odd_hatchの読書ノート

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フョードル・ドストエフスキー「3 ロシヤの誕刺文学 処女地 終焉の歌 古い思い出」(米川正夫訳)

3 ロシヤの誕刺文学 処女地 終焉の歌 古い思い出 わたしは今月文学、つまり美文学、「純文学」にも精進した。そして、なにやかや夢中になって読破した。ついでながら、わたしはさきごろロシヤの調刺文学、――といって、現代の、今日のわが調刺文学なのである…

フョードル・ドストエフスキー「おかしな人間の夢」(米川正夫訳)

おかしな人間の夢 ――空想的な物語―― 1 おれはおかしな人間だ。やつらはおれをいま気ちがいだといっている。もしおれが依然として旧のごとく、やつらにとっておかしな人間でなくなったとすれば、これは、位があがったというものだ。だが、もうおれは今さら怒…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-1(1877年上半期)「おかしな人間の夢」

下巻は1877年から。近東問題は急を呼び、ついには露土戦争の開始にいたる。 そこでドスト氏は、汎スラブ主義と反ユダヤ主義を強く主張するようになる。ことに3月号は前編が愛国主義的な論。すなわち、この戦争は政党であり、コンスタンチノーブルはロシア領…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-2 (1877年下半期)

個人雑誌としての「作家の日記」。1877年夏ごろに、ドスト氏は体調不良を覚え、同年内の中止を決める。最終号では翌年から長編の連載を開始すると予告していたが、実際は1879年から開始された(「カラマーゾフの兄弟」)。 「作家の日記」を発行するにあたっ…

フョードル・ドストエフスキー「プーシキン論」(米川正夫訳)

第2章 プーシキン論 六月八日、ロシヤ文学愛好者協会の大会においてなされたる演説 プーシキンはなみなみならぬ現象である、おそらくロシヤ精神の唯一の現われであろう、とゴーゴリはいった。わたしはそれに加えて、予言的現象であるといおう。しかり、彼の…

フョードル・ドストエフスキー「後掲『プーシキンに関する演説』についての釈明」(米川正夫訳)

一八八〇年八月 第1章 後掲『プーシキンに関する演説』についての釈明 『作家の日記』の本号(一八八〇年の唯一号)のおもなる内容をなす、次にかかげるプーシキンとその意義に関するわたしの演説は、本年六月八日、ロシヤ文学愛好者協会の大会で、多数の聴…

フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 下」(河出書房)-3 (1880年)

「カラマーゾフの兄弟」連載のさなかの1880年と81年に「作家の日記」が再開された。 1880年はプーシキン論(1880年6月8日、ロシア文学愛好者協会大会での演説)。「作家の日記」収録にあたって、ドスト氏は「釈明」を書いている。それによると、ドスト氏は演…

米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-1

河出書房でドストエフスキーの個人訳全集を出版した訳者による研究書(全集別巻)。「ドストエーフスキイ」の表記は訳者による。 第1部は生涯。家族や知人、友人の記録を参照しながら、生涯のできごとを記載する。今回、「貧しき人々」からだいたい発表順に…

米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-2

2019/11/26 米川正夫「ドストエーフスキイ研究」(河出書房)-1 1958年の続き 続いて第2部は作品論。取り上げたのは以下。貧しき人々/分身/プロハルチン氏/主婦/弱い心/白夜/伯父様の夢・スチェパンチコヴァ村とその住人/虐げられし人々・死の家の記録/夏象…

レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-1

レフ・シェストフ(1866年2月12日(ユリウス暦1月31日)- 1938年11月19日)はロシア出身、ドイツに住んだ哲学者、文芸評論家。本書によるドストエフスキー読解は戦前の若者に大きな影響を与えたという。そういう歴史的な古典を、古本屋で河上徹太郎訳の文庫…

レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-2

2019/11/22 レフ・シェストフ「悲劇の哲学」(新潮文庫)-1 1903年の続き 続いて後半の論文。 ニーチェ ・・・ ニーチェもまたドスト氏と同じく苦悩と罪人を考えた人。その思想の経歴には似たところがある。ドスト氏のシベリア流刑のように、ニーチェは師で…

河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-1

河出書房新社が1970年代に出した有名作家の論文・エッセーのまとめ。なくなるまでに国内外の作家30人くらいが出たのではなかったかな。夏目漱石とドスト氏だけが2冊出た。需要が多かったわけだ。タイトルの「ドストエーフスキイ」は、この出版社で出してい…

河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-2

2019/11/19 河出文芸読本「ドストエーフスキイ」(河出書房)-1 1976年 もうすこし具体的な問題を取り上げた論文を読む。全体の10%に満たない文章のほうが重要だった。 ドストエフスキー(E・H・カー)1931 ・・・ 歴史家カーの最初の本であるドスト氏の伝…

亀山郁夫「『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する」(光文社新書)

