odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ウラジミール・ジャンケレヴィッチ「ドビュッシー」(青土社) ドビュッシーに関するほとんどのアイデアがここに集約されているような小さいけれども浩瀚な書物。

ロシア生まれの両親をもつフランスの哲学者ジャンケレヴィッチ。主著はたぶん巨大な「死」(みすず書房)かな。一度所有したけど、どうしても読めそうになかったので、手放した。 さてこちらは1968年初出のドビュッシー論。これは小さいけれども浩瀚な書物で…

クロード・ドビュッシー「ドビュッシー音楽論集」(岩波文庫) ワグネリアンを脱したドビュッシーからみると、19世紀の音楽は間違いの歴史。

ドビュッシーは1862年生まれ。最初の成功は1894年の「牧神の午後への前奏曲」。20世紀に入ってから重要作をたくさん書いて、1918年に死去。この本は1901-1905年ころに雑誌や新聞に掲載した短文をまとめ、作曲者自身が編集して出版したもの。ほとんどが時評。…

メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫) 不毛な土地に押し込められたメリザンドは気軽に指輪を外し、他人との固定された関係を結ばない。

狩の途中、道に迷った王ゴローは泉のそばで泣いている美少女をみつけ、城に連れて帰る。ゴローは連れ帰ったメリザンドと名乗る少女と結婚し、古くから伝わる指輪を与える。ゴローには先に妻を亡くしていてイニョルドという子供がひとり。年の離れた弟ペレア…

遠山一行「ショパン」(講談社学術文庫) ロマン派の芸術家は創作と批評を同時に行い、そこに葛藤があり寡作になった。

ショパンはフランス人を父にしてポーランドに1810年に生まれた(異説あり)。1830年、ワルシャワ蜂起にあわせて亡命し、以後パリで生活し、作品を発表した。この評伝では誕生から亡命、パリ到着までを描く。そのあとのサロンでの生活やジョルジュ・サンドと…

アルフレッド・コルトオ「ショパン」(新潮文庫) 19世紀のディレッタントの仰々しい文章を若き堀田善衛が苦心惨憺して下訳をつくった。

アルフレッド・ドニ・コルトー(1877年9月26日〜1962年6月15日)の書いたショパンの論集。7つの小論がまとめられていて、それぞれがいつ書かれたものかは不明。コルトーは、ショパンの録音(前奏曲と練習曲の全曲が有名)を残している。戦前のショパン弾きの…

磯山雅「J.S.バッハ」(講談社現代新書) 実証主義と古楽器演奏普及で変わりつつあったバッハ像。著者が言う「音楽の精神を受容する」は意味不明。

J・S・バッハをどうみるかについて、大きな変化が1960年代から起きたらしい。 ひとつは1962年の音楽学者フリードリヒ・ブルーメの講演で、それまでバッハをキリスト教精神史に位置付けるように考えていたのを実証的研究に変えて「人間バッハ」を見るようにし…

辻荘一「J.S.バッハ」(岩波新書) 近代という物差しで量れば、バッハの時代、ドイツはフランスに100年遅れ、イギリスには300年遅れていた。

1895年生まれの著者は、この国のバッハ研究の第一世代。この新書も、もとは1957年にでたものを1960年以降のバッハ研究の進展に応じて書き加えたものを1983年に出版。そのとき、著者87歳! この年齢で書きなおしをする気力、体力を持っておられるとは。 さて、…

フォルケル「バッハの生涯と芸術」(岩波文庫) ナショナリズム勃興期に、最大の天分と不退転の研究による天才「音楽の父」が再発見された。

ヨハン・セバスチャンが生まれたのは1685年。1750年に死去。作者のフォルケルは1749年に生まれた。なので、直接会ったことはないのだが、ヨハンの息子のヴィルヘルム・フリーデマンやカール・フィリップ・エマヌエルらと親交があった。フォルケルからみると…

伊坂幸太郎「SOSの猿」(中公文庫) エアコン販売員の話をAとし、品質管理社員の話をBとしたとき、AとBは別々なのか、どっちがどっちかの入れ子なのか。

二つの物語が交互にかたられる。ひとつは、エアコン販売員でエクソシストの資格を持つ中年男性が、引きこもりの高校生をカウンセリングする話。ローマに絵の勉強にいったが、そちらはものにならず、代わりにエクソシストの資格を取ったという変わり種。彼は…

伊坂幸太郎「あるキング」(徳間文庫) 最下位であることを決められた弱小球団に現れた無口の神話的英雄を凡人が語り継ぐ。

昔、千葉県松戸市にパイレーツという職業野球団があって、これがめっぽう弱くてのう。9回の試合がいつ終わるか見当もつかなかったもんじゃ。そこに富士一平なる優秀、生真面目なピッチャーが入団することになって、すこしはわしらも期待したものじゃ。 とい…

高木彬光「刺青殺人事件」(角川文庫) 戦後すぐに出た和製ディクスン・カーはセンセーショナルだったが、改稿版は長すぎる。

明治政府の刺青禁止令によって、負のスティグマになったものの職人気質の江戸っ子と愛好家と学者によって、その命脈は保たれていた。ここに彫安(ほりやす)なる昭和の名人が息子娘の3人に、児雷也(蛙)・綱手姫(蛞蝓)・大蛇丸(蛇)の柄を彫ったのが奇縁…

夏樹静子「ガラスの絆」(角川文庫) 1970年代半ばには人工授精のドナー(精子提供者)の秘密は守られなかったの?

