odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」(岩波文庫)-III、IV スティーブンはまじめで禁欲的な外見と常習的な娼館通いの堕落に分裂している。

2023/10/02 ジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」(岩波文庫)-I、II スティーブンは優等生で、作文がうまいが、コミュニケーションはうまくいってなさそう。 1914年の続き スティーブン・デダラスのミドルからハイティーンの時代。一貫して寄宿学校で…

ジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」(岩波文庫)-V 「知的半可通」「つむじまがりのインテリ」は独学で世界に打って出られるか?

2023/09/29 ジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」(岩波文庫)-III、IV スティーブンはまじめで禁欲的な外見と常習的な娼館通いの堕落に分裂している。 1914年の続き ジョイスの「若い芸術家の肖像」は、同年齢だった自分の感情を記録しているかのよう…

ジェイムズ・ジョイス「ダブリンの人びと」(ちくま文庫) 最も参考になる注釈がついている。ジョイスの言葉遊びを耽溺するには研究者の注釈が必須。

これまで注がない柳瀬尚紀訳(新潮文庫)2009年と、少しある結城英雄訳(岩波文庫)2004年を読んできて、最後に最も参考になる注釈がついている米本義孝訳を読んだ。最も参考になるという評価ができるのは、先に二回読んだからだし、いくつか参考書を読んだ…

結城英雄「ジョイスを読む」(集英社新書) ジョイスは他人の援助で作家であり続けられた最後の人。小説は読書の中級者以上か作家志望者向け。

個人的なことから。ジョイスに関心はなかった。20代に「若い芸術家の肖像(講談社文庫)」丸谷才一の旧訳を読んで、ピンとこなかったのだ。ストーリー性がなくてテーマがはっきりしなかったのだ。若い時のつたない読みは反省するが、回復できないので自省は…

西村京太郎「天使の傷痕」(講談社文庫) 作者の実質的デビュー作品(乱歩賞受賞作)だがまだまだ技術は不足。

1965年の乱歩生受賞作。このとき作者西村京太郎は35歳。エンタメ作家としては遅いデビューだが、この15年後から屈指のベストセラー作家になって、毎年の高額納税者(文芸部門)で赤川次郎とトップを分け合っていた。すでに税務庁が発表しなくなったので…

西村京太郎「D機関情報」(講談社文庫) 1944年のスイスを舞台にしたスパイ小説。右翼がリベラルに目覚めるというとても珍しいテーマ。

西村京太郎デビュー直後の1966年に発表した長編。時代は1944年で、舞台はスイスの有名都市。日本人が主人公だが、ほとんどのキャラは現地及び周辺国の人たちだ。高度経済成長中、日本人が海外出張しているのと同期した小説として読んでみたい。 第二次大戦末…

西村京太郎「太陽と砂」(講談社文庫) 総務省がイメージする「二十一世紀の日本」に沿うようにこしらえた迎合と翼賛の小説。

この小説の来歴は少し変わっている。1967年に総務省が「二十一世紀の日本」をテーマにした懸賞小説を募集した。これに当時新進作家だった西村京太郎が応募して、賞金500万円を手に入れた。すでに乱歩賞も受賞していたが、ヒットに恵まれていたわけではない作…

西村京太郎「殺しの双曲線」(講談社文庫) 雪の閉ざされた山荘テーマに気を取られると冒頭の「双生児トリック」宣言を忘れる

冒頭で作者はこの推理小説は双生児トリックを使っていると明記している。奇術ではよくある趣向(入れ替わりや瞬間移動など)だが、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則でも、双生児を登場してはならないという一項があった。19世紀末の短編探偵小説全盛…

西村京太郎「消えたタンカー」(光文社文庫) 海洋炎上事故の生き残りに届いた殺人予告。姿なき暗殺犯を追う日本版「ジャッカルの日」

平成以降の日本のエンタメは列島を舞台にするどころか、半径50m程度の日常を書いたりして、どうもせせこましいという印象をもっている。本屋でみかけてもめったに手にしないし、読むまでにいたらない。そこで50年前のエンタメ(1975年刊)を読む。スケー…

