odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

都筑道夫「闇を喰う男」(天山文庫) 500人殺すまでは死ねない男。大河小説の一部だけが手元にある。読者は存在しない巨大な小説を空想する。

ロスのホテルで、黒人の男がいきなり襲ってきた。無我夢中で戦ううちに、ナイフが相手の胸にささる。奇妙なことに黒人は笑みを浮かべて死んでいった。そのときから南米の邪神の呪いを受け、500人の人間を殺すまでは死ねないことになる。「おれ」は東京にもど…

都筑道夫「深夜倶楽部」(徳間文庫) 仕事も年齢も違う男女が定期的に集まって、それぞれが怪談を披露する。ナラティブを使い分けるのは小説の職人をみるかのよう。

仕事も年齢も違う男女が定期的に集まって、それぞれが怪談を披露する。それこそ「デカメロン」から「新・アラビアン・ナイト」から「奇商クラブ」まである連作短編の一つの趣向だ。さて、都筑センセーはどんな夢を見せてくれるでしょうか。 死びと花 ・・・ …

都筑道夫「二日酔い広場」(集英社文庫) 家族を失いアルコールにのめりこむ久米五郎は昭和一桁生まれ。同世代ができない「親」の役割を代行する。

久米五郎は定年にならずに退職した元刑事で今は私立探偵。娘と妻の乗ったタクシーに乗用車が突っ込み、家族を失ってから、アルコールにのめりこむ。退職したのも公金に手を出したため。知り合いのお情けでぎりぎりの生活をしているニヒリスト。「酔いどれ探…

都筑道夫「妄想名探偵」(講談社文庫) 新宿ゴールデン街の酒場に都筑版「隅の探偵」。主人公の探偵はなにかのパロディで、ストーリーも探偵小説のパロディ。

推理作家の津藤は毎夜、新宿ゴールデン街の小さな飲み屋にいくが、そこには得体のしれない男がいる。今何をしているかもわからないし、過去の経歴も一定しないででまかせばかりいっているようだ。でも推理能力が高くて、飲み屋に持ち込まれる事件を解いてし…

都筑道夫「幽鬼伝」(大陸文庫)

文庫本初版が1988年なので、1980年代前半に雑誌連載されたと思う。この種の書誌情報は必須だと思うので、解説に記載してくださいな。 主人公たちは、駒方の岡引・念仏の弥八(首の数珠をしごくと南蛮鉄の堅い棒になる)に、元八丁堀同心の稲生外記(いのうげ…

都筑道夫「神変武甲伝奇」(角川文庫) 死体が持っていた迷子札を手掛かりに浪人とその助けが財宝探しに旅立つ。江戸を舞台にした一大伝奇小説。

江戸の昔に、村尾平四郎という粋でいなせで涼やかで、女には弱いが剣には強く、義理と人情を重んじる若い浪人がいたと思いなせえ。一夜の酒と寝場所をくれるってんで、商人の離れ屋敷を警護することになったんだが、驚いたねえ、どでかい蝶の格好をした凧が…

都筑道夫「べらぼう村正」(文春文庫) 「神変武甲伝奇」のスピンオフ。社会からはじき出された浪人が同じ境遇の女たちのアソシエーションの用心棒になる。

「神変武甲伝奇」の左文字小弥太は、ニヒルであっても気のいい浪人ものであったが、ここではひどく鬱屈している。要するに、旗本の次男坊、三男坊に生まれたために家禄を継げず、30代なかばで隠居させられてしまったから。ようするに武士社会との縁を切らさ…

都筑道夫「風流べらぼう剣」(文春文庫) 「神変武甲伝奇」のスピンオフ2。岡っ引きと武士に狙われる浪人と女たち。人とかかわるとニヒルを粋がるだけでは済まない。

前巻は、都筑道夫「べらぼう村正」(文春文庫) 左文字小弥太は武士の世を捨てたはずだが、人はそう見てはくれない。前巻で小弥太に因縁をつけた武士三人(彼らも家禄を継げない鬱屈したひとたち)に付け回されときに事件を持ち込むし、この半年で数人が殺さ…

