odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ロバート・マキャモン

ロバート・マキャモン「ナイトボート」(角川文庫) ゾンビ映画と「Uボート」を合体した長編第3作。習作だがここから飛躍した。

マキャモンの出版第3作長編(書かれたのは2番目)。 カリブ海のコキーナ島。戦時中は造船と修理で儲かったものだが、今(1970年代後半)は仕事がない。観光客も来ない。心に傷を負ったアメリカ人がつぶれそうなホテルを居抜きで買って経営しているが、心は晴…

ロバート・マキャモン INDEX

2021/10/20 ロバート・マキャモン「ナイトボート」(角川文庫) 1980年2019/04/04 ロバート・マキャモン「奴らは渇いている 上」(扶桑社文庫) 1981年2019/04/02 ロバート・マキャモン「奴らは渇いている 下」(扶桑社文庫) 1981年2019/04/01 ロバート・マ…

ロバート・マキャモン「奴らは渇いている 上」(扶桑社文庫) ロスを制圧しようとする侵略型吸血鬼ホラーの傑作。

1981年作。この前に「バール」「ナイト・ボート」「ベサニィズ・シン」(「ナイト・ボート」以外は未訳)の長編があるが、この第4作でベストセラー作家の仲間入りをして、モダンホラーのトップの一人に名をあげた。まあ、キングはともかくとしてそれ以外の…

ロバート・マキャモン「奴らは渇いている 下」(扶桑社文庫) 最後の審判で取り残される吸血鬼を撃退するホラーは忘れた信仰心を復活させる宗教小説。

2019/04/04 ロバート・マキャモン「奴らは渇いている 上」(扶桑社文庫) 1981年の続き。 事件はきわめてゆっくりとはじまる。まずは「ローチ(ごきぶり)」と呼ばれるサイコパスによる連続猟奇殺人が起こる。他にも、ヒスパニッシュの少女の妊娠と凌辱、筋…

ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 上」(福武書店・創元推理文庫) ギフテッドのネイティブアメリカンに向けられるレイシズムが神秘の道を歩く苦難と苦痛を倍加する。

1951年、アラバマ州に生まれたビリー・クリークモア。彼はギフテッド・チャイルド(GC)であったが、通常のGCとは異なる能力をもっていた。勉学やスポーツではほとんどほかの子供らと変わらない。彼にできたのは、死者の霊を感じ、彼らの痛みを引き受けて、…

ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 下」(福武書店・創元推理文庫)-1 「ワシとヘビの戦い」は「スター・ウォーズ」3部作(エピソード4から6)と同じテーマ。

2019/04/01 ロバート・マキャモン「ミステリー・ウォーク 上」(福武書店・創元推理文庫) 1983年 小説は三部構成。 第1部は高校を卒業するまで。小学校の友人の家で、父が狂気に陥った。一家を惨殺したが、ビリーの友人だけ発見されない。ある日、廃墟の家…

ロバート・マキャモン「アッシャー家の弔鐘 上」(扶桑社文庫) ポオ「アッシャー家の崩壊」の後日譚。悪へ誘う「声」にあらがう者たちの葛藤

ポオ「アッシャー家の崩壊」は、実在するアッシャー一族の秘密に肉薄する驚くべき文書だった! アメリカ中部とおぼしき田舎町アッシャーランドには、アッシャー一族の住む屋敷がたっている。以前はロッジと呼ばれる巨大な、図面もない館があったが、先代が放…

ロバート・マキャモン「アッシャー家の弔鐘 下」(扶桑社文庫) 自分の危機から回復するためには、自己自身を探る旅にでざるを得ない。

2019/03/26 ロバート・マキャモン「アッシャー家の弔鐘 上」(扶桑社文庫) 1984年の続き アッシャー家の次男リックスは売れないホラー作家。第3作を書いているが、編集者にもダメだしをだされるさんざんなでき。どうしても目の前にぶら下がる骸骨のイメー…

