odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ルイス・キャロル「愛ちゃんの夢物語」(青空文庫) 児童文学の文体が確立した1910年の翻訳。聞き分けのよい子供像を押し付ける教育書になった。

著者名はよく知っているのに、不思議なタイトルになっているのは、1910年に丸山英觀が翻訳した版だから。この国の「不思議の国のアリス」の初訳ではないが、とても古いもの。当然、21世紀に本を入手できるわけもなく、青空文庫に復刊されたもので読んだ。 ww…

ロバート・スティーブンソン「宝島」(新潮文庫) 拙速な探検プロジェクトが凄惨な事件を起こしたのだが、ジョン・シルヴァーの造形に目を奪われる。

最初に読んだのは小学館のカラー版名作全集「少年少女 世界の文学」イギリス編で。キャロル「不思議の国のアリス」と「ベオウルフ」も載っていた。 病気がちの父が経営している「ベンボ―提督亭」にフリント船長と名乗る船乗りがやってきた。そのときから15歳…

ロバート・スティーブンソン「ジキル博士とハイド氏」(新潮文庫) 厳格なモラルが要請されるビクトリア朝時代、夜が来て闇に包まれると、徳を失った内面が路上を疾走する。

尾之上浩司編「ホラー・ガイドブック」(角川文庫)は、19世紀の怪奇小説で「フランケンシュタイン」「ジキル博士とハイド氏」「吸血鬼ドラキュラ」をあげている。その選択はまことにその通りで(ポオとホフマンとディケンズに挨拶くらいはしてほしいけど)…

アントニー・ホープ「ゼンダ城の虜」(創元推理文庫) 1894年のイギリスからみると東欧はエキゾチシズムを喚起する場所。イギリス紳士は平和を守る英雄になれる。

ルリタリア王国はドイツとチェコの間に位置する(表紙の地図を参照)。若き国王ルドルフ5世が戴冠することになり、ローマ法王が首都を訪れていた(ヨーロッパの王権は神権に承認されないといけないのだ)。しかし、異母兄弟のストレルサウ大公は王位簒奪を…

アントニー・ホープ「ゼンダ城の虜」(創元推理文庫)-2「ヘンツオ伯爵」 民主主義国家イギリスの紳士は封建国家の王にはならない。

2020/04/23 アントニー・ホープ「ゼンダ城の虜」(創元推理文庫) 1894年 あれ(「ゼンダ城の虜 The Prisoner of Zenda」事件)から3年。ルドルフ5世は戴冠し、フラビアと結婚した。しかしフラビアはラッセンディルを忘れられずうつうつとした日々を過ごす…

バロネス・オルツィ「紅はこべ」(創元推理文庫) 女性の自立が許されない抑圧社会でも女性は冒険して他人を救いたい。

時は1792年。フランス革命は恐怖政治に転化し、毎日貴族が処刑されていた。そこに、イギリスの義賊団現る。「紅はこべ Scarlet Piempernel」を名乗る一団が、処刑される貴族を次々とイギリスに亡命させたのである。フランス当局の厳重な警戒も国境封鎖も役に…

H・G・ウェルズ「タイム・マシン」(角川文庫) 家族・労働・国家を止揚した社会は必然的に退廃する。ウェルズの社会主義批判とペシミズムが込められたSF。

ウェルズの中編と短編。どれもSFのサブジャンルの始祖であって、SFでやれることの多くはウェルズがやってしまったという感じがする。そのうえ、人類や地球の未来に対する無力感となにもすることがないという諦めが漂う。読後、余韻は深いが、気分はすっきり…

H・G・ウェルズ「タイム・マシン」(旺文社文庫) 20世紀SFの基本的なアイデアを網羅した短編集。人も社会も解放されないという憂鬱な未来観。

旺文社文庫版。角川文庫の収録作品と一部重複。すでになくなってしまった旺文社文庫は訳者などによる解説が充実していた。当時の若手の文学研究者に多くのページを渡して、長い解説を書かせていたとみえる。そこには研究者らしい文献調査や社会学的な知識が…

H・G・ウェルズ「透明人間」(青空文庫) 肌の色がない人は肌の色が濃い人と同じように差別され迫害を受ける。

今回読んだのは海野十三訳の青空文庫版。たぶん戦前訳だと思う(海野は敗戦後断筆)。ジュブナイル向けらしいので、どの程度原作に忠実なのかは不明。戦前訳では都合にあわせてストーリーを変えたりするのはよくあることなので。 イギリスの田舎にあるアイピ…

ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-1 ホームズと同時期の吸血鬼小説。ジョナサンという軟弱な若者が男になっていく成長物語もある。

吸血鬼小説の古典にして代表作。もっとも古い吸血鬼小説ではないが、本書に書かれたアイコンやシンボルが吸血鬼のイメージを決定づけた。1897年初出なので、ホームズと同時期(なのでのちのパロディやパスティーシュでときどき共演する)。 映画が出来たら、…

ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-2 蝋管蓄音機、速記術、タイプライターを駆使して怪奇に挑む。技術革命がキリスト教の信仰強化につながる。

2020/04/13 ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-1 1897年 セワード医師はメモを書く代わりに蝋管蓄音機に吹き込み、ミナは速記術で記録をとってタイプライターで打ち直す。いずれも19世紀末の発明品。記録をとることはとても重要でその…

ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-3 紅一点がチームを結束する鍵であり、人間の知恵と経験が闇や怪異を駆逐し、理性と科学で世界を明るくする。

2020/04/13 ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-1 1897年2020/04/10 ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫)-2 1897年 教授一行といい加減にかいていたが、改めてメンバーを紹介すると、ヴァン・ヘルシング教授、ジョ…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1

イギリスの小説はリアリズムの伝統がある(例えばほとんどの探偵小説)が、一方で幻想を志向し、この世ならぬものへのヴィジョンを物語る系譜もある。このファンタジーの系譜は英国文学史にはあまり重要に扱われないが、少数の愛好家により広められ、この国…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年 タイドミン ・・・ マスカルは夫の死に動じないオウシアックスに呆れて別れるつもりであったが、旅をつづけることにする。オウシアックス「私たちはクリスタルマン…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-3

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年2020/04/06 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2 1920年 リーホールフィー ・・・ 植物動物(両方の性質をもつ生物)に乗って、…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-4

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年2020/04/06 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2 1920年2020/04/03 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリ…