odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

筒井康隆「ロートレック荘事件」(新潮文庫)

ああ、なんともすれちまったなあ。これほどの年期をかけてミステリを読んできたおかげで、始まりの二つの章を読んだところで、仕掛けの見当がだいたいついてしまった。多くの人が「驚愕」のという解決もそのときに思いついたことの範疇に収まってしまった。 …

植草甚一「ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう」(双葉文庫) ネットがない時代には洋書を大量に買い込む事情通の情報が重宝された。英米中心の探偵小説史講座も収録。

「ニューヨークから海外ミステリを紹介した「ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう」、背表紙や表紙の写真を集めた「ニューヨークで買ったミステリの本」 、海外ミステリの書評「ミステリ・ガイド」、カルチャーセンターで行われた推理小説講義のテープを起こ…

天藤真「大誘拐」(創元推理文庫) 誘拐犯が人質に振り回されててんやわんや。小説も映画も誘拐ものの大傑作。

本を読む前に、DVDになった岡本喜八監督の映画(1991年公開)を見た。1960年代の傑作群と比べると、見劣りのする映画であって、それでもなお1980年以降の映画からすると優れた作品になっているのは立派なものだ。ひとりの監督の作品を年代順にみていくと…

荒巻義雄「エッシャー宇宙の殺人」(中公文庫) エッシャー宇宙は小説の引用でできている。夢の中で夢を見ると、それは現実に他ならない?

カストロバラバは不思議な港町。町のあちこちにエッシャーの描いた版画、スケッチその他とまったく同じ建物や設備がある。その空間は、我々読者がこの地球にいるような三次元と重力の影響と無関係である。そのために、三次元ではありえない捻じ曲がった空間…

広瀬正「T型フォード殺人事件」(集英社文庫) モデル製作で生計を立てていた作家のクラシックカー偏愛ぶりがわかる古典的なミステリー。

日本のSFを立ち上げたうちの一人。残念ながら1972年に急逝。享年42歳(だったかな)。存命であれば、小松・星・筒井・光瀬などと並べられたはずの作家、との由。この人の得意な時間パラドックスSFは厚いのでパスすることにし、晩年の表題作を読む。き…

辻真先「アリスの国の殺人」(双葉文庫)

「児童文学の編集を志しながら、はからずも漫画誌編集に携わる綿畑克二。夢の中の「不思議の国のアリス」の世界でチェシャ猫殺害事件の容疑者にされて慌てていると、現実世界では上司の編集長が殺害されて大騒ぎ。交錯する夢の世界と漫画ジャーナリズムのう…

辻真先「『殺人事件』殺人事件」(双葉文庫)

ポテトとスーパーが主人公の第?作。2人とも20代後半になっている。ポテトはデビューしたばかりのミステリー作家。スーパーは何をやっているのかな、とにかくポテトからポロポーズされたいと焦っている。こういう感情や風景は自分になじみのないものなの…

辻真先「改訂・受験殺人事件」(創元推理文庫)

「お馴染みポテトとスーパーの通う西郊高校きっての秀才が、校舎の三階から飛び降りる。が、その死体が発見されたのはそれから四時間も経ってからだった!彼の死を殺人と信じるポテトとスーパーは、出版社の依頼を受けて事件の詳細を交互に綴っていくのだが…?…

辻真先「盗作・高校殺人事件」(創元推理文庫)

「『サザエさん』をはじめ数多くのアニメの脚本を書いてきた辻真先が推理小説に手を染めた最初期の3部作『仮題・中学殺人事件』『盗作・高校殺人事件』『改訂・受験殺人事件』は、ポテトとスーパーという愛すべきキャラクターの誕生とともに、数々の仕掛けや…

辻真先「仮題・中学殺人事件」(創元推理文庫)

都筑道夫・少年小説コレクションを読み進めていくと、なるほど自分が中学生の年齢のときにはこのような良質なジュブナイルがたくさんあったのだと遅まきながら気付いた。たしかに中学生のころは、ランサム・ヤンソン・ロフティングといったその年齢向けの小…

小林信彦「紳士同盟」(新潮文庫) 1978年に5千万円を至急調達するために仕掛けるコンゲーム。だまし・だまされは読者にも仕掛けらえている。

「いんちき臭くなければ生きていけない! 思わぬ運命の転変にめぐりあい、莫大な金を必要としたとき、四人はそう悟った。目標は二億円――素人の彼らは老詐欺師のコーチを受け、知恵を傾け、トリックを仕掛け、あの手この手で金をせしめる……。奇妙な男女四人組…

