宮沢賢治にはまったく興味がない。そりゃ小学生のときに童話を読んだり、10代に詩集を読んで関心したりしたさ。20代の時に数冊を読んださ。でも、読んでいくうちに「なんかこいつへん」という感想になってそれっきりになった。見田宗介「宮沢賢治」岩波書店1…
青空文庫に収録されている三木清の論文とエッセイから関心をもてそうなのを選んで読んだ。 マルクス主義と唯物論1927.08 ・・・ 新カント派からハイデガーを経由してパスカルに至った哲学者(「読書遍歴」)によるマルクス主義の解説。通俗的な説明に、さま…
2010年代に「蟹工船」が若い人たちによく読まれて、自分事として工員たちに共感した。あいにく俺は共感(エンパシー)を感じにくいたちなもので、とても冷静に分析的に読みます。自分に重ね合わせて読んでいる人たち、ごめんなさい。 蟹工船1929 ・・・ 特定…
小林多喜二のプロレタリア文学の新しさは、文学の場として工場を発見したこと。知的エリートたちが見向きもしなかった場所がとても人間くさい場所で、社会の問題が結晶しているかのような場所だったのだ。新しいのは、機械と騒音。工員も監督も工場との契約…
女性の文学をほとんど知らないという体たらくなので、青空文庫にある岡本かの子の小説や随筆を読む。俺が知っている文学史(昭和に書かれたもの)にはほとんど登場しない(か俺が無視していた)ので、あたりがつかない。とりあえず中公文庫の「老妓抄」に載…
原民喜は1945.8.6の広島原爆の被災者。ここでは被爆とその後を書いた代表作二つを読む。 夏の花1947 ・・・ 妻を亡くした中年男(書かれていないが高校教師のため徴兵されていないらしい)が1945年8月6日の広島にいる。半裸で起きたばかりに「ピカ」にあう…
人生三度目の読み直しは老年に入ってから。およそ20年前の感想は以下。 「西脇順三郎詩集」(新潮文庫) 高校生の時の難解さはとうに消え、日本語の美しさを堪能する。 60代の半ばに近づくと、もう〈この私〉が私であることは大きな問題ではない。むしろ自我…
山川方夫やまかわ・まさお(1930—1965)で知っていることは青空文庫の紹介文だけ。短編小説、ショートショート(★をつけたもの)の書き手。雑誌「マンハント」の常連。35歳で交通事故死。彼の同世代は、都筑道夫、筒井康隆、広瀬隆などか。ショートショート…
2025/2/21放送のNHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」で、韓国では翻訳された柴田翔「されどわれらが日々―」がとても人気で、共感している読者がたくさんいるとレポートしていた。なるほど。俺も約半世紀前に読んだが、内容をすっかり忘れている。そこで、再読…
高校生のときに文学史の知識を得るために買った。教科書の後ろにあった文学年表をなんども見ていて(次に買う文庫を決めるため)、さらに本書を読んだので現国の文学史は完璧でした。以来半世紀を経ての再読。いやあ懐かしい。 とはいえ内容には不満。先に書…
2025/11/04 中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-1 文学や小説を明治社会が排除したのは帝国大学を頂点にする立身出世主義。 1954年の続き 前のエントリーでは1890年代の頭の方までを取り上げた。漏れていることが二点。 ひとつは1890年代に帝国大学の方…
2025/11/04 中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-1 文学や小説を明治社会が排除したのは帝国大学を頂点にする立身出世主義。 1954年2025/11/03 中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-2 立身出世に背を向ける「落伍者」による日本の近代小説は、都市-…
十代半ばから小説を読み始め、爾来四十年たち、あらかた日本文学を読んでしまった。そんな著者が言うには、昭和の終わりまでに日本の近現代小説は終焉を迎えた。日本の小説の歴史は終わった。 結論は同意するけど、そこに至る思考には不同意。俺には、日本の…
メリメの原作(1840年)よりも、ビゼーの歌劇(1875年)のほうが有名。そのせいか純朴な若者が性悪な女にたぶらかされて、悪の組織に転落したが、女の浮気がやまないのでついカッとして殺人を犯してしまったという物語として理解されている(俺がそう)。フ…
2025/10/29 プロスペ・メリメ「カルメン」(岩波文庫)-1 フランスに圧倒されている王政スペイン。国内の少数民族は抑圧され差別されている。 1840年の続き ドン・ホセはナヴァラ州生まれでバスク語を母語にするバスク人。バスクとバスク人は下記参照。もと…
