odd_hatchの読書ノート

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マーヴィン・ピーク「タイタス・アローン」(創元推理文庫)-1 脱出した先の社会は無機質で無関心で、ゴーメンガースト城を誰も知らない。注目されないタイタスは不満。

2026/02/25 マーヴィン・ピーク「ゴーメンガースト」(創元推理文庫)-2 城が水没しそうな洪水に襲われ、城が築いてきたヒエラルキーが破壊され、タイタスは自由と独立を求める。 1950年の続き

 

  ゴーメンガースト城から降りたタイタスは長い湿地や草原を抜け、川にある小舟で寝込んでしまった。気づいたら、どこかの都市に流れ着いていた。町はイギリスの都市のように読めるがどうも違う。人を監視する球体が飛んでいる。自動車はあるが、長距離の移動は飛行艇とヘリコプター。電話やラジオはなさそう。テクノロジーの進み方が読者の物理現実とはちょっと異質で無機質。それに人びとは互いに無関心で、異相で異装のタイタスに目もくれない。こういうところは既読感があると思ったら、オールディス「世界のAの報告書」、リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」の冒頭。読書開始しばらくはリアリズムかと思ったが、しだいにずれていくところがイギリス幻想文学の伝統。

    

 疲労し空腹のタイタスが動物園に追い詰められたところで、助けてくれたのはマズルハッチと名乗る大男。巨大な屋敷に一人で住んでいて迷路のよう。しゃべり方はプルーンスクワラーのようであり、フレイのよう。でもタイタスに仕える風ではなく、昔の愛人であった大女ジュノーとよりを戻したいが強がっていたいとでもいいたげ。そのジュノーはタイタスに興味を持ち、自室に連れて行って同棲生活を始める。タイタスが不満なのは、誰もゴーメンガーストの存在を知らず、彼を十敗ひとからげの異邦人と軽蔑しているところ。貴族の傲慢をもつタイタスには我慢ならない。ジュノーと別れる決心をし、空飛ぶ球体を破壊したので、追われてしまう。マズルハッチの命令で「下の闇の秩序」がある地下世界に行く。彼の傲慢な態度はひんしゅくを買い、決闘に巻き込まれる。相手は自殺したが、そう思わない群衆に追われ、再び地上にでてくる。
 ここまで前半。第2部まではゴーメンガースト城の桎梏(と両親の抑圧)から逃れて自由と自立を求めてきた。逃亡したタイタスは新しい場所で、信頼できる友人や道を示す師匠と出会うものだが、タイタスにはそのような他者が現れない。彼に近しいのはマズルハッチという中年男とジュノーという大女くらい。彼らは町の人々と同様に他人に無関心。過去に二人は愛人だったのを懐かしんで(いまは別れている)、よりを戻しことに執着。マズルハッチはタイタスを気にかけても好きにしろと放置し、ジュノーは愛の園を作ることにこだわる。なるほどそれではタイタスは彼らも振り切ってしまいたくなるわ。
 タイタスの経験は、愛の喪失(フューシャの自殺、〈やつ〉の落雷による事故死)とライバルからの勝利(スティアパイクを刺殺)。親に愛された経験を持たなかった。そのあたりがタイタスの傲慢の理由か。また町にでてから彼を知るものが誰もいない、ゴーメンガーストをことごとく妄想と決めつけられる。嫌っていたものが実はアイデンティティの核になっていた。こういうひねくれ、複雑さがタイタスにある。そのうえ、彼の周りは大人ばかり。タイタスと同世代、少し年上のキャラが現れない。対等な関係を結べない。なので、タイタスの〈成長の儀式〉はぎくしゃくしてばかり。
 
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2026/02/23 マーヴィン・ピーク「タイタス・アローン」(創元推理文庫)-2 教養小説の主人公になりうるタイタスは挫折してばかりで、成長の儀式を終えられない。 1959年に続く