odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」(ハヤカワ文庫) スペースオペラの格好をしたスペースオペラ批判。

SF雑誌の編集者キース・ウィストンが次の号のことに思いをはせているとき、第一次月ロケットがすぐ横数ヤードのところに墜落。その衝撃で失神した後、キースはなんとも得体のしれない世界で目覚めた。細部はまったく現在(1949年当時)のアメリカなのに、ド…

フレドリック・ブラウン「宇宙をぼくの手の上に」(創元推理文庫) 1940年代のSF短編集。ときどき作家に訪れるスランプすらネタにする作家の貪欲さ。

ブラウンの名前には懐かしさを感じる。大人の小説を読み始めるきっかけのひとつが、中学生時代に図書館で借りた星新一だった。彼のショート・ショートを読みふけるうちに、ブラウンの名前を知り、いくつかの短編小説集を読んた。20代になって、彼への興味は…

フレドリック・ブラウン「まっ白な嘘」(創元推理文庫) ミステリーと犯罪小説を収録。1940年代、戦争とそのあとの好景気の時代に人々は不安を感じている。

1953年の短編集。書かれたのは1940年代。戦争とそのあとの好景気の時代(でもアメリカ人は、敗戦国や被災国の支援のための高い税金に飽きている)。ミステリーと犯罪小説を収録。 笑う肉屋 ・・・ 町で嫌われ者の肉屋がリンチにあったという。それは彼の敵対…

フレドリック・ブラウン「天使と宇宙船」(創元推理文庫) SF作品を収録。「センス・オブ・ワンダー」とはこういうもんだ、と自信たっぷりな作者の笑みが見えてくるよう。

1954年の短編集。SF作品を収録。「センス・オブ・ワンダー」とはこういうもんだ、と自信たっぷりな作者の笑みが見えてくるよう。 悪魔と坊や ・・・ ある奇術師の舞台。奇術の途中に火事が起こる。舞台にいた少年は水鉄砲で火を消したのだが、実はそこでは悪…

フレドリック・ブラウン「火星人、ゴーホーム」(ハヤカワ文庫) 「善意」な火星人はアメリカ国外におけるアメリカ人の振る舞いのカリカチュア。

1964年のある日、ヤツらがやってきた。そいつらは全米を震撼させた。そいつらとは、 「かれらは一人の例外もなく、口が悪く、挑戦的で、こうるさくて、胸糞がわるくなるようで、横暴で、喧嘩好きで、辛辣で、不作法でにくったらしく、礼儀も知らず、呪わしく…

フレドリック・ブラウン「スポンサーから一言」(創元推理文庫) ショートショート集。米ソ冷戦、植民地独立運動などの社会情勢をエンタメに反映している。

初出は1958年。書かれた時代はその少し前。中学生のときの初読では意識しなかったけど、当時の政治状況を反映した作品が多かったのだね。まあ、自分の中学生のときには米ソ対立構造は書かれたときと同じように続いていたので、違和感はなかった。21世紀に読…

フレドリック・ブラウン「3、1、2とノックせよ」(創元推理文庫) アメリカの田舎で起きた連続強姦殺人魔事件。4分の3を過ぎてからは怒涛の展開に目をみはらされる。

その町では「痴漢」とよばれる連続強姦殺人魔が暗躍していた。手口は独居独身女性のアパートに入って(荷物や手紙を届けに来たと告げる)、犯罪を犯すというもの。そのため市民はチェーンキーをつけたり、ドアを開ける前に決めておいたノックの回数で合図す…

フレドリック・ブラウン「復讐の女神」(創元推理文庫) 1950年代のミステリーや犯罪小説のアンソロジー。この時代のアメリカの風俗や生活習慣はサスペンスやノワールものにかっこうの舞台。

1963年の短編集。書かれたのは1950年代。ミステリーや犯罪小説のアンソロジー。 復讐の女神 (Nothing Sinister) ・・・ 広告代理店の社員カールは、酒飲みで妻に愛想をつけられている不良社員。会社が倒産しそうだというので、金をおろし、農場を買うと独断…

フレドリック・ブラウン「ブラウン傑作集」(サンリオSF文庫) 星新一が翻訳した傑作集。星新一のやわらかく楽天的な文体はブラウンには合わないけど、入門には最適。

フレドリック・ブラウンの没後5周年を記念したのか、アンソロジーが1977年に編まれた(死亡年は1972年)。それがこの傑作集。編集はロバート・ブロック(@サイコ)。ブラウンの仕事は多岐にわたるが、SFとホラー、ショートショートにかぎって収録したという…

ヘンリ・スレッサー「ママにささげる犯罪」(ハヤカワポケットミステリ) お人よしで、間抜けで、オポチュニストで、打算的なキャラの愚行に読者は優越感を持てる。

「うまい犯罪 しゃれた殺人」が好評だったので、ヒッチコックが編んで1962年に出版された。この国では1970年代に文庫になっていた。 前の短編集ではほめまくったけど、こちらでは、苦情も書いておくことにしよう。 ちょっと辛味のきいた物語だけを読み続ける…

