odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-01-01から1年間の記事一覧

藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-1 1937年(昭和12)から1941年(昭和16)までの歴史。「太平洋戦争」の戦闘指揮官と東京裁判のA級戦犯が「大活躍」。

一九三七年(昭和一二)から一九四一年(昭和一六)までの歴史。この巻では、「太平洋戦争」の戦闘指揮官と東京裁判のA級戦犯が登場して「大活躍」する。彼らの名前を憶えておいて読むとよい。 日中戦争の歴史的意味 ・・・ 1931年から1945年まで続いた戦争…

藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-2 次の首相を決めるシステムが働かなくなり、天皇は自分の意志を政治に反映するようになる。

2022/12/23 藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1939年になると、次の首相を決めるシステムが働かなくなる。昭和天皇は元老や宮内庁などが根回しして決めたことを後追いすればよかったが、この時期になると自分で判断すること…

粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-1 昭和(1927年)になってから以降の政党の動き。普通選挙法施行によって票が読めなくなり、政党は大衆相手の政治活動に変わる。

本書では昭和(1927年)になってから以降の政党の動きを見る。それ以前の政治状況は以下のエントリーを参考に。金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-1金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-2 政党はそれまでなかったわけで…

粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-2 国民は戦争に熱狂し、戦争に期待し、ファシズムの国民運動に参加した。戦後政治の形はこの国民運動で形成された。

2022/12/20 粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1920年代後半の経済トピックは金解禁。本書では記述は少ない。そこは経済史の本で補完しておきたい。2015/03/23 中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫)2015/03/2…

木坂順一郎「太平洋戦争 昭和の歴史7」(小学館文庫) 1941~1945年。軍や民間人が占領地や植民地で残虐行為や強奪を繰り返す。

この時代(1941~1945年)はおもに戦史を読んでいて、陸海軍の各地の戦闘はそれなりに知っていた(日本の側から戦史分析をすると見方が偏る/見えないものがあるので、相手国からの戦史も参照するべき。マッカーサーのみならず毛沢東や朱徳の立場から見ること…

森村誠一「ミッドウェイ」(講談社文庫) IFを重ねて歴史を捏造しようとしても日本海軍は勝てない

1976年のジャック・スマイト監督の映画「ミッドウェイ」は、海戦・空戦のシーンになる後半になると、ドラマがなくなる。どうにかして戦争や戦闘の全体を伝えたいという意欲があるものの、カメラの眼は目前のシーンに注目してしまう。なにしろ、戦闘の帰趨を…

鴻上尚志「不死身の特攻兵」(講談社現代新書) 9回以上出撃して生還した特攻兵からみる軍隊のでたらめと兵士への暴力。

日本海軍の特攻兵のなかに、1944年10月から翌年3月までに9回以上出撃して生還した下士官がいた。生還したのは、体当たりのかわりに爆弾を投下(固定された爆弾を取り外せるように修理)したり、天候不充分で敵艦を見つけられなかったり、整備不良で帰投した…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 命令には忠実だが将校(指揮者)がいなくなると死を恐れ、仲間内の私情(メンツや恥)で結合し、親分子分的関係にあるので他の集団には冷淡。

今まで日本軍、とくに15年戦争時代の日本軍、には紋切り型の説明がなされてきた。曰く精神主義、曰く非合理、曰く戦略・戦術なしなど。20世紀の軍批判はその線にそって行われてきたが、それは正しいのか、という問い。21世紀には、日本軍が残した資料をつか…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-2 戦闘で被害を受けたはずの日本人が占領軍に従順だったのは時刻の政府と軍隊を信用しなかったため。

2022/12/12 一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 2014年の続き 太平洋戦線での日本軍は、奇襲と集団突撃か陣地とたこつぼによる防御かの同じ戦法を繰り返した。米軍との戦いで創意したのではなく、中国戦線での成功体験を繰り返していたとみた…

佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書) 終戦の“世界標準”からすれば8/14か9/2が妥当。世界の視線・国外からの視線・被害者からの視線で戦争を考えることが少なくなるように8/15にした。

8月15日正午はとても暑く、校庭や工場などに集まってラジオから流れる「玉音放送」を聞き、その後嗚咽する者がいたりしたが、多くのものは虚脱した(ちかくに朝鮮人部落があるものはそこから流れる祭りの音に驚いたりもする)。以来、8月15日は慰霊の日とし…

