odd_hatchの読書ノート

エントリーは3600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2026/7/3

佐谷眞木人「日清戦争 「国民」の誕生」(講談社現代新書) 政治・外交・軍事からみると日清戦争はたいしたことはないが、「国民(というか臣民)」の誕生からみると一大変革になった重大なイベント。

日清戦争1894が日本人にどのような影響を及ぼしたかを当時の資料を使って検証する。なので、戦争の原因、戦況推移、講和とその後という政治と外交と軍事の話は一切出てこない。それは別書で補完しよう。 日本の近代戦争史の研究者によると、日清戦争は重要な…

九鬼周造「『いき』の構造」(岩波文庫) WW2敗戦までは、日本人論として使えた論が、粋な人は消え野暮と傾奇者(かぶきもの)ばかりになった21世紀には無効になってしまった。

ことばはたいてい翻訳可能性をもっているけど、あまりにナショナリティに関わっているものだと、適切な訳語がないよね。ことに民族性の根幹にかかわることばほど、別の言語ではいいかえられないものだ。たとえば、ドイツのガイストだし、フランスのエスプリ…

押川春浪「警戒すべき日本」(青空文庫) 明治末期(1910年)のネトウヨの檄文。現在のネトウヨとほぼ同じ主張。拡張と語彙は明治のネトウヨの方が上。

初出の1910年にはすでにネトウヨがいたのだなあ。今のネトウヨがいいそうなことは明治の終わりにはすでに型ができていたのだなあ。今のネトウヨはその型をコピーしているだけ。今のネトウヨは知識と論理に弱いから、コピーは劣化するだけ。100年以上前のこの…

北一輝「日本改造法案大綱」(青空文庫) 反英反米をこじらせ、アジアをバカにし、天皇親政を夢想する男が妄想した「ぼくがかんがえるさいきょうの日本」。

226事件の影の首謀者とかいわれ、実行者ともども死刑になったことしかしらない。彼の思想書とされる「日本改造法案大綱」をよむ。カタカナ書きはどうにも読みずらいので、青空文庫にあるテキストをひらがな書きに替えた。読みやすくなった。おかげで、この人…

杉本五郎「大義」(経営科学出版) 殉皇を決意させ国家のために死ぬことを内面化する書であるが、現存体制を転覆する革命を指嗾する危険な書物。

杉本五郎は1901年生まれの陸軍軍人。1937年に中国山西省の戦いで戦死した。最終階級は中佐。彼は自分の思想をノートに書き溜めた。最後の戦いの直前にノートを家族に残した。それを整理して1938年に出版した。大ベストセラーになった。 中身は、軍人による国…

石原莞爾「最終戦争論・戦争史大観」(青空文庫) 帝国陸軍の秀才が書いた空想的戦争論。どこにも応用が利かない床屋談義並みのでき。

満州事変を起こしたときの関東軍の作戦部長。板垣征四郎らと共謀して、柳条湖事件などを起こし、満州での戦端を開き、全土を占領した。1933年に満州国を建国(世界中が承認しなかった)。国際連盟から脱退する理由を作った。アジア太平洋戦争開始の責任者で…

文部省「国体の本義」「臣民の道」他(ネット復刻版) 西洋と武家政権を全否定し、「皇祖皇宗」の宗教国家を称揚する「日本スゴイ本」の元祖。

帝国日本の思想を知るには、官学や在野の人が書いたものを読んでもらちが明かない。そこで、政府や文部省その他が出した以下の文書を読む。書籍で入手するのは困難だが、著作権保護期間をすぎているので、ネットに転がっています。軍人勅諭(明治天皇)1882…

貴志俊彦「帝国日本のプロパガンダ 「戦争熱」を煽った宣伝と報道」(中公新書) つねに戦闘を行い国家を非常時に置くことで、行政と軍は臣民を教化扇動した。臣民も自分で「戦争熱」をあおり快感を得ていた。

