odd_hatchの読書ノート

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コナン・ドイル

コナン・ドイル INDEX

2018/02/9 コナン・ドイル「緋色の研究」(角川文庫) 1887年 2018/02/08 コナン・ドイル「四人の署名」(創元推理文庫) 1890年 2018/02/06 コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-1 1892年 2018/02/05 コナン・ドイル「シャーロック…

コナン・ドイル「緋色の研究」(角川文庫) 1880年代、アメリカはヨーロッパよりも遅れた国であり、伝奇小説やゴシック・ホラーの舞台にふさわしいと思われていた。

シャーロック・ホームズ登場の第一長編。この大成功で、売れない医師で売れない作家だった著者は、世界的な名声を獲得することになった。 1887年のロンドン。ある空き家に一人の男が死んでいるのが発見された。被害者はアメリカから渡ってきた男性で、身元は…

コナン・ドイル「四人の署名」(創元推理文庫) 突出した才能と自己破壊的・衝動的・社会性のなさという「天才」の条件を備えたのが名探偵。

事件の依頼がなくて無聊をかこつホームズは、モルヒネかコカインに手を出すくらいのことしかすることがなかった。そこにモースタンという27歳の女性が来た。父がいなくなってから、高価な真珠が届くようになり、今度は会いに来てという手紙(四人が署名する…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-1 「ボヘミアの醜聞」「赤髪組合」「唇の捩れた男」。外部の記録装置に容易にアクセスして検索できるようにしたのがホームズの探偵方法。

「四つの署名」事件でワトソンは結婚し、ホームズとのルームシェアは解消した。それから2年たって、落ち着いたワトソンはホームズとの旧交を温めることにした。すっかり「名探偵」の名声をほしいままにするホームズのもとには様々な依頼人が悩みを抱えて相談…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-2 「まだらの紐」「青い紅玉」。世間の相場を越えた奇妙なアルバイトには注意しなさいとドイルは警告する。

前半6編を書いたところで、ホームズ短編のフォーマットができる。ホームズとワトソンの雑談-依頼者の相談(ホームズの推理で依頼人が驚く)-二人の相談-ホームズの調査-待ち伏せ、追跡、コンゲームの誘い-サスペンス-大団円。 青い紅玉 The Adventure of the…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの回想」(角川文庫)-1 「白銀号事件」「黄色い顔」。近代化が進み犯罪に対する意識が変化したが私的制裁ができなくなったので、謎を解く超人が求められる。

ホームズは汽車にのって郊外にでかけ事件を捜査する。商用自動車、公共バスなどない時代(代わりに馬車があった)に迅速に移動する手段は汽車が唯一。19世紀前半の産業革命は、イギリスの運輸に多額の投資を行い、それが全国の鉄道網になった。1880-90年代の…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの回想」(角川文庫)-2 トリックの創意もなくなって、作者コナン・ドイルがホームズに飽きているのが目に見えるよう。

1890年代というと、ヨーロッパでは内乱や蜂起がなくなり、ヨーロッパを主戦場にする国家間の戦争も小休止。第一次世界大戦までの束の間の平和を楽しんでいた。しかし、アフリカや中近東、東アジアの植民地化を推進する帝国主義国家は、西欧の外では植民地を…

コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」(角川文庫) 同時代イギリスの怪奇、伝奇、ホラーの系譜にあるような古めかしい中編。

「シャーロック・ホームズの回想」の「最後の事件」でスイスにある滝つぼに落ちてから8年。彼を慕う読者の要望は数知れず、ために「最後の事件」の前におきた大冒険を長編にすることになった。「回想」がでてから8年後の1902年のこと(雑誌連載はその前年…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの帰還」(新潮文庫)-1 「躍る人形」。ヨーロッパ全域(とアメリカと日本)まで名声が届いている名探偵は死ねない。

ホームズの人気は衰えず、長編「バスカヴィル家の犬」を出しても読者は満足しない。そこで再び短編を書くことになったが、「回想」で殺してしまったとなると、つじつまがあわない。そこでコナン・ドイルは一世一代の手を打つ。それが1905年刊行のこの短編集…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの帰還」(新潮文庫)-2 「六つのナポレオン」「アベ農園」。ホームズは近代の人間ではなくて、理性に身と心を捧げた中世の騎士。

