odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

デイヴィッド・リンゼイ「憑かれた女」(サンリオSF文庫) 至高体験による上昇と世俗の重力による下降を繰り返す選ばれた人たち。

サセックスの森林に囲まれたランヒル・コート館。そこにはウルフの塔の伝説があり、中世には最上階がトロール(ヨーロッパの伝承などに登場する妖精)の手で運び去られたという伝説がある。失われた部屋の階下は「イースト・ルーム」と呼ばれている。この館…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1 イギリス中世に極似した彗星の修羅国・魔女国・小悪鬼国などで起きた英雄同士の一大抗争。

レミンガムはある夜、雨燕の誘いで、水星に行く。この世界の異人であるレミンガムは身体をなくした霊となって、英雄同士の一大抗争をことごとく見届け、重厚絢爛たる文体で地上の人々に伝えた(という設定は物語の冒頭ですぐに忘れられる)。 水星はイギリス…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-2 魔術を駆使するゴライス12世による水星全土統一に立ち向かう友誼と武術のジャス王たち。ジャス王は深山に捕らわれ脱出のために危険な冒険に向かう。

2020/03/30 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1 1922年 ジャス王は半年ほどかけて、艦隊を整備した。完成ののち、1800人の兵士を伴い、スピットファイア卿、ダーハ卿とインプランド(小鬼国)に出帆する。途中暴風雨に遭遇。ジャス王の乗った…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-3 武の英雄は平和と静謐に性があわない。ソード・アンド・ソーサリーの最高傑作。

2020/03/30 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1 1922年2020/03/27 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-2 1922年 ジャス王とゴライス12世は、「二人の間に平和を保つには地上の世界が小さすぎる」のであって、戦さはいずれかを殲…

エリザベス・フェラーズ INDEX

2020/03/23 エリザベス・フェラーズ「その死者の名は」(創元推理文庫) 1940年2020/03/20 エリザベス・フェラーズ「細工は流々」(創元推理文庫) 1940年2020/03/19 エリザベス・フェラーズ「自殺の殺人」(創元推理文庫) 1941年2020/03/17 エリザベス・フ…

エリザベス・フェラーズ「その死者の名は」(創元推理文庫) 素人探偵が警察の暗黙の了解を得て、村の事件を捜査するが、よそ者にはそう簡単に心の内を明かさない。

深夜、ミルン未亡人は人をひいてしまったと、警察に飛び込む。要領を得ない話を聞くと、道の真ん中に寝込んでいた男を自動車で轢いてしまった。困ったのは、この男のことがさっぱりわからない。泥酔していたのはわかったが、ホテルに泊まっているわけでもな…

エリザベス・フェラーズ「細工は流々」(創元推理文庫) 頭が切れて口かずの多い若者がときに無遠慮に他人のプライバシーに踏み込みながら、一族の隠し事を調べていく。

ルー・ケイプルという若い女性がトビーに15ポンド貸してくれと頼みに来る(リンク先の回答を使うと、2019年の現在価値で30-35万円くらい)。トビーは断り切れなくて小切手を切る。 detail.chiebukuro.yahoo.co.jp 翌日、男の声でルーが殺されたという電話が…

エリザベス・フェラーズ「自殺の殺人」(創元推理文庫) 隠れテーマは父のパターナリズムと娘のリベラリズムの葛藤。

ジョアンナ・プリースは23歳になっても職に就かずにぶらぶらしている。そのことを父エドガーは気に入らない。同居する秘書ペギィ・ウィンボードがしっかり者なので、どうしても実の娘に厳しくなる。最近はますますよそよそしくなり、ジョアンナに厳しく当た…

エリザベス・フェラーズ「猿来たりなば」(創元推理文庫) 家畜やペットの殺害は器物損壊か動物虐待で扱われるが、チンパンジーが人のように殺されていると事件になる。

通常、家畜やペットの殺害は器物損壊か動物虐待で扱われる。警察もそれほど熱心には捜査を行わない(21世紀にはパンデミック予防で大騒ぎになるけど)。なので1942年にイギリスの寒村で起きたチンパンジーの殺害事件に警察はさほど興味を覚えなかった。 でも…

ヘレン・マクロイ「月明かりの男」(創元推理文庫)

巻末の著作リストによると1940年発表の第2作。発表年は重要。すなわち、ヨーロッパではナチスの侵略戦が続いていて連合国は劣勢。日本は露骨に中国南部への侵略を進めている。そこにおいてアメリカは中立にあって、いずれに戦争にも加担していないが、国際政…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)

法学セミナーは過去に数回ヘイトスピーチを特集してきた。2016年のヘイトスピーチ解消法施行後、状況が変化したところがあるので、それらを反映してヘイトスピーチの概念と過去事案をまとめる「ヘイトスピーチとは何か」を編集した。本号で特集をつくるので…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)で実態と本質的な意味を勉強したあと、ヘイトスピーチに抗する具体的なツールである法や司法を検討する。「ヘイトスピーチに法や司法はどのように対応すべきなのか。憲法学、刑事法学、国際人権法…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-2

2020/03/12 別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1 2019年 続いて後半。論文の中で言及されている事案(デモや裁判など)について、別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)補注のページを作り、Togetterま…

前田朗「ヘイトスピーチと地方自治体」(三一書房) ヘイトスピーチ解消法を改定して罰則をつけるまでに、自治体に罰則付き差別撤廃条例を制定させよう。

2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されてからの課題をまとめる。路上のヘイトは市民有志(カウンター、プロテスターと呼ばれる)の活動で減少してきたが、根絶にはいたらない。公的施設利用、選挙、インターネットではヘイトスピーチがいまだに多い。…

ジェレミー・ウォルドロン「ヘイト・スピーチという危害」(みすず書房) ヘイトスピーチ禁止法を持たないアメリカでの議論。法はなくても市民と企業と行政は既存法と行動で差別行為を規制している。

2012年にでたヘイトスピーチの法規制を主張する本。ヨーロッパ諸国はヘイトスピーチ禁止法をもっているのに対し、アメリカは法がない。法規制の反対論が強い。そのような状況での主張。この国の邦訳は2015年で、日本では法規制がなかった時代で、アメリカの…

徐京植(ソ・キョンシク)「在日朝鮮人ってどんなひと? (中学生の質問箱)」(平凡社)

日本は単一民族、一民族一国家と言われることが多いが、それは幻想。実際は、さまざまなマイノリティがいっしょに住んでいる場所。それを確認することから始めよう。突っ込みを入れれば、ネトウヨの大好きな「大日本帝国」は満州・朝鮮・台湾を併合して「五…

大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書) 反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなかった

ナチスを率いたヒトラーのユダヤ人虐殺は、政策遂行から派生したとか世論の後押しで行ったという議論があるが、そうではない、徹頭徹尾反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなか…

ニコライ・ゴーゴリ「鼻・外套・査察官」(光文社古典文庫) たんに楽しい、面白い話を量産したかった作家は「政治と文学」問題には疎遠であった様子。

ニコライ・ゴーゴリは1809年生まれ1852年死去。ロシアの近代文学の書き手としては最初期の一人(歴史に記録されたものとして、という意味で)。光文社古典文庫版では、落語風の翻訳。地の文が会話につながり、会話する人物を批評するのが地の文になるという…