「帝国日本」は聞き慣れない言葉。ここでは、1890年の大日本帝国憲法発布から1947年の失効までの期間を指す。小野雅章「教育勅語と御真影 近代天皇制と教育」(講談社現代新書)を見ると、帝国の方針はそれ以前からできていたと思える。一方で文化史ではこの…

早川タダノリ「「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(青弓社) 教育勅語教育を受けた大人が天皇の威光を借りて弱い人に奉仕と服従を強制し、自分は王様気取りでふんぞりかえる。

21世紀になって「日本スゴイ」言説が大量に現れてきた。書籍、テレビ番組。そしてSNS。これらの「日本スゴイ」は驚くほど画一的で、同じことを繰り返しているだけ。すでにパターン化しているので、反論も容易になってしまった。 この「日本スゴイ」ブームは…

NHK「ETV特集」取材班、荻野富士夫「証言 治安維持法」(NHK出版新書) 何が違法か条文があいまいなので、拡大解釈で大量検挙ができ、自白強要と拷問が行われた。

稀代の悪法とされる「治安維持法」。具体的にどこが問題だったのかを検挙者達の事例を追うことで明らかにする。 治安維持法が成立したのは1925年。そこに至るまでの概要を記すと、教育勅語と大日本帝国天保制定によって、この国は天皇が全権を持ち臣民は天皇…

将基面貴巳「言論抑圧 矢内原事件の構図」(株式会社百万年書房) 部下に言論抑圧があったとき、組織のトップは対抗できるか。個人の抵抗にまかせるだけで大学の自治は守れるか。

元は2014年に中公新書ででていたが、出版元を変えて2019年に電子書籍になった。 戦前の言論抑圧事件はおもにマルクス主義研究者に向けられていた。1935年までに共産党は壊滅したので、ターゲットは自由主義や個人主義を主張する研究者に向けられる。マルクス…

伊藤隆「大政翼賛会への道 近衛新体制」(講談社学術文庫) 日本人のタテ社会では独裁政党は作れない。ファシズムを支えたのは民間の草の根運動。

1940年に大政翼賛会ができたが、そこに至るまでの経緯を丹念に追う。初出の1983年には、大政翼賛会の研究はあまりなかったらしい。なので、関係者の証言を大量に引用する。そのあとの研究資料集にした趣き。 貴重な証言であることはわかるが、素人からすると…

川田稔「昭和陸軍全史 1 満州事変」(講談社現代新書) 日本陸軍は戦争状態を継続することで、国家による統制を強化し、臣民に犠牲的奉公を強要する。

昭和の日本陸軍の動きを描く3部作の第1作。元号改正から昭和10年ころまで。陸軍内部の抗争と政党政治への関与。大きな出来事は満州事変。関東軍と参謀本部の対立、軍部の独断専行を処罰できない内閣。などが書かれる。俺は軍人の名前になど興味がないので…

川田稔「昭和陸軍全史 2 日中戦争」(講談社現代新書) 対中戦争が膠着化すると、ナチスドイツの真似をして戦争を拡大する。

2026/07/16 川田稔「昭和陸軍全史 1 満州事変」(講談社現代新書) 日本陸軍は戦争状態を継続することで、国家による統制を強化し、臣民に犠牲的奉公を強要する。 2014年の続き 昭和の日本陸軍の動きを描く3部作の第2作。 226事件から対英米開戦直前ま…

川田稔「昭和陸軍全史 3 太平洋戦争」(講談社現代新書) 日中戦争を解決できなくなり新たに対米戦も準備するとなると、陸軍の思考はハングアップする。

2026/07/16 川田稔「昭和陸軍全史 1 満州事変」(講談社現代新書) 日本陸軍は戦争状態を継続することで、国家による統制を強化し、臣民に犠牲的奉公を強要する。 2014年2026/07/15 川田稔「昭和陸軍全史 2 日中戦争」(講談社現代新書) 対中戦争が膠着化…