都筑道夫「新顎十郎捕物帳」(講談社文庫) 1980年代に遺族の了解を取って書いた顎十郎のパスティーシュ。作家はシリーズキャラを書くのを楽しんでいる。

1980年代になって都筑センセーが遺族の了解を取って書いた顎十郎の捕物帳。連載時に自分がまるで注目しなかったのは、久生十蘭の「顎十郎捕物帳」を読むことができなかったから。現代教養文庫の久生十蘭集には収録されていないし、三一書房の全集は高くて買…

都筑道夫「新顎十郎捕物帳 2」(講談社) 顎十郎パスティーシュ第2弾。作家は謎解きよりも江戸の失われた風俗を記録するのに熱中したとみえる。

さて、第2巻。 三味線堀 ・・・ 顎十郎、街中を歩いていると変装した大盗賊・伏鐘の重三郎に呼び止められる。部下が殺されたので敵をとってくれというのだ。ある夕立の中、部下が雨を避けようとしていると突然の雷、橋の上で崩れ落ちたところに、南町奉行所…

都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫) 探偵小説好きが高じてそのものになってしまう。もめごとにちょっかいを出す夫に妻はひやひや。

一応背景を説明しておかないといけない。都心からそう離れていない私鉄の駅のそばにあるスナック「伊留満(イルマン)」がある。その主人・茂都木宏は無類の探偵小説好きで、あまりの熱心さで、ときに探偵そのものになってしまう。コスプレ程度で済むのなら…

都筑道夫「捕物帳もどき」(文春文庫) 吉原の唐琴屋の若旦那・丹次郎は捕り物ごっこが大好きで、町の名人のまねをしては、幇間・梅廼家卒八を困らせる

もどきシリーズ第二弾。一応背景を説明しておかないといけない。ころは江戸の終わり。吉原の唐琴屋の若旦那・丹次郎は捕り物ごっこが大好きで、町の名人のまねをしては、幇間・梅廼家卒八を困らせる。それを明治の半ばに、速記術を勉強している書生に聞かせ…

都筑道夫「チャンバラもどき」(文春文庫) 幕末に活躍した剣士や英雄の真似をするという奇癖をもっていた元武士の話を速記する。

もどきシリーズ第三弾。原作者を調べておいたが、読んだことのあるのはひとつもねえや。こちらは1984年単行本初出。 枠組みは、明治の時代に新聞社に勤める書生が書き手。速記を練習しているところを青沼という老人と知り合う。この老人が菅谷半次郎という零…

都筑道夫「泡姫シルビアの華麗な推理」(新潮文庫)

1980年前半の吉原周辺および「トルコ風呂(当時の呼称)」の風俗を描きながら、アームチェア探偵(職業からの連想で「ベッド・ディテクティブ」と呼ばれる)を行う短編集。個人的な感想だと、ノースキンであることを除けばサービス内容はほぼ今と変わらないな…

都筑道夫「ベッド・ディテクティブ」(光文社文庫)

「泡姫シルビアの華麗な推理」の続編。版元が変わっている。1986年初出。 ふたりいたシルビア ・・・ 休暇明けで店に出ると、新人ソフィーが50万円を返すといってきた。もちろんシルビアは、ソフィーも彼女のいう別のシルビアも知らない。なじみの客に話をし…

都筑道夫「全戸冷暖房バス死体つき」(集英社文庫) コーコシリーズ1。田舎から出てきた人を集住させる団地は隣人との人間関係が希薄で無関心。

東京中央線の立川と国分寺の間あたりに、多摩由良という町がある。そこは1970年代初頭から巨大な団地がつくられ、少し高級なものだから、雇いの警備員を配置している。それが滝沢一家。元刑事の父に、兄の警備員、主人公の紅子(コーコと愛称)。つるん…

都筑道夫「世紀末鬼談」(光文社文庫) 1987年初出の短編集。恐怖小説と探偵小説が半々。「もしもし倶楽部」は地の文がない実験作。コーコシリーズ補遺。

1987年初出の短編集。恐怖小説と探偵小説が同じくらいの量で収録されている。 夢しるべ ・・・ 妻と別れて別の女をかこっている男が、間男をしている夢を見る。覚めると、その女から鍵を返せと電話、喫茶店で待つ女は妻の顔で、声は女で、いや声も妻で・・・…