ロバート・マキャモン他「ハードシェル」(ハヤカワ文庫) 幽霊にモンスターに宇宙人にUMAがでてくるとB級映画やテレビを思い出される時代にホラーを書く困難

「英米ではホラー・アンソロジーがブームだが、中でも〈ナイトヴィジョン〉シリーズは独自の編纂で知られる。つまり、3人の作家がそれぞれ250枚の中短篇を各巻に書き下ろすことで、一作家一短篇に限られた従来のアンソロジーにつきまとう物たりなさを解消し…

ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 米ソ全面核戦争後の「アフター・ハルマゲドン」を描く傑作ホラー。

最初に個人的な思い出から。この小説を知ったのは、雑誌「ユリイカ」(1989年3月号)でブラム・ストーカー賞に受賞したことを紹介した大瀧啓裕の文章を読んだとき。書かれたあらすじを読んで興奮し、翻訳を待った。でも、いつまでたっても翻訳されない。そ…

ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 人間の善意や好意を信じ協力や交通による再建を試みるグループと他人を出し抜き世界を征服と破滅をもくろむグループの徒歩の長い旅。

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年の続き 小説はおもに3つのグループに焦点を当てる。 シスター・クリープという中年のバッグ・レディ。酒を飲んで車を運転し、事故で子供を亡くした。そのときからニューヨークの場…

ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-3 アフター・ハルマゲドンで人の選択肢は定住か放浪か集住化の3つだけ。

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年2019/03/19 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 1987年 の続き 穴からの脱出に成功した後、彼らはそれぞれの道を探すことになる。まずは、水と食料、休憩所。…

ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-1 核の冬は終わらないが、集住化した人たちは希望を見出す。

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年2019/03/19 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 1987年2019/03/18 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-3 1987年 あれ(上巻の終わり)から…

ロバート・マキャモン「スワンソング 下」(福武書店)-2 キリスト教の象徴が多々反映した人類復活の物語。でも「宥(ゆる)しの神」は〈凡庸な悪〉には対抗できない。

2019/03/21 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-1 1987年2019/03/19 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-2 1987年2019/03/18 ロバート・マキャモン「スワンソング 上」(福武書店)-3 1987年2019/03/15 ロバート・マキ…

ロバート・マキャモン「スティンガー 上」(扶桑社文庫) 停滞したアメリカに質が悪いコピーを作る攻撃的な異星人が侵略を仕掛けてきた。異星人は日本のメタファー。

個人的な記憶から。マキャモンとの最初の遭遇になった小説。読み始めると、途中で止めることができなくなって、一気に読み切ってしまった。読み終えた後、同じ作者の本を探しに行き、「ミステリー・ウォーク」を入手。これも読み始めてから止めることができ…

ロバート・マキャモン「スティンガー 下」(扶桑社文庫) 攻撃的な異星人を撃退するのは公正と自由の精神を体現するアメリカ人。

2019/03/12 ロバート・マキャモン「スティンガー 上」(扶桑社文庫) 1988年の続き。 先に来た善良な異星人は、その歌を聴きとれる女児に「憑依」する。驚くべき速度で地球の言語や知識を習得し、女児を介してコミュニケーションをとる。みずからを「ダウフ…

ロバート・マキャモン「ブルーワールド」(文春文庫)-2 ホラー入門用の短編集。「ミミズ小隊」「キイスケのカゴ」

こちらでは前半の短編の感想。 中編「ブルーワールド」の感想は、ロバート・マキャモン「ブルーワールド」(文春文庫)-1 で。 スズメバチの夏 ・・・ 都会の家族が田舎に避暑に行く途中、道に迷ってガソリンスタンドに到着する。ガソリンはないという返事。…

ロバート・マキャモン「狼の時 上」(角川文庫) もしも007が狼男(人狼)だったら。D-day作戦成功のためにナチス軍破壊工作にいそしむ。

もしも007が狼男(人狼)だったら。危機に陥った時、変身することができる。人間の数倍の身体能力に反射神経。鋭い牙は骨を砕き、首をひと振りすれば鹿の首をへし折れる。そこまでの能力を持っていれば、スパイはこれまでの数倍の任務を達成できるのではない…

