odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

筒井康隆

筒井康隆「パプリカ」(中公文庫) 父権的な男の欲望を充足させるキャラでできた作者の過去作のパッチワーク。

先にアニメを見た(おもしろいともつまらないとも)ので、原作を読んだ。1993年初出。 精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢…

筒井康隆 INDEX

2017/12/08 筒井康隆「全集1」(新潮社)-1960年代前半の短編「お助け」「やぶれかぶれのオロ氏」 1960年 2017/12/07 筒井康隆「幻想の未来」((角川文庫)-1960年代の短編2「トーチカ」「しゃっくり」「東海道戦争」 1964年 2017/12/06 筒井康隆「全集4…

筒井康隆「全集1」(新潮社)-1960年代前半の短編「お助け」「やぶれかぶれのオロ氏」

作家は若いころのことをあまり書いていない。全集の月報には評論家による評伝が載っているが読んでいない。子供向け小説や漫画に熱中→映画に熱中→演劇に熱中→SFに開眼→兄弟で同人誌を発行。その同人誌が江戸川乱歩の目に留まり、商業誌に転載された。それか…

筒井康隆「幻想の未来」((角川文庫)-1960年代の短編2「トーチカ」「しゃっくり」「東海道戦争」

続いて1960年代前半の中短編。模索の時代。下の世界 1963.05 ・・・ 肉体階級と精神階級に分離した社会。肉体階級から「上」に上がるためにトレーニングに励むトオル。いま-ここから脱出したい人の物語(「脱走と追跡のサンバ」「虚人たち」)ブルドッグ 196…

筒井康隆「全集4」(新潮社)-1960年代のジュブナイル小説「時をかける少女」「緑魔の町」

戦後から昭和が終わるころまで、旺文社の「中一時代」、学研の「中一コース」などティーン向けの学習雑誌があった。1960年代のマンガ雑誌には小説の欄もあった。そのような雑誌に掲載・連載したものを集めた。ほかに小学生低学年向けに書いたものも収録。こ…

筒井康隆「48億の妄想」(文春文庫)

書かれた時代の日本によく似ているが、ひどく違った世界。大きくは、国民の住居そのたにカメラ・アイがあまた設置されていて、24時間撮影されている。統括するのは民間の「カメラ・アイ・センター」。そこにはテレビ局員が常駐し、面白い映像があれば瞬時に…

筒井康隆「全集2」(新潮社)-1965-66年の短編「堕地獄仏法」「マグロマル」

1965年と1966年の短編。堕地獄仏法 1965.08 ・・・ 戦後の好景気を背景に総花学会と恍瞑党が躍進。天皇も法華経に帰依して、伊勢神宮他各地の神社が破壊。独裁体制に移行したが、衣食が足りているので国民は満足。「政治的な価値基準が宗教の聖邪基準とごっ…

筒井康隆「全集3」(新潮社)-1966年の短編「最高級有機質肥料」「ベトナム観光公社」

1967年と1968年前半の短編。中間雑誌やティーン向け学習雑誌などに発表した短編を収録。産気 1966.07 ・・・ 男性課長の正田が妊娠した。会社勤務中に産気ついて。ここで終わらずさらに続ければ傑作。昭和40年代だと書けるのはここまでか。サチコちゃん/ユリ…

筒井康隆「全集5」(新潮社)-1967年後半1968年前半の短編「アルファルファ作戦」「ヒストレスヴィラからの脱出」「脱出」

1967年後半と1968年前半の短編。一緒に収録されたエッセイによると、このころから中間雑誌の依頼が増えたという。中間雑誌の当時の読者層はSFになじみがないので、SF的なアイテム、ガジェット、用語などを使わないようにと制限を受けたらしい。作家にとって…

筒井康隆「全集6」(新潮社)-1968年後半の短編「晋金太郎」「新宿祭」「わが良き狼」

1968年後半の短編。地獄図日本海因果 1968.08 ・・・ 突如北鮮艦隊が南下、警戒中の海保艦隊と遭遇。中共から買ったできそこないの小型原爆を使うと、時間を破壊して、そのあたりの海域をタイムスリップさせた。バルチック艦隊、元寇などと海保が闘うはめに…

