odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-2 私たちの歴史は精神の逸脱の歴史。存在が存在たりえなくなった無限の果ての地点で、人間を超越する。

2021/07/01 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-1 1948年の続き 黒川建吉は図書館の屋根裏部屋に寄宿してからしばらくは講義に出ていたが、それをやめると誰にも会わない。一時期は社会運動の連中が会合場所にしていたが、それもな…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-1 第一日夜。「魔窟」に至る霧の立ち込める街の道を「質問の悪魔」たる首猛夫と「睨みの悪魔」たる津田康造が歩く。

2021/06/29 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-2 1948年の続き 第四章 霧のなかで(第一日 夜) 黒川と別れた与志は、橋を渡って先に行く。工場地帯が近くにあるその街は「魔窟」と比喩される。労働者を見込んだ歓楽街があるわけ…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-2 他人に無関心で、自分の肉体にも興味をもたないと、未出現者や「存在の苦悩、生の悲哀」をもたらした最初の最初の存在の問いに答えられない。

2021/06/28 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-1 1948年の続き 与志が橋を渡って先にやってきたのは、尾木恒子にあうため。21-22歳くらいの彼女は一人暮らしの保母。夕刻にならないと帰宅しないと聞いていたので、遅い時間にや…

埴谷雄高「文学論集」(講談社)-1 近代の小説は個人の自我と、神・自由・宇宙などの観念という端を問題にしていて、その間にある集団や組織を描いたり、問題を考えたりするのは苦手。

1909年生まれの埴谷雄高が書いた文章のうち、文学に関係するものを集める。 再読すると、自分は作家のいう「非同一な志向を担った読者」であるらしい。なので、サマリーは作れない。かわりに、いくつかの抜き書きと自分の感想をおいておくことにする。 序 『…

埴谷雄高「文学論集」(講談社)-2 文学か政治かという問いがかけられるのは、文学に過剰な役割を期待しているのではないか、という感想。

2021/06/24 埴谷雄高「文学論集」(講談社)-1 1973年の続き 俺は大学で生物学を専攻し、そのあと業務・事務の仕事を続けていたので、論はなにごとかの応用や転用が可能であることを望ましく思っている。なので、ことばや文章は一つの意味をあらわしていて、…

埴谷雄高「文学論集」(講談社)-3 作家の存在論とそのイメージ化。エッセイでのっぺらぼうがでてきても多分になんのこっちゃなんだが、「死霊」というフィクションでは強烈なリアリティを持つ。

2021/06/22 埴谷雄高「文学論集」(講談社)-2 1973年の続き 第3部は作家の存在論とそのイメージ化。エッセイでのっぺらぼうがでてきても多分になんのこっちゃなんだが、「死霊」というフィクションでは強烈なリアリティを持つ。それもまた架空や夢で存在を…

埴谷雄高「政治論集」(講談社)-1 『唯一者とその所有』でアナキズムに、『国家と革命』で国家の消滅に望みを託した作家による反スターリニズムと反官僚制の文章。

埴谷の青年期の経歴は「青年期に思想家マックス・シュティルナーの主著『唯一者とその所有』の影響を受け、個人主義的アナキズムに強いシンパシーを抱きつつ、ウラジーミル・レーニンの著作『国家と革命』に述べられた国家の消滅に一縷の望みを託し、マルク…

埴谷雄高「政治論集」(講談社)-2 埴谷やレーニンの思想にはこの〈私〉と国家(という観念)だけがあって、その間の組織や集団や大衆、あるいは隣人、外国人などが入ってこない。

2021/06/18 埴谷雄高「政治論集」(講談社)-1 1973年の続き 発行された1973年では共産主義や革命運動の党の問題は重要で深刻だったが、50年もたつと歴史的文書になってしまう。早い時期からスターリニズム批判をしていたということで、この論集は珍重された…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-1 第一日の真夜中から第二日の明け方。「死者の電話箱」で《存在からの最後の挨拶》を聞く。

2021/06/25 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-2 1948年 第五章が発表されたのは、第四章が書かれてから28年後の1975年。なんという長い中断。その間、あきらめなかった作者の意志。 「第五章 夢魔の世界」(第一日の真夜中から…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-2 革命や党を人権よりも優先する思考や行動規範が起こしたスパイ査問事件。

2021/06/15 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-1「死者の電話箱」 1975年の続き 目を開けた高志に与志はロケットを見せる。「あのひとはなぜ死んだか」の問いに高志は「俺が子供の存在を容認しなかったから」「自由意思でできる…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-3 窮極の秘密を打ち明ける夢魔

2021/06/14 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-2 スパイ査問事件 1975年の続き 「あの人(尾木恒子の姉)」の死んだいきさつを聞く与志に、高志は「窮極の秘密を打ち明ける夢魔」の話をする。巧妙に回避したようだが、高志の作…

埴谷雄高「意識・革命・宇宙」(河出書房) 作家本人による「死霊」解説。でも構想はこの後大きく変わった。

1975年に「死霊」第5章が発表されたことを記念して、「文藝」誌上で行われた対談を収録したもの。その年に25年ぶりに続きが発表されたのだった。主題は革命運動の秘密結社が行ったリンチ殺人。当時は内ゲバによる殺人が頻繁にあって、この主題はとても重かっ…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-1 第二日の午前。一人で始まった舞台に、次第に人が集まり、狭いボートや印刷工場が満員になったところで幕になる喜劇の構成。

2021/06/11 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-3 窮極の秘密を打ち明ける夢魔 1975年の続き 「第六章 《愁いの王》」(第二日の午前) 前日の夕方から立ち込めた霧は晴れて、日差しが出てきた。物語の中にいる人たちは、それぞ…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-2 「平らは丸い/丸いは平ら」という相対立する観念が同義になるという逆説。でもこれは難しくない。

2021/06/08 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-1 1981年の続き 矢場は首猛夫に「何をたくらんでいる」と尋ねる。首は「全剿滅(そうめつ)」と答える。すでに津田に「宣戦布告」といっている以上、そのたくらみが暗い情念に基…

大岡昇平/埴谷雄高「二つの同時代史」(岩波書店) 1909年生まれの二人が70代前半に対談する。拘留・収容所経験を共通する二人は戦後文学をを作ってきたという自負があった。

1909年生まれの二人が1982-83年に雑誌「世界」で連載した座談を収録。作風から発表場所からずっと異なるところにいたので、接点はないものと自分は思い込んでいた。でも、同じ年に生まれたことと、戦前の東京で青春を過ごしていたことあたりが共通点になって…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-1 第2日午後。黙狂が「この世界の何ものに向っても決していってはならぬことを」聞かれぬように語る。

2021/06/07 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-2 1981年の続き 第七章 《最後の審判》(第2日午後) ずぶぬれになった一行(第六章)は、小橋のうえで身づくろい。津田夫人はだまってばかりの与志を詰問(「一人勝手でひとり…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-2 「亡霊宇宙」で食われたものが食ったものを弾劾し、それを笑う最初の最初の存在が現れ、エスカレーションが続く。

2021/06/03 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-1 1984年の続き 食われたものが食ったものを弾劾する。それは自己確認の前の弾劾。でも、食われたものもそのまえに誰かを食っているので、弾劾の対象になる。弾劾は相殺されて、…