2007年の病気療養中の3月から翌月にかけて、中学生の時に死ぬまでに一度読み通すという決心をした本を集中的に読んだ。マルクス「資本論第1巻(岩波文庫1~3)」、埴谷雄高「死霊」、ドストエフスキー「悪霊」と「カラマーゾフの兄弟」。毎日13-14時間を…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1

まえもって夏目漱石「吾輩は猫である」を読んでおいた方がいい。なので、未読の人は本書を読むのは後回しにすること。 猫の「吾輩」はビールに酔っぱらって水死したはずである。「吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年 新聞などから解る事情はこういうこと。1905年11月23日。夕方客のあったあと自室にこもっていた苦沙弥氏は翌朝頭を殴られて死んでいるのが発見された。家屋は内から戸締りがされていて…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-3

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年2019/11/12 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2 1996年 古典的なテキストを基にして、別の物語を載せてリフレッシュさせる文学は、例えばクリストファー・プリースト…

山口雅也「日本殺人事件」(角川文庫)

日本人の母(再婚のため血縁はない)を失ったとき、トーキョー・サムはまだ見ぬニホンへの憧憬が強まった。サンフランシスコの私立探偵ライセンスは米軍基地のあるカンノン市では有効である。そこで、失業したサムはわずかなたくわえでニホンへ向かった。そ…

山口雅也「続・日本殺人事件」(創元推理文庫)

「日本殺人事件」1994年の評判が良かったので、作者に連絡をとってあと2作を翻訳して1997年に発表した、とされる。 巨人の国のガリヴァー ・・・ 私立探偵事務所を開くことになったトーキョー・サム。最初の依頼人はなんとスモウ・レスラーだった。カンノン…

山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1

創元推理文庫で650ページ弱の分厚さで、途中でメモを取るのをあきらめたから、以下のサマリーには盛大に勘違いがあると思います。 アメリカ、ニューイングランドの片田舎にあるトゥームズヴィル(墓の町)という奇妙な名前の町。イギリスから移民したバーリ…

山口雅也「生ける屍の死(創元推理文庫)-2

2019/11/05 山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1 1989年の続き 初出は1989年(その後改訂されたらしい)。思い出すと、1980年代後半に「脳死」論争があった。医療機器の発達で脳以外の器官は機能停止にならないが、脳だけが機能停止した状態があり、…

山口雅也「キッド・ピストルズの冒涜」(創元推理文庫)

パラレル世界のイギリスは読者の現実世界と地続きではあるが、微妙な差異がある。たとえば、シェークスピアは「オセロ」を喜劇として発表し、ジョン・レノンは暗殺されていなくて・・・。それでも経済停滞はどうしようもなく(バージェス「時計仕掛けのオレ…

山口雅也「垂里冴子のお見合いと推理」(講談社文庫)

「垂里家の長女・冴子、当年とって33歳、未婚。美しく聡明、なおかつ控えめな彼女に縁談が持ち込まれるたびに、起る事件。冴子は、事件を解決するが、縁談は、流れてしまう……。見合いはすれども、嫁には行かぬ、数奇な冴子の運命と奇妙な事件たち」http://bo…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1

作者曰く、1955年にこの構想が一気にまとまったにもかかわらず、なかなか書き進めず、第2章までのところで乱歩賞に応募したのが1962年(次席)。増補して現在の形(原稿用紙1200枚)で出版したのが1964年。評価は芳しくなったが、埴谷雄高の文で再評価開始…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年の続き 第2章 ・・・ 氷沼家に40年も奉公していた爺やが「黒月の呪法」などと言い出したので(医師の藤木田老は分裂症(ママ:死語)の疑いありといっていた)、家族の同意で収容される。蒼司は…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-3

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年2019/10/28 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2 1964年の続き 第4章 ・・・ 藍司が息せき切って急いだのは、八田を詰問するためで、実のところ死んだはずの黄司とつながっていたのは八田…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-4

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年2019/10/28 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2 1964年2019/10/25 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-3 1964年の続き 「事件は終わった。しかし、なにか割り切れぬうそ寒い気持ちだ…

大杉栄「自叙伝・日本脱出記」(岩波文庫)

大杉栄は1884年生まれ。軍人の家庭に生まれたが、どうも子供のころから無鉄砲でやんちゃだったようだ。長じて陸軍幼年学校に入校したが、ここで権威に従えない自分を発見し、種々の問題を起こした挙句に放校となる。幼年学校で教師や同級生などとずいぶん角…

荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1

荒畑寒村は1887年生まれ。長じて社会主義者となり、さまざまな活動にかかわる。戦後は代議士にもなった。長命であったので、日本の社会主義運動の生き字引的存在。彼が折に触れて書いた自伝を上下二巻にまとめる。 空想少年の生い立ち ・・・ 里子に出された…

荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-2

2019/10/21 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1 1975年 寒村の目で見た社会主義運動の歴史。上巻の主人公は幸徳秋水と堺利彦。若い寒村は数歳年上の菅野須賀子と出会い、同棲し結婚する。ここからは大逆事件に向けて緊迫した状況になる。ja.wikipedia.or…