神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-1 1945年から52年まで。日本が他国に占領され、主権が制限されていた時代。戦争責任の追及を他国まかせにして、自分たちで民族の犯罪を断罪しなかった。

1945年から52年まで。日本が他国に占領され、主権が制限されていた時代。これまでに読んだ参考書は下記など。2015/04/10 竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫)2021/01/29 雨宮昭一「占領と改革」(岩波新書) 2008年 末尾の一文で著者は占領期を「いまわ…

神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-2 天皇制は維持され、国策が対米従属に変更される。

2022/12/06 神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-1 1988年の続き 民主主義といっても国によって形態はさまざま。日本を占領して統治する組織であるGHQはアメリカが創っていたので、その指令はアメリカの民主主義の影響を受けている。彼ら…

芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-1 1952年から1960年。占領期間が終えたらすぐに右翼が政権をもち、憲法に反対する政策を取り出した。

1952年から1960年。1982-83年にこの本を書いたというから、著者らにとっては昨日のできごとで、自分の体験が濃厚に記憶されている時期だ。歴史家はいかにして冷静さと公平さをたもつことができるか。 サンフランシスコ体制の発足 ・・・ 1952年4月講和発効。…

芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-2 本は全体として経済発展したが、国外の状況を無視した説明では不十分。

2022/12/02 芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-1 1988年の続き 以後は社会世相。生まれる前の時代だが、文学やノンフィクションでこの時代をいろいろ調べて知っているので、感想は簡単に。 高度成長のスタート ・・・ 数年おきに好…

宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-1 1961年から1976年ころまで。バブル時代に書かれたので、経済の評価は大甘。

1961年から1976年ころまで(文庫は1989年だが、単行本は1982年)。著者も読者も経験した時代のことなので、著者は歴史学者ではなく、社会学者となった。多くの住民運動の調査の携わり、政府や官庁の資料には現れない情報が加わっている。一方、これまでのよ…

宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-2 人間の孤立化アトム化が進行し、地域共同体が空洞化し、世襲により政治家の質が低下した。

2022/11/29 宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-1 1989年の続き 通常1970年以降はなにもない時代とされるのだが、それは時代を象徴する事件がなかったせい(というか類似の事件が多すぎた)。実際はこの時代から人間の孤立化アトム化が進行し…

江戸川乱歩「探偵作家としてのエドガー・ポオ」(1949)(エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)から全文採録)

探偵作家としてのエドガー・ポオ 江戸川乱歩 1 推理三味(ざんまい) 探偵小説史は一八四一年から始まると云われているとおり、ポオの処女探偵小説『モルグ街』は、その年の四月フィラデルフィアの〈グレアム雑誌〉に発表されたのだが、彼はそれ以来一八四…

江戸川乱歩「カー問答」(1950)(ミステリマガジンNo255,1977年7月号から全文採録)

略歴 「あなたはカーがひどくお好きなようだから、いろいろお訊ねして見たいと思いますが、先ず彼の略歴から一つ」 「そうだね、僕も詳しいことは知らないが、ここにあるヘイクラフトの『娯楽としての殺人』(探偵小説史)と、やはりヘイクラフトの執筆してい…

最相葉月「絶対音感」(新潮文庫) プロの音楽家になるのに必須の要件ではないのに、日本では戦前からありがたがられている。

絶対音感は、ある音を聞くとそれに対応する音の名前を瞬時にあてることができるという能力。絶対音感をもっていると、一度フレーズを聞いただけでピアノで演奏できたり、楽譜と間違っている音をあてたりできるという。さらには聞こえる音がドレミで流れるば…

小澤征爾/広中平祐「やわらかな心をもつ」(新潮文庫) リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」第3部「英雄の戦場」。現在進行中の仕事を抱えている日本人のいささか偏狭で屈折したプライド。

リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」になぞらえれば、第3部の「英雄の戦場」に当たる。第2部「敵」第3部「伴侶」に当たる著書は(たぶん)ないが、小澤征爾の半生にてらせば、N響事件が「敵」の章だろうし、その後バーンスタインやカラヤンに教えを乞…

小澤征爾/大江健三郎「同じ年に生まれて」(中公文庫) リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」第4部「英雄の業績」の2。ウィーン歌劇場の音楽監督とノーベル文学賞受賞者の対談。

