odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

リリアン・ヘルマン&ダシール・ハメット

リリアン・ヘルマン&ダシール・ハメット INDEX

2016/06/10 ダシール・ハメット「フェアウェルの殺人」(創元推理文庫) 1923年 2016/06/9 ダシール・ハメット「スペイドという男」(創元推理文庫) 1926年 2016/06/8 ダシール・ハメット「血の収穫」(創元推理文庫) 1928年 2016/06/7 ダシール・ハメット…

ダシール・ハメット「フェアウェルの殺人」(創元推理文庫) ハメットは都市労働者や平公務員らに降りかかる社会悪を摘出するために探偵する。

ダシール・ハメットは1894年生まれ。従軍と探偵社勤務の経験があり、結婚生活が破たんしてから、広告の仕事をしながら、短編を書きだした。発表誌は当時読まれたパルプ雑誌。そのころの初期短編を集めたもの。 コンチネンタル探偵社サンフランシスコ支局に勤…

ダシール・ハメット「スペイドという男」(創元推理文庫) ハメットの探偵は警察に一目置かれないしリスペクトもされない。権力の庇護を受けない探偵は社会への不満や人生の鬱屈を聞かされる。

サム・スペイドの登場する短編3つを収録。スペイドの登場するのは、これに加えてあとは「マルタの鷹」だけ。 スペイドという男 1932.07 ・・・ 江戸川乱歩「世界短編傑作集 4」(創元推理文庫)に所収。絞殺された死体のうえには薔薇十字会の紋章を書いた…

ダシール・ハメット「血の収穫」(創元推理文庫) ハメットが持つ労働者や貧困者、病人など虐げられた人々への視線はチャンドラーやロスマクには継承されなかった。

鉱山町パーソンヴィルは別名ポイズンヴィル(毒村)。エリヒュー・ウィルソンが開祖で、市のすべてを牛耳っていた。1921年の不況の年、労働争議が盛んになったので、暴力団を雇って鎮圧したのだが、根を張った暴力団は市を好き放題にしている。エリヒューも…

ダシール・ハメット「デイン家の呪」(ハヤカワポケットミステリ) 名無しの探偵は事件に巻き込まれた娘の麻薬中毒を治すために、数日ホテルに一緒に閉じこもる。

タイトルからすると、1920年代アメリカの探偵小説黄金時代によくあるような通俗スリラーみたいなものを連想する。実際のところ、風俗こそ当時の最新のものではあるが、案外意匠は古めかしい。コンチネンタル探偵社の名無しの探偵である「私」がある一家に呼…

ダシール・ハメット「マルタの鷹」(ハヤカワ文庫) スペードは事件の渦中にあって、容疑者と被害者と探偵の役割を引き受ける。客観的・合理的な探偵小説の「解決」は彼にはできない。

共同で探偵事務所を開いているサム・スペードのもとにワンダリーと名乗る女性が訪れた。妹が駆け落ちしたので見つけてほしい、ホテルにいる駆け落ち相手を監視するのがよいという。相棒が依頼者と出ていった翌朝、射殺された相棒が見つかる。続けて駆け落ち…

ダシール・ハメット「ガラスの鍵」(創元推理文庫) 市政や有権者の腐敗や堕落は放置するにしろ退治するにしろうっとうしいが、放置しておくとごちそうときれいな寝床は使えなくなる。どうしますか?

州都ほど大きくはないが、数十万人の人口のありそうな1920年代アメリカの田舎都市。市長、地方検事局は選挙で選ばれているのが、実質的な権力者は黒幕ともいえるギャングのボスであった。土建会社をトンネル会社にして、公共事業の受注を一手に引き受けると…

ダシール・ハメット「影なき男」(ハヤカワポケットミステリ) 婦人雑誌に連載された「やせっぽち」の探偵物語は映画になって大ヒット。ハメットはそれで筆をおく。

原題「The Thin Man」は直訳すると「やせっぽち」。でもここでは「影なき男」とされている。すなわち原書が1934年に出版されたあと、ハリウッドで映画化された。ウィリアム・ポールとマーナ・ロイの主演した映画(どんな俳優なんだろう)がおおあたり。数本…

ジョー・ゴアズ「ハメット」(角川文庫) 過度の飲酒癖を持つハメットがマルチタスクでよろよれになりながら、サンフランシスコを走り回る。

19世紀後半のアメリカの資本主義の発達はたくさんの大金持ちを生んだが、その中にはギャングやマフィアと組んで市政を牛耳るものがあった。そのために多くの大都市は不正と横領と賄賂の横行(羽仁五郎「都市」岩波新書が詳しかった。引用ばかりだったけど)…

リリアン・ヘルマン「ジュリア」(ハヤカワ文庫) かつて出あった人々のスケッチ。でも、主人公は彼女自身になる。

リリアン・ヘルマン(1905-1984)の回想は「未完の女」でアウトラインが描かれている。こちらの「ジュリア」は8つのパートに分かれて、「未完の女」で触れられなかったエピソードがつづられる。「未完の女」には、ヘルマンが「ハメットの伝記を書きたい」と…

リリアン・ヘルマン「眠れない時代」(サンリオSF文庫) マッカーシズムの非米活動委員会で証言を拒否し、不幸になることを進んで選ぶ。

「未完の女」は戦争終了までのことがおもに書かれている。そして1976年に出版されたこちらの「眠れない時代」はまさに非米活動委員会の証言の模様が描かれる。 非常に単純化して、この時代とヘルマンのことを書いてみると、 ・非米活動委員会は1937年設立。…

リリアン・ヘルマン「未完の女」(平凡社ライブラリ) 20世紀前半のアメリカでリベラルを貫いた意志の強い女性の自伝。

リリアン・ヘルマンは1905年生、1984年没のアメリカの劇作家。代表作は「子供の時間(1934年)」。しかし彼女の名前は、ダシール・ハメット(ハードボイルド小説の創始者。「マルタの鷹」「血の収穫」など)との同棲生活と、1950年代のマーッカシー旋風時に…