小泉喜美子「弁護側の証人」(集英社文庫)

「ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか? 弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を…

日影丈吉「かむなぎうた」(ちくま文庫) 現実の時間と回想する昔話の時間が融解していて、どちらが現ともわからない状況をかもし出す筆の力はたいしたもの。

「ハイカラ右近探偵全集」(講談社文庫)を読んでピンとこなかったのだが、こちらの短編集は面白かった。とはいえ、500ページを読むのに1年ほどかかっているのだから、怠惰な読み手ということになるか。九鬼紫朗「探偵小説百科」(初版)でこの人の名前と「…

海渡英祐「ベルリン1888年」(講談社文庫) ベルリン留学中の森鴎外が古城の伯爵殺害事件を探偵する。

一時期はどの本屋にもころがっていたのに、調べてみると絶版中(それも講談社大衆文庫に収録されてから)。1967年の乱歩賞受賞作がこの冷遇ぶり。 著者は1934年生まれ。大学卒業と同時にプロ作家になり、6年後に乱歩賞を受賞。その後の創作はやまのよう。結…

結城昌治「ゴメスの名はゴメス」(光文社文庫) 1962年ベトナム首都で起きたスパイ事件。同時代の緊迫はノンフィクションのほうが優れていた。

「失踪した前任者・香取の行方を捜すために、内戦下のサイゴンに赴任した坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が「ゴメスの名は・・・」という言葉を残して殺されたとき、坂本は、熾烈なスパイ戦の火中に投げ出された。香取の安否は? そし…

大藪春彦「血の罠」(徳間文庫) 岡本喜八監督の「暗黒街の対決」の原作。映画のほうが面白かった。

「俺はかならず妻の仇をとってやる。熱く焦げた銃弾を、そいつにぶち込んでやる――妻を殺された元ボクサー田島君彦の怒りは青く燃える。彼は信頼する新田警部補と組んで非情な復讐を開始した。それが、汚職で警視庁を追われ、金もうけをたくらむ新田の仕組ん…

高木彬光「人形はなぜ殺される」(角川文庫) 20年遅れの乱歩風通俗探偵小説。戦前作なら大傑作。

「新作魔術発表会・・・ここでギロチンによって首を切り落とされた美女が蘇るという奇術「マリーアントワネットの処刑」が公開されると言う。ところがその舞台裏で切り落とされる首が消失。そしてその直後の殺人現場にはマリーアントワネット役をやる予定だ…

高木彬光「邪馬台国の秘密」(角川文庫) 魏志倭人伝の記録と人の運動能力と若干の地図だけで「邪馬台国」問題を解いても、歴史理解には役に立たない。

「邪馬台国はどこにあったか?君臨した女王・卑弥呼とは何者か?この日本史最大の謎に、入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。一切の詭弁、妥協を許さず、二人が辿りつく「真の邪馬台国」とは?発表当時、様々な論争を巻き起こし…

高木彬光「成吉思汗の秘密」(角川文庫) 源義経=ジンギスカン説は1920年代に唱えられたトンデモ歴史学。忘れられていたので本書はベストセラーになった。

高校生の時には感激して読んだ。 「昭和 32年、名探偵といわれた神津恭介が東大病院に入院し、探偵作家の松下研三と暇つぶしに義経=ジンギスカン説の推理を始める。奥州藤原氏三代の富貴栄華の源泉は北海道を越えて、樺太、シベリアの黄金入手にあり、これ…

坂口安吾「不連続殺人事件」(角川文庫) 意外な犯人を隠したかったら、文章の中に紛れ込ませればいいんです

今回読み直した角川文庫版には、高木彬光の解説が載っていて、これが探偵小説として読んだときのポイントをしっかり収めたすぐれもの、および遺作「復員殺人事件」を補筆したときの記録も書いた重要文献。なので、初出挿絵付きの創元推理文庫版とともにもっ…

マックス・ウェーバー「職業としての学問」(岩波文庫)

1919年に発行されたウェーバーの講義録(この人は1864年生まれで1923年に亡くなっているから、マーラーやドビュッシーの同時代人)。戦争の敗北、社会主義革命運動の高揚、民族主義運動の開始など、ドイツの社会は混沌としていた。この時代背景を把握してい…

