odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

アーシュラ・ル・グィン「ロカノンの世界」(ハヤカワ文庫) 惑星に取り残された中年男の聖杯探索物語。調査する相手は教育や啓発する相手であるのかという深刻な懐疑が生まれる。

「全世界連盟から派遣されたフォーマルハウト第2惑星調査隊は、隊長のロカノンを残して全滅した。この惑星にひそむ連盟への反逆者が、調査隊を襲ったのだ。なんとかこの事実を母星に知らせようとするロカノンだったが、通信装置を破壊されてしまっていた。使…

松浦寿輝「エッフェル塔試論」(ちくま学芸文庫) 建物をテキストのようにテクノロジー・政治的文脈・思想的文脈から「読む」。

かなり前に読了したものだが、タイトルを見て思い出したことなど。 「古典的な「表象」の崩壊に代わって「イメージ」の出現という出来事が成立する時点において、恐らくエッフェル塔とは、西欧の表象空間に起きたこの地の竣工の日付をこの認識論的断層の上に…

アナイス・ニン「アナイス・ニンの日記」(ちくま文庫) アナイス30歳前後。父と決別し、子供を流産し、愛人のいるアメリカに渡る。

アナイス・ニンはヨーロッパに住んでいたが、12歳ころに両親が離婚。アメリカに渡ることになる。そのころから日記を書き始めて、生涯途切れることがなかった。全訳すると、600ページ掛ける10巻くらいの巨大なものになるらしい。ここには、1931年から1934年ま…

マルグリッド・デュラス「愛人」(河出書房新社) 家族を憎んだ娘は他人の愛人になって感情を殺し肉体を嫌悪する。

70歳を過ぎた作家が自分の少女時代を回想する。最初は、自分の手元に残されている写真をみながら、家族のこと、生まれ故郷のことを思い出す。もともとは生誕70歳を記念する写真集をだすとかで、キャンプションを付けているうちに、エクリチュールが拡大して…

マルグリッド・デュラス「破壊しに、と彼女は言う」(河出文庫) 文章の抽象化をつきつめると、なにかまっしろなほとんど「虚」にいってしまう。

「狂人たちが集うホテルの1室を舞台に4人の登場人物が繰り広げる言葉の極限状況。やがて明らかにされる放浪の民の悲劇、18歳の少女の内に秘められた凶暴な野性の目覚め…。「『破壊しに』には10通りの読みかたがある」とデュラス自身が語るように、本書は小説…

マルグリッド・デュラス「モデラート・カンタービレ」(河出文庫) 情痴殺人事件から十日間、二人の男女が夕暮れに15分ほどバーでかみ合わない会話をするだけ。人は感性的に狂う。

1992年7月の日曜日に古本屋で買って、途中中華料理屋によって夕飯を食いながら読んで、その夜のうちに読み終えたのだった。本の内容は忘れていたが、このときの雰囲気というか場末の料理屋の印象が妙に残っている。まあ、内容とは全然関係ないことだけど。 …

マルグリッド・デュラス「静かな生活」(講談社文庫) 期待と倦怠と無関心の入り混じったどうしようもない人間たちの小説。

フランスの田舎で農業を営む一家。叔父やいとこなど複数の親族が住んでいる。主人公フランシーヌ(ほとんどそう呼ばれることはない)は、ティエーヌと婚約している。ティエーヌは弟ニコラとは仲がよくない。そのうち、ニコラは馬にけられるという事故を起こ…

カトリーヌ・アルレー「白墨の男」(創元推理文庫) 豊かな生活に倦怠と諦念を持つ中年女性作家のアヴァンチュール。カーチェイスより人間観察が大事。

「最後のバラ色の三日間。あとはみなさん、さようなら!」 イリスが車に乗せた青年は、こう言うと笑った。自殺志願者の最後の三日間! 人生に破れ、死を思っていた女流作家イリスが、偶然にも自殺志願者を拾ったのだ。「あんたも三日延ばさないかい? それか…

ロラン・バルト「明るい部屋」(みすず書房) 写真は「かつて=それは=あった」。しかし歴者過去を現在に突き刺してくる。

まあ、これを読んでも「写真」とは何かが凡庸な自分の頭ではよくわからないということだ。「とは何か」という問いそのものが形而上学のドグマに犯されているのだ、と作者から一笑されるに違いないのだが。たしかに、写真を見るときの不可思議さ、違和感、底…

ジェオルジェ・バタイユ「エ_ロ_ス_の_涙」 人生最大のトラウマになった「呪われた書物」。

【注意】 以下はX指定。おぞましいもの、グロテスクなものについて書いている。耐性のないものは読んではならない。 高校入学直後、教室の隣にあった図書室に入る。タイトルに惹かれてこの本(ハードカバーのほう)を手にする。ほお、高尚なものばかりだが、…

