「カラマーゾフの兄弟」は好色な父親フョードルを息子たちの誰が殺したのかという探偵小説のテーマで語られることが多い。それは象徴的な「父殺し」、子による父の乗り越えで小説の問題の中心に突き刺さているのだが、第3部までを読むと、子どもたちがいか…
2024/09/19 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第10編「少年たち」 13歳にして「社会主義者」をなのる若造登場。スタヴローギンによく似た少年は続編の主人公? 1880年の続き 次の編では次兄イワンに焦点が…
2024/09/17 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」 思春期のリーザは気まぐれで、他人をいじめ、他人にいじめられることを望む 1880年の続き モスクワから帰ってきたイワンは、兄弟たちにあ…
2024/09/16 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) 「お前のやりたいことを代わりに俺たちがやったのだ」という大審問官の論理でイワンはスメルジャコフに追い詰められる 1880年の続…
2024/09/13 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) イワンの前に現れた紳士は悪魔でありスメルジャコフでありイワン自身である。この章は「大審問官」のパロディ。 1880年の続き フ…
2024/09/12 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) ドミートリーは世界と神を愛するようになり無実の人殺しの罪を引き受けることを決意する 1880年の続き 2000年ころに新潮文庫がキ…
2024/09/10 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」 ミーチャへの告発と弁護が交錯する法廷シーン。探偵小説マニアにはたまらない。 1880年の続き 第11編「誤審」(承前) ・・・ 前の章まででキ…
2024/09/09 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」(承前) 否定する人=ヨーロッパは破滅し、肯定する人=ロシアは苦痛を受け入れる。 1880年の続き 裁判が終わってから5日目。町の人々の関心…
約20年ぶりの再読。前回の初読ではあれほど感動したのが、今回は困惑で終わってしまった。発見するところも少なく、小説に負けてしまった。そりゃ、登場するキャラの会話を楽しんだし、とんちんかんなユーモアも堪能したし、大審問官のような議論に頭をひね…
書簡を除くドスト氏の文章を全部読み、感想を書いた。自分の読みはどれくらいのものだったのか。ドスト氏自身の文章を読んでいるときには一切手を触れてこなかった他人の評論を、答え合わせみたいな気持ちで読んでみる。 ドストエフスキー翻訳家による解説書…
2024/09/03 原卓也「ドストエフスキー」(講談社現代新書)-1 「ペテルブルク」「革命」「シベリア」「ロシア正教」がキーワード。入門用参考書として最適。 1981年の続き 前半分はドスト氏の前半生と外的な影響。後半はドスト氏の後半生と内的なテーマ。 恋…
すでにみたように埴谷雄高はドストエフスキーに震撼された作家。2021/06/24 埴谷雄高「文学論集」(講談社)-1 1973年 1965年にNHKラジオで「人と思想」を放送したので、その講演に加筆した。参照したのは、米川正夫の「研究(全集補巻)」。2019/11/26 米川…
2024/08/30 埴谷雄高「ドストエフスキイ」(NHKブックス)-1 いまだに周期的に読まれる「異常な時代における異常な作家」。 1965年の続き 「罪と罰」で感じたアレレは以後の大長編でも続くことになる。 「白痴」 ・・・ 主要キャラが登場するなり、事件が立…
著者は精神科医で小説家。若いときからドストエフスキーを読んできたが、死刑囚との会話を重ね犯罪者の心理を研究したことと、病跡学の知見を得たことで、ドストエフスキーを解読する手がかりを得た。そこで、1973年に本書にまとめた。 他者と自分の発見 ・…
2024/08/27 加賀乙彦「ドストエフスキイ」(中公新書) 精神科医の読みでは、ドストエフスキー理解の鍵は癲癇にある、とのこと。 1973年の続き 精神科医にして作家の著者がドストエフスキーの主要長編に関する連続セミナーを開く。その時著者は77歳(!)。…