マックス・ウェーバー「職業としての政治」(岩波文庫)

政治は暴力を扱う装置である、という視点で政治家のあり方を考察したもの。通常、暴力は権力によって規制され、抑圧され、処罰されるが、権力自身が振るう暴力は正当であるとされる。だから個人の犯罪者が殺害した人数よりも、国家による組織的な殺戮装置の…

ミヒャエル・エンデ「オリーブの森で語りあう」(岩波書店) 1982年春、南イタリアに小説家・政治家・演劇人が集まって、ファンタジー、文化、政治を語り合う。

1982年春、南イタリアにあるエンデの別荘に3人が集まる。小説家エンデ、政治家エプラー、演劇人テヒル。彼ら3人は2日に渡って語りあう。主題はファンタジー、文化、政治(隠れテーマで経済)。自分の感想を交えながらまとめてみよう。参加者はそれぞれ発言し…

廣松渉「マルクスと歴史の現実」(平凡社ライブラリ) マルクスの考える共産主義社会の条件は「賃金奴隷制の廃止」と「貨幣なき社会」。

マルクスとエンゲルスは共産主義社会がどのようなものかについてを詳述していない。初期の「共産党宣言」あたりには萌芽になるような記述があったが、のちに商品と貨幣と資本を研究するうちにそのあたりの記述はなくなった。そういうしだいなので、著者は手…

桜井哲夫「社会主義の終焉」(講談社学術文庫) 、「知識人」の社会的・思想的位置づけと社会主義のメシアニズム思想を検討。

「一九九一年に消滅したソ連は、マルクス・レーニン主義の名の下に、マルクスの思想とはかけ離れた全体主義国家として存在した。著者は、十九世紀のサン=シモン主義に遡り、産業化をめざしつつ前衛党による大衆支配へと変質した社会主義の変遷を跡づける。さ…

林達夫「共産主義的人間」(中央文庫) 占領時代に新聞のベタ記事で世界情勢と歴史を透視する。

論文ごとにサマリーを書いておく。 古代思想史の課題1946 ・・・ バートランド・ラッセルが「西洋哲学史」を書いたが、その編集のずさんさには驚いた。教科書といえども、たんに引用するだけでは歴史にはならない。著者の問題意識がないといいものは書けない…

林達夫「歴史の暮方」(中央文庫) ガリレイとデカルト、ソクラテスを例にして、体制が思想を圧迫しようとしてしているとき、どのような戦略を思想家は取れるかと1940~42年に問う。

「本書の大部分は、1940年から42年にかけて書かれた。太平洋戦争前夜から日本の戦勝が喧伝されるにいたる間の狂濤の時流のなかで、歴史家として、思索家として、かつ人間精神の批評家として、みずからの精神の自由を確保する園を耕しつつ、冴えた眼で思想と…

アニー・クリジェル「ユーロコミュニズム」(岩波新書) 1970年代非共産圏の共産党が掲げた新しい潮流。東欧革命でこのマニフェストを実行する政治団体はなかった。

1970年代のコミュニズムを思い出すと、ひとつは既存の共産主義国家、政党、労働組合のどうしようもなさが明確になっていたこと(ソ連と中国の争いとか、ソ連の反抗知識人への迫害とか、東欧諸国からの亡命とか)、もうひとつはそれに対抗する新左翼のより強…

メルル/ブノアメシャン他「カストロのモンカダ襲撃・エジプト革命筑摩書房」(筑摩書房) 冒険小説顔負けの奇想天外、神出鬼没の革命戦争。20世紀の第三世界で起きた革命は独裁や軍政に至る。

20世紀の革命というと、ロシアと中国とベトナムであとは・・・という程度の認識。それを補完するのがこの本になる。舞台はキューバにエジプトにガーナ。これらの特徴は、a.いわゆる第三世界、発展途上国、「後進国」と呼ばれる地域。b.植民地の経験を持ち開…

チェ・ゲバラ「モーターサイクルダイアリーズ」(角川文庫) 脳天気なほどの楽観主義の若者をささえる貧困な人々のやさしさ。

ゲバラの著作は不定期に読んでいて、これが4冊目(「革命戦争の日々」集英社文庫、「ゲバラ日記」角川文庫、「ゲリラ戦」中公文庫に続く)。この本は、若いときの「成人旅行」の記録。医師を目指していたゲバラは、独り立ちの前に、友人といっしょに南米の…