odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-2 医学は二重盲検法やプラセボ効果を用いた評価とフィードバックによる改善を継続している。

2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 科学の分野では新発見が妥当かそうでないかの評価は、科学者集団によって検証される。たいていは、複数の研究者に追試検証されたり、従来の科学的知見と矛盾がないことを確認したり、従来説明不可…

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 科学は世界認識の方法に優れ、未来予測の精度をあげ、具体的な利益を上げることに成功したから、占星術や呪術に勝利した。

本書の感想の前にいくつか。科学についてのよもやま話。 科学の方法と思想が生まれたのはそれほど古い時代ではない。遡っても西洋の13-14世紀まで。しかもそのころの科学は、他の世界認識や未来予測の方法、すなわち占星術や錬金術や呪術など、とそれほど変…

真野俊樹「入門 医療経済学」(中公新書)  医療は経済行為でもあるし、経済外行為でもある。市場原理や国家統制では対応できない領域。

医療はサービスに対して対価を払うのであって経済行為とみなすことができるが、一方でサービスの内容や提供者による価格の差異がないなど経済外行為にもみなすことができる。なんでそんなことになるのかということと、医療費が増大していて国や自治体の財政…

大江健三郎「青年へ」(岩波書店)-2 「にせ科学」という言葉の用例

収録されたエッセイのうち、「読書家ドン・キホーテ(朝日ジャーナル1972年11月3日号)」に注目。 作家は1965年から7年間、週刊朝日の書評委員を担当してきた。7年間で350冊あまりの本を紹介してきた。その仕事を終えたので、まとめを書いた。国内の文学を取…

大江健三郎「青年へ」(岩波書店)-1 45歳になった小説家がアイデンティティ・クライシスにある20歳の「**君」にあてた手紙という設定のエッセイ。

1980年に大江健三郎同時代論集全10巻という企画があった。それまでのエッセイを発表順とテーマでまとめて10冊にしようというもの。1冊1300円(消費税のない時代)で、新書版というのは手に入れやすい設定だった。ただ自分がこの論集を買わなかったのは、収録…

大江健三郎「核の大火と「人間」の声」(岩波書店)

1981年に書かれたり、講演した原稿を収録したエッセイ集。どの論文も、講演で読み上げるつもりで書いたので、平易な文体と論理で書かれているので、1980年代の作家の考えを鳥瞰するのに便利。ここに書かれたことは、その後のエッセイでも繰り返しているし、…

大江健三郎「広島からオイロシマへ」(岩波書店) 1982年春に行われたオーストリア、西ドイツ、スイスなどの都市の反核運動の記録。

1981年ころに岩波書店は「ブックレット」というシリーズを作った。一冊60-70ページで、比較的大きな活字で、図表・写真を入れ、読みやすい文体で社会や世界の問題を紹介するというもの。最初はたしか「人口」「戦争」「貧困」だったと思う。これを使って、「…

大江健三郎「渡辺一夫を読む」(岩波書店) 東大仏文科時代にゼミの指導教官だった渡辺一夫を語った市民セミナーの講義録。

岩波書店の主催している市民セミナーの講義録。1980年代に同趣旨のセミナー講義録がいくつか出ていた。「〇〇を読む」というタイトルで統一されていた。自分の読んだのは「三文オペラ」と「ソシュール」くらいだけど、「丸山真男」「パンセ」「ガリヴァー旅…

大江健三郎「いかに木を殺すか」(文芸春秋社)「その山羊を野に」 作家に批判的なあるいは批評的な人格を務めるのは外国人や祖国喪失者から「大いなる女たち」に代わる。

1984年に発表された短編集。のちの長編を書くときの素材集か、すでに書かれた長編からはみ出たスピンオフ作品みたいなものか。 揚げソーセージの食べ方 ・・・ 村=国家=小宇宙のトリックスターの一人を紹介する。早稲田大学理工学部を戦前に卒業した兵衛伯…