江口圭一「十五年戦争小史」(ちくま学芸文庫) 満州事変、日中戦争、対英米ロ戦争が関連した複合戦争。民衆は戦争熱に取りつかれ、軍と政府は熱狂する民衆を恐怖しつつ統制する。

名著。傑作。大日本帝国を終末においやった対中と対英米、その他の戦争を把握するのにとてもよい。もとは大学の教養学部(1~2年生)向けの講義をもとにしていて、義務教育ではほとんど触れられないために日本の近代史(維新以降)を知らない人向けに書か…

日暮吉延「東京裁判」(講談社現代新書) 裁判の内容をよく知ってから、不十分だったことを追求しましょう。全面肯定・全面否定は無意味。

ネットで検索すると「東京裁判」関連本は、極右や歴史捏造者による否定本だらけという惨状になっている。東京裁判が勝者に取る政治的な懲罰であって、日本人を恥辱するものだという感情と、些細な出来事を誇張し都合の悪い事実や主張は隠すという悪質な内容…

吉田裕「日本人の戦争観: 戦後史のなかの変容」(岩波現代文庫) あの戦争の評価について政府はダブスタの二枚舌、国民は戦争を嫌悪するが記憶は希薄化。

戦後昭和の精神史。この間の最も大きな事件は「大東亜戦争」の敗戦。この敗戦をどのように認識してきたかを半世紀にわたって観察する。 まとめを先取りすると、日本人は敗戦に沈黙し、矮小化し、被害者意識を持つようになり、責任問題を「終わった」ことにし…

片山杜秀「平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム 」(幻冬舎新書) 日本人は近代化西洋化の失敗を反省しないで、刹那主義でニヒリズムで事態を傍観するだけ。

平成が皇室典範の規定を逸脱した(特例法で対応)終わり方をした。30年は思いのほか長かった。平成は平らかに成ることを意味する元号だったが、そうなったのかと問う。俺は平成の3分の2を「社畜」として過ごしてきたので、ほとんど社会のできごとを覚えてい…

片山杜秀「片山杜秀のクラシック大音楽家15講 」(河出文庫) 19世紀以前のクラシック音楽に違和感を持ったので分析的・批判的に聴くことができた。

NHKFMで吉田秀和が長年MCをしていた「名曲の楽しみ」。40年も続いたが死去に伴い、片山杜秀がMCになった「クラシックの迷宮」が2013年1月に始まった。しばらく気づかなかったが、聞いてみると面白かったので、2013年の夏ごろからずっとエアチェックしている…

中川右介「世界の十大オーケストラ」(幻冬舎新書) 国民国家と資本主義がオーケストラを作る。ナショナリズムとレイシズムから無援ではいられない

「世界〇大オーケストラ」を選出する企画は昔からある。それこそ1939年のあらえびす「名曲決定盤」には聞くべきオーケストラとしてして6つのオーケストラと指揮者が挙げられている。戦後の雑誌「レコード芸術」のような音楽メディアもなんども×nそうした企…

朝比奈隆「わが回想」(中公新書)「交響楽の世界」(早稲田出版) 戦前教養主義者による戦後音楽ベンチャー奮闘記。

朝比奈隆の「わが回想」(中公新書)と「交響楽の世界」(早稲田出版)を再読。 ・この明治人(1909年生まれ)は自分のことを「楽隊」と呼ぶ。そのことが不思議だったが、彼の経歴をみてわかった。この人にとって関西にゼロからオーケストラを作り、半世紀近…

中丸美繪「オーケストラ、それは我なり 朝比奈隆 四つの試練」(中公文庫) 学生時代の交友を利用して関西楽壇を独占したビジネスマンの一代記。外には温厚、内では帝王然。