筒井康隆「筒井順慶」(新潮文庫)-1968年前半の短編「色眼鏡の狂詩曲」「あらえっさっさ」

1968年の中編と前半の短編。作品の並びは全集6に準じる。文庫の収録作品とは一致しない。テト攻勢(ソンミ村虐殺事件)、プラハの春、五月革命、文化大革命、公民権運動(キング牧師、R・ケネディ暗殺)。公害続発、大学闘争。メキシコオリンピック。アポロ…

筒井康隆「霊長類南へ」(講談社文庫)

中国辺境の地にあるミサイル基地。毛沢東主義者の青年将校と科学技術士官が恋のさや当てで発射室内で大乱闘。蹴り飛ばされた将官がパネルに激突。そのとき発射ボタンを押してしまい、核ミサイルがウラジオストックと三沢に飛んでいった。迎撃などできるはず…

筒井康隆「全集7」(新潮社)-1969年前半の短編「走る男」「チョウ」

1969年上半期のの短編。東大闘争が安田講堂の「落城」で終焉に向かう。断末魔酔狂地獄 1969.02 ・・・ 平均寿命が140‐160歳になった21世紀。100歳の若者(書かれた時代の若者で、著者の同世代)が葬式で大暴れ。「からだはしっかりしているが、ぼけてしまっ…

筒井康隆「全集8」(新潮社)-1969年後半の短編「母子像」「国境線は遠かった」

1969年下半期の短編。夏にアポロ11号の月面着陸があり、ウッドストック・フェスティバルがあり、三沢vs松山商の決勝戦は18回で決着がつかず再試合になり、ベトナム戦争は泥沼状態で、中国の文化大革命は得体が知れず・・という年。母子像 1969.07 ・・・ …

筒井康隆「心狸学・社怪学」(講談社文庫)

1969.01-08に雑誌に連載。「心理学・社会学」の概念を使って、現在(1969年)の社会や家族を描く。本文ではこれらの概念に関する説明はないので、読者はあらかじめ知っていることが想定されている。心狸学篇 条件反射 ・・・ 事故を起こした流行作家、緊急事…

筒井康隆「全集9」(新潮社)-1970年の短編-1「逃げろや逃げろ」「空想の起源と進化」

1970年おおよそ上半期の短編。欠陥バスの突撃 1970.01 ・・・ 色情、サラリーマン根性、老人、放蕩、計算機、気障、創造、知識、子供、アニマ、食欲、サービス、批判、アル中、自虐、好奇心、運転手の18人が欠陥バスを運転しながら、靖子とデートに行き、ホ…

筒井康隆「全集9」(新潮社)-1970年の短編-2「ビタミン」「日本列島七曲り」「テレビ譫妄症」

1970年おおよそ下半期の短編。20000トンの精液 1970.05 ・・・ バーチャルで代理セックスができる時代(こんなことばは使われていないが)。もっとも人気のあるヒルダは男のルナティック(狂気、熱中とでも思いなせえ)と女の嫉妬を呼び起こす。路上で…

筒井康隆「乱調文学大辞典 」(講談社文庫)

1970年前後のエッセイなど。乱調文学大辞典 1971.11 ・・・ 文学辞典のパロディ。広辞苑の全項目を読みながら、項目を拾い出して、自作の解説をつけていった。まあ、言葉の博物学者ですな。膨大なことばを収集して、分類し、変換し、自家薬籠中にいれ、実作…

筒井康隆「脱走と追跡のサンバ 」(角川文庫)

この小説はサマリーをつくりずらい。およそ「現実的」なストーリーはないに等しく、登場する人物がおよそ「現実的」ではないから。それでいて、人物の行動様式や風景は「現実的」に思えるくらいに近しい。読んでいる間、小説との距離の取り方が難しい。でも…

筒井康隆「全集10」(新潮社)-1971年前半の短編「陰悩録」「家」

1971年上半期の短編。わが名はイサミ 1970.11 ・・・ 甲州鎮撫隊となった近藤勇絶頂期のどんちゃんさわぎ。ナポレオン対チャイコフスキー世紀の決戦 1970.11 ・・・ 大序曲「1812年」の実況。楽器が闘う(のちの「虚航船団」第3部の先取り)。女権国家の繁栄…