ドストエフスキーが亡くなったのは1881年。その時から、日本人はドストエフスキーに関心を寄せていた。とはいえ、幕末から明治初期の日本人はおもに英語のテキストを読んでいて、ロシア語に関心を持つものはほとんどいなかった。にもかかわらずなぜ関心をも…
日本のドストエフスキー受容をみると、「罪と罰」「地下室の手記」は別格として、戦前は「死の家の記録」、戦後に「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」に関心をもっていた。そこには翻訳と出版事情、そして社会情勢などが反映している(戦前は官憲に対する弾圧や…
2024/08/22 江川卓「ドストエフスキー」(岩波新書)-1 「日本になじみのないロシアの神話や民俗」を知ることでドスト氏の小説を新しく読み解こう。 1984年の続き 怒涛の如く発見が続くぞ。メモすることがたくさん。思わず小説を確かめたくなること必定。(…
著者はドスト氏の研究家で、何冊も研究書を出している人。本書ではドスト氏が心の病、病気の人間、奇人変人など関心をもっていたことに焦点を当てている。これまではおもなキャラを知的で論理的な人間としてみることが多かったが、そうではない、病的で受動…
列島の古代史は文献資料が少ないうえ、以前は考古学資料も少なかったので、いろいろなことが言われてきた。いわく騎馬民族が半島から来て覇権を握ったとか、卑弥呼のいた邪馬台国が大和朝廷であるとか、朝廷の歴史は紀元前600年ころまで遡れるとか、天皇は万…
2024/08/12 遠山美都男「天皇誕生」(中公新書)-1 日本書紀を中国の史書や考古学知識などを参照して読み直すと、古代日本の権力史がわかる。 2001年の続き 日本書紀の記述にはふたつのまとまりがある。神武から神功皇后までは律令制国家と天皇制がいかに形…
古事記(712年)と日本書紀(720年)はどのように読まれてきたか。これらの神話は、律令体制国家を統治する天皇の正統性を明らかにするものだ。中国の陰陽説や天下の概念を採用しながら、「日本(朝廷自身が命名)」が大国であり朝鮮を属国とする帝国的世界…
「記紀神話」と言われるようになって久しいが、古事記と日本書紀では記述が異なる。ヤマト朝廷の正史である日本書紀が味気ない記述に終始しているのに対し、古事記に登場する神々の方が深みがある。そこで次のような意図で、古事記を読みなおす。「記」では…
2024/08/06 三浦佑之「古事記を読みなおす」(ちくま新書)-1 古事記と日本書紀を一緒にする「記紀神話」は誤り。「古事記」にしかない出雲神話は重要。 2010年の続き 政治的には読まないという方針をとっているようなので、支配や植民地などの権力のあり方…
伊勢神宮は1300年にわたり日本神道の中心点であり続けた。しかしいつどのようにしてそのような位置付けになったのかはよくわからない。神道が言葉を重視する宗教ではないので、経典・教典を作る意思がなく、記録を残そうとしなかったから。そこで著者は、ア…
2023年にNHK高校講座日本史(NHKラジオ第二)を聞いていたら、「秀吉の刀狩りは農民の武装解除のために行われたのではなく、身分制の固定のために行われた」と解説していたので、あわてて本書を手に取る。これまでは農民は武装しておらず戦闘はできないと思…
2024/08/01 藤木久志「刀狩り」(岩波新書)-1 秀吉の刀狩りは民間の武装解除ではなく、武士の特権の押し付けと身分制の強化。 2005年の続き 秀吉の刀狩りは武装解除ではなかったし、農民町民から武器がなくなることはなかった。帯刀は成人男性の名誉であり…
神道は体系化されていないので、西洋の学問を勉強している者からすると、荒唐無稽で幼稚だと蔑まれてきた。そうかもしれないけど(は評者の私見)、神道をみることで日本人が神をどのように考えてきたか、その考えを海外由来の思想とどのように突き合わせて…
2024/07/29 菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-1 日本人は神のことを考えてきたが、外来思想の言葉に頼らないと言語化できなかった。 2001年の続き 後半は近世と近代の神道。儒教や国学の影響や反発において神道の流派が生まれる。 神儒一致の神道 …
「武士」という階級は誤解されているので、以下の最新研究で補完しておこう。この特殊な職業・階級は最大時でも人口の数パーセントでしかない。大雑把に言えば、士芸を生業とするものは奈良時代からいた。平安中期の9~10世紀ころに武芸の専門家として生まれ…