たぶん最初の朝比奈隆(1908-2001)の評伝。すでに彼の半生は自身の口によって語られてきた。朝比奈隆「わが回想」(中公新書)「交響楽の世界」(早稲田出版) など。ここでは、本人のインタビューと関係者の聞き取りによって、補足していく。 俺のような音…

秋山和慶「ところで、きょう指揮したのは? 秋山和慶回想録」(アルテスパブリッシング) ワーカホリックな昭和の戦中世代が無我夢中で働いて成功したことを書いたビジネス本。

秋山和慶(1941-2025)は日本の指揮者。個人的な思い出だと、本書にも登場する1986年と1990年のシェーンベルクの大作「グレの歌」を聞いたこと。日本では1960年代の若杉宏指揮の初演以来20年ぶりの再演だった。そのパンフに書かれていたが、大曲で難曲なので…

ヘルベルト・ブロムシュテット「ヘルベルト・ブロムシュテット自伝 音楽こそわが天命」(アルテスパブリッシング) 神の前で自己や自我を主張する必要がない指揮者は楽譜に忠実であることで信頼を得られる。

ヘルベルト・ブロムシュテットの名を知ったのは1980年ころ。シュターツカペレ・ドレスデンとの一連の録音(ブルックナーとリヒャルト・シュトラウス)が評判だったのと、NHK交響楽団の定期公演に呼ばれて演奏がテレビで聞けたこと。当時のNHK響にはサヴァリ…

ヴァレリー・アファナシエフ「ピアニストは語る」(講談社現代新書) 聞くととても疲れるので、あまり近寄りたくないが気になるピアニスト。

「奇才」「鬼才」ピアニスト。最初に知ったのは1985年ECM録音のシューベルト「ピアノソナタ第21番」。あの長大なソナタを尋常でない緊張感で引ききって、視聴者のドギモをぬいた。以後ブラームスのピアノ曲や「展覧会の絵」などが評判になる。来日したらシュ…

片山杜秀/山崎浩太郎/田中美登里「平成音楽史」(アルテスパブリッシング) たまたま20世紀の世界システムの崩壊と一致したので「意味」をもてた「平成」時代。

和暦を時代区分の指標に使うのは困難。和暦の時間がまちまち。日本国内にしか通じない。グローバルな出来事との関連性をみることができない。なので、和暦と年号は時代区分に使えない。「音楽史」を明治、大正、昭和で区分することはできない。 でも「平成」…

山崎浩太郎「演奏史譚 1954/55: クラシック音楽の黄金の日日」(アルファベータブックス) 歴史の特異点の年には、アメリカ覇権の世界システム確立と日本の文化的鎖国解除によるカルチャーショックがあった。

1954年から55年をクラシック音楽の特異点としてみる。事件が集中し、名演奏が続出し、レコードの仕様が大きく変わり、演奏家が入れ替わり、聴衆の嗜好が変化した。それは以下の点が反映しているとみえる。 ・独伊日のファシズム国家の敗戦処理が一段落して、…

片山杜秀「クラシック迷宮図書館」(アルテスパブリッシング) 音楽本は奇書・トンデモ本ばかり。あるいは著者の文体のマジックがそう見せかける。

えっ、音楽書は奇書、トンデモ本ばかりなの? こんなぶっ飛んだ考えを書いたものばかりなの? と驚きの声をあげてしまう短文集。 文芸評論では、対象のテキストを切り取って、そこに注釈をつけるように考えを書いていくからそう簡単にはぶっ飛んだ考えにはな…

宇野功芳「名指揮者ワルターの名盤駄盤」「フルトヴェングラーの全名演名盤 」(講談社+α文庫) 細部にこだわり背景を無視する音楽評論はとても日本的。

著作権保護期間が30年だったころ、亡くなって30年以上経過している指揮者の録音がさまざまなレーベルから大量に販売された。とくに人気があったのは、ブルーノ・ワルターとヴィルヘルム・フルトヴェングラー。ともにスタジオ録音が大量にあったが、その数倍…