odd_hatchの読書ノート

エントリーは3600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2026/7/3

前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-1 会読会は身分制や共同体の規制から解放された自由と平等の言論空間。儒書、蘭書、漢文古典を共同で読み討論する。

日本の教育制度をみるために、まず江戸時代を探る。辻達也「江戸時代を考える」(中公新書)によると、江戸時代の初期に列島に住む人々に教育熱、学問熱が高まったという。詳細はわからなかったので、本書を参照する。江戸の人びとは会読会という読書会を開…

前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-2 19世紀、儒学と国学を学ぶ武士の会読会は政治的議論の場になり、自発的アソシエーションができた。

2026/09/07 前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-1 会読会は身分制や共同体の規制から解放された自由と平等の言論空間。儒書、蘭書、漢文古典を共同で読み討論する。 2012年の続き 徳川幕府が作った身分制による格式維持と戦争準備態勢を継続する…

前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-3 自発的アソシエーションで維新を達成した明治政府は平民の自発的アソシエーションを潰した。

2026/09/07 前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-1 会読会は身分制や共同体の規制から解放された自由と平等の言論空間。儒書、蘭書、漢文古典を共同で読み討論する。 2012年2026/09/04 前田勉「江戸の読書会」(平凡社ライブラリー)-2 19世紀、儒…

吉田真樹「再発見 日本の哲学 平田篤胤 霊魂のゆくえ」(講談社学術文庫) 記紀からは霊魂のゆくえを決められないので、篤胤は西洋の知見を神道に導入した。

日本思想としての平田篤胤にはぜんぜん関心はない。本書を読む理由は、神道平田派がなぜ「幕府倒壊の一つの力(和辻哲郎)」になったかということと、国家神道成立にどうかかわったかということだけ。あいにく本書にはその説明はなかった。その点では残念。 …

町田明広「攘夷の幕末史」(講談社学術文庫)-1 日本人はほぼ全員が攘夷である。公武合体でも一致していた。しかしその方法と時期で対立していた。

本書の惹句を書店のページから引用する。 「「尊王攘夷vs.公武合体」という幕末史の定説は、事の実相を捉えていない。当時の日本人の対外認識はみな攘夷であり、即刻それを為すか否かの相違こそが、あの血で血を洗う政争を生んだ。これまであまり顧みられ…

町田明広「攘夷の幕末史」(講談社学術文庫)-2 1864年の通商条約締結は攘夷は無意味になったが、「日本型華夷帝国」建設の夢は国民から消えなかった。

2026/09/01 町田明広「攘夷の幕末史」(講談社学術文庫)-1 日本人はほぼ全員が攘夷である。公武合体でも一致していた。しかしその方法と時期で対立していた。 2010年の続き 司馬遼太郎「竜馬が行く」はそれこそ文春文庫各巻を百回以上読んだのであって、細…

奈良本辰也「高杉晋作」(中公新書) 高杉の独断専行や横暴を維新政府が真似して、日本に大きな禍根を残した。

サブタイトルが「維新前夜の群像1」とある。1965年に本書が出た後、シリーズになった。すでに読んだ「大久保利通」「坂本龍馬」などもそれ。維新百年の記念事業が進んでいたとか、司馬遼太郎「竜馬が行く」の連載開始などがあって、維新を振り返る企画がた…

福沢諭吉「学問のすすめ」(青空文庫) 攘夷が無意味になった1872年に「日本型華夷帝国」をつくろうと提言したプロパガンダ本。幕府の世襲制は廃止するが身分制は残す。

通常、福沢諭吉は幕末維新の数少ない開明派で洋学派で、のちの明治政府の政策に大きな影響を与えた人とされる。実業でも成功したし、明治4年1872年にでた本書「学問のすすめ」も当時のベストセラーになった。日本国の紙幣に肖像が使われた。そんな人であれ…

落合弘樹「秩禄処分 明治維新と武家の解体」(講談社学術文庫) 支配階級の特権をたった10年で一方的に剥奪した。ほぼ無抵抗。士族がいないくなってから「武士道」が復活した。

秩禄処分は、華族(江戸時代のもの)と士族の家禄を廃止する措置。1876年(明治9年)までに完了した。対象になったのは公家、神官、郷士、大名、藩士など。この処分のあと、公職に復帰できたのは全体の3割くらいで、残りは失業した(なるほどなので、失業…

畑中章宏「廃仏毀釈 ――寺院・仏像破壊の真実 」(ちくま新書) 廃仏毀釈は天皇の行幸から教育勅語発布に至る国体思想教化の始まり。日本人の精神に及ぼした影響はとてつもなく大きい。

民俗学者による各地で行われた廃仏毀釈の掘り起こし。きわめて多数の地域で寺社が破壊され、仏像・仏具・その他が廃棄された。きっかけは1867年の神仏分離令。神仏習合の寺社に神社か寺社はか判然せよという指示だったが、政府の役人、地元の国学者、煽られ…

奥富敬之「名字の歴史学」(角川選書) 古代から日本に住む人は氏名・名字を持っていたが、次第に名乗らないように自主規制した。女性は結婚しても実家の姓を名乗っていた。

