odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

歴史・地理

阿部謹也「『教養』とは何か」(講談社現代新書) 教養主義は職業選択の自由と学歴社会があって成立する

著者は高名な西洋中世史研究者。1980-90年代は人気があった人だったと記憶する。その人が「教養」について書くから、竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)で触れられなかった西洋の教養の歴史がわかると思って読んだ。1996年刊行。あとがきによ…

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書) 発注者・買い手・消費者・観客などのステークホルダーが作曲家と作品を変えていく。

煽情的なタイトルだが、漫然とベートーヴェンを聴くだけでは世界史はわからない。ベートーヴェンが作品を書くに至った背景を知らないと、世界史は見えてこない。ことに彼の作品を価値あるものと認めた「受け取り手」の存在が重要なのだ。すなわち、発注者・…

小宮正安「モーツァルトを『造った』男」(講談社現代新書) 批判ばかりのケッヘル番号を作った凡庸なディレッタントの生涯。市民社会が大衆社会になるまで。

ルートヴィヒ・ケッヘル(1800-1877)は19世紀ハプスブルグ帝国の地に生まれる。ルートヴッヒは高等教育を受けたのち、貴族の家庭教師となり、のちに貴族に列せられた。そのために無税になり、年金をうけとることができる。鉱物のコレクションを続けていた(…

増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-1 3世紀のローマ帝国に東洋の国家観が入り皇帝と官僚に権限が集中すると、経済が停滞する。

ヨーロッパとは何かの問いに本書で答えると、地中海地帯と西ヨーロッパと東ヨーロッパに分けられる大きな地域の総称であり、古典古代(ギリシャ、ローマ)とキリスト教とゲルマン民族の精神を共有している集団であるといえる。ただ、内実を詳細にみると、地…

増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-2 極少数のゲルマン民族にローマ民は進んで同化する。ゲルマン民族は強制的な単一国家を求めるより、下から自発的な集団から国家を作る

2022/04/11 増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-1 1967年の続き これまでの章では古代の終焉をそれまでの支配者であったローマの側から見てきた。以降は、新しい支配層になったゲルマン民族の側からみる。当時のゲルマン民族は無文字だったので、資…

弓削達「ローマ 世界の都市の物語」(文春文庫) マグダラのマリアを中心にする女性イエス集団が信仰を伝導していた

著者は 弓削達「世界の歴史05 ローマ帝国とキリスト教」(河出文庫)を書いた人。このエッセイでは、ローマという都市でおきた約2000年のできごとをみる。 ちょっと話をずらせば、この国ではエッセイは身辺雑事の「心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく…

井上浩一「生き残った帝国ビザンチン」(講談社現代新書) ビザンチンに残されたローマ帝国の遺風とその後の革新を遅れたヨーロッパが模倣する。

ヨーロッパ史を読むと、西ローマ帝国の滅亡からあと十字軍まではあまり関心を持てない時代。古代帝国が消えた後に、部族社会に後戻りした感があるから。一方、コンスタンティノープルに遷都した東ローマ帝国はというと、ほとんど記述されないで15世紀初頭の…

中谷功治「ビザンツ帝国」(中公新書) ヨーロッパの「正義の十字軍」はビザンチンからみると恐怖と略奪と殺戮の「蛮族の大移動」

井上浩一「生き残った帝国ビザンチン」(講談社現代新書)1990年を最近よんだときに、 以上のサマリーはあまりにヨーロッパ中心的な見方で、これではギリシャ・ローマの伝統文化をヨーロッパに伝達する中継者という役割に限定している。それはよろしくないわ…

堀越孝一編「新書ヨーロッパ史 中世篇」(講談社現代新書) 中世のヨーロッパは領邦の集合と教会の二重権力体制。キリスト教化がいきわたると、宗教的情熱は外に向かう。

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)を読んで(だけではないけど)、ヨーロッパという摩訶不思議な地域に関心をもった。ヨーロッパが成立するまでは増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)、ヨーロッパの中世は鯖田豊之「…

澤井繁男「イタリア・ルネサンス」(講談社現代新書) ルネサンス文学の記述は専門的すぎるので、政治と経済と外交の情報を読み取ろう。ルネサンスは自律した運動というより、ビザンツやイスラムの文化の咀嚼運動。

本書を読む際に、ルネサンスを大まかに知っていた方がよいので、このエントリーを参照。会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2 ルネサンスという時代(だいたい1300年から1600年まで)をイ…