1855年に発表されてからずっと埋もれていたが、今世紀になって日本の翻訳者が発見して、原文付きの論文を発表した。するとフランスでも反響があって、復刻されたという。慶賀。 本文に入る前に前書きを読んで、この中編の背景を探ろう。 ・フランス革命は、…
2025/10/27 シャルル・バルバラ「赤い橋の殺人」(光文社古典新訳文庫)-1 19世紀半ばのフランスの状況について 1855年の続き パリで気ままな「放浪芸術家(ボエーム)」生活をしている青年マックスは、最近成金として名をあげているクレマン氏の夫人ロザリ…
2025/10/27 シャルル・バルバラ「赤い橋の殺人」(光文社古典新訳文庫)-1 19世紀半ばのフランスの状況について 1855年2025/10/24 シャルル・バルバラ「赤い橋の殺人」(光文社古典新訳文庫)-2 気難しく激高しやすいクレマンは積極的無神論者で、過去を隠す…
人生三度目の読み直し。もう高校生時代の熱狂はないし、中年のときの高揚もない。詩想に溺れるよりも、なぜランボーはこういう想像力を持ったのか、という視点で読んだ。これまでの読書ではすっかり頭の中になかったが、ランボーが詩を書いたのはハイティー…
探偵小説のベストリストを作れば上位に必ず入る有名作。百年以上前(1907年刊行)の作品がなぜいまでも人気があるのか。 初出1907年の15年前に起きた事件というので1892年のこと。アメリカ帰りの科学者が世界をあっと言わせる研究を進めていた(まだノーベル…
牧師(明示されていないがすなわちプロテスタント)の「わたし」はある娘に呼び出されて村から離れた湖のほとりにある家に連れていかれた。老婆が死んでいて葬儀の段取りを決めたのち、そこにいた15歳くらい娘を引き取ることにする。彼女は盲目であり、教育…
この30年間の生命科学の発展がよくわかる本。1980年代にヒトのゲノム解析をするのが国家プロジェクトになったのだが、数十年がかりで多数の研究者を必要とすると思われていた。それがシーケンサーの発明によって塩基配列決定が短時間でできるようになった。…
DNAの構造解析が生物学のホットトピックだった1940~1950年代前半にかけての記録。著者はDNAの構造模型を提唱して、1962年にノーベル賞を受賞した。この研究に従事していたのは22~25歳にかけてのこと。なんとも早熟で、鼻っ柱が強く、傍若無人で怖いもの知…
科学の専門教育に挫折した時、学生の残り時間で科学論を独習した。村上陽一郎や柴谷篤弘、トーマス・クーンなどの読書感想エントリーがあるのはそのなごり。しばらく離れていたので、数十年ぶりに科学論を読む。なお、科学論と科学哲学は重なるところが多い…
2025/10/15 佐々木力「科学論入門」(岩波新書)-1 古典科学、17世紀の科学革命、フランス革命以後の科学でみる科学の特性と発展 1996年の続き 続いて後半。テクノロジーが主題になる。 第3章 技術とはなにか、それは科学とどう関係するか? ・・・ 日本で…
著者木下尚江は、すみません、よく知らない人。調べないで書くと、明治初期の生まれで若いときにキリスト教に感化。1900年前後に毎日新聞に入社。幸徳秋水、田中正造らと知り合う。当時の毎日新聞は経済的と政治的自由主義を主張する新聞社だった。彼の上司…
明治から大正にかけての反公害運動をフィクション化したもの。題材になった日立鉱山の煙害のまえに、足尾銅山の鉱毒事件があった。田中正造の直訴と谷地中村消滅で有名だが、足尾の場合は公害被害者は国家の支援を受けられず離村離散してしまった。一方、日…
2023年夏に第8波か第9波の流行があり、その次の波はとても小さくなった。すでにコロナウィルス感染で重症化する人は少なくなり、死亡者もほぼいなくなった。そしてなし崩し的に緊急事態宣言が解除され、三密やソーシャル・ディスタンスなども言われなくなり…
2023年(感想を書いた年)は世界的に暑い夏。国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代(the era of global boiling)が来た」と発言した。https://www.asahi.com/sdgs/article/14969821 地球がおかしなことになっている。それは新聞やテレ…
2025/10/07 アイスキュロス「ペルシア人」(KINDLE) ギリシャ悲劇を政治学の教科書として読む。サラミス海戦大勝をペルシャの側から描くことで、愛郷心と愛国心をを喚起し民主制の大事さを教える。 BC472年2025/10/06 アイスキュロス「テーバイ攻めの七将」…