ずっと昔のその昔に、「Wの悲劇」を読んだ記憶がある。中身は忘れた。それ以来のトライ。1980年文庫初出なので、発表は1970年代半ばか。 ガラスの絆 ・・・ サイバ合板の社長・信之は治子と結婚して数年。夫と妻の両方に不妊の原因があり、人工授精をして、…

東野圭吾「プラチナデータ」(幻冬舎文庫) アイデアやテーマを持っていながら、どれも深めることなく放りっぱなし。ベストセラーはそうしたもの。

何度も自分に「考えるな、感じろ」と言い聞かせながら読んだ。 DNA解析技術が大進歩し、遺留品からDNAを採取すれば人の形質(外見、身体的特徴、遺伝的疾患など)がプロファイリングできる(すごく強い遺伝子決定論だな、おっと考えるな、感じろ)。そのうえ…

東野圭吾「虚像の道化師 ガリレオ7」(文芸春秋社) 大仰な言葉のわりに、内容が追いついていないけど、ベストセラーはそうしたもの。

帯には「ガリレオシリーズ最新刊」と書いてあるが、いったいなんのこっちゃ。そんなタイトルのTVドラマがあるらしいのを新聞のTV欄でみたことがあるから、たぶんそれなのだろう。不可解な事件があって、捜査に行き詰まった警察官が大学の物理学教授の助けを…

百田尚樹「幸福な生活」(祥伝社文庫) ホモソーシャルな社会で優位にいる男が特権にあぐらをかいて、インサイダー同士で仲良くしあうのが登場人物たちの「幸福」

あとがきによると作者は長年放送作家をしていたそうな。なるほど藤本儀一、井上ひさし、辻真先、景山民夫の系譜にある人だな。こういう人の作品は、読者を楽しませることに関しては手間を惜しまないはず。以下の18編のショートショートが収録されている。い…

西村京太郎「名探偵に乾杯」(講談社文庫) 名探偵は死なず、ただ消えゆくのみ。探偵小説は名探偵と一緒に消えるか

1976年の初出の名探偵シリーズ第4作。 名探偵はいかに老後を過ごすべきかに悩む明智小五郎。小林少年も腹の出た中年になり、美泳子という20歳過ぎの娘がいるくらい。おりしもポアロ死去の報がとどき(「カーテン」1975年)、憂鬱は深まる。そこで、ポアロ招…

西村京太郎「名探偵も楽じゃない」(講談社文庫) 社会派推理小説全盛期に書かれた名探偵待望論。古い名探偵たちの王位継承の物語。

1973年初出の名探偵シリーズ第3作。 冒頭に名探偵待望論というのが書かれていて、実際に当時の探偵小説作家の間で論争があったのではなかったかな。都筑道夫のエッセイでその模様を書いていたのがあるが、どの本にあったのかもタイトルもわからない。まあ、…

西村京太郎「名探偵が多すぎる」(講談社文庫) パロディ尽くしの探偵vs怪盗。知的挑戦という以外なんのインセンティブもない怪盗一座の奮励努力。

明智小五郎が世界の名探偵(クイーン、ポアロ、メグレ夫妻)を別府温泉に招待した。神戸から別府に行く夜間フェリーに乗っていると、アルセーヌ・ルパンが乗船しているのがわかる。彼は世界の名探偵に挑戦するというのだ。運の悪いことに宝石商が時価一億円…

西村京太郎「名探偵なんか怖くない」(講談社文庫) マニアが書いた世界4大名探偵の競演。これを受け入れる読者のすそ野も広がっていた。

1971年初出の名探偵シリーズ第1作。 大富豪の佐藤大造氏が、世界の名探偵4名を自宅に招待した。アメリカのエラリー・クイーン、イギリスのエルキュール・ポアロ、フランスのメグレ警部、日本の明智小五郎(当時、江戸川乱歩以外は存命)。府中で起きた三億円…

ヘレン・ケラー「わたしの生涯」(角川文庫) 19世紀末のアメリカでは障害者自身や支援者たちは自力で組織を作って、援助体制を作っていた。ヘレンはじぶんらができることで社会に参加させてくれと主張する。

ヘレン・ケラーは1880年生まれ。2歳で高熱の病気を発症。以来、視力と聴力を失う。話すこともできなくなり、わがままでしつけができないで育つ。転機は彼女が7歳の時。グラハム・ベルの紹介でパーキンス盲学校の卒業生、20歳のアン・サリヴァンが派遣される…

フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-2 ナイチンゲールは、ホメオパシーを認めていませんよ

2014/02/03 フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-1 の続き ナイチンゲールがホメオパシーを擁護するという記述があるらしいので、調べてみた。 今回読んだのは、1985年印刷の第4版。該当箇所は本書209-210ページ。引用すると、 「ホメオパシ…

フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-1 伝統的で科学的でない医療に公衆衛生と統計を取り入れよう。看護士の社会的評価を高めよう。

フロレンス・ナイチンゲールは1820年生まれ。サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)に詳しい生涯が書いてあるので、それを参考にすると、ジェントリの裕福な家庭の生まれ。クリミア戦争に看護婦として従軍。それまでの軍隊の看護所の常識を変える運用…

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-3 代替医療は科学の持つフィードバックとアップデートの機能を備えていない。現代医療と同等の効果を持っているわけではない。

2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 2014/01/31 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-2 ようやく本書の主要な内容に到達した。このような現代医療とは関係のないところに「代替医療」がある。代替はalternativeの訳語。altern…