odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

北原白秋詩集(新潮文庫) フランス象徴詩や印象派の影響を強烈に受けた詩から日本の古い詩を懐古する詩風に転向したとても日本的な創作家。

なんとなく遠ざけていた詩人であったが、高校生のころには「邪宗門」のような人工的技巧的な言葉の彩にあこがれたこともあった。この詩集の半分を読んで、詩人初期の作品を読んでの感想は、この人の発想は先行する書物によって得たイメージから自分のイメー…

レックス・スタウト「毒蛇」(ハヤカワ文庫) ネロ・ウルフ初登場。全体の骨組みは本格探偵小説、見かけはハードボイルド、心理描写は的確。ときにはコメディをみせてくれるし、食と蘭の薀蓄も語られる。

例によって九鬼紫郎「探偵小説百科」を引き合いにしてしまうのだが、このユニークな探偵のことはこの本で知っていた。しかし、そのころは翻訳がなかった(創元推理文庫の乱歩の選ぶ短編傑作集第4巻にあるだけ)。ようやく入手できたのは創刊されたばかりのハ…

レックス・スタウト「腰抜け連盟」(ハヤカワ文庫) 1935年の第2作で、クレーマー警部初登場。た「腰抜け連盟」をひとりひとり殺害していくという連続殺人事件は著名ミステリーの裏返し。

なんてことだ。前回これを読んでから12000日を過ぎているなんて。うれしいことに内容をまったく覚えていなかったので、初読と同じだった。幸いなるかな、我が貧しき記憶力。 1935年の第2作で、クレーマー警部初登場。 心理学者の娘がウルフを訪れる。父に脅…

レックス・スタウト「ラバー・バンド」(ハヤカワ文庫) 19世紀末の愚連隊輪ゴム団の因縁が1936年のニューヨークで爆発。

沿海物産会社で3万ドルの現金が秘書室から消えうせた。副社長は同社の電信係の若い女がやったことだといい、社長はそれをかばう。うちうちで処理したいので社長ペリーはウルフを尋ねた。アーチーに予備調査をさせてから応えようという返事をするところに、そ…

レックス・スタウト「赤い箱」(ハヤカワ文庫) 見つからない箱を探しているといさかいがおこるわ被害者が出るわ。非常に古典的な探偵小説。

1936-37年の第4作。仕事で依頼人ないしその代理人と会うのは自分の事務所のみ、と決めているけれど、蘭の大家たちの連名で紹介状がきてはウルフも腰を上げないわけには行かない。しかし、彼の会ったのはどうにも不愉快なブルジョア諸氏だった。 問題がおきた…

レックス・スタウト「料理人が多すぎる」(ハヤカワ文庫) ウルフは差別されている黒人や中国人にフェアに対するので事件を解決できる。

1938年作。ウルフが自分の事務所の外に出るのは珍しいが、今回はやむをえない理由があった。ヨーロッパの互いに腕を認めるコック15人が親睦会を作り、「世界の15人の名料理長」なる会合を定期的に開いている。そのうちのひとりがウルフのひいきしているレス…

レックス・スタウト「シーザーの埋葬」(光文社文庫) 全米チャンピオン牛が殺されたわけは? いつものファミリーが登場しない異色作にして、傑作。

時代は1938−40年になるのかな。アメリカの経済状況は好転しているらしい。舞台が農村で、しかも都市近郊で豊からしいから、都会の状態は描写されないので、確定できないけど。また日本の戦闘方法を非難することばがあったりする。こんなことからニューディー…

レックス・スタウト「我が屍を乗り越えよ」(ハヤカワポケットミステリ) あのネロ・ウルフに隠し子がいた? 過去を語らない探偵ネロ・ウルフの前半生が垣間見える作品。

あのネロ・ウルフに隠し子がいた? 過去を語らない探偵ネロ・ウルフの前半生が垣間見える作品。 あいかわらず大金を消費し、そのために探偵家業を続けるネロ・ウルフのところにユーゴスラヴィアから渡ってきた移民の娘が依頼に来る。小さなダンススタジオ兼フェ…

レックス・スタウト「黄金の蜘蛛」(ハヤカワポケットミステリ) ひき逃げにあった少年の頼みで捜査を開始したウルフは恐喝団に狙われる。

1953年作。第17作。 珍しくウルフに依頼をしてきたのは12歳の少年。彼は交差点に止まった車の窓ガラスを勝手にふいてチップをもらうという(けなげな)仕事をしているが、車に乗っている女が「助けて、警察を呼んで」と口で訴えていたのだ。機嫌の悪かったウ…

レックス・スタウト「ネロ・ウルフ対FBI」(光文社文庫) 1965年に1930年代のスタイルを崩さないウルフとアーチーはどうも社会との間に大きな溝ができたみたい。