ロバート・マキャモン「狼の時 下」(角川文庫) ロシア革命で土地から追い出された貴族の息子の成長物語。

2019/03/05 ロバート・マキャモン「狼の時 上」(角川文庫) 1989年の続き。 マイケルはすでにスパイのプロであって、戦闘と情報収集の優れたプロであるのであって、今回の1944年2月から6月までの活躍(ロンドン-パリ-ベルリン-バルト海-英仏海峡と西ヨーロ…

ロバート・マキャモン「マイン 上」(文芸春秋社) 退屈で空虚な中年になったベビーブーマーが命じられる家族の解体。

このエンタメ小説(1990年)の背景をしるには、オリバー・ストーン監督の「プラトーン」1986年と「ウォール街」1987年を見ておくとよい。主人公二人は1960-70年代に青春時代をすごし、そのあと1980年代のアメリカの製造業不況と金融好況のただなかにいるから…

ロバート・マキャモン「マイン 下」(文芸春秋社) 幼児を誘拐された母親に加えられる暴力。マゾヒスティックなまでの身体の嫌悪。

2019/03/01 ロバート・マキャモン「マイン 上」(文芸春秋社) 1990年の続き。 神の声を聴いたメアリーは、ロード・ジャック(ストーム・フロントのリーダ―)の命令に応えるために、産科病院に忍び込み、生まれたばかりの男の子を預かるふりをして外に持ち出…

ロバート・マキャモン「少年時代 上」(文芸春秋社) アメリカ南部の田舎町で少年が経験する「君たちはどう生きるか」。

コーリー・マッキンソン、12歳。1964年の世界は美しく発見に満ちている。アメリカ南部の田舎町ゼファーで、感受性が強く、想像力を使うすべを知っている男の子が、激動の、しかしありふれた一年を回想する。 第1部 春の薄闇 ・・・ 早朝、牛乳配達の最中に…

ロバート・マキャモン「少年時代 下」(文芸春秋社)-1 1964年「古き良き時代」のアメリカで少年は「正義」を行為で示す。

2019/02/25 ロバート・マキャモン「少年時代 上」(文芸春秋社) 1991年 続けて後半。1964年を振り返れば、前年にケネディ大統領が暗殺され、ベトナム戦争がはじまり、反体制の運動が胎動しているころ。大都市から見ると、アメリカは「古き良き時代」ではな…

ロバート・マキャモン「少年時代 下」(文芸春秋社)-2 正義は暴力と不寛容に対して発揮されなければならない。加虐した過去は忘れてしまうのではなく、大切にする。

2019/02/25 ロバート・マキャモン「少年時代 上」(文芸春秋社) 1991年 2019/02/19 ロバート・マキャモン「少年時代 下」(文芸春秋社)-2 1991年 正義は何に対して発揮されなければならないかというと、暴力と不寛容。1960年代前半の経済成長期であり、マ…

ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-1 二組の故郷喪失者が自己回復のために南の沼地に向かう。

原題「Gone South」。まだ翻訳のでていない1993年冬にサンフランシスコに出張したとき、空港の書店でハードカバーの新刊を購入した。それから2年後の1995年1月で読了したという記録が残っている。邦訳が出ていない昔(1995/02/05)、こんなことを書いた。 そ…

ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-2 奇蹟で苦痛や危機を回避したとしても、それで得られるのは望ましい人生ではない。

2019/02/21 ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-1 1992年の続き。 時代は1991年。この国の経済がまだ好調だった余韻があり、逆にアメリカでは不況の最中。国内メーカーの工場が相次いで閉鎖され、大量馘首。そのため、多くの失業者は日払いの仕…

ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-3 死に直面したときに起こる自己変容。自己の可能性に賭けてみること、自堕落な生活を捨て、自律する生活を送ること。

2019/02/19 ロバート・マキャモン「遥か、南へ」(文春文庫)-2 1992年の続き。 もうひとつのストーリーがあって、こちらはバウンティハンター二人を主人公にする。・銀行はダンをとらえるものに懸賞金1万5千ドルを出した。それを目的にバウンティハンター…