西村京太郎「発信人は死者」(光文社文庫) 敗戦から30年たっても消えない戦争責任の追及。団塊世代はインターナショナルをめざす。

1960-70年代のこの作家の仕事はとても力が入っている。ミステリや推理小説には入らない作品だし、サスペンスというにはいささか浮世離れした荒唐無稽さがあるのだが、それでもこの作品を書きたいという意欲がとても強く伝わってくる。 1977年、アマ無線のマ…

西村京太郎「七人の証人」(講談社文庫) 全財産をはたいて無人島に事件現場を再現し、七人の証人を集め過去の事件の証人尋問をやり直す。コスパがあうのかと突っ込むのはなし。

西村京太郎は「名探偵」シリーズをかいたように、ミステリマニアなのであって、1970年代の長編には「本格推理」を少しひねった趣向で書いたものがあるのだ。この「七人の証人」はノーマークだったが、カバー裏表紙のサマリーを見て読むことを決めた。 十津川…

臼杵陽「イスラエル」(岩波新書) この国はシオニズムを統合理念にしているわけではない

全体主義の脅威を考えていくと、そのもとになった反ユダヤ主義にふれないわけにはいかない。反ユダヤ主義に関連するような本を読んできたが、20世紀ではユダヤ教ないしユダヤ民族国家としてのイスラエルを避けては通れない。とはいえ、断続的な報道でイスラ…

藤原帰一「戦争を記憶する」(講談社現代新書) 日本人は敗戦と占領を直視できないので、ナショナリズムの自己愛の物語で戦争責任を無化しようとする。

2001年。1990年代にこの国でもホロコースト否定、南京虐殺否定、自虐史観脱却などの歴史捏造が言論界に現れてきた。ヨーロッパではヘイトクライムが目立って発生し、極右が移民や難民排斥を主張するようになる。 「歴史の記憶とは? 「国民の物語」とは? 戦…

アラン・B・クルーガー「テロの経済学」(東洋経済新報社) 事実に基づかないテロリストのプロファイリングは間違っている

1990年以降のテロ事件を分析して、テロの対する我々の思い込みを正す(2007年刊)。 その結論は本文にはかいてないので、日本の編集者の手になると思われるカバーのサマリーをみなければならない。引用すると、 「実証データから明らかになったテロに関する…

読書感想のエントリーが3000に到達

タイトルの通りです。カミュかメーテルランクのどれかのエントリーで3000になりました(日記やPDF自炊のエントリーは除く)。 2000に到達したときは 読書感想のエントリーが2000に到達 - odd_hatchの読書ノート なので、1000増えるのに5年半かかり…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-2 第1幕第2幕 異教の少女が無理やり結婚させられ、危篤の親友に会いたい少年は城からでられない。

「まいにちフランス語 応用編 オペラで学ぶ「ペレアスとメリザンド」を読む」が2021~22年にNHKで放送された。講師は川竹英克さんとジョジアーヌ・ピノンさんの二人のフランス文学者。講師によるとメーテルランクの原文はわかりやすい簡単なフランス語で書か…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-3 第3幕第4幕(続く) 父親不明で懐妊させられたメリザンドと城から出たいのに許されないペレアスは分裂にさいなまれ、大人にいじめられる

2023/09/05 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-2 第1幕第2幕 異教の少女が無理やり結婚させら、危篤の親友に会いたい少年は城からでられない。 1893年の続き どうしてもワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を想起してしまうので、気づか…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-4 第4幕(承前)第5幕 大人に反抗しないように躾けられた少女と少年はいないものにさせられる。

2023/09/04 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-3 第3幕第4幕(続く) 父親不明で懐妊させられたメリザンドと城から出たいのに許されないペレアスは分裂にさいなまれ、大人にいじめられる 1893年の続き メリザンドは少女であるが肉体の存在…