odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ヨーロッパの戦争

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 国民国家同士の戦争は、勝敗を決することが難しくなり、国家の領土(特に政府機能のある都市)を占領するか、政府が降伏を宣言するかしかない。

日本人は第一次世界大戦(名称は揺れ動きあり)になじみがない。戦闘に加わらず、大戦景気で好況にあったから。「最小のコストで最大の利益を上げた」と言われるゆえん。しかし欧州各国にとっては、ナショナルアイデンティティにかかわる重要な戦争であった…

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-2 戦争終結後、列強のバランスから対等な国家の国際関係にな、帝国から国民国家になり、国民が政治参加するようになり、福祉国家・社会国家になる。

2021/03/19 木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 2014年の続き 1917年は重要な転機。 ひとつはロシア革命。この年の2月革命でロマノフ朝が倒される。きっかけは都市民による食料要求デモだった。ロシアは食糧輸出国で国内の備蓄は潤沢だったが、軍隊…

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1 ヘイトスピーチが蔓延する素地を作った時代。大企業優遇、保護経済、移民制限などの政策がナショナリズムや反共のプロパガンダと呼応して、民族差別や人種差別を誘発し、民衆・大衆に定着させる。

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)の記述がほぼロシアに限定されていたので、こちらので20世紀初頭(1914-1929年)までの状況を確認する。 重要なできごとは第一次大戦(WW1)。三国協商と三国同盟の対決とされるが、むしろ19世紀の帝国主…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 WW1はオランダ・ベルギー・フランスの西部戦線と、ポーランド周辺の東部戦線と、ギリシャ・セルビアのバルカン戦線の3つが主要な戦場。戦後復興に差が出た理由。

原著は1966年(ということは1913年生まれの林健太郎が53歳の時の著作)。1976年に講談社学術文庫に収録。もとは文芸春秋の「大世界史」第22巻。この後に1930年代を書いた本があるので、記述は1933年まで。多くの戦間期の本は1933年のナチス政権以後にフォー…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-2 社会不安の時代に自由主義は結集軸にならず、労働者・下層階級は社会主義かナショナリズムに結集する。

2021/03/05 林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 1976年の続き WW1の総力戦は、動員された労働者、下層階級の力を大きくする。専制国家が打倒されたこともあり、貴族政は後退(貴族が資産を失ったのも大きい)。戦後はインフレと帰還兵士の失業…

エーリヒ・マティアス「なぜヒトラーを阻止できなかったか」(岩波現代選書) その答えを左翼のせいにすると、有権者や政治制度の問題が棚上げされるし、左翼でない者たちは責任がないことになる

WW2敗戦後、まず哲学者が表題の反省をした。ヤスパースやマイネッケ(「ドイツの悲劇」中公文庫)、マックス・ピカート(「沈黙の世界」みすず書房)を読んだ記憶がある。ドイツ精神を問題にした抽象的な議論のあとに、社会学や政治学から反省の書が出た。こ…

ドロレス・イバルリ「奴らを通すな―スペイン市民戦争の背景」(同時代社) 彼女の演説から『ノー・パサラン』は抵抗運動の鬨の声になった。「ラ・パッショナリア」、情熱と受難を併せ持つ女性。

2015年の夏、国会議事堂前の安保法制反対街宣で「ノー・パサラン」のコールが起きた。「ノー・パサラン」は「奴らを通すな!」(¡No pasarán!)という意味で、ファシズムに抗する人たちの世界共通のスローガン。20世紀の初めから多くの人が発してきたが、有名…

大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書) 反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなかった

ナチスを率いたヒトラーのユダヤ人虐殺は、政策遂行から派生したとか世論の後押しで行ったという議論があるが、そうではない、徹頭徹尾反ユダヤ主義がヒトラーの確信・核心であり、終生変わることなく維持し、多数の被害者をだしたことに反省することはなか…

ヴェルコール「海の沈黙・星への歩み」(岩波文庫) ナチスに対する非暴力不服従のレジスタンス。でも野蛮な権力には対抗できないので使い方に注意。

作者ヴェルコールについては、wiki記事(ヴェルコール - Wikipedia)を参照。この文庫の解説で補足すると、イラストレイターだったのが、1940年夏のナチスドイツによるフランス占領から抵抗(レジスタンス)の活動を行った。収録された短編はそのときに公開…

エリヒ・レマルク「西部戦線異状なし」(新潮文庫) 死を無価値化・無意味化する政治と戦争の愚かしさと恐怖を、即物的で淡々としたジャーナリスティックな乾いた文章でつづる。

19歳の少年ポウル・ボイメルはのちに第一次世界大戦と名付けられた戦争に動員される。10週間(短い!)の軍事訓練で、西部戦線に派遣され、フランスやベルギー軍と戦うことになった。同じクラスから数十人も招集されていて、すでに数名は戦死している。そこ…

宮田光雄「アウシュビッツで考えたこと」(みすず書房) 東欧革命・ソ連崩壊より前、全体主義国家でのキリスト教会をレポート。

著者はドイツ政治思想史を専攻するが、一方でキリスト者としての活動も行っている。自分には岩波新書ででた「キリスト教と笑い」が、映画や翻訳のでたエーコ「薔薇の名前」の主題と共鳴していて楽しく(?)読んだ。福音書に書かれたイエスの言行から笑いを見…