ポーリーヌ・レアージュ「O嬢の物語」(講談社文庫) 心に怪物を持っている女性の身体に対する徹底的な無関心。

高名な作家が匿名で書いたポルノ小説。一時期はマンディアルグが作者ではないかといわれていたが、いまはどうなっているのかな(どこかの個人ブログに「数年前(2000年前後)になって編集者ドミニック・オーリーが自分であるとインタビューで認めた」との記…

ジャン・ジュネ「泥棒日記」(新潮文庫) 通常の社会の規範を大きく逸脱している「泥棒」は美を意識する。

1914年生まれ。父親のことは誰も知らず、母もすぐに子育てを放棄。そのため孤児院で生活。その後は、男娼、泥棒、その他の犯罪で生計を立てながら、1930年代にヨーロッパ中(文中にでてくるだけでもスペイン、イタリア、ユーゴスラヴィア、チェコ、…

ボリス・ヴィアン「死の色はみな同じ」(早川書房) WW2直後にジャズ評論家が描いたノワール小説。物語の加速感が戦後を感じさせる。

兄と称する黒人が現われた時から、白い肌のダンは、愛する白人の妻を抱けなくなり、傷ついた野獣のように追いつめられていった……黒い血への怯えが生む狂った犯罪をスピーディに描く! この作品が書かれた背景を簡単に書くと、第2次大戦直後、高尚な文学を出…

ジャン・ポール・サルトル「嘔吐」(人文書院) 不意に世界との違和感を感じた若者があらかじめ失敗が予測されている〈冒険〉に出ようとしていつまでも出発できない。

歴史学を学んでいる、たぶん30代の独身者がいる。彼は不意に、世界との違和感を感じてしまった。その違和感というのは事物をみたときの<吐き気>であり、自分と事物との遠い距離。それは理由をつけようとも説明できることではなく、たんに不安とか気分の悪…

ジャン・ポール・サルトル「壁」(人文書院)「水いらず」「部屋」 壁は銃殺される直前に背中に感じるもの、他者の内部に行くことを拒んでいるもの。

水いらず1938 ・・・ 頭のいい学生が、物語(ストーリー)はないけど小説(ノヴェル)を書いてみたというのかな。リュリュとアンリの若い夫婦。アンリは不能でリュリュは憐憫とも嫌悪ともいえる感情を持っている(本当に?)。で、リュリュは友人リレットと…

ポール・ニザン「アデン・アラビア」(晶文社) 〈この私〉に違和感を持つ若者の不安で苛立たしく衝動的で落ち込みやすい気分の描写。

ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。 一歩足を踏みはずせば、いっさいが若者をだめにしてしまうのだ。恋愛も思想も家族を失うことも、大人たちの仲間に入ることも、世の中でおのれがどんな役割を果してい…

ピエール・ガスカール「街の草」(晶文社) 1930年代フランスの不況と右傾化にあって、腹をすかせた若者たちの共同生活。

1933年フランス、パリ。17歳の青年が銀行に勤めるが仕事が面白くない。数ヶ月でやめて、知り合いのつてでジャン=ジャック・ルソー街のアパートに行く。そこには20代前半の青年が勝手に寝ては出て行く、無秩序な共同体ができていた。彼らは腹をすかせていた…

ジュール・ルナール「ぶどう畑のぶどう作り」(岩波文庫) 正確なカメラのような眼を自然に向ける。視線や構図が独特。

中学生のころは、同じ作者の「博物誌」がとても好きだった。とくに、短いスケッチ――ほとんどコント――が好きで、真似をしていくつもかいたのだった。しかし、子供をいじめる話である「にんじん」はどうにも手を出す気持ちになれなくて、ヘッセ「車輪の下」と…

アンリ・バルビュス「クラルテ」(岩波文庫) だらだら過ごしていた青年がWW1の戦場に送られて人間の尊厳を考察し、万人平等・完全不戦・国家破棄の未来を構想する

「クラルテ」は1919年の刊行で、前年までの第1次大戦でバルビュスは40代でありながら従軍するという経験をもっていたのだった。その体験に裏打ちされた戦場描写は迫真的である。 物語はフランスの地方都市。叔母と同居する内向的な青年が主人公。彼には生や…

アンリ・バルビュス「地獄」(岩波文庫) 公共サービスとインフラが整備されたから、自意識過剰の青年は閉じこもりとピーピングに「実存」を見出せる。

高校1年の夏休み、読書感想文の宿題にバルビュスの「地獄」を選んだ。人生に倦んだ青年がホテルの一室に引きこもり、のぞき穴から隣室の宿泊客を覗き見るという話。単なる旅行客がやってくるだけではなく、金持ちの老人、夫をなくした未亡人など人生の種種の…

