odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

宗教

保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-1 キリスト教とイスラームの場合

著者は比較宗教学者。 日本では、政教は分離されているとたいていの人が認識しているが、政教分離は普遍原理ではない。日本そのものが神権政治の国だった。その精神は日本国憲法施行以後も消えていない。他の国では政治と宗教が一体化しているところがあるし…

保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-2 仏教と神道の場合

2024/04/08 保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-1 キリスト教とイスラームの場合 2006年の続き 後半は通常政治的ではないとされる宗教が政治に関与しているという話。アジアの政教分離はヨーロッパとはかなり違う。 第3章 仏教と政治 ・・・ 仏教には政…

工藤庸子「宗教vs国家」(講談社現代新書) 第三共和政のフランスは公共空間から宗教を排除した

政教分離は近代の国民国家の前提になっているが、国によってありかたは異なる。たとえば、アメリカでは議員が宗教団体の集会に出ることは承認されている。イギリスでは国教会があり、聖職者には一定数の上院議員の割り当てがある。ドイツでは聖職者は国から…

内藤正典「ヨーロッパとイスラーム」(岩波新書)-1 難民受入を進めるドイツと多文化主義のオランダの場合

21世紀になってから、ヨーロッパに居住するイスラムが増えた。2004年(本書初出)現在で1500万人ともいわれる。彼らの受け入れ国社会では摩擦が起きて(彼らを規制する動きとそれに対する反発)、イスラムへのヘイトクライムが発生している。民主主義、平等…

宮田登「冠婚葬祭」(岩波新書) 祭儀を通してみる日本人の祖霊感・霊魂感

日本人の生活といっても、土地ごとの差異は大きい(それこそ近世までは蝦夷、東国、西国、九州など複数の国が列島にはあったと考えるべき)。でも、ある共通する信仰、観念があるので、日本人の特質を抽出することができるだろう。そういう目論見はいろいろ…

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書) 1879年に明治政府が作った招魂社が靖国神社に改名。1952年に宗教法人に格下げされ、A級戦犯合祀以降天皇は参拝しない。

日本の軍事史を専門にする研究者による啓蒙書。1983年初出。戦後、靖国神社を政治家が参拝することはあっても閣僚が参拝することはなかった。それが1975年に三木武夫が現職首相として初めて参拝した。それに対する批判が高まった時期のこと。靖国神社は右翼…

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-1 靖国神社は日本人の生と死を吸収し尽し、生と死の意味付けをする国家的な宗教とする機能をもっている。

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書)1983年で靖国神社の戦前戦中の歴史を学んだので、戦後と現代の問題を本書で把握することにする。 極右や右派の宗教カルトは、古代からの神道と明治政府による国家神道をあえてごっちゃにして、靖国を正当化する。その違い…

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-2 靖国神社はかつての日本の戦争と植民地支配がすべて正しかったという歴史観に立っている。政府も「民主主義」を口実として、歴史認識を問われる国家としての責任から逃走している。

8月15日に全国戦没者追悼式典が行われるようになった経緯は以下のエントリーを参考に。この式典の前に首相が靖国神社参拝をするようになったのは中曽根康弘から。佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書)佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と…

弓削達「ローマ 世界の都市の物語」(文春文庫) マグダラのマリアを中心にする女性イエス集団が信仰を伝導していた

著者は 弓削達「世界の歴史05 ローマ帝国とキリスト教」(河出文庫)を書いた人。このエッセイでは、ローマという都市でおきた約2000年のできごとをみる。 ちょっと話をずらせば、この国ではエッセイは身辺雑事の「心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく…

吉村正和「フリーメイソン」(講談社現代新書) 陰謀団ではなく、開かれた友愛団体

フリーメイソンはモーツァルトの「魔笛」に関係しているという話(キャサリン・トムソン「モーツァルトとフリーメーソン」法政大学出版局)と、トンデモ陰謀論によく登場することで知っているくらい。そこで本書を読む。冒頭にエドガー・A・ポー「アモンテイ…

