odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

日本史

遠山美都男「天皇誕生」(中公新書)-1 日本書紀を中国の史書や考古学知識などを参照して読み直すと、古代日本の権力史がわかる。

列島の古代史は文献資料が少ないうえ、以前は考古学資料も少なかったので、いろいろなことが言われてきた。いわく騎馬民族が半島から来て覇権を握ったとか、卑弥呼のいた邪馬台国が大和朝廷であるとか、朝廷の歴史は紀元前600年ころまで遡れるとか、天皇は万…

遠山美都男「天皇誕生」(中公新書)-2 日本書紀の記述にあるふたつのまとまりは王朝が断絶して別の王朝に代わったことを示している。

2024/08/12 遠山美都男「天皇誕生」(中公新書)-1 日本書紀を中国の史書や考古学知識などを参照して読み直すと、古代日本の権力史がわかる。 2001年の続き 日本書紀の記述にはふたつのまとまりがある。神武から神功皇后までは律令制国家と天皇制がいかに形…

神野志隆光「古事記と日本書紀」(講談社現代新書) 明治政府の天皇崇拝、男性優位社会、朝鮮の属国化などの皇国イデオロギーは記紀神話にまでさかのぼる。

古事記(712年)と日本書紀(720年)はどのように読まれてきたか。これらの神話は、律令体制国家を統治する天皇の正統性を明らかにするものだ。中国の陰陽説や天下の概念を採用しながら、「日本(朝廷自身が命名)」が大国であり朝鮮を属国とする帝国的世界…

三浦佑之「古事記を読みなおす」(ちくま新書)-1 古事記と日本書紀を一緒にする「記紀神話」は誤り。「古事記」にしかない出雲神話は重要。

「記紀神話」と言われるようになって久しいが、古事記と日本書紀では記述が異なる。ヤマト朝廷の正史である日本書紀が味気ない記述に終始しているのに対し、古事記に登場する神々の方が深みがある。そこで次のような意図で、古事記を読みなおす。「記」では…

三浦佑之「古事記を読みなおす」(ちくま新書)-2 著者は政治的には読まないのだが、記述のはしばしからヤマトの政治が見えてくる。

2024/08/06 三浦佑之「古事記を読みなおす」(ちくま新書)-1 古事記と日本書紀を一緒にする「記紀神話」は誤り。「古事記」にしかない出雲神話は重要。 2010年の続き 政治的には読まないという方針をとっているようなので、支配や植民地などの権力のあり方…

千田稔「伊勢神宮 東アジアのアマテラス」(中公新書) 明治期に国家神道の中心施設にさせられた古い神社

伊勢神宮は1300年にわたり日本神道の中心点であり続けた。しかしいつどのようにしてそのような位置付けになったのかはよくわからない。神道が言葉を重視する宗教ではないので、経典・教典を作る意思がなく、記録を残そうとしなかったから。そこで著者は、ア…

藤木久志「刀狩り」(岩波新書)-1 秀吉の刀狩りは民間の武装解除ではなく、武士の特権の押し付けと身分制の強化。

2023年にNHK高校講座日本史(NHKラジオ第二)を聞いていたら、「秀吉の刀狩りは農民の武装解除のために行われたのではなく、身分制の固定のために行われた」と解説していたので、あわてて本書を手に取る。これまでは農民は武装しておらず戦闘はできないと思…

藤木久志「刀狩り」(岩波新書)-2 秀吉のあと明治維新と占領軍による2回の刀狩りがあった。

2024/08/01 藤木久志「刀狩り」(岩波新書)-1 秀吉の刀狩りは民間の武装解除ではなく、武士の特権の押し付けと身分制の強化。 2005年の続き 秀吉の刀狩りは武装解除ではなかったし、農民町民から武器がなくなることはなかった。帯刀は成人男性の名誉であり…

菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-1 日本人は神のことを考えてきたが、外来思想の言葉に頼らないと言語化できなかった。

神道は体系化されていないので、西洋の学問を勉強している者からすると、荒唐無稽で幼稚だと蔑まれてきた。そうかもしれないけど(は評者の私見)、神道をみることで日本人が神をどのように考えてきたか、その考えを海外由来の思想とどのように突き合わせて…

菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-2 過去の人が一所懸命考えた神道の原理や説明は忘れられて、日常の所作と道徳だけが日本人に定着している

2024/07/29 菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-1 日本人は神のことを考えてきたが、外来思想の言葉に頼らないと言語化できなかった。 2001年の続き 後半は近世と近代の神道。儒教や国学の影響や反発において神道の流派が生まれる。 神儒一致の神道 …

