odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

米本昌平「バイオポリティクス」(中公新書)-1 人体改変や人体の資源化の技術をどう制御するかを検討する新しい考え方。

1990年代に完了したヒトゲノム解析、ES細胞などによって、人体の交配や臓器提供などが実現できる見通しができた。しかしこれは人間の人体観・死生観に大きな影響を及ぼす。一方で、企業は商用化に向けて研究を加速し、南北や国内の経済格差はマイノリティや…

米本昌平「バイオポリティクス」(中公新書)-2 人体のパーツが商品化されて、グローバルな経済圏を作っていることと経済格差を原因とする人体棄損が起きている。

2021/10/29 米本昌平「バイオポリティクス」(中公新書)-1 2006年の続き 後半はより政治に近い問題になる。人体のパーツが商品化されて(輸血や角膜移植などで古くから使われていた)、グローバルな経済圏を作っていることと経済格差を原因とする人体棄損が…

内田亮子「生命をつなぐ進化のふしぎ」(ちくま新書) 観察を続けても人類と霊長類の差異は明らかにならないし、行動の起源を確定することもできない。

生物人類学、進化生物学、行動進化学など1990年以降に生まれた科学の新分野の紹介。かつてはおおざっぱに動物行動学とでもされていた研究を細分化すると同時に、「動物行動学」が内包していた差別や蔑視などをのぞこうとする(どこかで読んだが、「動物行動…

坂巻哲也「隣のボノボ」(京都大学学術出版会) コンゴのジャングルで20年類人猿を観察していると、共感を感じるとも疎外されているとも感じる。

以前ピグミーチンパンジーと呼ばれていた類人猿は今ボノボと呼ばれる。体格はチンパンジーに似ているが、詳細にみると違いがあるし、行動がとても異なる。この類人猿がほとんど知られていないのは、生息域はコンゴ(旧ザイール)の一部に限られ、秘境にある…

アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」(新潮文庫) 資本主義社会の英雄は聖杯探索に失敗し、村は衰退するしかない。

カリブ海の島にある漁村。WW2のころは活気があったが、大資本の沿岸漁業がでるようになって、小舟による漁はさびれるばかり。若者は島を出ていき、中年以上の漁師しか残っていない。そこにいる老人は84日の不漁に出会っていた。あまりの運のなさに、手伝いの…

ロバート・マキャモン「ナイトボート」(角川文庫) ゾンビ映画と「Uボート」を合体した長編第3作。習作だがここから飛躍した。

マキャモンの出版第3作長編(書かれたのは2番目)。 カリブ海のコキーナ島。戦時中は造船と修理で儲かったものだが、今(1970年代後半)は仕事がない。観光客も来ない。心に傷を負ったアメリカ人がつぶれそうなホテルを居抜きで買って経営しているが、心は晴…

ウィリアム・アイリッシュ「夜は千の目を持つ」(創元推理文庫) タイトルは抜群なんだが、オカルトはサスペンスと相性が悪い。

大富豪で資産家に最近雇われたメイドがおかしなことを口にした。「主人が飛行機に乗るのをやめるように」。実際に予約していた飛行機が墜落した(当時はさまざまな技術不足などで、墜落事故が頻発していた)。しかし、搭乗直前にとどいた電報で思いとどまっ…

パーシヴァル・ワイルド「探偵術教えます」(ちくま文庫)

ワイルドが1940年代に書いた連作短編集。「エラリー・クイーン」の片割れダネイの寄与もあったという(エラリー・クイーン「クイーン談話室」(国書刊行会) で言及されていたと解説にあったが、全然記憶にないや)。単行本になったのは1947年。 田舎町のお…

パーシヴァル・ワイルド「検死審問ふたたび」(創元推理文庫)

おお、面白かった。さて、感想を書こうかとおもって、前作のエントリーをみてみたら、すでに言いたいことが書いてある。これは困った。パーシヴァル・ワイルド「検死審問」(創元推理文庫) コネティカットの田舎町トーントンのさらに町はずれにある古い家を…

パトリック・クェンティン「女郎蜘蛛」(創元推理文庫)

ニューヨークの演劇プロデューサーはあるパーティで作家志望の若い娘に引かれる。数回断られた後、デートに成功すると、彼女の境遇が惨めだったので、妻が旅行で不在になる間自宅を仕事場に使うように進めた。仕事は順調に進んでいるようだった。妻の帰国を…

シオドー・マシスン「名探偵群像」(創元推理文庫) 高校の歴史教師が書いたミステリー。ワトソン役を使えない困難をどう克服するか。

高校の歴史教師をしていた男が探偵小説のアイデアをEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン)に送ったら、ぜひ買いたいと返事があった。一つ発表したら幸い好評だったので、10編を書いた。それをまとめた短編集。 歴史上の人物が探偵になるという…

バーバラ・ニーリイ「怯える屋敷」(ハヤカワ文庫) 家政婦は家族の探偵になれるが、雇用主の家族に観察されるので、公正な観察者になれない。まして黒人女性であれば差別を受ける。

家政婦は探偵なのだという妄想を小川洋子「博士の愛した数式」、筒井康隆「家族八景」で得た。その系譜に載るような小説を見つけた。バーバラ・ニーリイ「怯える屋敷」(ハヤカワ文庫)1992年。そして、自分の妄想はそのままでは通用しないということに気づ…

ハリイ・ケメルマン「金曜日ラビは寝坊した」(ハヤカワ文庫) ユダヤ社会をケーススタディにした正義や倫理の問題のほうが興味深い

金曜日の朝、ラビは寝坊した。起きたときには、ラビの車のそばで絞殺された女性の死体が発見されていた。彼女の持ち物であるハンドバックがラビの車の中に見つかった(ということは、ラビに限らずボストンからほど近い小さな町の住民は車に鍵をかける習慣が…

ジェイムズ・ヤッフェ「ママは何でも知っている」(ハヤカワ文庫) 社会の知的エリートよりも家庭にいる良妻賢母が優れているという戦後アメリカ家庭のモデル化。

安楽椅子探偵の古典。刑事になったジェイムズが週末にママの家に行く。ママの手料理を賞味するのが目的だが、ママは息子の仕事を聞きたがる。話を聞いていくつか質問すると、ママは難事件を見事に解決する。15年間にわずか8編がかかれただけだが、80年代に…