odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

岡本綺堂「半七捕物帳 29~35」(青空文庫) 怪談と探偵小説の親和性について

 ここでは第29話から第35話までを読む。
 綺堂によると、江戸時代の人びとは妖怪や怪物の存在を信じていた。落雷が起こると雷獣が堕ちて暴れ、置いてけ堀では妖怪が人を呼び寄せ、タヌキは人を化かすのである。たいていの人は事件と妖怪が結びつくとそこで探求はおしまい。神社や社の民間信仰にお参りして拝んで、祟りが広がらないように祈った。でもなかには世の中の神秘を信じない人がいる。ここでは半七や奉行所の面々がそう。怪異が起きてそれを妖怪のせいにするのはとりあえずよしとしても、人びとの口の端にのぼり、パニックが広がるのは治安によくない。なので、もう一押しの探索をする。そこで見つかるのは、怪異を利用した人びとの思惑。以下の短編の多くがそう。
 怪異を語る怪談と事件の謎解きをする探偵小説はとても近い。上のような人々が怪異を調べて、実は人間の仕業と解明するのが探偵小説。

熊の死骸(第二十九話) ・・・ 弘化二年1845年。江戸の大火事。逃げる途中に荒熊。娘を襲おうとしたのを風呂屋の青年が助ける。自分は傷を負う。熊の死骸消える。しばらくして娘は療養で別宅に移ったが、そこで殺されてしまった。娘は熊の毛を握っていた。この後の展開はご都合主義があるが、謎解きはなかなかに鋭い。複数人が勝手な思惑で動いていたので、事件が複雑になった。
あま酒売(第三十話) ・・・ 安政四年1857年。夜にしか商売をしない婆さんの甘酒売りがいる。その女ににらまれると七転八倒の苦しみでねこんでしまう。半七は甘酒を卸している問屋から調べることにしたが、たしかに婆さんは仕入れに来るが、どこの誰とは知れない。ある下女が怪しいとにらんだところで娘は殺され、甘酒売りの婆さんも名を明かせない武士に切り殺される。怪談と思われる事件を合理的に解くのが探偵小説だが、大正時代(たぶん)の作では怪異はあるものとされた。小説には現れないが、設定は部落差別にほかならない。微妙な作。

張子の虎(第三十一話) ・・・ 文久二年1862年。大泥棒の捕物の際に、遊郭の女が手元の草履をなげて、岡っ引きを助けた。これは忠義と、表彰され、店は大賑わい。それから二年後、女が絞殺されたのが見つかった。客を締めてもなにもでてこない。半七は女の友人を訪ねるところから始める。ぜんぜん無関係な話があとでつながる妙。

海坊主(第三十二話) ・・・ 安政二年1855年。品川に潮干狩りにいくと、襤褸を着て乱れ髪の男がうつろな顔つきでほっつきあるき、人が差し出す酒や飯を食らう。天をみて具風が来る、大雨になるとわめく。天は青いのであるが、突如風が吹き大雨になった。騒ぐと姿が消えている。半七は似た男が江戸をうろつき物置小屋に住み着いているらしいのを知る。犯罪がないのに探偵小説が成り立つ。都筑道夫「なめくじ長屋」のメンバーであるカッパの由来がここ。

旅絵師(第三十三話) ・・・ 隠密が御庭番と呼ばれるいわれを語る。文政四年1821年にある若い武士が御庭番となって、奥州のある藩を内定することになった。先主の不審死、その後の内紛の理由を探るのだ。絵心があるので、絵師を名乗ってある商家に長逗留する(昔の絵師、俳諧師などはこう。小さい仕事を受けおって小銭をためて、また旅にでる)。家老から掛け軸の仕事をもらうがなかなか書けない。商家の娘がうるさくつきまとう。そのうえ商家の旦那は切支丹のマリア像を模写しろという依頼され来る。人情と任務のがんじがらめ。武士は苦悩する。

雷獣と蛇(第三十四話) ・・・ 慶応元年1865年の雷獣さわぎ。文久三年1863年の蛇さわぎ。町のものをよく知っている半七はすぐに目星をつける。江戸のころから不良少女がいて、家出して、掏摸や窃盗で暮らしていたという。それより、江戸の夏の思い出が記憶に残る。
 夕立について。

その夕立のきびきびしていることは、今云うように土砂ぶりに降ってくるかと思うと、すぐにそれが通り過ぎて、元のように日が出る、涼しい風が吹いてくる、蝉が鳴き出すというようなわけでしたが、どうも此の頃の夕立は降るまえが忌に蒸して、あがり際がはっきりしないから、降っても一向に涼しくなりません。やっぱり雷が鳴らないせいかも知れませんね