都筑道夫「髑髏島殺人事件」(集英社文庫) コーコシリーズ2。1980年代、団地にはあらゆる世代が住んでいる。昭和30年代の雑誌と探偵小説の思い出話がおもしろい。

能登半島の先にある通称「髑髏島」にそれぞれ知り合いではない数名の男女が集められた。その日から起こる猟奇的な連続殺人事件! コードネーム「髑髏」が暗躍、彼らは生き延びれるか?島を脱出できるのか? ・・・というような話は、マイケル・スレイド「髑…

都筑道夫「まだ死んでいる」(光文社文庫) コーコシリーズ3。死体が動き回っては消えるというのが繰り返される。もう一つの趣向は、探偵がいっぱい。

メゾン多摩由良に入っている不動産会社のオフィスで死体を発見。早速、警備会社社員が確認にいくと、死体は消えている。続いて駐車場で死体発見の報が到着。すわ(死語)、ということで現場に向かうとまたもや死体が消えている。コーコから事件を聞いたタミ…

都筑道夫「前後不覚殺人事件」(集英社文庫) コーコシリーズ4。探偵がいないので素人捜査をはじめてめちゃくちゃに。複数の語り手による文体の違いに注目しましょう。

コーコシリーズの長編第4作。 天才少女の満智留ちゃんが古本屋を覘いていたら、クラスメイトの寺沢くんに声をかけられ、文庫本ほどの大きさのものを渡され、なにかあったら「アブドラに行け」という。気になった満智留ちゃん、今谷少年探偵団に相談すること…

都筑道夫「南部殺し唄」(光文社文庫) コーコシリーズ5。依頼とはいえ他人の家族に踏み込むコーコはハードボイルドの探偵になってしまう。

滝沢紅子シリーズの長編5つめになるのかな。1990年初出。 前作「前後不覚殺人事件」はコーコが不在だった理由はいずれ語るという幕切れだったが、その理由を説明する長編。普段の多摩由良町を離れ、お春と一緒に東北・遠野にでかける。父が気にしている事件…

都筑道夫「殺人現場へ二十八歩」(光文社文庫) 日本にはないホテル住み込みの探偵が主人公。初老の男性が浅草を慈しみ、家族の世代間ギャップに悩む。

作者によるとホテル・ディックという職業は日本にはなかったらしい。アメリカだとたとえば「チャイナ・オレンジの謎」1934年に登場するくらいにポピュラーなものらしい(この作では脇役として名前が挙がるだけで、仕事の中身は触れられない)。1980年代にな…

都筑道夫「毎日が13日の金曜日」(光文社文庫) ホテル・ディックシリーズ第2弾。都会の縮図であるホテルでシャバの不平不満や不倫、逆恨みを持つものが事件をしでかす。

ホテル・ディックシリーズ第2弾。1987年初出。 舞台がホテルから出ないというのに恐れ入った。主な会話は6階の警備室、事件の報告で社長室が現れるくらいで、あとはロビーにラウンジに正面玄関付近に裏の駐車場、それから下記のショッピングエリアの店の中…

都筑道夫「探偵は眠らない」(新潮文庫) ホテル・ディックシリーズ第三弾。唯一の長編で最終作。シリーズキャラも年を取り孤独になるのがつらい。

ホテル・ディックシリーズ第三弾。唯一の長編で最終作。 「刑事上がりのおれは、現在、浅草の高層ホテル『ハイライズ下町』の夜間警備責任者。アメリカ流に呼べば、ホテル探偵(ディック)ということになる。ある夕方、警備室に奇妙な電話がかかってきた。今…

都筑道夫「ドラマ・ランド」(徳間文庫) 映画のシナリオにラジオドラマの台本、TV番組の企画書にしてシノプシスが収録。

都筑道夫の作品は映像化されているものがそれなりにあって、長編で映画化されたのは「なめくじに聞いてみろ」「三重露出」「紙の罠」など。TVドラマではなめくじ長屋あたり。ときにはオリジナル脚本を提供して「100発100中」「黄金の眼」になったり、TVドラ…

都筑道夫「サタデイ・ナイト・ムービー」(集英社文庫) 子供の好奇心とプロフェショナルの目で1977-78年の映画をみる。映画一本1300円の対価にあうだけの内容を持っていたかで評価する。

1977-78年に連載された映画時評。タイトルは、締め切り直前の土曜の深夜でないと映画を見る時間をねん出できないから、というもの。もちろん当時の流行った「サタデー・ナイト・フィーバー」のもじり。週刊誌の連載なので、古い映画は取り上げない。これから…