲学に影響している(マキャベリホッブスなど)

フランス革命以後の科学: 代表するのは電磁気学と熱学。テクノロジーに応用される科学で、産業革命が背景にある。自然現象をコントロールし、法則性を探る。20世紀の科学の代表は相対性理論量子力学

 

 1980年代に科学論をかじったときは、本書の記述のいくつかをさわっただけで十分だった。実際に、当時参照したのは、科学はそれ自体で自分自身を定義、ないし範囲を設定できるという考えのもの。科学の方法も20世紀初頭の議論をそのまま採用(すこしマルクス主義をまぶす)したものだった。当時の水準からほんの20年でここまで来るのだね。自分も知らないような本(科学史だけでなく、技術史に哲学史に、政治学に経済学まで)があげられている。バターフィールド「近代科学の誕生」でも大量の哲学書が参照されているのにびっくりしたが、それ以上でした。80年代当時の流行言葉に「学際」というのがあったが、本書がまさにそう。
 自分の関心領域とぴったり一致するのだけど、予想以上の情報でした。

 

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2025/10/14 佐々木力「科学論入門」(岩波新書)-2 社会に直接インパクトを与える技術とは何か。社会的モラルに欠くエンジニアや開発者が問題を起こしている。 1996年に続く