深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-1 宗教改革運動は社会の体制に組み込まれるものと、個人の選択と意思を重視する政治運動に分派する。

著者には問題がある。 (本書「プロテスタンティズム」の)第19回「読売・吉野作造賞」授賞取り消しのお知らせ 2019/5/17https://www.chuko.co.jp/news/112323.html「深井氏の別の著書と論考(『ヴァイマールの聖なる政治的精神』、「エルンスト・トレルチの…

深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-2 近現代のプロテスタンティズム。欧州の保守主義とアメリカのリベラリズム。

2022/03/30 深井智朗「プロテスタンティズム」(中公新書)-1 2017年の続き 以降の章は、18世紀以降。もの凄く駆け足。中心になる地域は、ドイツとアメリカ。とても大雑把に言うと、ドイツは北部のプロテスタントに南部のカソリックがあり、周辺にはカソリッ…

司馬遼太郎「空海の風景 下」(中公文庫) 宗教者であり、思索家であり、詩作家であり、書家であり、経営者であり、教師であり、技術者であり、起業家であり、一体いくつの顔をもっているのやら

下巻は恵果から密教の法を伝授され、帰国後、密教の指導者になるまで。多くのページでは最澄との関係が描かれる。 自分もよく知らない時代なので、年表を形式で空海の後半生をまとめておくことにするか。 805年: 最澄帰朝。最澄高雄山寺でわが国最初の灌頂…

司馬遼太郎「空海の風景 上」(中公文庫) 思想家としては、ほとんど唯一世界的なところに立つことのできる日本生まれの巨人。その前半生。

思想家としてみると、ほとんど唯一世界的なところに立つことのできる巨人。華麗な漢文を書かせると唐人を驚かせ、書を書かせると本邦最大の達人。治水工事の技術者、巨大プロジェクトのリーダー、組織の執行者、当代最高の呪術者。これだけのことを一身に背…

森安達也「近代国家とキリスト教」(平凡社ライブラリ) 宗教の世俗化が教会の影響を小さくした。20世紀後半から目立つ宗教の不寛容。

初出が1994年。例のオウム事件が起きる前の年。 宗教とはなにか ・・・ この問題を考える切り口に宗教と社会の関係や、宗教組織などを見る。なぜなら教義は宗教と社会の関係にほとんど関わらないから。多くの宗教戦争も宗教の教義をめぐる争いではなく、経済…

高橋保行「ギリシャ正教」(講談社学術文庫) 東のキリスト教の歴史と教え。ロシア文学読解の参考書。

ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は、アリョーシャとゾシマ長老の関係が主題のひとつ。とはいえ、ゾシマ長老の思想はよくわからない。というのは、この国にはロシア正教会の紹介がほとんどないから(とはいえ、明治維新後いち早く東京文京区に教会…

ケン・スミス「誰も教えてくれない聖書の読み方」(晶文社) 「適当に面白くて、適当につまらなくて、どこから読んでもよくて、いつまでたっても読み終わらない本」を注釈なしで読んでみよう。

こうやって聖書の解説書(のうち学術傾向の強いもの)を読んでいると、細部にこだわりすぎてしまう。要するに、聖書の本を読むと、次の3種類になるのだ。 一つは、これまで読んできたような専門研究者による学術書。ここでは聖書を読んでいることは前提のひ…

遠藤周作「沈黙」(新潮社) 西洋人が戦国時代の日本に来て、日本的なものに挫折していく。日本に幻滅・憎悪を感じる人もいる。

これも約30年ぶりの再読(2007年当時)。かつては、フェレーリに導かれて、踏絵を行うロドリゴに痛切なほどの感情移入があって、文字とおり体が震えるほどの感動を得たものだった。とりわけ、深夜の踏み絵のシーン。ロドリゴが「痛い」というとき、その痛みを…

