odd_hatchの読書ノート

エントリーは3600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2026/7/3

古川安「科学の社会史 ──ルネサンスから20世紀まで」(ちくま学芸文庫) 科学の勃興から20世紀末までの社会と科学の関係を明らかにする基本文献。

 科学の通史を、新しい知見の変遷や科学者の行動などで書かない。社会や制度の変化を交えて描く。合わせて、人びとの通念の変化として描く。
 そうするとどこに起点を置くかだが、科学はヨーロッパで生まれたもので、次第に周囲に拡散していったと考える。そうすると12世紀ルネサンスでアラビアの知識がヨーロッパに移動したときから見ることになる。とはいえ、それからしばらくの間には大きな変化はない。そこでコペルニクスが地動説を主張した16世紀初頭から記述が開始する。


 俺が見るに、ヨーロッパの「科学の社会史」はだいたい三期にわけられる。
第一期は、コペルニクスからニュートンまでの天文学の誕生から古典力学の誕生まで。みかけはここにあるが、この期の科学者は自然の観察は〈神〉の創造や意図が実際にあることを示すために科学研究を行った。神学と哲学と自然哲学(当時の科学研究はこの分野にある)は一体。
第二期は、キリスト教を理性解釈する時代。自然哲学から神を排除するようになる。18世紀の初頭からこの解釈が広がって啓蒙主義でまとまる。科学は人間のための営みというにんしきになり、進歩は善いことであるとされる。宇宙も自然も人間も進歩しているとみなすようになる。
(天体と自然が神の意図や力で動いているのではなく、それ自体のルールや力に基づく。この認識を受け入れるようになった。でも、宇宙の創造、生命の誕生、人間の誕生の三点は神の意図が働いているという考えは強く残るので、第三期になってもこれらの科学的理論は神学や哲学による強い批判を受けた。)
第三期は、科学の制度化。啓蒙主義と同時代に産業革命が起きて、国家や企業が科学の有効さを認識し、積極的に投資し、研究と教育の組織を作った。科学の成果から利益を得るようになる、さらに科学に投資する。こうして国家や企業は科学のパトロンになり、研究の成果を活用するようになった。イギリス、フランス、ドイツで始まった科学の制度化はアメリカ、日本、ソ連などにも広がる。科学とナショナリズムや戦争との関係を考慮するようになる。また科学は集団で行うものになり、個人の役割や影響が次第に減少していった。なので、戦争研究・原爆・原発などの巨大研究、公害や自然破壊、人体改造などに対処しずらくなっている。
 第二期までは、国家や民族を考慮することがないインターナショナルな運動だった。それが国民国家成立と軌を一にした第三期は国家ごとの違いと共通点がでてくる。国家が別の国家の制度を真似したり改変したりしたので。ここでも世界システム(@ウォーレンシュタイン)と同じように、科学の覇権を持つ国は移動していく。科学の覇権は、論文の数とか科学者の人数、研究組織の質などで評価される。イギリスやフランスは制度を作るのは早かったが、科学研究の覇権は19世紀後半にドイツになり、WW1以降はアメリカに移る。

 本書のまとめとしては短縮しすぎかな。個々のトピックはとても面白いので、きちんと読みましょう。俺は廣重徹「科学の社会史」で日本を事例にした第三期のまとめを読んでいたので、フランス革命以降の事例はすいすい読めました。参考文献も充実(ただし2000年ころまでしかカバーしていない)ので、これをもとに科学史を見ていきましょう。科学史の一分野である「科学の社会史」を学ぶ際の基本文献です。著者あとがきによると、中国語翻訳版がでて、大学の教科書になっていたという。それは優れた学生を産むだろう。心強い励みだな。日本の学生も頑張れ。

 

 俺の関心は「存在の大いなる連鎖」にあるので、第一期と第二期の記述に注目した。コペルニクスからニュートンまでを勉強したのがよかった。ただ第二期は自分の勉強が足りないので、自然哲学から神を排除する流れがよくわからなかった。18世紀になにがあったのか、勉強しましょ。
 あと最終章は1960~70年代の科学批判にあてている。巨大科学、軍事科学、地球環境破壊、人体改造などで科学は人間に災厄をもたらすという認識がでて、科学の制度化を批判するようになった。市民運動などをいっしょになって科学を変革することを目指した。振り返ると、当時の科学批判は科学の内外からの思想対立で、とても久しぶりにおきた思想運動だった。1980年代になると急速にしぼんでしまった。理由は、1.資本や権力が科学批判で提起された問題に制約付きで応えた(軍縮と核兵器削減、宇宙開発のモラトリアム、公害防止法の制定など)、2.相対的な安定と経済発展、3.新しい技術(PCと携帯電話とインターネット)のインパクト、4.一部の科学批判論者が陰謀論やスピリチュアルに傾倒して信頼性を失う、あたり。
 また1990年代から観測機器と実験機器の大発展で、さまざまな分野で「科学革命」が起きた。本書では全く触れられていないので、別書や放送大学の講義で補完しよう。

 

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