ジョルジュ・ローデンバック「死都ブリュージュ」(岩波文庫) 妻を亡くした〈オルフェオ〉は憂鬱な地獄に絡めとられて脱出できない。

沈黙と憂愁にとざされ,教会の鐘の音が悲しみの霧となって降りそそぐ灰色の都ブリュージュ.愛する妻をうしなって悲嘆に沈むユーグ・ヴィアーヌがそこで出会ったのは,亡き妻に瓜二つの女ジャーヌだった.世紀末のほの暗い夢のうちに生きたベルギーの詩人・…

【便利】勉強会やセミナーでは質問はまとめて受けるといいですよという記事

元記事はこちら。 勉強会やセミナーでは質問はまとめて受けるといいですよ | IDEA*IDEA 具体的な方法はこのようなもの。 1.会場の広さによりますが、ホワイトボードやスクリーンなど、みんなが見える「画面」を用意します。 2.質疑応答の時間になったら…

ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫) フランスの最も初期に書かれた探偵小説のひとつ(1869年)。ありふれた強盗殺人に隠されたフランス革命以来の確執。

パリのうらぶれた居酒屋で深夜、銃声が聞こえる。駆けつけた警察官のみたものは、3人の男の死体と銃を持った一人の男。容疑者は自分が行ったことだと説明した。誰もがありふれた強盗殺人事件と考えた。しかし、野心に燃える若い警官はその事件の背後に隠され…

アルテゥール・ランボー「地獄の季節」(岩波文庫) 誤訳意訳が多いらしいが尋常でないテンションを維持する小林秀雄訳は忘れがたい。

奥付とカバーを見て記憶をたどると、高校2年の夏に川越の紀伊国屋書店で購入したのだった。クラブの練習を終えて帰宅する途中で、部活仲間と立ち寄った際に買ったのだろう。白星ひとつの100円、パラフィン紙のカバー。たしかその夏休みに読んだのだったか? …

ジェラール・ド・ネルヴァル「暁の女王と精霊の王の物語」(角川文庫) 古代イスラエルの王ソロモンをめぐるメロドラマ。19世紀初頭の傑作幻想小説。

ネルヴァルについて知っていることは少ない。シェリーやバイロンの同時代人。若いうちより海外雄飛の夢覚めやらず、イタリアからエジプト、トルコその他への地を放浪した。その経験をいくつかのファンタジーにまとめもし、ベルリオーズとの友愛は「ファウスト…

バルザック「セラフィタ」(角川文庫) 生まれながらに霊性を持ち、天に昇ることが可能な超人セラフィタ。心身の不釣り合いを霊によって超越する。

ノルウェーのフィヨルドに囲まれた寒漁村。そこには、スウェーデンボルグが名付け親になったセラフィタという人物=天使がいた。彼=彼女は、生まれながらに霊性を持ち、天に昇ることが可能な超人であった。彼=彼女が17歳の時、牧師の娘ミンナと放浪の哲学探…

荒俣宏/金子務「アインシュタインの天使」(哲学書房) 落下する人間と落ちない天上。イカルスからアインシュタインまでの「落下」をめぐる思想概観。

科学思想史研究者と稀代の好奇心の持ち主が、「落下」をテーマに語りつくそうという壮大なテーマに挑み、見事に成功。この長い対談を読むことによって、西洋の思想史および力学史を通覧できるというのだから、なんてお得なんでしょう。 章立ては以下のとおり…

ニュー・サイエンティスト編集部編「つかぬことをうかがいますが・・・」(ハヤカワ文庫) 民主主義が共同知を作るという幻想があったとき。実際はバカとビリーバーのために知識の質と情報の正確さは保証されなくなる。

くしゃみをすると目をつぶっちゃうのはなぜ? 瞬間接着剤はどうしてチューブの内側にくっついてしまわないの?……お固い科学書ではまずとりあげないけれど、だれもが知りたい日常の“疑問”を科学的に解明するエヴリデイ・サイエンスQ&A集。イラスト:水玉螢…

エドゥアール・ロネ「変な学術研究2」(ハヤカワ文庫) 性の求道者たちの奇妙な死。自分の死を相対化し特権的なことは何もないとわかる。

悪ふざけで釣りたてピチピチの魚を飲み込んだらなんと窒息死!ちょっとしたお楽しみのためにガムテープで口をふさいだらそのままご昇天…誰もが平穏な死を迎えるとは限らない殺伐とした現代で、不可思議な死の真相を暴いてくれる法医学者たちの冷静な仕事ぶり…

津村喬「危ない食品から家族を守る法」(光文社) マクロビオティックと呼ばれるトンデモ食養療法が出たばかりの頃の礼賛本。

1983年初出。現在は絶版中。 第1部は現代(当時)の食に関連する社会の状況や企業活動がいかに問題があるかの指摘。肉に関しては薬漬け、密飼い、検査の不十分なままの食材提供。魚に関しては近海の汚染による漁獲量の低減、遠海におけるトロール漁法による…