遠藤周作「聖書のなかの女性たち」(講談社文庫) 敗戦後の経済成長前の時代だと聖書に出てくる「良妻賢母」や「縁の下の力持ち」になることを女性に推奨する。

聖書というが取り上げられるのは、新約聖書のおもにイエスとなんらかの関係のあった人たちに限られる。取り上げられたのは、 ・名無しの娼婦 (ルカ7-36) ・ヴェロニカ: 十字架を背負うイエスの汗を拭いた女性 ・病める女: 長血を患った女(マタイ9-20) …

「新約聖書外伝」(講談社文芸文庫) 2~6世紀に作られた正典に収録されなかった大衆文学と異端思想の文学表現

キリスト教の教義を書いた文書は紀元60年ころからできて、教団ごと・言語ごとに多数できた。そこにはキリストや弟子の名を使って、ユダヤ教やグノーシス主義などほかの宗教の思想が語られるものがあった。そのようなキリスト教と異なるが似た言葉を使う集団…

荒井献「トマスによる福音書」(講談社学術文庫) 原典に基づくグノーシス派の解説。

一般にはイエスの死と復活は歴史の果てで実現する最後の審判から「神の国」への入来までを準備するものとされるが、別の解釈ではイエスの死と復活によってそれまでの悪霊・罪・死の力が取り払われて、彼を信じることによって死後直ちにキリストのもとに赴く…

荒井献「イエス・キリスト 下」(講談社学術文庫)

2015/01/05 荒井献「イエス・キリスト 上」(講談社学術文庫)の続き 教団ではなくイエスに遡ろうとしても、それは難しい。すなわちイエス本人は記録を残していないし、同時代の施政官であるローマ側の資料にも、イエスの批判したユダヤ教文書にもイエスの活…

荒井献「イエス・キリスト 上」(講談社学術文庫)

小学校3年生のときに「ヨハネによる福音書」をもらって読んでから、イエスは気になる人だった。折に触れて福音書を読み直しているが、謎めいているのには変わりない。この人がとても重要であるのはわかるのだが、自分とのかかわりをどのようにまとめていけば…

小田垣雅也「キリスト教の歴史」(講談社学術文庫) 西のキリスト教会が世俗化していった千年の歴史は裏西洋哲学史。

「旧約聖書を生んだユダヤの歴史から説き起こし、真のイエス像と使徒たちの布教活動を考察。その後の迫害や教義の確立、正統と異端との論争、教会の堕落と改革運動など、古代から中世を経て近代、現代に至るキリスト教の歴史を、各時代の思想、政治・社会情…

日本古典「どちりな きりしたん」(岩波文庫) 1566年に形になったローマの教理問答の日本語版が1592年には作られていた。

現代風に読めば「ドクトリーナ・キリシタム」。キリスト教の教義書、とでもいうことになるのだろうか。師弟の問答で書かれているので通常は「教義問答」と訳されるとのこと。クラシック音楽経由でラテン語を見聞きする(勉強ではない。ミサ曲CDには必ずラ…

マービン マイヤー「ユダの福音書 DVDブック ビジュアル保存版 」(日経ナショナルジオグラフィック社)

世界中に衝撃を与えた「ユダの福音書」。その発見から修復、解読にいたる全プロセスのエッセンスを映像にしたDVDと解説書を組み合わせたDVDブック。DVDは、「ユダの福音書」解読までのドキュメントはもちろんのこと、プロジェクト関係者、ならびに識者のコメ…

エリエット・アベカシス「クムラン」(角川文庫) 死海文書をネタにしたミステリー。それより音楽やダンスによるトランス状態が重要であるユダヤ教に「異」なるものを見る。

イスラエル建国前夜、クムラン洞窟で二千年の封印を解かれ発見された死海文書――。そして半世紀後、この謎に満ちた古文書の盗難を発端に恐怖の殺人事件が始まる。古文書捜索を依頼された考古学者ダビットと息子アリーは真相を突き止めるため旅立つが、接近を…