odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

戦後史

墓田桂「難民問題」(中公新書) 国の難民問題を担当していた人の啓蒙書。法務省や入管の代弁なので参考にならない。

国の難民問題を担当していた人の啓蒙書。2016年刊行。法務省や入管の代弁なので参考にならなかった。 第1章 難民とは何か ・・・ 定義や範囲はいろいろ変わるが、人種・宗教・国籍・特定集団の構成員であることや政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあっ…

佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書) 終戦の“世界標準”からすれば8/14か9/2が妥当。世界の視線・国外からの視線・被害者からの視線で戦争を考えることが少なくなるように8/15にした。

8月15日正午はとても暑く、校庭や工場などに集まってラジオから流れる「玉音放送」を聞き、その後嗚咽する者がいたりしたが、多くのものは虚脱した(ちかくに朝鮮人部落があるものはそこから流れる祭りの音に驚いたりもする)。以来、8月15日は慰霊の日とし…

神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-1 1945年から52年まで。日本が他国に占領され、主権が制限されていた時代。戦争責任の追及を他国まかせにして、自分たちで民族の犯罪を断罪しなかった。

1945年から52年まで。日本が他国に占領され、主権が制限されていた時代。これまでに読んだ参考書は下記など。2015/04/10 竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫)2021/01/29 雨宮昭一「占領と改革」(岩波新書) 2008年 末尾の一文で著者は占領期を「いまわ…

神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-2 天皇制は維持され、国策が対米従属に変更される。

2022/12/06 神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-1 1988年の続き 民主主義といっても国によって形態はさまざま。日本を占領して統治する組織であるGHQはアメリカが創っていたので、その指令はアメリカの民主主義の影響を受けている。彼ら…

芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-1 1952年から1960年。占領期間が終えたらすぐに右翼が政権をもち、憲法に反対する政策を取り出した。

1952年から1960年。1982-83年にこの本を書いたというから、著者らにとっては昨日のできごとで、自分の体験が濃厚に記憶されている時期だ。歴史家はいかにして冷静さと公平さをたもつことができるか。 サンフランシスコ体制の発足 ・・・ 1952年4月講和発効。…

芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-2 本は全体として経済発展したが、国外の状況を無視した説明では不十分。

2022/12/02 芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-1 1988年の続き 以後は社会世相。生まれる前の時代だが、文学やノンフィクションでこの時代をいろいろ調べて知っているので、感想は簡単に。 高度成長のスタート ・・・ 数年おきに好…

宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-1 1961年から1976年ころまで。バブル時代に書かれたので、経済の評価は大甘。

1961年から1976年ころまで(文庫は1989年だが、単行本は1982年)。著者も読者も経験した時代のことなので、著者は歴史学者ではなく、社会学者となった。多くの住民運動の調査の携わり、政府や官庁の資料には現れない情報が加わっている。一方、これまでのよ…

宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-2 人間の孤立化アトム化が進行し、地域共同体が空洞化し、世襲により政治家の質が低下した。

2022/11/29 宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-1 1989年の続き 通常1970年以降はなにもない時代とされるのだが、それは時代を象徴する事件がなかったせい(というか類似の事件が多すぎた)。実際はこの時代から人間の孤立化アトム化が進行し…

村山富市/佐高信「「村山談話」とは何か 」(角川oneテーマ21)

第81代総理大臣になった村山富市の一代記。 1924年に大分の漁村に生まれる。小学校卒業と同時に東京に奉公。勉強して大学に進学(当時は入学資格にうるさくなかったとみえる)。無料の下宿が社会運動家で薫陶をうける。1944年に招集され、熊本で訓練中に敗戦…

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書) 1879年に明治政府が作った招魂社が靖国神社に改名。1952年に宗教法人に格下げされ、A級戦犯合祀以降天皇は参拝しない。

日本の軍事史を専門にする研究者による啓蒙書。1983年初出。戦後、靖国神社を政治家が参拝することはあっても閣僚が参拝することはなかった。それが1975年に三木武夫が現職首相として初めて参拝した。それに対する批判が高まった時期のこと。靖国神社は右翼…

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-1 靖国神社は日本人の生と死を吸収し尽し、生と死の意味付けをする国家的な宗教とする機能をもっている。

