odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第三部

第3部になると、前の部で歓迎パーティのために集まった人々はばらばらになる。うわべでは幸福な家族であるような出家の人々は変化をみせて、それぞれがもつ敬意や敵意があらわになるようである。それは「阿保天使、バカ天使」というしかなさそうなポール・リ…

堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第四部

2022/09/27 堀田善衛「審判 下」(集英社文庫)第三部 1963年の続き 「阿保天使、バカ天使」のポールの存在は出家の人々の紐帯を切りほどいてしまったかのよう。自分の目の前でポールが唐見子に乗り換え、拒絶されたのを見た雪見子は神経症(ママ)を病む(…

堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-1

登場人物の誰も観光に出かけていないのにタイトルが「スフィンクス」であるとははて面妖な。そこで本文の中に登場する「スフィンクス」をみることにする。 スフィンクスが、昼はあまりにも青過ぎる、そうして夜は職あまりにも澄明にすぎる砂漠の地平と天涯に…

堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-2

2022/09/23 堀田善衛「スフィンクス」(集英社文庫)-1 1965年の続き 実は主人公の二人は様々な人やグループに目をつけられて、つかず離れずの監視を受けながら、利用されていたのであった。というのも、1962年のヨーロッパと北アフリカ、アラブの情勢をみる…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)

個人的なことから。高校二年の冬に手に取り、熱中して読んだ。そのあと繰り返し読んだ。そしてこのような学生生活を送りたいものだと熱望した。あいにく、主人公とは逆に田舎の大学にいったために、小説のような学生生活にはならなかった。 さて、作者は50歳…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)-2

2022/09/20 堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫) 1968年の続き 第2部はモラトリアムの時期。主に内面のことを指して言うのであるが、同時に語り手「若者」の境遇にある。なんとなれば、1936年に入学したのち、第2部が終わる1941年冬になっ…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 下」(集英社文庫)-1

2022/09/19 堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 上」(集英社文庫)-2 1968年の続き 高校2年時の読書の記憶を紐解けば、語り手は読書会をしたり宴会をしたりバーや料亭での酒盛りなどをさかんにしていたはずである。しかし、再読すると、それはわずかでたいて…

堀田善衛「若き日の詩人たちの肖像 下」(集英社文庫)-2

第4部にはいり、繰り上げられた卒業式が行われると、徴兵検査に合格したものはすぐに赤紙が届く。男(若者から呼称変更)の友人たちの間では壮行式や激励会をしないことにしていた。街頭や駅前で行われる万歳を含む儀式に耐えられなかったから。その結果、男…

堀田善衛「橋上幻像」(集英社文庫)

1970年の小説。いきなり単行本ででた。登場人物に固有名を持たせない、詩的イメージを喚起させる文章など作家の小説の中では異色な実験作。しかし、現実(1970年当時の)と歴史を強く意識しているのはこれまでの小説と同じ。 橋へ ・・・ イントロダクション…

堀田善衛「19階日本横町」(集英社文庫)

海外にでて小説を書く日本人作家は珍しくないけど(そうか?)、作者はそのはしりのひとり。1972年のこの小説もあとがきを書いたのはパリだった。海外に住むことによって、日本人の常識やあたりまえが海外では通用しないし、日本にいては気づかないような欠…

堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-1

堀田善衛は絵を見る人。本作の前に、古今東西の絵を見た感想を描いている。堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-2 ただ、この評論集にはゴヤがはいっていない。 作家は多読であり、対象になった事件・…

堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-2

絵師は、画布に向かってだけではなく、建物の壁面に直接描く場合があった。その建物が他人の手に渡ったり、政府組織(端的には軍隊)が使ったり、外国の集団が接収して使ったりすると、絵の価値がわからずに、ずさんな使い方をする。建物の修復のさいに、勝…

堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/08 堀田善衛「ゴヤ 1」(朝日学芸文庫)-2 1973年の続き 作家はいう。 「ヨーロッパ文明の受容についての、少くとも従来の受容の仕方についての、われわれの側の不備、不幸の一つは、主として一九世紀以降のそれを、あたかも折れた矢を一本の完全な…

堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-2

1792年。失聴。右腕や足の麻痺(のちに回復)、その他の苦痛。「聾者であるゴヤに見える、またゴヤが意志的に見る現実世界には、しかし、音がない。それが純音響を伴わぬ現実である(P235)」ことを片時も忘れてはならない。 一七九二~九三年・悪夢 ・・・ …

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/05 堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-2 1974年の続き 有力な支援者(であり愛人)を失い、聾疾ははかばかしくない。老いもやってきて憂愁にふける。 作者の目によると、ヨーロッパの肖像画、とくに貴族の女性のそれ、は見合い写真であった。なん…

