odd_hatchの読書ノート

エントリーは2200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1

イギリスの小説はリアリズムの伝統がある(例えばほとんどの探偵小説)が、一方で幻想を志向し、この世ならぬものへのヴィジョンを物語る系譜もある。このファンタジーの系譜は英国文学史にはあまり重要に扱われないが、少数の愛好家により広められ、この国…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年 タイドミン ・・・ マスカルは夫の死に動じないオウシアックスに呆れて別れるつもりであったが、旅をつづけることにする。オウシアックス「私たちはクリスタルマン…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-3

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年2020/04/06 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2 1920年 リーホールフィー ・・・ 植物動物(両方の性質をもつ生物)に乗って、…

デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-4

2020/04/07 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-1 1920年2020/04/06 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリオSF文庫)-2 1920年2020/04/03 デイヴィッド・リンゼイ「アルクトゥールスへの旅」(サンリ…

デイヴィッド・リンゼイ「憑かれた女」(サンリオSF文庫)

サセックスの森林に囲まれたランヒル・コート館。そこにはウルフの塔の伝説があり、中世には最上階がトロール(ヨーロッパの伝承などに登場する妖精)の手で運び去られたという伝説がある。失われた部屋の階下は「イースト・ルーム」と呼ばれている。この館…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1

レミンガムはある夜、雨燕の誘いで、水星に行く。この世界の異人であるレミンガムは身体をなくした霊となって、英雄同士の一大抗争をことごとく見届け、重厚絢爛たる文体で地上の人々に伝えた(という設定は物語の冒頭ですぐに忘れられる)。 水星はイギリス…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-2

2020/03/30 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1 1922年 ジャス王は半年ほどかけて、艦隊を整備した。完成ののち、1800人の兵士を伴い、スピットファイア卿、ダーハ卿とインプランド(小鬼国)に出版する。途中暴風雨に遭遇。ジャス王の乗った…

E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-3

2020/03/30 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-1 1922年2020/03/27 E・R・エディスン「ウロボロス」(創元推理文庫)-2 1922年 ジャス王とゴライス12世は、「二人の間に平和を保つには地上の世界が小さすぎる」のであって、戦さはいずれかを殲…

エリザベス・フェラーズ INDEX

2020/03/23 エリザベス・フェラーズ「その死者の名は」(創元推理文庫) 1940年2020/03/20 エリザベス・フェラーズ「細工は流々」(創元推理文庫) 1940年2020/03/19 エリザベス・フェラーズ「自殺の殺人」(創元推理文庫) 1941年2020/03/17 エリザベス・フ…

エリザベス・フェラーズ「その死者の名は」(創元推理文庫)

深夜、ミルン未亡人は人をひいてしまったと、警察に飛び込む。要領を得ない話を聞くと、道の真ん中に寝込んでいた男を自動車で轢いてしまった。困ったのは、この男のことがさっぱりわからない。泥酔していたのはわかったが、ホテルに泊まっているわけでもな…

エリザベス・フェラーズ「細工は流々」(創元推理文庫)

ルー・ケイプルという若い女性がトビーに15ポンド貸してくれと頼みに来る(リンク先の回答を使うと、2019年の現在価値で30-35万円くらい)。トビーは断り切れなくて小切手を切る。 detail.chiebukuro.yahoo.co.jp 翌日、男の声でルーが殺されたという電話が…

エリザベス・フェラーズ「自殺の殺人」(創元推理文庫)

ジョアンナ・プリースは23歳になっても職に就かずにぶらぶらしている。そのことを父エドガーは気に入らない。同居する秘書ペギィ・ウィンボードがしっかり者なので、どうしても実の娘に厳しくなる。最近はますますよそよそしくなり、ジョアンナに厳しく当た…

エリザベス・フェラーズ「猿来たりなば」(創元推理文庫)

通常、家畜やペットの殺害は器物損壊か動物虐待で扱われる。警察もそれほど熱心には捜査を行わない(21世紀にはパンデミック予防で大騒ぎになるけど)。なので1942年にイギリスの寒村で起きたチンパンジーの殺害事件に警察はさほど興味を覚えなかった。 でも…

ヘレン・マクロイ「月明かりの男」(創元推理文庫)

巻末の著作リストによると1940年発表の第2作。発表年は重要。すなわち、ヨーロッパではナチスの侵略戦が続いていて連合国は劣勢。日本は露骨に中国南部への侵略を進めている。そこにおいてアメリカは中立にあって、いずれに戦争にも加担していないが、国際政…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)

法学セミナーは過去に数回ヘイトスピーチを特集してきた。2016年のヘイトスピーチ解消法施行後、状況が変化したところがあるので、それらを反映してヘイトスピーチの概念と過去事案をまとめる「ヘイトスピーチとは何か」を編集した。本号で特集をつくるので…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」(日本評論社)で実態と本質的な意味を勉強したあと、ヘイトスピーチに抗する具体的なツールである法や司法を検討する。「ヘイトスピーチに法や司法はどのように対応すべきなのか。憲法学、刑事法学、国際人権法…