吉村正和「フリーメイソン」(講談社現代新書) 陰謀団ではなく、開かれた友愛団体

フリーメイソンはモーツァルトの「魔笛」に関係しているという話(キャサリン・トムソン「モーツァルトとフリーメーソン」法政大学出版局)と、トンデモ陰謀論によく登場することで知っているくらい。そこで本書を読む。冒頭にエドガー・A・ポー「アモンテイ…

深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-1 宗教改革運動は社会の体制に組み込まれるものと、個人の選択と意思を重視する政治運動に分派する。

著者には問題がある。 (本書「プロテスタンティズム」の)第19回「読売・吉野作造賞」授賞取り消しのお知らせ 2019/5/17https://www.chuko.co.jp/news/112323.html「深井氏の別の著書と論考(『ヴァイマールの聖なる政治的精神』、「エルンスト・トレルチの…

深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-2 近現代のプロテスタンティズム。欧州の保守主義とアメリカのリベラリズム。

2022/03/30 深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-1 2017年の続き 以降の章は、18世紀以降。もの凄く駆け足。中心になる地域は、ドイツとアメリカ。とても大雑把に言うと、ドイツは北部のプロテスタントに南部のカソリックがあり、周辺にはカソリッ…

山内昌之「民族と国家」(岩波新書) 中世から近世のイスラム世界。シルクロード交易が海上交易ですたれると、イスラム〈帝国〉のタガが緩み反乱や独立が頻発。

民族と国家は新しいがむずかしい。塩川伸明「民族とネイション」(岩波新書)を読んでもよくわからないうえ、国によって大きな違いがある。でも、国民国家が生まれたのは、イギリスとフランスなので、その国をモデルとし、おもに西洋の基準で考えてしまう。…

渡部哲郎「バスクとバスク人」(平凡社新書) 国家と民族が一致しない人々のナショナリズムと自治権。

バスクはフランスに隣接する大西洋に面したスペインの一部。地中海に面したカタルーニアもそうだけど、スペインには多数の「地方」があって、それぞれ独立した民族とみなされている。ことにバスク地方は、海や険峻な山地のために他の人たちが入りづらく、独…

上田和夫「ユダヤ人」(講談社現代新書) 古代から19世紀末までのユダヤ史。教科書が教えない歴史を知って偏見をなくそう。

西洋史を勉強するとユダヤ人の話題はそこかしこで出てくるがたいていは点の描写。反ユダヤ感情やホロコーストがどのように起きたかをしるには情報が不足。そこで、ユダヤ人の側から見た民族史をみることにする。初出は1986年なので情報は古い。とくに21世紀…

土井敏邦「アメリカのユダヤ人」(岩波新書) 遅れて移住したユダヤ人は自助コミュニティを作ったが、考え方や生き方は多種多様。

上田和夫「ユダヤ人」(講談社現代新書)は、紀元前からのユダヤ人の歴史を追い、20世紀初頭までを記述した。本書はそのあとの1980年代のアメリカに住むユダヤ人をテーマにする。もとよりアメリカのユダヤ人も先住していたわけではなく、むしろ遅れて移住し…

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 15世紀から19世紀末まで。黒人奴隷制、奴隷解放後の差別制度のあらまし。

本書旧版(1964年)は高校生の時に知っていた。その時は「黒人」の歴史に意味があると思わなかった。とんだマジョリティしぐさで、ぼんくらだった。21世紀のBLM運動を見るうちに、タイトルの歴史が重要であることがわかり、勉強することにする。 今ならアフ…

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 20世紀の黒人差別と公民権運動。差別撤廃の法ができても、ヘイトクライムの標的になっている。

2022/03/22 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 1990年の続き 後半は20世紀。白人側から見たアメリカの近代史と重ねることが必要。参考エントリーは以下。2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年2020/10/09 有賀夏…

エドワード・H・カー「歴史とは何か」(岩波新書) 1961年当時の歴史学の批判。英雄史、歴史法則による決定論、進歩史観はダメ。

「歴史とは何か」の問いに真正直にこたえようとすると途方に暮れる。概念や指示されているもの・ことを明らかにするのは素人には困難だからだ。そこで、問いを変える。「歴史でないとは何か」「歴史を捏造するとは何か」。非歴史を俎上に挙げることによって…

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 国民国家同士の戦争は、勝敗を決することが難しくなり、国家の領土(特に政府機能のある都市)を占領するか、政府が降伏を宣言するかしかない。

