2026/02/27 マーヴィン・ピーク「タイタス・グローン」(創元推理文庫)-2 折檻される少年は頭脳と舌先三寸で権力を奪取しようとし、77代当主になるべく運命付けられた幼児は権威の象徴を湖に捨てる。 1948年の続き
「ゴーメンガースト」シリーズ第2巻はタイタス7歳から17歳まで。一般教育および帝王学教育が始まるとともに、儀式の参加が義務になる。すでに一歳の命名式で儀式に背くことをしたタイタスは、この教育にあきあきしている。すなわち、老年教師による教養主義の詰め込み教育は退屈であり、儀式と教育で時間に拘束され、タイタスの悩みを共有しない学友とはつきあいが生まれず、悩みをこぼす家族とは交流がないのだ。ひとりでいることは苦ではない(馬を駆って城の周辺を走ったり、秘密の地下道を抜けて〈外〉に行ったり、城に見つけた秘密部屋にこもったりするのは楽しみ)。しかし疎外と孤独はタイタスの神経を痛める。ここは19世紀以来のギムナジウム教育及び貴族教育に対する批判が含まれているとみた。ニーチェやトーマス・マンやヘッセが嫌ったのと同様に、タイタスも野蛮な詰め込みを嫌いぬく。なにしろ、タイタスからすれば教育を終えた後も、ギムナジウムと同じように規則正しくあることを誤りをしてはならない緊張を続けることになるから。ハプスブルク家と異なり、ゴーメンガースト城は外を持たないので、侯爵同士の親戚付き合いもないのだし。

なので、タイタスは〈外〉の林で出会った〈やつ〉に羨望する。〈やつ〉とは乳を出してくれたケダ(自殺)の娘。婚姻関係のない男との間に生まれたために、〈やつ〉は〈外〉の連中に嫌われ集住地区から追い出される。言葉もしらず自然児として生きる〈やつ〉が自分と同じ境遇にあるをタイタスはいち早く見抜き、いつか一所になることを夢想する。
さて、第2巻になって新キャラ登場。それはギムナジウムの十数人の教師たち。すでに老年にはいるも、長老の塾頭に逆らえない。しかし事故で塾頭が亡くなると、彼らは自由の気分をつかの間味わう。さて、極端に女性が少ないゴーメンガースト城で無聊をかこつイルマ・プルーンスクワラーは城の男性を招いてパーティを開くことにした。彼女は新しい塾頭のベルグローヴに狙いを定め、パーティをきっかけに二人きりになり、誘惑する。ここの老いらくの恋と、女性の誘惑と、マウントを取りたがる老年男の会話と行動の描写が秀逸。なるほど女性のマンハント(亭主探し)とはこういうものか、強がりを言う男もいつしか女性に甘え「尻に敷かれる」自分を発見して愕然とするのかと、イギリスの伝統的な恋愛文学を楽しんだ。
第2巻の前半は、イルマのパーティとマンハントに費やされるのであるが、それは後半のできごとの先取りなのである。先の塾頭が死んだのは焼死であり、それをきっかけに彼の権威にあるものが自由を感じ、自発的な催しで権威と権力をシャッフルする。これと全く同じことが後半に繰り返されるのだ。
さて、新たな書庫長となったバーケンティンに、梟雄スティアパイクは取り入るのであるが、数年の間に儀式に関わる知識を吸収し、書庫に勝手に出入りしては書物を読みふけるうちに、すっかりバーケンティンの助手以上の存在感と権威を持つようになる。すでにスティアパイクは20代の後半。頃はよしと、スティアパイクに疑念をもつようになったバーケンティンを殺してしまう。しかし、全身火だるまになったバーケンティンに抱きつかれ衣服が燃え上がるところを湖に飛び込む次第になったスティアパイクの顔には火傷のあとが残り、生来の色白と火傷の赤がひどく目立つようになる。それも他人におそれられるスティグマと見栄を切るスティアパイクにとってそれくらいはなんでもない。
さてここにゴーメンガースト城の反逆者がでそろう。タイタスとスティアパイクと〈やつ〉。彼らは出生のときから異質な存在であることを運命付けられている。そしてゴーメンガースト城の権威と権力の象徴である儀式で平服することを強要されない特別な存在である。そして城の内外に隠れ家を持っていて、城の内と外を自由に行き来するインターナショナルな存在なのだ。
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2026/02/25 マーヴィン・ピーク「ゴーメンガースト」(創元推理文庫)-2 城が水没しそうな洪水に襲われ、城が築いてきたヒエラルキーが破壊され、タイタスは自由と独立を求める。 1950年に続く