odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

中山茂「西洋占星術史 科学と魔術のあいだ」(講談社学術文庫) 占星術は算法を使うのでオカルトではないが、未来予知に使えないので科学ではなくなった。

 占星術が生まれたのはバビロニアの時代で、紀元前2000年にはもうあったとされる。それから近世まで占星術は合理的で論理的な学問であり、未来予測に有効であるとされてきた。しかし、近代になってからは、占星術疑似科学とみなされる。いつごろそう考えられるようになったか。なぜ科学に似ているが、科学ではないものとされたのか。トーマス・クーンの「パラダイム論」を日本に紹介した科学史家が占星術の歴史を振り返る。


 占星術の思想は、天と地には関係があり天で起きていることは地にも起きる。なので天の動きを観測すればいずれ地に起こることを予測できるはず。天で起こることで継続的に観測できるのは、太陽と月と惑星の動き。および夜明けの太陽の位置。これらの運動を調べれば、国の将来から個人の運勢まで予測し、不幸が起こりうるならば予防することができるだろう。というわけで古代国家では天体観測が行政の仕事になり、専門の占星術師が予測を発表した。
 もとはバビロニアの発祥で、紀元前にはインドや中国にも伝えられ独自の発展を遂げた。しかしここでは西洋を扱うことにする。西洋で占星術が盛んになったのは、古代ギリシャとローマ時代。ローマ帝国キリスト教を国教としたところから占星術は禁止された。ギリシャとローマのヘレニズムは多神教だったが、ヘブライニズムのキリスト教一神教で神以外に運勢を決めるものがあることを許さなかった。ルネサンスのころにアラビア語文献がラテン語に翻訳されたが、そのなかに占星術書があった。天文観測が復活し、占星術師が生まれる(ノストラダムスが有名。ケプラーニュートンなどは強い関心を持った)。コペルニクス以降、地球は世界の中心から惑星のひとつになり(下がり)、宇宙空間は広大になった(三角法で惑星の距離が測られるようになったため)。すると惑星や星がとてつもなく遠いところにあることがわかり、人間の運勢に影響を及ぼすとは考えられなくなった。17世紀後半には占星術は科学から脱落した。天文学者占星術師は天体観測をしていたが、ハレー彗星海王星を後者は発見できなかった。それがダメ押し。
 アラビア語文献がラテン語訳されて西洋の学問が進んだことは、以下を参照。たいていはアリストテレスや数学・医学書などに注目するけど、占星術書も含まれていたというのは意外。
伊東俊太郎「十二世紀ルネサンス」(講談社学術文庫)
 またパラダイム論や科学とそれ以外の学問の線引きも説明があるので、あわせて勉強しましょう。オカルティズムのような神秘思想は、観測と計算が必要な占星術とは相性が悪いはずなのに、占星術とオカルトはいっしょになっている。著者はルネサンス期に流行ったネオプラトニズムが接着剤になったという。俺はそこに19世紀のオカルティズムの流行も加えていいと思う。
 中世には占星術が大学で教えられていた。それは近世になって消えたが、1960年代のアメリカの学生反乱の時期に学生の要求で復活したという。科学の教科書にも記載が載った(さすがに批判する文脈での紹介)。21世紀には大学の講義はない。でも、メディアは占星術を星占いに名称変更していまだに継続している。占星術師を名乗る占い師は今でも営業している。これらの供給は需要があるため。まあ、不安な時代に安心が欲しいとか、ひろくなりすぎた宇宙の前では孤独でつらいなど、分析はいろいろできそう。でも分析しただけでは話はおわらず、疑似科学リテラシーをどうするかまで考えないと。なかなかたいへん。とりあえず「惑星直列」などで危機を煽るのをみたら、間違いと指摘するところから。

〈参考エントリー〉
マーティン・ガードナー「奇妙な論理」(現代教養文庫)
2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1

 

修道士マルクス「西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄」(講談社学術文庫) → https://amzn.to/4r8iz5U
伊東俊太郎「十二世紀ルネサンス」(講談社学術文庫) → https://amzn.to/486lpQe
伊藤博明「ルネサンスの神秘思想」(講談社学術文庫) → https://amzn.to/4pgsTqH
中山茂「西洋占星術史 科学と魔術のあいだ」(講談社学術文庫) → https://amzn.to/48kpHVf
中山茂「天の科学史」(講談社学術文庫) → https://amzn.to/3LF2iVZ