日本に住む人はどのように自分の名前を名乗ってきたか。 よくある誤解は、「江戸時代に武士と貴族以外の庶民は苗字をもっていなかった。明治4年の戸籍法で庶民に名字がつけられた」というもの。現代の歴史学では否定されている。 正しくは、古代から日本に…

尾脇秀和「氏名の誕生 ――江戸時代の名前はなぜ消えたのか」(ちくま新書) 一人が複数の名を持っているのが当たり前だったのを、明治政府は一人一名に強制した。

奥富敬之「名字の歴史学」(講談社学術文庫)の続き。奥富書は江戸時代より前の名に詳しかったが、そのあとは端折り気味だった。本書は江戸時代の名について詳しい。 その江戸時代の人名だがとてもわかりにくい。奥富書にあるように氏名・姓名が使われ、さら…

小野雅章「教育勅語と御真影 近代天皇制と教育」(講談社現代新書)-1 日本人の仏教信仰は、国体思想教育で上書き消去され、天皇の臣民として生きることを人生の目的にされた。

大日本帝国に、教育機関は天皇・天皇制の国家理念を普及させるための機関になった。その国家理念は「国体」(元は国学由来)の優越性を示すことだった。国体の中身は、万世一系の天皇が日本を統治すること、古代から永続する日本固有の仕組みであること。こ…

小野雅章「教育勅語と御真影 近代天皇制と教育」(講談社現代新書)-2 戦後の教育はリベラルと極右のせめぎあい。法があるからバックラッシュは進まない。

2026/08/19 小野雅章「教育勅語と御真影 近代天皇制と教育」(講談社現代新書)-1 日本人の仏教信仰は、国体思想教育で上書き消去され、天皇の臣民として生きることを人生の目的にされた。 2023年の続き アジア太平洋戦争の敗戦後。占領軍は国体思想を教育や…

山田孝雄「君が代の歴史」(講談社学術文庫) 和歌「君が代」は祝賀の歌。国歌「君が代」と軍歌は大日本帝国の国体イデオロギーを教化する役割を担った。

本書が出た1956年ころは国歌「君が代」に対する批判が強かった。いわく「元は恋の歌である」「民主主義に反する」(だから国歌にふさわしくない)。国学者にして、アジア太平洋戦争中は国策協力者となり、戦後公職追放された著者が「君が代の歴史」を書く。 …

辻田真佐憲「ふしぎな君が代」(幻冬舎新書) 成立も普及もなんとなくでなしくずしだった奇妙な「国歌」。

君が代の歴史を知りたいので、山田孝雄「君が代の歴史」(講談社学術文庫)1956を読んだ。国学者が書いたものだけあって、江戸以前は詳しい。でも、明治政府になってからは情報が錯綜している。はっきりしない。そこで、より新しい君が代史を読む。著者は辻…

辻田真佐憲「日本の軍歌 国民的音楽の歴史」(幻冬舎新書) 大日本帝国時代、日本の臣民は軍歌ばかり聞いていて、軍歌のイデオロギーをアイデンティティにしていた。

大日本帝国期(1868~1945)でもっとも日本人が愛好し消費した音楽は軍歌だった。民謡でも邦楽でもないし、まして輸入したジャズやクラシックなどでは断じてない。男女老若こぞって軍歌を愛好し、愛唱し、合唱したのだった。俺の個人的なみたてでは、日本人…

西田幾多郎「善の研究」(岩波文庫) 純粋経験から始まる思考は「教育勅語」の枠のうちに収まった。国家神道を西洋哲学の言葉で言い換えた日本最初の「哲学」本。

高校の「倫理社会」教科書をみて、岩波文庫を買った。旧字旧かなだったので、全く歯が立たなかった。昭和が終わってから新字新かなになったので、約半世紀を経て再挑戦。今度は読めた。 とても失望。同時に危険だとも思った。・俺は哲学の存在論も認識論も社…

川端美季「風呂と愛国 「清潔な国民」はいかに生まれたか」(NHK出版新書) 教育勅語と戦争勝利が日本人のセルフイメージを高揚させる。

俺くらいの年齢になると、1970年代の内風呂普及率は30~50%で、毎日入浴できるわけではないのを知っている。洗髪する頻度もそんなに高くない。なにしろ若い女性向けのシャンプーCMのコピーは「フケ、いやいや」だったのだ。若い女性が毎晩と毎朝洗髪するよ…

佐谷眞木人「日清戦争 「国民」の誕生」(講談社現代新書) 政治・外交・軍事からみると日清戦争はたいしたことはないが、「国民(というか臣民)」の誕生からみると一大変革になった重大なイベント。

日清戦争1894が日本人にどのような影響を及ぼしたかを当時の資料を使って検証する。なので、戦争の原因、戦況推移、講和とその後という政治と外交と軍事の話は一切出てこない。それは別書で補完しよう。 日本の近代戦争史の研究者によると、日清戦争は重要な…

