odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

エラリー・クイーン INDEX

2016/11/28 エラリー・クイーン「ローマ帽子の謎」(ハヤカワ文庫) 1929年 2016/11/25 エラリー・クイーン「フランス白粉の謎」(ハヤカワ文庫) 1930年 2016/11/24 エラリー・クイーン「オランダ靴の謎」(ハヤカワ文庫) 1931年 2010/12/15 エラリー・ク…

エラリー・クイーン「ローマ帽子の謎」(ハヤカワ文庫) 帽子がないのが問題になるのは、当時の紳士は、タキシードにタイ、シルクハットとシルクのハンカチ、ステッキにエナメル靴という正装でなければならないから。

クイーンのデビュー作で、1929年初出。この年にはブラック・マンデーからの大不況が始まるのだが、この作はそのような気配が微塵もない。なので、舞台のニューヨーク・ローマ劇場には着飾った紳士淑女が大挙して押し寄せている。この時代のトップモードは、…

エラリー・クイーン「フランス白粉の謎」(ハヤカワ文庫) 1920年代に巨大高層建築が可能になったので、ミステリ作家は古い館より巨大百貨店が魅力的に思った。

これから読まれる方への重大な警告。小説の最後の1行に真犯人の名が書かれています。本文より先に解説を読もうとすると、わかってしまう場合がありますよ。 というのは1970年代までの探偵小説読みの常識であったが、いまはどうなのだろう。 さて、ニューヨ…

エラリー・クイーン「オランダ靴の謎」(ハヤカワ文庫) 大型総合病院で起こる殺人事件。クイーンはミステリーが可能な場所を拡大する実験を繰り返している。

大富豪の老婦人が寄付してできたオランダ記念病院。当の老婦人が糖尿病の治療中転倒してけがを負う。ちょっと脱線するが、この手術室には患者の関係者が手術の様子を見るひな壇が設けられている。西洋ルネサンスころに人体解剖をするようになったが、教授た…

エラリー・クイーン「ギリシャ棺の謎」(創元推理文庫) 世界システムの覇権国になる前のアメリカはヨーロッパに憧れ真似をする。

以前感想を書いたのを訳と版を変えて再読。 ギリシャ人の美術商が病気で亡くなり、葬儀を終えると遺言状が紛失していた。式場や屋敷から出て行った不審者はいない。エラリーの推理で墓を掘り、棺を開けるとそこには見知らぬ死体が一緒に入っていた。遺言状は…

エラリー・クイーン「エジプト十字架の謎」(創元推理文庫) 小説と読者の壁を壊す最後2ページこそ最大のトリック

以前感想を書いたのを訳と版を変えて再読。 ウェスト・ヴァージニア(ニューヨーク市から自動車で片道3-5時間くらいか)の片田舎で、偏屈な小学校教師アンドルー・ヴァンの首なし死体が見つから。交通標識に縛り付けられて、Tの形に見える。たまたま検視訊問…

エラリー・クイーン「Xの悲劇」(創元推理文庫) モダンなフェアプレイのパズルと、19世紀ロマンスの冒険譚。この二つが同居していて、それはうまくいっていない。

世界不況の前か後かわからない戦前のニューヨークで、以下の3つの事件が起きる。 第一の事件: 雨のなか、満員の市電で、乗客のひとりが毒殺される。凶器はコルク玉に針をいくつも刺し、先端に高濃度のニコチンを塗ったというもの。被害者を嫌う人物が複数乗…

エラリー・クイーン「Yの悲劇」(角川文庫) 文書が、そこに書かれた文字が人を支配し、主体や動機がなくても行動に移らせる。

1932年作で、レーン4部作の第2作。今度は田村隆一訳の角川文庫版で読んだ。これで5回目の再読になるのかな。 前作「Xの悲劇」では都会を舞台にしたのが、今度は一転して館の一族の事件。 ニューヨーク有数の資産家ハッター家の当主ヨークが失踪し、入水自殺…

エラリー・クイーン「Yの悲劇」(講談社文庫)-1 平井呈一が訳した海外探偵小説3つのうちのひとつ。シェイクスピア俳優の探偵が引退した俳諧か茶道の師匠のよう。

これまでにクイーン「Yの悲劇」は、鮎川信夫訳(創元推理文庫)、大久保康雄訳(新潮文庫)、田村隆一訳(角川文庫旧版)で読んできた。ほかに井上良夫訳、宇野利泰訳、鎌田三平訳、越前敏弥訳と複数の翻訳がある。さて、ここに今は入手難になった平井呈一訳…

エラリー・クイーン「Yの悲劇」(講談社文庫)-2 傑作とされる探偵小説は、冒頭30-50ページの要約だけでも魅力的。

2016/11/17 エラリー・クイーン「Yの悲劇」(講談社文庫)-1 1932年 の続き。 解説はミステリマガジンの編集者だった各務三郎氏。退職後は翻訳やアンソロジー編集などで活躍。出版年1975年からすると編集者をやめてフリーになった直後の執筆みたい。 この解…