いちどホームズを殺してしまったのを、一世一代のトリックで生き返らせた。とはいえ、一度死んだのは1894年で再登場したのは1904年ころとなると、この間の空白をどう埋めるのか。そのため、この短編集には執筆当時の現在の事件と、1894-95年ころの過去の事件…

コナン・ドイル「失われた世界」(創元推理文庫) 非西洋を野蛮とみなすイギリス植民地主義肯定の小説。

チャレンジャー教授初登場作。相棒の新聞記者マローンはこのあとの作にも登場。 学会の異端児チャレンジャー教授は南アメリカの博物学旅行の際に、恐竜をスケッチしたと思われる冒険家の遺品を入手した。さっそく講演会で発表すると、侃々諤々の大議論。反論…

コナン・ドイル「恐怖の谷」(創元推理文庫) WW1の最中にアメリカにある革命志向の秘密結社がヨーロッパで騒ぎを起こすというアナクロな世界認識。

ホームズがモリアティ教授の影を心配するなか、ポーロックなる男の持ち込んだ暗号を解く。それは、バールストン館のダグラスという男の危険をしめしたものだった。ワトソンといっしょに直行すると、すでに事件が起きている。周囲を掘りに囲まれた屋敷で、ダ…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(新潮文庫) WW1の最中になると、ホームズは国家の危機を救う秘密諜報員になる。

ホームズの人気は登場後20年を経ても衰えることがなく、1917年までに断続的に書かれてきた短編をまとめた。おりから第一次世界大戦の最中であるが、探偵小説の出版を止めないのはイギリスの矜持とするところであるだろう。 ウィステリア荘 Wisteria Lodge ・…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」(創元推理文庫)-1 セルフパロディと差別意識。

ホームズ譚の最後の短編集。1921年10月号から1927年4月号にかけて発表された12の短編を収録して、1927年に上梓。 高名の依頼人 The Illustrious Client ・・・ 高名な将軍の娘がある男と恋仲になった。その男は有名な犯罪者であり、犯罪組織の親玉。そのこと…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」(創元推理文庫)-2 戦間期になるとドイルは二流の作家に成り下がる。

「シャーロック・ホームズの帰還」「恐怖の谷」などのホームズ復活後の作品は押しなべて、興味のわかないものだったが、ここにきてますますその感が増す。コナン・ドイルは二流の作家(たとえば、ライガー・ハガードやスティーブンソンにも劣る)。ホームズ…

コナン・ドイル「傑作集1」(新潮文庫)-推理編 シャーロック・ホームズが登場しない探偵小説。ホームズのライヴァルたちの登場作品に劣ること数倍。

コナン・ドイルの書いたシャーロック・ホームズの登場しない探偵小説。作品を読むと「ホームズの回想」でホームズをいったん退場させてから「バスカヴィル家の犬」を出すまでの間に書かれたと思う(個人的な意見ですので、信用しないように)。 消えた臨急 T…

コナン・ドイル「傑作集3」(新潮文庫)-恐怖編 人に隠された邪心の暴露というテーマになると、ドイルのは差別や人権軽視が露骨にでてしまう。

イギリスの作家は怪談を書くのが定番だし、ドイルの時代は古典的な怪談に人気があった。そこでドイルの怪談短編を集める。あいにく初出年が書いていない。いつごろ書かれたかは、小説の読解に必須な情報なので、きちんと書いてよ。ネットで調べてもよくわか…

コナン・ドイル「霧の国」(創元推理文庫) 妖精写真を本物と信じ込んだ作者のスピリチュアリズム宣伝本。心霊術は陰謀論と秘密結社と紙一重。

コナン・ドイルが晩年に心霊術に凝ったことは有名。少女が撮影した妖精写真を見て、妖精実在を論証したという論文を書いたり(1980年代になってから本人が偽造であることを証言したので、ドイルには気の毒)、西洋・アメリカで心霊術に関する講演旅行を行っ…