odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

横溝正史

横溝正史 INDEX

2016/02/24 横溝正史「恐ろしき四月馬鹿」(角川文庫) 2016/02/23 横溝正史「山名耕作の不思議な生活」(角川文庫) 2011/01/18 横溝正史「悪魔の家」(角川文庫) 2016/02/22 横溝正史「翻訳コレクション」(扶桑社文庫)「二輪馬車の秘密」 2016/02/19 横…

横溝正史「恐ろしき四月馬鹿」(角川文庫) 作家がデビューしてから新青年の編集長になるまで(1921-1925年)の短編。モダニズムの文章は今でも古びていない。

作家がデビューしてから新青年の編集長になるまで(1921-1925年)の短編を収録。ずっと絶版だったが(これは高校生の時に購入)、Kindle版が廉価で販売されるようになった。まずはそのことを言祝ぎたい。 恐ろしき四月馬鹿 1921.04 ・・・ 中学校の寄宿舎で…

横溝正史「山名耕作の不思議な生活」(角川文庫) 新青年編集長時代(1927-1932)に書いた短編。一人称の内話、告白、おしゃべり、性別を変えた語り、三人称などナラティブの実験中。

作家が新青年編集長時代(1927-1932)に書いた短編を収録。ずっと絶版だったが(入手に苦労した)、Kindle版が廉価で販売されるようになった。まずはそのことを言祝ぎたい。 なお所収のうち、「犯罪を猟る男」「あ・てる・てえる・ふいるむ」「角男」は乱歩…

横溝正史「翻訳コレクション」(扶桑社文庫)「二輪馬車の秘密」 1886年にオーストラリアで出版された古い長編探偵小説の翻訳。エンディングの2バージョンを収録。

もう一編はファーガス・ヒュームの「二輪馬車の秘密」(1886年)。彼の最初の作で、オーストラリアで出版され、翌年ロンドンででて大人気になったそうな。中学生の時からタイトルになじみがあり、なぜこんな古い探偵小説を知っているかというと、江戸川乱歩…

横溝正史「翻訳コレクション」(扶桑社文庫)「鍾乳洞殺人事件」 平凡なミステリーだが、のちに鍾乳洞は翻訳者のお気に入りの場所になった。

巻末に横溝正史の翻訳リストが載っていて、新青年の編集長時代から昭和15年ころまでに長編・短編を多く訳している。ほとんどは短編だが、そのうちの本格探偵小説長編を収録したのが本書。まこと明治生まれのインテリは英語を独習し、翻訳できるほどに堪能だ…

横溝正史「蔵の中・鬼火」(角川文庫) 結核療養後に文体が変わる。「閉じ籠もり」の人たちに起きた悲劇。

新青年の編集長をやめ文筆一本で生きようとしたら、結核で一年間の療養。そのあとに書かれたものを収録。 鬼火 1935.02-03 ・・・ 信州・諏訪湖のほとりにある瘴気に囲まれた陰気なアトリエ。そこに放置された強大な裸婦像。その絵の背後に隠された妄執の物…

横溝正史「真珠郎」(角川文庫) 信州を暗躍する絶世の美少年にしてサイコパス。戦前の通俗長編の最高峰。

戦前の作品を集めたもの。結核も癒えて、創作欲が高まったのか、自分の書きたいスタイルを見つけたのか、筆が踊っていてとても面白い。 真珠郎 ・・・ 真珠郎を初めて見たのは、深夜。草色の洋服を着て、全身をずぶぬれにしている。周囲には蛍が乱舞し、真珠…

横溝正史「花髑髏」(角川文庫) 戦前に書いた通俗長編に短編。喀血以前の血気盛んなころの作。

作者が戦前に書いた通俗長編に短編。喀血以前の血気盛んなころの作。どこにも落ち着いたところはなくて、気ぜわしく物語を進め、とにかく楽しませようという心意気が心地よい。 白蝋変化 昭10.4-12 ・・・ 江戸からの老舗「べに屋」はお家断絶(?)の危機に…

横溝正史「刺青された男」(角川文庫) 昭和21-22年に書かれた短編。本格探偵小説のスタイルを試行錯誤中。

昭和21-22年(西暦よりもこちらのほうがふさわしい。1946−47年)に書かれた短編をまとめたもの。表紙の男装の麗人と巨魁は「刺青された男」の重要登場人物。 「神楽太夫」(1946.03) ・・・ 岡山に避難している探偵小説家、山の中で道に迷い、世捨て人に出会…

横溝正史「ペルシャ猫を抱く女」(角川文庫) 昭和21-24年の短編集。「本陣」「蝶々」連載中にこれだけ量産していた充実期。

「刺青された男」に続く昭和21−24年の短編集。「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」の2長編を同時に連載し、これだけの短編を量産していたのだから、著者40-50代はいかに充実した時期であったことか。 「ペルシャ猫を抱く女」(1946.12) ・・・ 田舎の名家の美女…

横溝正史「蝶々殺人事件」(角川文庫) 殺し方の複雑さに感心するより、容疑者は一人だけで、その一人が犯人である難しい課題をクリアしたことを寿ぎましょう。

「蝶々殺人事件」1946年の探偵小説としての評価は同時代の坂口安吾「推理小説について」につきている。青空文庫にあるので、よむべし。 坂口安吾 推理小説について 最後のところにある「日本の探偵小説の欠点の一つは殺し方の複雑さを狙いすぎること」という…