ヘンリ・スレッサー「うまい犯罪 しゃれた殺人」(ハヤカワポケットミステリ) ヒッチコックのTV番組にするにはちょうどぴったりの原作

1960年にヒッチコックが編んだ短編集。 一編あたりのサイズは、原稿用紙に換算して20枚くらいというところ。登場人物はまあ3人。点描的な人物を入れても10人を越えることはない。物語も、せいぜい1時間くらいのできごとで、途中に時間が飛ぶことがあっ…

モーツァルト INDEX

2015/11/12 ロビンズ・ランドン「モーツァルト」(中公新書) 2015/11/06 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫) 2015/11/09 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 下」(岩波文庫)2011/04/23 小林秀雄「モオツ…

本多勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞社) 文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。

文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。ここでは小説家や詩人のような美文をつくることや法律・契約書のような特殊な文章の書き手になることは目的に入れていない。文章を書くことで収入を得るこれらの職業につくには、本人の特殊…

ロビンズ・ランドン「モーツァルト」(中公新書) 1991年没後200年記念CDセットの解説集。モーツァルトの見方が変わった時期の啓蒙史料。

1991年はモーツァルト没後200周年。さまざまな追悼・記念企画があった。この国で大規模だったのは、トン・コープマンとアムステルダム・バロック・オーケストラによる交響曲全曲演奏会。都合3回来日したのかな。12月5日の命日には全曲がラジオ放送され、40番…

池内紀「モーツァルト考」(講談社学術文庫) 当時たくさんいた「音楽の神童」の中で今に残るのはモーツァルトただひとり。

モーツァルトを語ろうとすると、不思議なことに書かれた文章は重たくなるか、軽薄になるかで、モーツァルトの音楽にジャスト・フィットしたものはめったにお目にかかれない。小林秀雄やカール・バルト(「モーツァルト」新教出版社)のが重くなった典型だろ…

海老沢敏「モーツァルトを聴く」(岩波新書) 有数の研究者の啓蒙書だが、モーツァルトの音楽を聴く方がずっと楽しい。おもしろい。

小林秀雄「モオツァルト」1946.12から40年弱たつと、モーツァルトを語る方法もずいぶんかわるものだ。もはや敗戦直後のような演奏会やレコード、資料の不足などをいいわけに、足りないところを自分の思想で補う仕方では書くことができない。そのうえ、音楽学…

ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 下」(岩波文庫) 大人子供(チャイルデッシュ)の神童モーツァルトも結婚して子供ができれば大人のシリアスな問題に直面する

2015/11/06 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫)の続き 下巻は1781年、モーツァルト25歳以降の手紙が収録。この年には、両親とは別行動。ザルツブルグ、ウィーン、パリなど自分の居場所を求めて、西洋の都市を移動する。そし…

吉田秀和 INDEX

2015/10/30 吉田秀和「主題と変奏」(中公文庫) 2012/05/30 吉田秀和「音楽紀行」(中公文庫) 2015/10/29 吉田秀和「二十世紀の音楽」(岩波新書) 2015/10/28 吉田秀和「LP300選」(新潮文庫) 2015/10/26 吉田秀和「今日の演奏と演奏家」(音楽之友社…

ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫) 当時の手紙は音読され回し読みされるのが前提。つづりの間違い、当て字、冗談、下ネタは読む人と聞く人へのサービス。

モーツァルトは生涯に500通余の手紙を書き、現存しているのは300通ほど。そのうちの200通強と関係者の手紙(おもに父)を収録して、2巻の本にした。研究者向けの書簡全集は、手紙のやり取りをした家族・知人その他の返信などを網羅して7巻もあるというから読…

河上徹太郎「ドン・ジョバンニ」(講談社学術文庫) オペラを聴くこと自体が大変な1950年。文献を頼りに評論を書く。

文芸評論の仕事の方が有名な著者のモーツァルト論。収録された論文やエッセイは昭和10年から30年にかけて書かれたもの。タイトルの論文は1950年に書かれた。解説にあるように、昭和20年代のモーツァルト論としては、小林秀雄「モオツアルト」1946、吉田秀和…

吉田秀和「モーツァルト」(講談社学術文庫) モーツァルト紹介の文章としては極めて初期のもの。多面性・多義性を浮かび上がらせるものではないので、好事家向け。

モーツァルト没後200年を控えた1970年にそれまで著者が書いてきたモーツァルト関連の文章をまとめたもの。 2章と3章に集められた文章はほかの本に収録されたことがある。気づいたものは書いておいた。ピアノソナタに関するものは「世界のピアニスト」に入…

奥泉光「シューマンの指」(講談社文庫) シューマンに取り憑かれた人が本体と影、実体とイデアというような二元論の罠にからめとられる。

音楽好きの高校生たちが、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」をなぞって同じ名前のグループを結成し、シューマンが作った「新音楽雑誌」と同じタイトルの雑誌を発行しようとする。それくらいにシューマンへの愛情がある連中なのだ。というわけで、この小…

ロベルト・シューマン「音楽と音楽家」(岩波文庫) 19世紀のドイツの音楽趣味に方向付けをした評論集。

ロベルト・シューマンは1810年生まれで、1856年に若くして亡くなった。彼の作品だと、ピアノソロの曲と歌曲が代表になるのかな。「クライスレリアーナ」とか「幻想曲」、「詩人の恋」あたり。人によっては大規模作品の「楽園とペリ」を推すこともある。自分…