比較的近作(といっても1965年産)。タイトルはThe Doorbell Rang。昼間にドアベルがなるのは好ましいけど、この場合は深夜や明け方だ。そんな時間にたずねてくる友人はいないとなると、来たのはいったい・・・。これが共産主義政権下の東欧およびソ連である…

レックス・スタウト「マクベス夫人症の男」(ハヤカワ文庫) 1973年最後から二番目の長編。企業が巨大すぎて経営者に会えなくなり、ハードボイルド探偵の居場所がなくなる。

最後から二番目の長編。1973年。この時代を描写すると、長髪に長いもみ上げの男、ミニスカートにカールしたショートヘアの女性という具合に風俗が変わっている。しかし、ウルフ一族は変わらない。 ウルフの友人の精神科医が、ある男をウルフに紹介した。偽名…

レックス・スタウト「ネロ・ウルフ最後の事件」(ハヤカワ文庫) 1975年スタウト89歳(!)の作。ウルフもクレーマー警部も作家も疲れてしまった。

1975年スタウト89歳(!)の作。結果として彼の遺作になった。 日本語タイトルからすると「Nelo Wolf's last case」とでもなりそうだが、元タイトルは「famiry affair」。ここでファミリーとされるのは、ネロ・ウルフ本人に住み込みの助手アーチー・グッドウ…

横溝正史「鬼火」のマンガ版

1970年代前半に、真崎守は脚本家・宮田雪と組んで、小説のマンガ化を描いていた。 作品には以下のものがある。 ・炎の軌跡(原作 横溝正史「鬼火」) ・巡礼万華鏡(原作 江戸川乱歩「鏡地獄」) ・初夏のカルテ(原作 山田風太郎「虚像淫楽」) 下の写真は…

神野直彦「地域再生の経済学」(中公新書)

「人間回復の経済学」(岩波新書)とおなじく2002年の初出。 ここでは地域自治体の自立を検討する。その前提になる社会、経済分析は、「人間回復の経済学」と同じなので繰り返さない。 さて地方の問題とその解決提案は以下のようになる。 1.地方自治体の公…

神野直彦「人間回復の経済学」(岩波新書)

2002年の出版。 失われた20年(当時は10年か)を取り戻すために「構造改革」というけれど、新自由主義の改革では競争が激しくなってみんな疲弊し少数の勝者以外は敗者になって格差が拡大するよ、ケインズ主義の社会民主主義は重化学工業の経済成長右肩上がり…

小野善康「景気と国際金融」(岩波新書)

前著「景気と経済政策」は総論と国内の経済にフォーカスしていたので、こちらでは国際経済を取り上げることになる。 第1章 国際金融 ・・・ 国際金融にはモノやサービスを販売・購入するフローと、株券や債券を投資・購入するストックがある。この二つは区…

小野善康「景気と経済政策」(岩波新書)

どうもこの人の考えは自分にはよくわからないところがある。そのことを告白したうえで、もう一回読んでみる。 第1章 景気に対する二つの考え方 ・・・ 経済事象をみるときには、<供給側>と<需要側>のふたつの立場がある。供給側だと、技術革新で需要を…

宇沢弘文「社会的共通資本」(岩波新書)

これまで収奪の対象でしかなかった「自然」や、公共物としてその経済的効果を判断することのなかった道路・公園などの公共財、たんなる公共サービスとしかみていなかった教育・医療・介護などを社会的共通資本として人々の管理において適正な使い方をしてい…

堀内昭義「金融システムの未来」(岩波新書)

序 日本の不良債権問題をどのように考えるか ・・・ 金融システムは、家計などの資金の提供者が蓄積した貯蓄を国・自治体・企業の資金調達者に効率よく移転し、それぞれに適切なリスクとリターンの関係を実現すること。1990年代の金融システムはそれを実現し…

ジョン・グレイ「グローバリズムという妄想」(日本経済新聞社) 「規制緩和」「国際標準」がさかんに言われていた時代の対抗言論。江戸時代はゼロ成長のモデルにはならないよ。

著者は1948年生まれの、イギリスの政治哲学者。専門は、自由主義思想とのこと。オックスフォード大学教授から、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに移ったとのこと。批判先はグローバーリズムだけど、同時にアメリカの啓蒙思想。 1. 「大転換」からグ…

藤原保信「自由主義の再検討」(岩波新書) 1989年の東欧革命で深刻な衝撃を得たが、それでもなおかつ社会主義思想を擁立したい。

1994年に急逝した著者のおそらく最後の本(1993年刊)。 1989年の東欧革命で深刻な衝撃を得て、それでもなおかつ社会主義思想を擁立しとうしている試み。1935年生まれの著者は、おそらく1960年安保闘争を前線で戦い、1970年安保を窓の横に見ながら政治思想史…