エラリー・クイーン「Zの悲劇」(ハヤカワ文庫) 男性作家が女性の一人称で書くとどうも落ち着かない

ニューヨーク近郊の大理石採掘会社は成長していたが、社長は苦難を感じていた。共同経営者の医師には悪いうわさが流れている。闇酒場(当時は禁酒法時代)と娼婦館を経営している女族長を部下にし、弟は上院議員でロビー活動に余念がない。そこに上院議員が…

エラリー・クイーン「ドルリー・レーン最後の事件」(ハヤカワ文庫) この国では最後に出てくる古書の重大性・重要性がピンとこなかった。「薔薇の名前」であの本が現れた時には、とてつもない驚きを感じたのに。

古書がでてくるミステリは、ダニング「死の蔵書」とかロス・キング「謎の蔵書票」(早川書房)とかエーコ「薔薇の名前」(東京創元社)などを読んでいるけど、これはカー「帽子収集狂事件」と同じ時期に書かれた古書ミステリ(範囲を拡張すると、蔵書を数え上…

エラリー・クイーン「シャム双生児の謎」(創元推理文庫) 法の通用しない限界状況ないし孤立した状況で、理性がどこまで世界のミステリ(神秘)に光を当てることができるかが問われている。

中学生のときに「国名」と「悲劇」のシリーズをひととおり読んだとき、もっとも印象に残った作品。再読すると、たしかに謎の規模は小さいし、複雑でもない。探偵のさえもない。そのあたりは、次のような推理を裏付けるかも。すなわち、1932年に「ギリシャ」…

エラリー・クイーン「スペイン岬の秘密」(ハヤカワ文庫) クイーンが読みやすいのは、物語の進行する時間が読書のスピードと一致しているから

大西洋に面した通称スペイン岬。ここに屋敷を構えるゴッドフリー家に奇妙な3組の客が集まっていた。独身のスポーツマンであるクマーが若い娘ローザと夕食前の散歩に出ているとき、クマーが荒くれ者キャプテン・キッドに誘拐される。小屋に閉じ込められたロー…

エラリー・クイーン「日本庭園殺人事件」(角川文庫) パズルに徹した「国名」「悲劇」のシリーズから次のステージに脱皮するためのさまざまなアイデアの詰まった一冊。

子供の時から日本に住んでいたアメリカ人女性作家39歳がいる(ラフカディオ・ハーン死去の年1904年に7歳だったという。もしかしたら漱石や逍遥などと面識があったかな)。「八雲立つ」という小説で一世を風靡。このたび世界的な癌研究家のジョン・マクレア博…

エラリー・クイーン「エラリー・クイーンの冒険」(創元推理文庫) 解決編を読むとすごいと思うのだが、ページを閉じてしまうと何も残らないという困った短編集。

1934年初出のクイーン第一短編集。短編の数がすくないのは、長編のベストセラーを出すというアメリカの流行作家の在り方や、雑誌に連載された短編を単行本にするのをあまりやらないアメリカの出版社の在り方のためか。 アフリカ旅商人の冒険 ・・・ 大学で応…

エラリー・クイーン「エラリー・クイーンの新冒険」(創元推理文庫) 1930年代後半には女性の社会進出が進み、プロスポーツのシステムが完成している。

1940年初出のたぶん第2短編集。1930年代後半の作品が並ぶ。 神の灯 ・・・ 風変わりな老人が山林の隠れ家に住み、全財産を金貨に代えて「黒い家」に隠していた。老人が亡くなり、ロンドンに住んでいた娘が帰国する。彼を迎えたのは、老人の主治医。黒い家を…

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-2 国民国家の統合理念が失われつつあるからドイツ精神に還ろうと「保守的革命」家は語った。

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-1の続き 続けて、作家論や作品論。19世紀末の評論は読むのが困難。なにしろ対象の作品を読んでいない。読むことができない。アルテンベルク、グリルパルツァー、ジャン・パウ…

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-1「チャンドス卿の手紙」 遅れてきたドイツという意識がインテリを呪縛する。

ホーフマンスタールはリヒャルト・シュトラウスの歌劇の台本を書いたことくらいでしか知らない。ドイツ-オーストリアの19世紀末には興味はあるが、おもに音楽に対してであって、文学評論にはむかっていない。そのうえ、最近、詩が読めなくなった。「理系」の…

道浦母都子「無援の抒情」(岩波同時代ライブラリ) 全共闘運動体験者の短歌集。デモや集会に参加する「われら」から生活と労働にいそしむ「われ」へ。

著者の大学生時代は全共闘運動と重なる。東京の大学で学生運動に参加し、デモか別の件かで逮捕された経験があり、紆余曲折があって、大学を離れた。その間、短歌を詠み、1980年にタイトルの歌集を出した。過去には学生運動の短歌を作ったものもいたが(岸上…

田村隆一「詩集」(現代詩文庫)

それは堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)を読んでいた時に不意打ちのように現れた。 「『欠けっぱしだよ……』/と言って、ノートか何からしい紙切れに書きつけたものを見せてくれたことがあった。 空は われわれの時代の漂流物でいっぱいだ…