筒井康隆「全集11」(新潮社)-1971年後半の短編「郵性省」「経理課長の放送」「将軍が目醒めたとき」

1971年下半期の短編。郵性省 1971.06 ・・・ オルガスムスに達したとき、ある場所をイメージするとテレポーテーションできる技術、オナポートが高校生によって開発され、日本は大発展を遂げる。都筑道夫「池袋の女@狼は月に吠えるか」(文春文庫)と比較せ…

筒井康隆「俗物図鑑」(新潮文庫)

会社で接待担当の雷門亮介は独自の接待理論をもち、きちんとしたデータベースをもっていた。そのために会社の売上の3分の1は彼の接待で生み出していた。社長秘書と情事をしたその場所に、出版社勤務の秘書の兄を会う。彼はベストセラーを産む凄腕ディレクタ…

筒井康隆「家族八景」(新潮文庫)

七瀬は幼少のころから人の心(というか内話)を読むことができた。彼女の能力は他の人を恐怖させ(なんて勘の良い子ならまだしも、自分の心を読まれたことを憎悪する)、「掛け金をはずす」「掛け金をおろす」ことを意識的に制御して、自分の能力が知られな…

筒井康隆「全集13」(新潮社)-1972年の短編「万延元年のラグビー」「俺に関する噂」「デマ」他

1972年の短編。万延元年のラグビー 1971.12 ・・・ 桜田門外の変、井伊直弼が暗殺された。どうやら井伊家が牛肉の輸入を禁止したので恨みを買ったらしい(笑)。が、首が行方不明になり、井伊家は葬儀を出せないので困る。急遽、忍者チームにラグビーを教え…

筒井康隆「おれの血は他人の血」(新潮文庫)

山鹿建設に最近入社したばかりの経理課員である「おれ(絹川)」は二重帳簿をみつけてしまう。この会社は常務派と専務派が激しく対立していて、経理部長は専務の命で裏金をつくる工作をしていたらしい。派閥抗争には無縁であるはずだが、社長秘書のささやき…

筒井康隆「全集14」(新潮社)-1973年前半の短編「農協月へ行く」

1973年前半の短編。 心臓に悪い 1972.12 ・・・ 柘榴島に配置転換になった男。心臓病の持ち主で妻と仲が悪い。8か月分の薬をもって引っ越したが、薬が手元にない。妻の手で別便で送られたのだ。その薬がないとひどい発作が起こる。なんども長距離電話をかけ…

筒井康隆「狂気の沙汰も金次第」(新潮文庫)

1973年に半年間夕刊フジ(日刊紙)に連載されたもの。記録を見ると19歳目前の大学1年生の時に買って、一日で読みおえている。おもしろかったので、同じ紙面に連載された他の作家のエッセイにも手を出したはずだが、井上ひさしのに少し興味を惹かれただけで、…

筒井康隆「全集15」(新潮社)-1973年後半の短編「スタア」「暗黒世界のオデッセイ」など

1973年後半の戯曲と短編。スタア 1973.10 ・・・ 戯曲。タレントの新婚夫婦が新居入居のパーティを開くことになった。苦労したときのために、ふたりとも元恋人やヒモがいて、ニュースになった彼らの生活に割り込もうとする。マネージャーに女中(ママ)は彼…

筒井康隆「全集16」(新潮社)-1974年の短編「ウィークエンド・シャッフル」「如菩薩団」など

1973-74年の短編。このあたりはさまざま出版社の原稿の取り合いがあったのか、複数の文庫に収録されている。「ウィークエンド・シャッフル(講談社文庫)」「おれに関する噂 (新潮文庫) 」など。 犬の街 1973.12 ・・・ 集金の金をもった青年が途中の駅で降…

筒井康隆「男たちのかいた絵」(新潮文庫)

1972年から1974年にかけて雑誌連載された連作短編集。書かれた年にはすでに任侠映画の人気は下降、西部劇映画も制作されなくなっていて、ギャング映画はすたれている(というところに、「ゴッドファーザー」1972年が大ヒットしていたわ)。もちろん直後にカ…