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書)1983年で靖国神社の戦前戦中の歴史を学んだので、戦後と現代の問題を本書で把握することにする。 極右や右派の宗教カルトは、古代からの神道と明治政府による国家神道をあえてごっちゃにして、靖国を正当化する。その違い…

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-2 靖国神社はかつての日本の戦争と植民地支配がすべて正しかったという歴史観に立っている。政府も「民主主義」を口実として、歴史認識を問われる国家としての責任から逃走している。

8月15日に全国戦没者追悼式典が行われるようになった経緯は以下のエントリーを参考に。この式典の前に首相が靖国神社参拝をするようになったのは中曽根康弘から。佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書)佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と…

山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書) 21世紀になって自民党政府の首相と内閣の多くは、日本会議と神道政治連盟所属者であり、政府の政策は日本会議の主張と一致している。

21世紀になって自民党政府の首相と内閣の多くは、日本会議と神道政治連盟所属者であり、政府の政策は日本会議の主張と一致している。ことに安倍晋三、菅義偉、岸田内閣とその閣僚は日本会議の制作を実現するように動いている。日本会議の目的は戦前(とくに1…

青木理「日本会議の正体」(平凡社新書) エスノセントリズム=自民族優越主義。天皇中心主義。国民主権の否定。過剰なまでの国家重視と人権の軽視。政教分離の否定。

2015年の反安保運動から日本会議と政府の関係が取りざたされるようになり、翌年に複数の親書が出た。先に読んだ山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書)はこの団体の復古思想の分析に頁を裂き、本書では日本会議の成り立ちと背景を詳しく説明す…

本田由紀「軋む社会」(双風舎、河出文庫) 平成不況のあと教育-仕事-家庭の循環関係が空洞化し、エゴイズムが支配。働かせ方の変化に原因がある。

著者のTwitterは2017年ころからフォローしている。主に教育に関して、鋭い批判的意見を表明しているので。 社会のどこが「軋」んでいるかというと、昭和のころまでには教育-仕事-家庭の循環関係があってそれなりに機能していたが、平成不況のあと循環関…

雨宮昭一「占領と改革」(岩波新書) 敗戦と占領は政策の断絶ではない。戦争中から改革勢力があり、占領終了後も改革は継続された。

通常、1945年の敗戦で日本は占領された(間接統治だけと思われるが、沖縄諸島他はアメリカのと直接統治、北方四島他はソ連の直接統治)が、「占領政策ですべてが変わった」「日本の政党やリーダーは古くて何も変えようとしなかった」などと説明される。その…

佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と勝利のあいだ」(ちくま新書) どの日付を終戦と解放の記念日にするかはアジア諸国でばらばら。敗戦から十数年の周辺諸国のできごとは「日本人の知らない歴史」。

「昭和20年8月15日正午、快晴酷暑のなか、玉音放送が流れ、日本人は一斉に頭を垂れた」というのが終戦や敗戦のイメージ。そこに皇居前の玉砂利で土下座する人々の写真(東京空襲や原爆のきのこ雲なども)を加えて、ビジュアルイメージが完成する。でも、それ…

蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫) 1945年の敗戦から1967年までの約20年間。明治維新からの独裁制官僚はそっくり温存され、尊皇と反共、そして大衆・民衆嫌悪は維持される

1945年の敗戦から1967年(おそらく執筆時)までの約20年間。現在進行中のできごと、存命中の人々を記述するので、これまでの歴史研究者ではなく政治学者が執筆する。戦前の昭和3年に東大法学部の教授になり、川合栄次郎といっしょに昭和14年辞任。その後、翼…

西井一夫/平嶋彰彦「新編 昭和二十年東京地図」(ちくま文庫) 高度経済成長時代に取り壊された敗戦後の東京を文学から掘り起こす。

昭和二十一年に出された戦災焼失地域表示の付いた「東京都三十五区区分地図帖」をもって、著者らは1985年の東京を歩き回る(初出は1986年)。当時の痕跡を見出そうとして。1985年は再開発の名のもとに、戦前からあったものや戦後急ごしらえでつくったものが…

渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 20世紀以降のアメリカの政治と経済と社会・文化。

現代のアメリカ(と20世紀の歴史)をさまざまな切り口で説明する。歴史、政治、思想、経済、文化など。初出が2010年。初の黒人大統領バラク・オバマが就任した翌年。久しぶりの民主党の大統領なので、論調は民主主義や共和主義が復活するかどうかとい…

渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-2 本書と同じ問題設定で「現代ニッポン」をレポートしたら、きわめてお寒い内容になりそう。

2020/10/15 渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 2010年の続き 後半になると、取り上げられた問題は、まさにいま起きていることになる。本書でも、サマリーでも、20世紀までのことしか書いていないが、それぞれの問題はいまのできごととしてメディアやSN…

有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 19世紀の共和主義が20世紀初頭に革新主義になり、半ばには世界システムの覇者を目指す。

アーレント「革命について」でアメリカ革命(独立戦争)を知ったが、その後のできごとを知らないので、この本を読んで勉強。前史ののちはだいたい10年ごとに時代を区切る。西暦は恣意的な指標だが、人間や社会の変化とほぼ同期しているという驚き(これは20…

有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書) WW2以後。世界システムの覇権国が戦争介入と不況で没落していく。

2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年の続き 下巻はWW2の後をまとめる。自分のライフタイムに重なる時代になるので、これまで通史を読んでいなかった。なので新鮮。 第6章 冷戦下の「黄金時代」 ・・・ 1945年から1960年。WW2終…

梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-1 1993年現在のようす。西は統合に向かい、東は統合の枠組みがなくなり民族国家に分裂する。

欧州連合の成立を目前に控えたヨーロッパ。国・民族単位で社会を見るやりかたができなくなるできごとであって、現状と行く末を注視する。初出は1993年。それからおよそ30年がたった2020年の視点で当時を読み直す。民族を考えるときに、ホームランドをもつ民…

梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-2 1993年現在のようす。多文化主義と移民受入れ。極右と排外主義の台頭。

2020/10/08 梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-1 1993年の続き 後半は、ホームランドをもたない外国人である移民や難民。EUにアイデンティティをもつのは、ヨーロッパの文化や言語などと同質性を持つ人には抵抗がないが、域外から移民難民は必…

田中素香「ユーロ」(岩波新書) 移行期間をへて2002年に運用開始された統一通貨ユーロの歴史。

長年の準備期間を経て導入されたユーロの歴史と現状をまとめる。それまでは西ドイツのマルクが基軸通貨になっていたが、ドイツはそのように使われるのを拒み、フランスなどはドイツがヨーロッパ経済に中心になることに抵抗していた。 1章 ユーロの歩みー一…

三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 1989年から15年の振り返り。東独統一のきしみ、国民と移民の確執、極右の台頭。

思えば、1989年のベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統一(本書によると「併合」)からあとのドイツを知らない。そこで本書を参考にする。2006年初出なので、直近15年がもれてしまうが、しかたがない。 重要なできごとは上に加えると、ユーゴ内戦、イラク戦争。EU…

三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-2 1989年から15年の振り返り。周辺の戦争への介入、ナチスと東独の国家犯罪の謝罪と賠償、歴史修正主義との対決。

2020/10/02 三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 2006年の続き 前半が広義の国内問題であり、後半は国際問題や外交問題。 第5章 新たな国際情勢の中で ・・・ 90年代にヨーロッパの周辺で戦争や内戦があった。アメリカとイランの湾岸戦…

清水弟「フランスの憂鬱」(岩波新書) ミッテラン政権(1981-1995)まで長期政権になったフランスの1980年代。

ミッテラン政権(1981-1995)まで長期政権になったフランスの1980年代をみる。この10年間は、国家主導型経済に対する自由主義のバックラッシュがあり、民営化や規制緩和が進んだ。ではフランスはどうだったか。ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上下」(日…

郡司泰史「シラクのフランス」(岩波新書) 1995年のシラク政権。EU統合とユーロの使用開始。エリート主義の行政とデモで対抗する市民。極右の台頭。

清水弟「フランスの憂鬱」(岩波新書)の続き。1995年にシラクが大統領になってからのおよそ10年。 ミッテランの社会党政権末期には汚職が横行していて議員や大臣にもあったのがわかった。またミッテランの14年の統治に飽きがあった。そこで、ドゴール派のシ…