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-2

2020/03/12 別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1 2019年 続いて後半。論文の中で言及されている事案(デモや裁判など)について、別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)補注のページを作り、Togetterま…

前田朗「ヘイトスピーチと地方自治体」(三一書房)

2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されてからの課題をまとめる。路上のヘイトは市民有志(カウンター、プロテスターと呼ばれる)の活動で減少してきたが、根絶にはいたらない。公的施設利用、選挙、インターネットではヘイトスピーチがいまだに多い。…

ジェレミー・ウォルドロン「ヘイト・スピーチという危害」(みすず書房)

2012年にでたヘイトスピーチの法規制を主張する本。ヨーロッパ諸国はヘイトスピーチ禁止法をもっているのに対し、アメリカは法がない。法規制の反対論が強い。そのような状況での主張。この国の邦訳は2015年で、日本では法規制がなかった時代で、アメリカの…

徐京植(ソ・キョンシク)「在日朝鮮人ってどんなひと? (中学生の質問箱)」(平凡社)

日本は単一民族、一民族一国家と言われることが多いが、それは幻想。実際は、さまざまなマイノリティがいっしょに住んでいる場所。それを確認することから始めよう。突っ込みを入れれば、ネトウヨの大好きな「大日本帝国」は満州・朝鮮・台湾を併合して「五…

大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書)

ナチスを率いたヒトラーのユダヤ人虐殺は、政策遂行から派生したとか世論の後押しで行ったという議論があるが、そうではない、徹頭徹尾反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなか…

ニコライ・ゴーゴリ「鼻・外套・査察官」(光文社古典文庫)

ニコライ・ゴーゴリは1809年生まれ1852年死去。ロシアの近代文学の書き手としては最初期の一人(歴史に記録されたものとして、という意味で)。光文社古典文庫版では、落語風の翻訳。地の文が会話につながり、会話する人物を批評するのが地の文になるという…

ドストエフスキー INDEX

2020/02/28 フョードル・ドストエフスキー「貧しき人々」(河出書房)-1 1846年2020/02/27 フョードル・ドストエフスキー「貧しき人々」(河出書房)-2 1846年2020/02/25 フョードル・ドストエフスキー「分身(二重人格)」(河出書房) 1846年2020/02/24 フ…

フョードル・ドストエフスキー「貧しき人々」(河出書房)-1

これから米川正夫個人訳のドストエーフスキイ全集を読んでいく。 中学3年の冬、高校受験の直前に同じ訳者の「罪と罰」(新潮文庫)を買って、受験勉強をほったらかしにして一月ほどかけて読んだ(目標にしていた高校に入学)。そのときに、この作家の小説を…

フョードル・ドストエフスキー「貧しき人々」(河出書房)-2

対するマカールでは下宿の同居人ブルシコフの存在に目をひかれる。マカールと同じ小官吏。彼は上司の不正か何か巻き込まれて訴追されていた。それは彼を意気消沈させるものであったが、勝訴し、職場の信頼も復活する。パーティの席で興奮して疲れて休んでい…

フョードル・ドストエフスキー「分身(二重人格)」(河出書房)

タイトルは「ドッペルゲンガー」を意味するロシア語だそうなので、米川正夫の「分身」のほうがあっている。岩波文庫のタイトルの「二重人格」は読者を混乱させるな。今なら「ドッペルゲンガー」で通じると思う(オカルト系ではこの現象の人気がなくなってい…

フョードル・ドストエフスキー「プロハルチン氏」「主婦」「ポルズンコフ」(河出書房)

以下は河出書房新社版全集第1巻に収録された中短編。 プロハルチン氏 1846 ・・・ 安下宿に長年寄宿している下級役人のプロハルチン氏。けちで他人を寄せ付けない偏屈な男。それがある晩姿を消し、体調を崩して帰ってきた。譫妄状態になり、ついに死亡する…

フョードル・ドストエフスキー「弱い心」「人妻と寝台の下の夫」「正直な泥棒」「クリスマスと結婚式」(河出書房)

以下は河出書房新社版全集第2巻に収録された中短編。1848年に発表されたもの。 弱い心 1848 ・・・ 長年ルームシェア(という言葉は出てこないけど)しているアルカージィとヴァーシャの青年下級官吏。大晦日の晩にご機嫌で帰ってきたヴァーシャを問いつめ…

フョードル・ドストエフスキー「白夜」(河出書房)-1

ペテルブルグにきて8年目、26歳になった「わたし」。友達がいないので、町をうろつくことしかできず、ずっとなにか考え事(空想)をしている。今日もうつうつとしていて、一人ぼっちで世の中から見捨てられている感じ。この自閉的な行動性向は素質によるのか…

フョードル・ドストエフスキー「白夜」(河出書房)-2

2020/02/20 フョードル・ドストエフスキー「白夜」(河出書房)-1 1848年 さて、この「白夜」の米川正夫訳は戦前から読まれてきた翻訳だ。 河出書房版全集の月報で、堀田善衛が「白夜」の思い出を書いている。少年のときに、この短編を、とりわけその冒頭を…