 甘酒について

甘酒は江戸の夏のもの(半七の話の聞き手は子どもの時以来甘酒を飲んでいないという)

 いずれも都筑道夫のお気に入りの話。なめくじ長屋その他で何度か書いている。

半七先生(第三十五話) ・・・ 嘉永三年1849年。七夕の習字で寺子屋の師匠にこっぴどく叱られた13歳の娘が行方不明になった。そこまで思いつめたのか、それとももっと子供のころの縁談が立ち消えになったのを憎んだ相手の仕業か。寺子屋の師匠から叱ったのは娘が誰か宛の手紙を隠していたせいだ、というのを聞いて、半七は目星を付ける。

 

 怪異を利用した人達の思惑の多くは、理不尽で不条理な抑圧にあることからの開放だった。過酷な労働や恋愛の禁止、上司のパワハラ。そういうのから逃れるための工夫に利用した。身分制やタテ社会やホモソーシャルな社会だから、起きてしまう事件なのだ。

 

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2026/02/05 岡本綺堂「半七捕物帳 36~42」(青空文庫) 明治政府は武家政権を総否定した。江戸の風物・習俗は忘れられたが、数奇人は記録に残す。 に続く。

岡本綺堂「半七捕物帳 36~42」(青空文庫) 明治政府は武家政権を総否定した。江戸の風物・習俗は忘れられたが、数奇人は記録に残す。

2026/02/06 岡本綺堂「半七捕物帳 29~35」(青空文庫) 怪談と探偵小説の親和性について の続き

 

 謎解きよりも江戸人の日常を描くことが主眼なのがわかる。ホームズをもくろんでるらしいとみたが、綺堂が注目するのは意外な犯人やトリックではなく、ロンドンの習俗や習慣なのであった。そこで、綺堂は江戸の習俗を語る。明治政府の始まりは公家たちが政策を考案していたので、鎌倉から江戸までの東国武士政権の総否定。なので、維新から半世紀以上たつと中世から近世まではもう忘れられているのであった(唯一残したのは「武士道」という怪しげなイデオロギーだけ)。でも東京生まれで東京育ちの人たちは江戸を懐かしむ。綺堂や永井荷風のような数奇人が江戸を書く。開国と国体思想で国民をガチガチに締め上げる明治政府=帝国日本へのささやかな抵抗とみなそうか。
 たとえば、万年青と兎のブームが幕末から明治にかけてあったというのがさりげなく書いてある(「冬の金魚」)。開港後、西洋から入った兎は高額で売れるという噂が流れて、兎のブリーダーが大量に登場した。高額な取引が行われるマーケットができたが、政府が禁じたら急速に廃れた。1920年代にはこの記憶がまだ残っていたのだろうなあ。

冬の金魚(第三十六話) ・・・ 弘化三年1846年。俳諧の師匠が惨殺された。妾のような女中が池にはまって死んでいる。師匠は最近、湯でも泳ぐ金魚をどこかにあっせんしようとしてしくじっていた。唐突に明かされる師匠と女中の関係。江戸川乱歩「D坂の殺人事件」の江戸バージョン。

松茸(第三十七話) ・・・ 文久三年1863年。身投げしようとする女を引き留めると、かたくなに口を開かない。女が気になったので、奉公先の商家を張っていると、女のところに男が近寄ってきた。男の悲鳴が聞こえ、半七が追う。女の境遇には同情するが、半七は男女の話を盗み聞きしている。こういう密偵をしているのが岡っ引きが嫌われた理由。官憲がプライバシーに介入していた。また半七の胸先三寸で事件化するかしないかが決まり、付け届けがくるというのも前近代。こういう社会はダメ。

人形使い(第三十八話) ・・・ 安政末年1860年人形遣いの芸人(文楽?)が地方興行中、深夜に人形が一人で動いて斬りあっているのを見る。自分の人形が劣勢になったので、相手の人形の頭をキセルで叩いた。それから二人の人形遣いは仲たがい。長老のとりなしがあったのち、二人は切り殺されているのが見つかった。動き出す人形の怪談にしなかった。

少年少女の死(第三十九話) ・・・ 元治元年1864年。質屋主催で芸披露会(長唄常磐津、清元あたり?踊り付き)をしたら衣装を着けた9歳の娘が行方不明になった。第二の事件は慶応三年1867年。子どもの変死が相次ぐ。子どもの玩具の水出しを使っていた。謎解きよりも江戸の風物描写がテーマ。