日本人は第一次世界大戦(名称は揺れ動きあり)になじみがない。戦闘に加わらず、大戦景気で好況にあったから。「最小のコストで最大の利益を上げた」と言われるゆえん。しかし欧州各国にとっては、ナショナルアイデンティティにかかわる重要な戦争であった…

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-2 戦争終結後、列強のバランスから対等な国家の国際関係にな、帝国から国民国家になり、国民が政治参加するようになり、福祉国家・社会国家になる。

2021/03/19 木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 2014年の続き 1917年は重要な転機。 ひとつはロシア革命。この年の2月革命でロマノフ朝が倒される。きっかけは都市民による食料要求デモだった。ロシアは食糧輸出国で国内の備蓄は潤沢だったが、軍隊…

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1 ヘイトスピーチが蔓延する素地を作った時代。大企業優遇、保護経済、移民制限などの政策がナショナリズムや反共のプロパガンダと呼応して、民族差別や人種差別を誘発し、民衆・大衆に定着させる。

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)の記述がほぼロシアに限定されていたので、こちらので20世紀初頭(1914-1929年)までの状況を確認する。 重要なできごとは第一次大戦(WW1)。三国協商と三国同盟の対決とされるが、むしろ19世紀の帝国主…

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-2 1920年代の好景気は国際協力の場が作れ、1930年代の不況はブロック経済の確立で対外侵略とヘイトクライムの多発を産み、大量殺戮に至る。

2021/03/09 江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1 の続き 第一次大戦(WW1)はおもにヨーロッパと大西洋で戦われたので、東アジアは政治的・経済的な空白ができた。そこに入り込んだのが日本。日露戦争のあと、帝政ロシアと協力関係に…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 WW1はオランダ・ベルギー・フランスの西部戦線と、ポーランド周辺の東部戦線と、ギリシャ・セルビアのバルカン戦線の3つが主要な戦場。戦後復興に差が出た理由。

原著は1966年(ということは1913年生まれの林健太郎が53歳の時の著作)。1976年に講談社学術文庫に収録。もとは文芸春秋の「大世界史」第22巻。この後に1930年代を書いた本があるので、記述は1933年まで。多くの戦間期の本は1933年のナチス政権以後にフォー…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-2 社会不安の時代に自由主義は結集軸にならず、労働者・下層階級は社会主義かナショナリズムに結集する。

2021/03/05 林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 1976年の続き WW1の総力戦は、動員された労働者、下層階級の力を大きくする。専制国家が打倒されたこともあり、貴族政は後退(貴族が資産を失ったのも大きい)。戦後はインフレと帰還兵士の失業…

エーリヒ・マティアス「なぜヒトラーを阻止できなかったか」(岩波現代選書) その答えを左翼のせいにすると、有権者や政治制度の問題が棚上げされるし、左翼でない者たちは責任がないことになる

WW2敗戦後、まず哲学者が表題の反省をした。ヤスパースやマイネッケ(「ドイツの悲劇」中公文庫)、マックス・ピカート(「沈黙の世界」みすず書房)を読んだ記憶がある。ドイツ精神を問題にした抽象的な議論のあとに、社会学や政治学から反省の書が出た。こ…

村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-1 ブロック経済圏は、ヨーロッパ、東欧、東アジアの諸国に統制経済と相性の良い極右政党を台頭させる。

1929年から1945年。1920年代の緊張緩和は1929年アメリカ発の成果不況によって破られる。これによると、アメリカ経済は数年前から不調になっていたが、株価だけが高騰。株価の下落によってアメリカの経済が沈滞。アメリカの企業はヨーロッパ、南アメリカ、東…

村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-2 WW2の最中にアメリカは世界システム覇権国になり、東南アジア諸国は日本からの独立をめざす。

2021/02/02 村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-1 の続き。 日本は1930年代から一種の鎖国をするようになり、権力の情報統制があったので、諸外国の実情はわからないようになっていた。敗戦とスターリンの死によって、ふたつの巨…

堀江則雄「ユーラシア胎動」(岩波新書) ロシア、中国、中央アジア各国(旧ソ連圏)、インド、パキスタン、イランなどの参加でユーラシア経済共同体が2000年に成立。

ユーラシアという概念は1970年代ころかと思っていたら、1920年代ロシア知識人からでたそう。スターリン時代に弾圧されて封印されたが、1990年以降に具体的な経済圏構想として誕生した。2000年にユーラシア経済共同体がロシア、中国、中央アジア各国(旧ソ連…