odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

H・G・ウェルズ

H・G・ウェルズ「タイム・マシン」(角川文庫) 19世紀幽霊小説のフォーマットで、外国人嫌悪と人類退化の恐怖を語る。

山形浩生訳でウェルズ「タイム・マシン」三度目を読んだ。時間旅行者が友人たちに冒険旅行を語っているという状況なので、旅行者の語りを「です」「ます」の口語口調にした。そのためにとても読みやすい、わかりやすい。過去の昭和の邦訳が報告書の堅苦しい…

黒岩涙香「八十万年後の社会」(扶桑社) ウェルズ「タイムマシン」の思想を無視した冒険活劇小説。戦前日本にSFは定着しない。

黒岩涙香の翻案が復刻された。「八十万年後の社会」は1913年の発表。元になったのは、H・G・ウェルズの「タイム・マシン」。wikiによると本邦初訳。このあと半世紀翻訳はなかったようだから、ウェルズの受容は戦後になってからのようだ。 ja.wikipedia.org …

H・G・ウェルズ「モロー博士の島」(創元推理文庫)-2 南洋で遭難した英国青年は帝国主義とレイシズムで獣と人の共同体を破壊し、自分は獣人以下に退化する。

若いイギリス人エドワード・プレンディックは南洋を航海中、遭難してしまう。ある貨物船に救助されたが、悪臭と奇妙な叫び声が絶えず聞こえ、船員は黒い醜悪な生き物に暴力をふるい懲罰を与えていた。つねに酒を飲んでいる船長に忠告したところ、逆鱗にふれ…

H・G・ウェルズ「宇宙戦争」(ハヤカワ文庫)-2 幽霊ハンターがいない吸血鬼恐怖小説。西洋文明は退化しつつあるので脅威に抵抗できない。

10年ぶりの再読。前回の感想は下記。 odd-hatch.hatenablog.jp この前は「総力戦」の様相を読み取ったけど、今回は植民地国家による侵略戦争、民族浄化戦争とみた。なにしろ、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵略、2024年に始まったイスラエルによる…

H・G・ウェルズ「眠れる者の目覚め」(ネット版) ウェルズは階級格差を解消できない資本主義に悲観的。黒人差別を容認しているので、未来を構想できない。

「眠れる者の目覚め(The Sleeper Awakes)」は書肆がめんどうくさい。ウェルズは別の大作(『恋愛とルイシャム氏』Love and Mr. Lewisham (1900))を執筆中に『睡眠者が目覚めるとき』When The Sleeper Wakes (1899)も同時進行していた。ウェルズは前の方に…

黒岩涙香「今より三百年後の社会」(扶桑社) ウェルズ「眠れる人の目覚めるとき」の翻案。原作の悲観主義を隠して、皇帝の仁政による独裁を肯定する。

元はH・G・ウェルズの「眠れる人の目覚めるとき(When the Sleeper Wakes)」1899年の翻案。翻案の初出は1912年。解説によると、ストーリーの後半をはしょったらしい。ウェルズの小説をほぼ網羅したものではなさそうなので、涙香のアイデアとして批評するこ…

H・G・ウェルズ「タイム・マシン」(角川文庫) 家族・労働・国家を止揚した社会は必然的に退廃する。ウェルズの社会主義批判とペシミズムが込められたSF。

ウェルズの中編と短編。どれもSFのサブジャンルの始祖であって、SFでやれることの多くはウェルズがやってしまったという感じがする。そのうえ、人類や地球の未来に対する無力感となにもすることがないという諦めが漂う。読後、余韻は深いが、気分はすっきり…

H・G・ウェルズ「タイム・マシン」(旺文社文庫) 20世紀SFの基本的なアイデアを網羅した短編集。人も社会も解放されないという憂鬱な未来観。

旺文社文庫版。角川文庫の収録作品と一部重複。すでになくなってしまった旺文社文庫は訳者などによる解説が充実していた。当時の若手の文学研究者に多くのページを渡して、長い解説を書かせていたとみえる。そこには研究者らしい文献調査や社会学的な知識が…

H・G・ウェルズ「透明人間」(青空文庫) 肌の色がない人は肌の色が濃い人と同じように差別され迫害を受ける。

今回読んだのは海野十三訳の青空文庫版。たぶん戦前訳だと思う(海野は敗戦後断筆)。ジュブナイル向けらしいので、どの程度原作に忠実なのかは不明。戦前訳では都合にあわせてストーリーを変えたりするのはよくあることなので。 イギリスの田舎にあるアイピ…

H・G・ウェルズ「宇宙戦争」(ハヤカワ文庫) パンデミックと総力戦において、力を持たない市民・庶民は暴力に対して徹底的に無力だという悲観主義SF。

19世紀末の火星大接近のあった夜、火星の表面で爆発が観測された。それから数日後、ロンドン南西部の郊外に円筒形のロケットが着弾した。その中からおぞましい三脚台に円盤のついたような歩行機械が現れ、高熱ビームと毒ガスで人類を襲撃する。どうやら、寒…

H・G・ウェルズ「モロー博士の島」(創元推理文庫) 進みすぎた科学は人間を先祖帰りさせ、野蛮化させる。

持っている本には、1995年ころ公開の映画「DNA」のカバーがついていた。1950年代の古い映画の存在は知っていたのだが (間違っていた、映画化されたのは *映画『獣人島』(1933年/アール・C・ケントン監督) *映画『ドクター・モローの島』(1977…