小澤征爾と大江健三郎は同じ1935年の生まれ。2001年にハーバード大学で名誉博士号を同時に受賞した。それを受けて二人の対談をが計画され、同年9月秋に行われた指揮者が主催する音楽祭で実施された。数年前に大江がノーベル文学賞を受賞したり、翌年に小澤が…

小澤征爾/村上春樹「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社) リヒャルト・シュトラウスの英雄の生涯」第5部「英雄の隠遁と完成」。指揮者の仕事はつねに「ワーク・イン・プログレス(試行錯誤中)」。

リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」になぞらえれば、第5部「英雄の隠遁と完成」にあたる。初出の2011年の前に、食道がんになり長期療養をすることになり、ステージにあがることはめったになくなった。本人がいうには「ひまになった」。それまで忙しく…

深水黎一郎「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」(講談社文庫) 日本初のオペラハウスで起きた演劇ものミステリー。オペラの現代的読み替えもミステリー的。

オペラには人が死ぬ話が多くあり、ときには舞台で殺されたりもする。ふと思いつくだけでも、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」「神々の黄昏」、ヴェルディ「オテロ」、ビゼー「カルメン」、ベルク「ヴォツェック」、ショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡の…

深水黎一郎「花窗玻璃 天使たちの殺意」(河出文庫) ランス大聖堂で起こるフランス人の事件を造語能力の高い漢字を多用して記述する。

ランス大聖堂はフランスのゴシック建設で三本の指に入る名建築。これに魅了された少年(18歳をそう呼ぶのは躊躇したいが、ここではそう呼ぶしかない)が、大聖堂を調べる。そうすると、建築様式から始まって室内装飾、浮彫彫刻、ステンドグラス(タイトルの…

深水黎一郎「ジークフリートの剣」(講談社文庫) 日本の「恐れを知らない若者」がバイロイト音楽祭でゲルマンの英雄のように大活躍。

表層の物語は、「恐れを知らない若者」であるヘルデンテノール歌手・藤枝和行がバイロイト音楽祭の指輪チクルスでアジア人初のジークフリート(@ワーグナー)を歌うまで。上演開始の1か月前にバイロイト入りをして、練習を重ね(いちど舞台の装置が近くに落…

深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」(講談社文庫) 犯人を決めつける前のシュレディンガーの猫的な状態を小説にする離れ業。

面白かった。でも、感想を書きずらい。というのも、筒井康隆の実験小説と同じように、作品のねらい、技法などが作中やあとがきに懇切丁寧に書かれているから。なので、付け加えることがほとんどない。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jp なる…

深水黎一郎「言霊たちの反乱」(講談社文庫) 言語遊戯を全編に展開する知力と体力に感嘆。マジョリティの差別感や他者への暴力容認に鼻白む。

言葉はたいていは発話者がコントロールしていて、言語ゲームの参加者の中では意味と記号が共有されている。ことになっているけれども、ときに、意味と記号がずれてしまって違和感を持つことがある。ホフマンスタール「チャンドス卿の手紙」では、この違和感…

野家啓一「パラダイムとは何か」(講談社学術文庫) クーン「科学革命の構造」より後のパラダイム論争のてごろなまとめ。

もとは1998年にでた単行本。トーマス・クーン(1922年7月18日 - 1996年6月17日)の翻訳は過去に二冊、できるだけ詳しく読んでみた。2013/02/13 トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学術文庫)-12013/02/12 トーマス・クーン「コペルニクス革命」(…

青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」(講談社現代新書) ひとつしかない宇宙が人間に合うように作られたのではなく、無限ともいえる宇宙のなかにたまたま人間が生存可能な物理定数をもつものがあってそこに人間がいる、という考え。

人間はこの世界(宇宙)はどのようにできているかをどうにかして説明しようとしてきた。あいまいなままであるより、起源が明らかであり規則や秩序がわかるほうが安心できるからだ。古代の宇宙論や中世の占星術の試みの後、近世になって科学もそれにこたえよ…

サイモン・シン「暗号解読 上」(新潮文庫) 西洋、とくにイギリスは暗号好き。チューリングがひとりでブレークスルーを果たしたわけではない。

モルテン・ティルドゥム監督の「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」2014年をみたので、エニグマ解読のことを知りたくて本書を入手した。 映画はアラン・チューリングを主人公にして、彼の功績で解読に成功したように見せているが、実際は…