ヴィクトール・フランクル「夜と霧」(みすず書房) 期限なき収容状態でいかに希望を持つか、解放後の弛緩からいかに回復するか。

この絶滅収容所の記録を前にすると、おののき、恐怖し、震撼し、その記述が際限なく続くことに絶句し、沈黙するしかないところにいってしまう。これほどの惨劇をよくも人間が・・・とか、これほどの虐待をよくも人間が・・・とか、これほどの勇気をよくも人…

ユリウス・フチーク「絞首台からのレポート」(青木文庫) ナチスに捕らえられたチェコスロヴァキアの共産党員の獄中手記。牢獄で書かれすこしずつ看守が運び出し戦後出版した。

ユリウス・フチーク「絞首台からのレポート」は出版にいたる状況が感動的だ。一九四〇年代、チェコスロヴァキア(当時)の文芸評論家にして共産党党員である著者は、ナチス政権支配下のチェコで逮捕される。拘禁された収容所(拘置所かは不明)で、彼の状況…

イエールジ・コジンスキー「異端の鳥」(角川文庫) 黒い髪と黒い瞳は異端の印。方言がわからない少年に向けられた信じがたい残虐行為。

第2次大戦直前のポーランド(と明示されているわけではないが)。ワルシャワから田舎に疎開させられた6歳の少年ははぐれてしまい、村に寄宿することになる。彼の黒い髪と黒い瞳は、藁色の髪と青い瞳の村人にはユダヤとジプシーに見られてしまう。方言を理解…

レナ・ジルベルマン/マリ・エレーヌ・カミユ「百人のいとし子・革命下のハバナ」(筑摩書房) ポーランドがナチス占領から解放されてもユダヤ人差別はなくならない。シオニズム団体がユダヤ人をイスラエルに移住させた。

ロバート・キャパ「ちょっとピンボケ」 ・・・ 略 レナ・ジルベルマン「百人のいとし子」 ・・・ フランケル「夜と霧」(みすず書房)はナチスの絶命収容所でいかに生き延びるかが主題であったが、こちらは収容所から解放されたものをいかに復帰させるかとい…

グレアム・グリーン「第三の男」(ハヤカワ文庫) 米ソ英仏の共同管理にある1947年ウイーンで起きた闇ペニシリン流通事件。

「作家のロロ・マーティンズは、友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦終結直後のウィーンにやってきた。だが、彼が到着したその日に、ハリーの葬儀が行なわれていた。交通事故で死亡したというのだ。ハリーは悪辣な闇商人で、警察が追っていたという…

ロバート・キャパ「ちょっとピンぼけ」(文春文庫) キャパはハンガリーのユダヤ人。パリに亡命して戦場写真家になり、インドシナ半島の戦争で41歳で亡くなる。

文春文庫ででていて、新訳に変わった。でも自分が読み直したのは、筑摩書房の世界ノンフィクションシリーズ。1960年代に出版されたもので、第3章が省略されているとのこと。文庫版より写真が多いような気がする(文庫版処分済のため比較できず)。 「今朝か…

マイケル・ギルバート「捕虜収容所の死」(創元推理文庫) 1943年7月の北イタリアにある捕虜収容所の脱走計画と連続殺人。欧米の士官や兵士は収容所の中でも戦闘を続ける

「第二次世界大戦下、イタリアの第一二七捕虜収容所でもくろまれた大脱走劇。ところが、密かに掘り進められていたトンネル内で、スパイ疑惑の渦中にあった捕虜が落命、紆余曲折をへて、英国陸軍大尉による時ならぬ殺害犯捜しが始まる。新たな密告者の存在ま…

アガサ・クリスティ「ABC殺人事件」(創元推理文庫) ストーリーがトリックになった大傑作。WW1の戦争犠牲者は戦間の自信を失ったヨーロッパの姿。ポワロがヨーロッパを救う。

「ポワロのもとに、奇妙な犯人から、殺人を予告する挑戦状が届いた。果然、この手紙を裏書きするかのように、アッシャー夫人(A)がアンドーヴァー(A)で殺害された。つづいてベティー・バーナード(B)がベクスヒル(B)で……。死体のそばにはABC鉄…

ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」(現代思潮社) フランコのクーデータに反対するイギリス義勇兵の記録。そこでは「あらゆる思想が試された(堀田善衛)」

「内戦の取材のためにスペインへ渡ったオーウェルは、着くと同時に義勇軍に参加していた。彼はそこでどんなプロパガンダも色褪せる戦争の現実を見る。飢えと寒さの前線、粗末きわまる武器、無責任なジャーナリストたち、そして人民のためにあるべき社会主義…

ジャン・ポール・サルトル「壁」(人文書院)「水いらず」「部屋」 壁は銃殺される直前に背中に感じるもの、他者の内部に行くことを拒んでいるもの。

水いらず1938 ・・・ 頭のいい学生が、物語(ストーリー)はないけど小説(ノヴェル)を書いてみたというのかな。リュリュとアンリの若い夫婦。アンリは不能でリュリュは憐憫とも嫌悪ともいえる感情を持っている(本当に?)。で、リュリュは友人リレットと…

コスモデミヤンスカヤ「ゾーヤとシューラ」(青木文庫) ナチスドイツに抵抗したソ連のパルチザン少女を育てた母の回想。スターリニズムは記述されないがないことで強く意識してしまう。

第2次世界大戦中。ナチスドイツに占領された村にソ連のパルチザンが侵入する。馬小屋を放火しようとした少女が捕らえられ、拷問を受ける。彼女は屈することはなかった。3日後、彼女は村人の前で絞首刑になる。首に縄をかけられた少女は「祖国は解放が近い!…