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-2

2022/09/02 堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1 1975年の続き 堀田善衛の「ゴヤ」は全4巻なのだが、最初の二巻でゴヤは60歳の老人になる。そのあとの20年を描くのに、それまでの60年と同じ量の文章を使わねばならない。 思い返せば、作者が「ゴヤ」を連…

堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/01 堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-2 1975年の続き 晩年。すでにゴヤ68歳(1814年)。半島戦争の影響は 「彼ら(民衆)が立ち上って戦ったのは、ナポレオンの新しい軍事雫専制主義に対してであって、フランス革命の精神に対してではなかったの…

堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-2

2022/08/30 堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-1 1977年の続き 「ゴャの諸作は、あまりに生々しく人間的であるために、美術作品でありながらも、美しい、という語を付することの不可能なものばかりなのである(P294)」 暗い谷間に ・・・ 1810年代の暗い…

堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-1

時代は13世紀。1243年のモンサヴァール城包囲戦を焦点にする。しかし、この戦い―異端審問から発する異教徒の殺戮戦―は主題ではなく、深い森からおずおずと現われ、村と村がつながりだした、西洋の中世のあり様を全的に描くことにある。作家はすでに西洋中世…

堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-2

2022/08/26 堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-1 1985年の続き 人々が森を出て、隣の村と交易を開始する。ローマ帝国の道が残っていたが、教会と王の物だったので、新たに道を作った。すると無数の人々が道を行きかう。路上を歩くのは商人、職人、下級聖職者…

堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-1

ミシェルは「随想録(エセー)」を書いたミシェル・ド・モンテーニュのこと。1533年生まれ1592年没というから、この国では戦国時代にあたる。織田信長(1534-1582)、豊臣秀吉(1537-1598)、明智光秀(1528-1582)らを並べると親近感がわくだろうか。もちろ…

堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-2

2022/08/23 堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-1 1991年の続き 乱世、というしかない時代。そこにおいて知識人(という言葉はこの時代にはないが)はどう生きるか。 通常フランスのルネサンスは尻つぼみとされるが、それは文人のビッグネームを…

堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-1

2022/08/22 堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-2 1991年の続き 39歳にして隠棲を始めたからといって、現代のひきこもりや江戸川乱歩の作中人物のようなものを想像してはならない。高等法院の前審議官であり、貴族の領地の経営などを引き継ぐと…

堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-2

隠棲して1572年ころから「エセー(試み)」を書き始める。以後約20年書き継がれ、全部で3巻を出版した。加筆を繰り返したので、時期によってテキストはa、b、cに区別している。いくつかの邦訳がでているが大冊。体系的な書き方をしていないので、俺のような…

堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-1

2022/08/18 堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-2 1992年の続き 率直に言えば、堀田善衛の著作は敬愛するところ多々とはいえ、通読するのに困難が時に起こる。「ゴヤ」がそうで、この「ミシェル 城館の人」でも2巻の中ほどで半年以上放置してい…

堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-2

2022/08/05 堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-1 1994年の続き 16世紀のフランスは混迷の時代。進んだイタリア、スペイン、イギリスに囲まれ、ドイツやオランダなどからプロテスタントがはいっていた。それを統合する王権はとても弱い。王様が…

堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-1

前作「ミシェル 城館の人」で16世紀フランスを描いた次作「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」では17世紀フランスを取り上げる。この博識な観察家によると、ばらばらだった断片が一つにつながる快感を得られる。箴言(マキシム)で高名なラ・ロシュフーコー公がデ…

堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-2

2022/08/02 堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-1 1998年の続き ラ・ロシュフーコー公爵家はフランス南部の名家。この名を持つ土地を所領にして、フランス王の覚えも愛でたかった。本書の主人公フランソア六世・ド・ラ・ロシュフーコー公…

ダンテ「新生」(岩波文庫)

イタリア(という国も概念もなかった時代だとおもう)の大詩人ダンテが若き日に書いた。 1293年前後、詩人が28歳のころ、それまで書きためた詩31編を骨子にし、これらを分析解説する散文を加えて全42(もしくは43)章にまとめあげた詩文集。詩の内訳はソネッ…

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-1「地獄篇」

13-14世紀の詩人で政治家のダンテが書いた畢生の大作。成立の背景その他はwikiを参照。 ja.wikipedia.org すでに森鴎外の紹介以来数種の翻訳がでている。岩波文庫や集英社文庫などで入手可能。でも、厳格な規律に従って書かれた700年前(1300-1320年にかけて…