異人の首(第四十話) ・・・ 文久元年年1861年。志士が攘夷に決起している時代。でもニセ志士が質屋に軍用金押借りする事件も相次いだ。深夜の質屋に押し入り、血まみれの刀と異人の生首を見せて三百両を貸せという。そういう事件が江戸と横浜で起きていた。半七は子分と横浜に出張。通商条約が締結され、横浜が開港していた。各国が公使館をもち、商人も入り込んでいた。邦人も横浜に遊郭を作って外資を獲得しようとする

一つ目小僧(第四十一話) ・・・ 嘉永五年1851年。よい鶉が欲しいと店に来た武士、15両の鶉を所望し、手付の一両を置いていった。のこりは屋敷に届けたときに、というので、指定された屋敷にいくと、人のいなさそうな荒れた家。夜更けて現れたのは一つ目小僧。失神している間に鶉は安物にすり替えられていた。類似の事件を捜査していた半七、すぐに見破る。いまでもネットと無住の部屋を使った詐欺がある。古今東西、犯罪は似たようなもの。砂絵シリーズにはもう少し事件を入り組ませたものがあった。

仮面(第四十二話) ・・・ 元治元年1864年。高価な品を売り買いする道具屋に、能の仮面を求める身分卑しからぬ人が来た。手付に3両おいていくという。その直後、若い武士があの仮面、藩の貴重な品であるぜひとも150両で買い戻したいと25両置いていく。道具屋の主人は先の客にわびたが許されず、75両を返金して話をまとめた。さて、くるはずの武士、二週間たっても来ない。騙されたかと腹が立つ。放置してはいかんと半七に話をもっていった。

 

 各話のサマリーはストーリーと謎解きにフォーカスをあてるようにしているが、綺堂の思惑を考えると、どんな江戸の風物・習慣が書かれていたかも書いた方がよかったかな。そういうまとめはどこかにあるだろうから、まかせましょう。たぶん興味深い話がたくさんあるはず。そこに筆をおくとなると、ストーリーは端折られる。不可解な謎が提出されても、半七に捜査が依頼されるとすぐに目星がついてしまうからねえ。
 トリビア。半七の妻はお仙。子どもがいる息子がいる。半七は1824年生まれなので、この話をしている明治30年代(たとえば「むらさき鯉」(第四十四話)には明治31年とある)には70翁というところか。ふと思いついたが、この家族構成を都筑道夫は「退職刑事」シリーズに利用し、捕物帳という形式を「なめくじ長屋」シリーズに利用した。

 

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2026/02/04 岡本綺堂「半七捕物帳 43~49」(青空文庫) 半七は威嚇や暴力で自白強要を迫る特高や憲兵みたいな治安維持担当者。 に続く

岡本綺堂「半七捕物帳 43~49」(青空文庫) 半七は威嚇や暴力で自白強要を迫る特高や憲兵みたいな治安維持担当者。

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 筒井康隆富豪刑事」では、その警察署は理想的な民主警察なので、取り調べで自白強要や誘導はしない、まして暴力などという。でも半七は目星がついたら、「恐れ入りました」といわせるためのテクニックを使う。相手に反論を許さなかったり、強面(こわもて)の言い方をしたり、ときに面をひっぱたいたり。そうすると、被疑者に言い抜けの余裕を与えないことになるそうな。容疑はないが事件に関係してそうなものを番屋にしょっ引いたら、岡っ引きの判断で拘留してしまう。
 こういう前近代性がどうも気に入らない。事件の解決をホームズ流の推理と実証でやるのではなく、強引な自白強要でやってしまうのだ。これが批判されないのは、執筆当時の警察も似たような捜査をしていたから。江戸時代を描いているとしても、半七捕物帳は〈現実〉擁護になってしまう。そういうのが20世紀前半、帝国日本の大衆小説の役割。

柳原堤(やなぎはらどて)の女(第四十三話) ・・・ 慶応元年1865年。旗本屋敷の近くにある清水山に怪異がでるという。見にいくと突然張り倒されたる。もう一度行こうとすると材木が崩れてくる。次第にうわさが広まって町人が恐ろしがる。半七は吟味を命じられ、子分たちにかぎ回らせる。なかなか良い怪談。最後のおちが、時代の制約とみるべきか。それとも啓発なのか。