横溝正史「八つ墓村」(角川文庫) 連続殺人鬼よりも異邦人や異端者に対する不寛容でリンチを開始する日本人のほうが恐ろしい。

岡山県と鳥取県の県境にある通称・八つ墓村。多治見家の東屋と野村家の西屋が村を仕切っている。「獄門島」「犬神家の一族」同様に、本家は傾きかけていて、分家が壮健であるというしだい。本家を次ぐべき長男は肺病と心臓疾患で明日をも知れぬ病持ち。他は…

横溝正史「女王蜂」(角川文庫) 「もはや戦後ではない」時代になると金田一ものは急速に色あせる。

伊豆の西にある月琴島にある大道寺家。戦後窮迫したので、総出で東京の分家に移ることに決めた。この家のややこしさは、19年前にさかのぼる。当時の当主の娘・琴絵は旅の大学生といいなかになり、子供を産んだ。その直後、大学生は転落死を遂げている。そし…

横溝正史「迷路荘の惨劇」(角川文庫) 70歳を超えた作者による過去の名作を換骨奪胎したパッチワーク。「何もかもみな懐かしい」

「迷路荘の惨劇」か……何もかもみな懐かしい……。と、ため息をつくのは二つの理由がある。 二番目の理由は、この小説が作者の過去の名作を換骨奪胎し、パッチワークのように作られているから。その前に、状況を確認しておくと、ながらく社会派推理小説の隆盛に…

横溝正史「仮面劇場」(角川文庫) 結核療養以後の本格よりの戦前探偵小説。美少年に人形、レコード歌手といった横溝の好きなギミックがたくさんある興味深い作品。

すべての長編を読み込んでいるわけではないし、全部読もうとする気力はないのだが、いろいろ読み継いで見ると、戦前の作品のほうが横溝らしさが横溢しているのではないかとおもうようになってきた。どこらへんに横溝らしさをみるかというと、(1)モダンな…

横溝正史「悪魔の家」(角川文庫) 昭和13-15年にかけての作家専業中になってから書かれたデビュー以来のモダンな都会小説の延長にある短編。

広告面の女1933 ・・・ 輪郭だけ描いた顔の広告がでた。翌日は目、その翌日は眉、という具合に次第に女の顔ができあがっていく。最後には尋ね人の広告になった。平凡なサラリーマンが隣室の奇妙な男に興味を持ち、男は広告の女のデスマスクを作っているのを…

横溝正史「夜光虫」(角川文庫) 美少年、声を失った少女、妖艶な歌手。個性的なキャラが東京市内を走り抜ける耽美アクション。

両国の夜空に咲く花火に脱走囚の姿が浮かび上がった。それは目を奪う美貌と、目を背ける人面瘡を持つ少年。いにしえに遡る、少年の血塗られた秘密とは?仮面舞踏会、サーカス団、幽霊塔…絢爛たる名場面と共に甦る巨匠、戦前の代表作。 http://www.tokuma.jp/b…

横溝正史「三つ首塔」(角川文庫) 戦後モダン探偵小説を作った作者が10年後には戦前の伝記小説に先祖返り。

女時代に両親をなくし、伯父宅に引き取られた音禰に、遠縁の玄蔵老人からの遺産、それも百億円相続の話がまい込んできた。が、それには見知らぬ謎の男との結婚が条件という。思いもかけない事態にとまどう音禰の周辺で次々と起きる殺人事件。おびただしい血…

横溝正史「獄門島」(角川文庫) 世界的テクニックを駆使した作家の最高傑作。鬼頭家は同族経営を行ってきた一族の末裔。

獄門島――江戸三百年を通じて流刑の地とされてきたこの島へ金田一耕助が渡ったのは、復員船の中で死んだ戦友、鬼頭千万太に遺言を託されたためであった。『三人の妹たちが殺される……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ……』瀬戸内海に浮かぶ小島で網元として君…

横溝正史「仮面舞踏会」(角川文庫) 軽井沢の観光地に集まるのは根無し草の都会人。雑多な登場人物の関係図を明らかにするのが主眼。

裕福な避暑客の訪れで、閑静な中にも活気を見せ始めた夏の軽井沢を脅かす殺人事件が発生した。被害者は画家の槇恭吾、有名な映画女優・鳳千代子の三番目の夫である。華麗なスキャンダルに彩られた千代子は、過去二年の間、毎年一人ずつ夫を謎の死により失っ…

横溝正史「悪魔が来たりて笛を吹く」(角川文庫) 「斜陽」のような没落貴族の家庭と六本木という繁華街を舞台にするが金田一には都会は似合わない。

世の中を震撼させた青酸カリ毒殺の天銀堂事件。その事件の容疑者とされていた椿元子爵が姿を消した。「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」という遺書を娘美禰子に残して。以来、どこからともなく聞こえる“悪魔が来りて笛を吹く”というフルート曲の音色…

横溝正史「悪魔の手毬歌」(角川文庫) 見立て殺人の日本的変奏というより「Yの悲劇」の日本版。

岡山と兵庫の県境、四方を山に囲まれた鬼首村。たまたまここを訪れた金田一耕助は、村に昔から伝わる手鞠唄の歌詞どおりに、死体が異様な構図をとらされた殺人事件に遭遇した。現場に残された不思議な暗号はいったい何を表しているのか?事件の真相を探るう…

横溝正史「本陣殺人事件」(角川文庫) 金田一耕介が初登場する記念作。肩に力が入りすぎて冒頭から50ページは停滞するのが惜しい。

江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷…

横溝正史「犬神家の一族」(角川文庫) 田舎の大きい屋敷をめぐる事件で父権を奪取する闘争が行われる。

信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、血で血を洗う葛藤を予期したかのような条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は生涯正室を持たず、女ばかり三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助…