大江健三郎「河馬に噛まれる」(文芸春秋社)-1 背景にあるのは1971-72年の連合赤軍事件と浅間山荘事件。作家の「連合赤軍事件」批判は中途半端で、この種の権威主義組織の害悪を克服する手段を見出すものではない。

背景にあるのは1971-72年の連合赤軍事件と浅間山荘事件。同じ党派が起こした一連の事件。詳細をここで書くよりも、別の資料にあたってほしい。 パトリシア・スタインホフ「死へのイデオロギー」(岩波現代文庫)は、事件当時この国にいなかった人(文化人類…

大江健三郎「河馬に噛まれる」(文芸春秋社)-2 見えないところでその場所を活性化する大事な役目をやっている「河馬」が世界的宇宙的な癒しや希望につながる、という。

1983-85年に書かれた短編のうち、モチーフを同じにするものを集めた。 連合赤軍および浅間山荘事件の主犯たちに死刑を含む地方裁判所の判決が出て、注目されていたころ。「東大安田講堂」落城15周年などで全共闘を懐古する出版物がたくさんでたころ。 河馬に…

大江健三郎「M/Tと森のフシギの物語」(岩波書店)-1

1986年に出版されたとき、もちろん即座に購入して読んだ。そのときは、「同時代ゲーム」のわかりやすい再話か、大して重要ではないな、と思い込んで、さほど感心しなかった。そして四半世紀を経ての再読。自分の思い込みを恥じる。小説を読むことの快楽を存…

大江健三郎「M/Tと森のフシギの物語」(岩波書店)-2

とんとある話。あったか無かったかは知らねども、昔のことなれば無かったこともあったとして聴かねばならぬ。よいか?うん! という合図で始まる長い長い話。それは龜村と外村から呼ばれる谷間の村の神話=歴史。いくつかを要点だけ取り出すのは、神話=歴史を…

大江健三郎「生き方の定義」(岩波書店)

雑誌「世界」に1984-85年に連載されたエッセイ。その10年まえに「状況へ」というエッセイを連載していて、その続きになるのかな。ほかのところでも書いたように、1980年代前半は、核戦争の恐怖、軍拡競争の激化、日米英で保守政権が誕生などがあって、センシ…

大江健三郎「新しい文学のために」(岩波新書) 「小説の方法」に続く文学の理論化。大江作品を読解する参考になる。

「懐かしい年への手紙」を書くことによって、文学の方法をあらためて考えることにし、「小説の方法」(岩波書店)に続けて、文学の理論化を行うことにした。小さい書物なので、作家の考え方がコンパクトにわかるのではないかしら。 自分の興味に合わせて、再…

大江健三郎「懐かしい年への手紙」(講談社)-1

1988年発表。 この小説がいささか読みづらいのは、これまでの作家の仕事を順を追って知っていることを読者に期待しているから。作中にでた過去の作品には「奇妙な仕事」「死者の奢り」「セブンティーン」「政治少年死す」「空の怪物アグイー」「個人的な体験…

大江健三郎「懐かしい年への手紙」(講談社)-2

ここではもうすこし小説の中に沿って。そうすると「ギー兄さん」について書くことになる。 「僕」の5つ年上という設定なので、1930年生まれか(武満徹が同年生まれ)。村の大地主の息子で、唯一進学したインテリ。ほかの村の子供たちが家の仕事を継いだのと…

大江健三郎「懐かしい年への手紙」(講談社)-3

この小説には4つの時間が流れている。 ひとつは現在(作品中の)であって、東京でくらす「僕」の一家がしばしば村を訪れ、「ギー兄さん」他の消息を聞くこと。ここの時間に登場する人たちは、すでに生活の仕方を選択しおえている。なのでこの時間にいるにひ…

大江健三郎「キルプの軍団」(岩波書店)

キルプというのはディケンズの「骨董店」に登場する矮人の悪人のこと。老人と少女ネリの経営する骨董店を乗っ取り、ほかにもいろいろ彼らに迷惑をかける悪党の親玉であるらしい。1988年初出のこの小説では、翻訳はないということになっていたが、その数年後…

大江健三郎/筒井康隆/井上ひさし「ユートピア探し物語探し」(岩波書店) 50代の作家が自分の小説の方法を語り合う。

1980年代前半は自分にとっては文学において懐かしい時で、1981年大江健三郎「同時代ゲーム」*1、1982年井上ひさし「吉里吉里人」、1984年筒井康隆「虚航船団」の初出にいあわせて、ほぼ同時に読み大いに感銘を受けたのだった。 さて、この本は上記3名の鼎談…

大江健三郎/武満徹「オペラをつくる」(岩波新書) オペラを趣味でよく聞く大江がオペラ作曲のオファーをうけた武満の相談にのる。

武満徹は1930年生まれの作曲家。さまざまな分野の作品をつくってきたが、未制作なのは交響曲とオペラ。50代なかばになってちゃんときいてみたら、オペラに興味がでてきた。でも、どんなオペラがつくられるべきなのかわからない。 大江健三郎は1935年生まれの…

大江健三郎「静かな生活」(岩波書店) 父不在の家のできごとを大学卒業直前の娘が記録する「家としての日記」。

1990年の連作短編集。50代の作家がカリフォルニアの大学に妻とともに長期留学することになった。家に残されたのは、障害を持つ大男の兄と、大学卒業直前の姉(セリーヌを題材に創業論文を書く予定)、東大理科2類を志望している浪人中の弟。話し手は姉で、家…

大江健三郎「治療塔」(岩波書店)

舞台は2010から2020年代と思われる東京とその近郊。少し異なるのは、1990年ころに全面核戦争が起こり、かつエイズが蔓延し、人類絶滅が予想されていた。各国はスターシップ計画を発動、惑星間航行宇宙船を建造し「新しい地球」に移住することになる。搭乗員は…

大江健三郎「治療塔惑星」(岩波書店)

読後の印象はとまどい。 とりあえずサマリ。あれから3年。あれというのは前作「治療塔」で、朔ちゃんが衛星タイタンに向けて出発し(ヴォネガット「タイタンの妖女」?)、リッチャンは息子ダイとともに地球に残ったこと。ダイは言葉はかわさないが、知性の…

大江健三郎「文学再入門」(日本放送出版協会) 1992年のNHK人間大学という番組の講義テキスト。内容は「新しい文学のために」とほぼいっしょ。

1992年のNHK人間大学という番組で30分×12回の講義を行った。そのときの講義録。この時期、自分はこの番組が好きで、荒俣宏の博物学ほかの講義を聴き、録画しておいた。「文学再入門」もVHSで録画し、DVDに変換して現在も所有している。ただ、見直すことはな…

大江健三郎「あいまいな日本の私」(岩波新書) 1994年ノーベル文学賞の受賞講演その他。上品(ディーセンシー)なユマニズムをつぶそうとする日本のあいまいさ(アムビギュイティー)。

1992年から94年までの講演のまとめ。その中には、よく知られているようにノーベル文学賞の受賞講演も含まれる(本の題名のもの)。古くからこの人の文章に触れている人には、さほど新規なことは含まれていないのだが、講演ということでいつもの晦渋な文体で…

大江健三郎「日本の「私」からの手紙」(岩波新書) ノーベル文学賞受賞後の短文や講演など。自分の意見や主張の正しさを考えるときには、外国語に翻訳されたらどうみられるだろうかと考える。

1994−95年に書かれた短文、講演など。作家が注目する出来事は、フランスと中国の核実験、中国の人権侵害(1989年天安門事件当事者への弾圧)、旧ユーゴや旧ソ連の内戦など。1994年にノーベル文学賞を受賞したことが契機になって、さまざまな組織から講演依頼…