菅野覚明「武士道の逆襲」(講談社現代新書)-1 人を切ってトラブル処理する特殊な少数集団の武士道は日本庶民の徳目とは無関係。

「武士」という階級は誤解されているので、以下の最新研究で補完しておこう。この特殊な職業・階級は最大時でも人口の数パーセントでしかない。大雑把に言えば、士芸を生業とするものは奈良時代からいた。平安中期の9~10世紀ころに武芸の専門家として生まれ…

菅野覚明「武士道の逆襲」(講談社現代新書)-2 元武士らで構成される軍隊があまりにふがいないので、古式武士道に似せた全く別の明治武士道を明治政府は作り上げ、国民に強要した。

2024/07/25 菅野覚明「武士道の逆襲」(講談社現代新書)-1 人を切ってトラブル処理する特殊な少数集団の武士道は日本庶民の徳目とは無関係。 2004年の続き テキストがないために、同時期の説話や物語、歴史のエピソードから中世期の武士道を抽出する。それ…

辻達也「江戸時代を考える」(中公新書) 日本人の知的能力は向上したが、上に弱く下に厳しい従属心が定着した。

列島の国家は連続しているのではなく、古代国家の衰滅後、空白期間(だいたい14~15世紀)があり、権力は断絶している。16世紀後半に江戸幕府ができて、全土に徹底する中央集権国家ができた。朝廷の公の支配があったとされるが、この空白期間以後は精神的で…

坂野潤治/大野健一「明治維新」(講談社現代新書) 維新は4つの指導グループが連合・反目をしあいながら、「富国」「強兵」「憲法」「議会」を実現していった。

明治維新をイギリスやフランス、アメリカなどの欧米革命と比較しない。ではなく20世紀の開発独裁体制と比較する。そうすると、明治維新は後進国が先進国にキャッチアップできたという極めてまれな「革命」といえる。開発独裁では、政変他は過激で、前政権の…

安丸良夫「神々の明治維新」(岩波新書)-1 新政府の扇動で国学者と神道家と民衆が仏寺だけでなく民俗信仰の対象を破壊した。

教科書ではほとんど触れられない明治政府の神仏分離と廃仏毀釈は巨大な転換であった。政権がなくなり他国との交易が始まるときに不安と弱さを払しょくする代償なのである。自分の関心では、19世紀前半の古式神道の流行からの帰結であり、のちの国家神道や国…

安丸良夫「神々の明治維新」(岩波新書)-2 新政府は民間信仰と民俗習俗を抑圧し、神道行事を人びとに押し付けた。廃仏毀釈の先には教育勅語と靖国神社がある。

2024/07/18 安丸良夫「神々の明治維新」(岩波新書)-1 新政府の扇動で国学者と神道家と民衆が仏寺だけでなく民俗信仰の対象を破壊した。 1979年の続き 辻達也「江戸時代を考える」(中公新書)によると、16世紀後半から列島に住み人たちの識字率が上がり、…

毛利敏彦「大久保利通」(中公新書) 列島に住む人々が江戸時代の新思想である国体思想にかぶれて尊皇攘夷の宗教国家を作るまで。

19世紀の日本史を読書するとき不満になるのは、尊皇攘夷論がどこから出てくるのか説明がないことだ。本書にもない。尊皇と倒幕という革命思想は、主従関係を求める儒教や武士道からはでてこない。 俺のつたない読書から説明するとこうだ。17世紀後半に列島で…

石井正己「NHK こころをよむ 文豪たちが書いた関東大震災」(NHK出版 日本放送協会) 文豪たちの生き生きとした文章で100年以上たった災害を自分事としてとらえる。

1923年9月1日に発生した関東大震災。東京や横浜、鎌倉などの被災地には文士、芸術家が多数すみ、遠方から見舞いに来た者がいて、当時は未成年であったものがいた。彼らの文章は全集を参照しないことにはなかなかめにつかない。著者は長年、関東大震災…

高橋正衛「2.26事件」(中公新書) 天皇親政を夢見た青年将校が起こした浅はかな政府要人暗殺テロ。事件後の軍部独裁国家は彼らの計画を採用して戦争にまい進する。

1965年に出版された本書の冒頭では、この事件に参加した兵士たちが集まって死刑になったものを供養する催しの様子が書かれる。なるほど、1936年におきた政府要人暗殺事件に関与した兵士は20歳そこそこだとすると、1965年には50代半ばを超えたくらいか。…