九鬼周造「『いき』の構造」(岩波文庫) WW2敗戦までは、日本人論として使えた論が、粋な人は消え野暮と傾奇者(かぶきもの)ばかりになった21世紀には無効になってしまった。

ことばはたいてい翻訳可能性をもっているけど、あまりにナショナリティに関わっているものだと、適切な訳語がないよね。ことに民族性の根幹にかかわることばほど、別の言語ではいいかえられないものだ。たとえば、ドイツのガイストだし、フランスのエスプリ…

押川春浪「警戒すべき日本」(青空文庫) 明治末期(1910年)のネトウヨの檄文。現在のネトウヨとほぼ同じ主張。拡張と語彙は明治のネトウヨの方が上。

初出の1910年にはすでにネトウヨがいたのだなあ。今のネトウヨがいいそうなことは明治の終わりにはすでに型ができていたのだなあ。今のネトウヨはその型をコピーしているだけ。今のネトウヨは知識と論理に弱いから、コピーは劣化するだけ。100年以上前のこの…

北一輝「日本改造法案大綱」(青空文庫) 反英反米をこじらせ、アジアをバカにし、天皇親政を夢想する男が妄想した「ぼくがかんがえるさいきょうの日本」。

226事件の影の首謀者とかいわれ、実行者ともども死刑になったことしかしらない。彼の思想書とされる「日本改造法案大綱」をよむ。カタカナ書きはどうにも読みずらいので、青空文庫にあるテキストをひらがな書きに替えた。読みやすくなった。おかげで、この人…

杉本五郎「大義」(経営科学出版) 殉皇を決意させ国家のために死ぬことを内面化する書であるが、現存体制を転覆する革命を指嗾する危険な書物。

杉本五郎は1901年生まれの陸軍軍人。1937年に中国山西省の戦いで戦死した。最終階級は中佐。彼は自分の思想をノートに書き溜めた。最後の戦いの直前にノートを家族に残した。それを整理して1938年に出版した。大ベストセラーになった。 中身は、軍人による国…

石原莞爾「最終戦争論・戦争史大観」(青空文庫) 帝国陸軍の秀才が書いた空想的戦争論。どこにも応用が利かない床屋談義並みのでき。

満州事変を起こしたときの関東軍の作戦部長。板垣征四郎らと共謀して、柳条湖事件などを起こし、満州での戦端を開き、全土を占領した。1933年に満州国を建国(世界中が承認しなかった)。国際連盟から脱退する理由を作った。アジア太平洋戦争開始の責任者で…

文部省「国体の本義」「臣民の道」他(ネット復刻版) 西洋と武家政権を全否定し、「皇祖皇宗」の宗教国家を称揚する「日本スゴイ本」の元祖。

帝国日本の思想を知るには、官学や在野の人が書いたものを読んでもらちが明かない。そこで、政府や文部省その他が出した以下の文書を読む。書籍で入手するのは困難だが、著作権保護期間をすぎているので、ネットに転がっています。軍人勅諭(明治天皇)1882…

貴志俊彦「帝国日本のプロパガンダ 「戦争熱」を煽った宣伝と報道」(中公新書) つねに戦闘を行い国家を非常時に置くことで、行政と軍は臣民を教化扇動した。臣民も自分で「戦争熱」をあおり快感を得ていた。

「帝国日本」は聞き慣れない言葉。ここでは、1890年の大日本帝国憲法発布から1947年の失効までの期間を指す。小野雅章「教育勅語と御真影 近代天皇制と教育」(講談社現代新書)を見ると、帝国の方針はそれ以前からできていたと思える。一方で文化史ではこの…

早川タダノリ「「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(青弓社) 教育勅語教育を受けた大人が天皇の威光を借りて弱い人に奉仕と服従を強制し、自分は王様気取りでふんぞりかえる。

21世紀になって「日本スゴイ」言説が大量に現れてきた。書籍、テレビ番組。そしてSNS。これらの「日本スゴイ」は驚くほど画一的で、同じことを繰り返しているだけ。すでにパターン化しているので、反論も容易になってしまった。 この「日本スゴイ」ブームは…

NHK「ETV特集」取材班、荻野富士夫「証言 治安維持法」(NHK出版新書) 何が違法か条文があいまいなので、拡大解釈で大量検挙ができ、自白強要と拷問が行われた。

稀代の悪法とされる「治安維持法」。具体的にどこが問題だったのかを検挙者達の事例を追うことで明らかにする。 治安維持法が成立したのは1925年。そこに至るまでの概要を記すと、教育勅語と大日本帝国天保制定によって、この国は天皇が全権を持ち臣民は天皇…

将基面貴巳「言論抑圧 矢内原事件の構図」(株式会社百万年書房) 部下に言論抑圧があったとき、組織のトップは対抗できるか。個人の抵抗にまかせるだけで大学の自治は守れるか。

元は2014年に中公新書ででていたが、出版元を変えて2019年に電子書籍になった。 戦前の言論抑圧事件はおもにマルクス主義研究者に向けられていた。1935年までに共産党は壊滅したので、ターゲットは自由主義や個人主義を主張する研究者に向けられる。マルクス…