むらさき鯉(第四十四話) ・・・ 文久三年1863年。殺生禁制の堀には大きな鯉がいる。それを釣りに行った亭主、青ざめて帰るに、一緒に行った仲間が水にはまって行方知れず。女房、それを聞いて白い女が鯉の夢を見てここにいると知れたので預かるという。女房、行方知れずの仲間の家に知らせに行けというと、翌日川にはまって死んでいるのが見つかった。女房視点のとても良い怪談。捜査は全く書かれず、いきなり解決編。この入り組んだ話を探偵小説にするには綺堂の技術は足りなかったか。都筑センセーならできたかな。

三つの声(第四十五話) ・・・ 元治元年1864年春分の日に川崎(大師)巡りをすると、店主たちが三人朝落ち合う約束をしたが、みないない。ある店主の家に三人が声掛けをした(一人は店主自身)。川崎めぐりは取りやめになったが、いない店主が水死しているのが見つかった。半七は声掛けを吟味する。些細な言い間違いが犯人当てにつながった。「問うに落ちず、語るに落ちる」という成句を知る。通常は後半しか言わないので、意味が不明だった(調べようとしなかった)。

十五夜御用心(第四十六話) ・・・ 嘉永六年1852年。深川の荒れ寺に住職が住み込む。托鉢などしてけなげに暮らしているが、ある日、住職と弟子、虚無僧二人の死体が井戸に投げ込まれているのが見つかった。虚無僧はある女といっしょに寺に入っていった、と女をつけていた男がいた。「なめくじ長屋」にこんな話があったかも。

金の蝋燭(第四十七話) ・・・ 安政二年1855年(半七33歳)。両国橋の架け替え工事中、水死した女が見つかった。ロウソクに金を仕込んだのをいくつももっている。おりしも江戸城本丸で金蔵破りが出ていて、半七もその捜査にとりかかる。通常だと伝奇小説になるようなおおがかりな話を半七の眼で書く。デカい話がシュシュとしぼんでしまってものたりない。
明治30年代、東京の住宅には電気が通っていたとのこと。当時のことなので、電灯に使うくらい。特に金持ちは電話も引いていた。たとえば漱石。)

ズウフラ怪談(第四十八話) ・・・ 安政四年1857年。駒込の畠や森で怪異が起こる。人を呼び掛ける声がするが誰もいない。狐狸妖怪のせいかと近くの剣術師匠が弟子を連れて深夜捜索にでると、はぐれた末に殺されているのが見つかった。厳格で暴力指導の師匠は嫌われている。半七はズウフラを使ったイタズラと目星を付ける。ズウフラは「ルウフル(蘭語Rofleの訛)遠き人を呼ぶに、声を通わする器、蘭人の製と伝う」「長さは三尺あまりで、銅でこしらえた喇叭のような物」という。下のページによると、金属製の拡声器(メガホン)とのこと。この話で使われたのはオランダ製。当時の列島の技術では作れなかったのだね。人が多いから、大声を出すより、手下を走らせた方が早かったのだろう。

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大阪屋花鳥(第四十九話) ・・・ 天保12年(1841年)。半七19歳の駆け出しのころ。ある商家に浪人の娘が嫁入りした。しばらくして嫁が半狂乱。嵐の夜に薄衣をまとっただけで家を飛び出し身投げする。奥では婿が殺されていた。ある遊び人が川でひろったと嫁の片袖を持ってくる。家では200両と180両が盗まれていて、極秘に嫌疑をかけていた。半七は親分の命を受けて、娘の実家や遊び人らを調べる。半七の調べのやり方がよくわかる。謎解きは見事。とはいえ背景の人たちの関係が複雑すぎる。犯人逮捕の爽快感には欠ける。いい筋なのだが、冗長。もったいない一編。

 

 半七のやりかたは帝国日本の公安や特高憲兵にそっくり。現役中のしごとっぷりはとっても陰湿。十手といつでもだせる御用の人というのを知っているから、周囲の人は慇懃に扱う。そういう人間も年を取ると丸くなって人づきあいがよくなる。書生程度の「私」が行き来できるくらいな中になる。1945敗戦のあとにも、特高憲兵の下っ端は身をくらまして隠居後の半七みたいになったのだろうなあ。
 俺が妄想するに、権柄つくの岡っ引きを主人公にするのを嫌がって、都筑道夫は社会から排除された貧乏人や浪人を主人公にして「なめくじ長屋」を書いたのだろうね。砂絵のセンセーが相手にする岡っ引きは抜けているようなキャラにしているのだし。捕物帳の現体制擁護を批判するシリーズだったと思う。

 

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2026/02/03 岡本綺堂「半七捕物帳 51~56」(青空文庫) 新劇が出て古い芝居の人気がなくなった時期に、綺堂が古い芝居の形式で小説を書く。 に続く