白井聡「国体論」(集英社新書) 戦後の対米従属構造は対象を変えた国体。先行研究をよせあつめた歴史法則主義。

本書(2018年初出)は前著「永続敗戦論」の続きであり、補完であるらしい。「永続敗戦論」は未読だが、本書第1章から推測すると以下の通り。大日本帝国が敗戦を公布したので、アメリカは占領して戦争を起こさないように体制を変えた。そのやり方は天皇を統合…

趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-1 朝鮮に視点を定め、日本が「異人」であるかのように朝鮮と日本の近代史を見直す。

これまで全く無知だったので、朝鮮の近代史と日本の植民地政策を勉強するために、以下を読んできた。2017/05/25 海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 1995年2017/05/24 高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書) 2002年 また同じ時代の日本の近代史はさまざま…

趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-2 日本史を外国の目から見るとき、列島の住民の「常識」(例えば司馬遼太郎「坂の上の雲」)が覆される。

2024/05/14 趙景達「近代朝鮮と日本」(岩波新書)-1 朝鮮に視点を定め、日本が「異人」であるかのように朝鮮と日本の近代史を見直す。 2012年の続き 日本史を外国の目から見るとき、列島の住民の「常識」が覆される。ことにこの時代の朝鮮半島のできごとを…

杉原達「中国人強制連行」(岩波新書) 大日本帝国は占領地の中国人を拉致して日本その他で危険な労働を強制し多数を殺した。

1946年に外務省が調査したら、約4万人の中国人が戦争末期の1944~45年に強制連行された。連行先では強制労働が行われ、24時間の監視、生存ラインぎりぎりの食糧、悪質な労働環境と住環境、医療なし、監視員他による暴行や拷問の頻発などにより、多数の中国…

安田浩一「「右翼」の戦後史」(講談社現代新書) 右翼の歴史は保守政党による支援の歴史。大日本帝国憲法・軍人勅諭・教育勅語が右翼の聖典。

ヘイト団体や差別団体の活動を監視していると、どうしても右翼団体が視野に入ってくる。ときに差別団体(在特会とか日本第一党とか)よりも悪質なヘイトスピーチを,ヘイトスピーチ解消法施行後にも行っている。なぜ右翼は外国人排斥を主張するのか、なぜ右翼…

渡辺延志「関東大震災「虐殺否定」の真相 ハーバード大学教授の論拠を検証する」(ちくま新書) ラムザイヤー論文を検証。執筆者も、当時の政府も軍も警察もフェイクニュースを流していた。

2019年にハーバード大学のラムザイヤー教授(専門は法学らしい)が関東大震災の朝鮮人虐殺を否定する論文を発表した。第1章に論文のサマリーが載っているが、内容は日本のネトウヨがいっている否定論と同じだ。関東大震災の朝鮮人虐殺のことを「朝鮮人…

斎藤洋一/大石慎三郎「身分差別社会の真実」(講談社現代新書) 江戸時代の身分制は、士農工商ではなく、公家・武士-平民(農工商が含まれる)-被差別者(えた・ひにん)の三層構造。

歴史学者・大石慎三郎監修による「新書・江戸時代」の一冊。江戸時代の身分制は時代劇などで牧歌的に描かれているが、そうではない。たとえば「士農工商」が江戸時代の身分制の序列とされているが、この言葉ができたのは明治時代で、昭和の義務教育で定着し…

原田伴彦「被差別部落の歴史」(朝日選書) 移民・外国人がほとんど存在しない江戸時代に作られた差別。明治以降、より悪質な差別が制度化された。

1975年に出版された被差別部落の歴史を概説したもの。以下の本を補完することを目的として読む。組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書)角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫) 1999年 これまで歴史学があまり取り上げてこなかったし、文書…

組坂繁之/高山文彦「対論 部落問題」(平凡社新書) 明治維新後の水平社運動や敗戦後の部落解放運動は行政を変える運動。

部落差別はまず角岡伸彦「被差別部落の青春」(講談社文庫)を取り掛かりにした。つぎに、本書で歴史を学ぶ。組坂繁之は部落解放同盟の重鎮、高山文彦は作家で水平社運動を担った松本治一郎の評伝「水平記」を書いた。高山が質問し組坂が答える形で対論とな…

竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった

「最近の大学生は本を読まない」「大学生の学力が落ちている」「大学がレジャーランド化している」という言説はよく聞こえてくる。それは、過去の大学生は本をたくさん読んで、勉強をしていて、遊ぶ者は少数だったということを前提にしている。この前提は正…

竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-2 戦後日本の教養主義:教養主義が終りサブカルが始まる

2023/08/07 竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった 2003年の続き 本書の記述にそって、ある教養主義者を仮構してみよう。 彼は1900年から1910年の間に、田舎の中産階層に生まれた。…