odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

高橋和巳「我が心は石にあらず」(新潮文庫) 地方エリートはホモソーシャル社会の競争で勝ち続けようとして威張り、脱落すると女性に依存する。

前作「悲の器」で法科系エリートを虚仮にした作家、今度は組合活動家を虚仮にする。という方向で読んだ。 特攻隊になったが一命を永らえた学生は機械工学の技術を得て、地元の機械製造会社の研究員となっている。欧米の高額な特許料を払うのも片腹痛いという…

高橋和巳「日本の悪霊」(新潮文庫)-1 狡猾な容疑者を中年警官が追いかけるサスペンス巨編。

高橋和巳の小説は書かれた思想に注目が集まるのだが、本書ではサスペンスに注目。すなわち、とある家に闖入し金品を要求して少額の紙幣を奪取した男がいる。よくある間抜けな強盗事件に思えたが、担当した警官は巧妙な仕掛けではないかと疑う。調べると、彼…

高橋和巳「日本の悪霊」(新潮文庫)-2 他人嫌悪のミソジニー男性が革命に失敗し庶民から疎外され、行き場を失う。

2024/02/27 高橋和巳「日本の悪霊」(新潮文庫)-1 狡猾な容疑者を中年警官が追いかけるサスペンス巨編。 1969年の続き 容疑者・村瀬は朝鮮戦争のころに大学生であった。入学当初から鬼頭を名乗る元坊主が始動する革命組織に加入していた。彼らは武装革命を…

高橋和巳「堕落」(新潮文庫) 成功した社会起業家も性加害を反省しなくてだいなし。

40歳になる前に夭逝した作家のほとんど最後の作品。この後京都大学文学の教授になる大学闘争の調停に消耗し、がんを患って亡くなってしまった。多忙と多筆は想像力を枯渇させたのか、この中編はそれまでに発表した長編をつまみぐいしてこしらえた。 青木隆造…

高橋和巳「わが解体」(河出文庫) 自分を孤立者と規定する作家はさまざまな問題を一人で抱え、一人で解決しようとする。

高橋和巳は自分を孤立者、単独者としてみていて、さまざまな問題を一人で抱え、一人で解決しようとする。そこには強い責任感があるが、他人に開かれていないのでユーモアやゆとりがなくて、近寄りがたさを感じる。 わが解体 ・・・ 1970年の状況。数年前から…

河出文芸読本「高橋和巳」(河出書房)-1 若い人にはウケたが、年上の人は批判的だった「苦悩教」の作家。

俺は高橋和巳の小説は日本の教養主義者を描いたものだと思う。日本の教養主義は以下のアイデアに基づく。なので、小説やエッセイの主題になっている社会主義と共産主義運動、組織論、政治と文学はかっこにいれたほうがよい。なにしろ21世紀にはそれらの運動…

河出文芸読本「高橋和巳」(河出書房)-2 「議論はブッキッシュで空疎な一般論におちてい」った。

2024/02/20 河出文芸読本「高橋和巳」(河出書房)-1 若い人にはウケたが、年上の人は批判的だった「苦悩教」の作家。 1980年の続き 没後に編集された高橋和巳評。 座談会 高橋和巳の文学と思想(大江健三郎/小田実/中村真一郎/野間宏/埴谷雄高) ・・・ 作…

貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-1 古代から春秋戦国まで。宗教都市国家が官僚制国家に成長する。

中国の歴史は断片的にしか知らないので手軽な通史を読む。高校生時代に、この3巻を通読したとはいえ、半世紀近くたっているとなると、初読に等しい。また1964年初出なので、学問的には不備があるはず。とくに考古学などの科学的知見に乏しい。本書でも上巻…

貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-2 秦・漢から三国志の時代まで。都市国家連合から官僚による専制国家が誕生。

2024/02/16 貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-1 古代から春秋戦国まで。宗教都市国家が官僚制国家に成長する。 1964年の続き 中国の歴史の中でも最も人気がある「史記」と「三国志」の時代。たいていはパワーゲームや戦略・戦術に目を奪われるようだ。…

貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-1 五胡十六国・南北朝から隋・唐まで。中国はいつも人口過剰なので、労働生産性をあげたり機械化する意欲に欠けていた。

2024/02/15 貝塚茂樹「中国の歴史 上」(岩波新書)-2 秦・漢から三国志の時代まで。都市国家連合から官僚による専制国家が誕生。 1964年の続き 最初のミレニアム期を駆け足ですぎる。前半は国がころころ変わるので、高校の歴史でもあっさりと通り過ぎるとこ…

貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-2 五大十国・宋から元まで。同じ中国文化圏のなかで分裂と統合を繰り返す。

2024/02/13 貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-1 五胡十六国・南北朝から隋・唐まで。中国はいつも人口過剰なので、労働生産性をあげたり機械化する意欲に欠けていた。 1969年の続き 古代中国史の泰斗も、中世になると学識は及ばないのか、平坦な記述に…

貝塚茂樹「中国の歴史 下」(岩波新書) 明と清から中華人民共和国まで。世界史に中国が登場する。

2024/02/12 貝塚茂樹「中国の歴史 中」(岩波新書)-2 五大十国・宋から元まで。同じ中国文化圏のなかで分裂と統合を繰り返す。 1969年の続き 明から中華人民共和国の建国までの600年を新書一冊で取り上げるのは無理がありすぎた。そのうえ、著者はこの時…

トマス・ナルスジャック「贋作展覧会」(江戸川小筐訳) これまで紹介されなかったのもしゃーないなというでき。

トーマス・ナルスジャックの第1作で、全編がパロディという異色作。ハヤカワポケットミステリでは21編中の7編が訳出された。 odd-hatch.hatenablog.jp 有志が未訳短編を訳していた。そこにある3編を読む。労多謝。(感想のあとのURLは翻訳を公開しているペ…

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(光文社文庫) ワトソンと漱石の手記が交互に出てくる編集。イギリス人のレイハラやマイクロアグレッションに漱石は悩まされる

1901年、ロンドンの下宿屋で奇妙な事件が起こる。ある婦人が生き別れの弟を見つけ出し、同居を始めたが弟は変人で奇人になっていた。東洋から持ち帰った仏像や甲冑を室内に入れているが、決して他人に触れさせない。その上部屋の暖炉に火を入れないし、食事…

法月綸太郎「法月倫太郎の新冒険」(講談社文庫) もう本格ミステリはパロディやパスティーシュとしてしか成立しない、そのことを再確認した知的蕩尽の短編集

1999年にでた第3短編集。でたばかりのノベルスをすぐ買ったはずなのに、中身をすっかり覚えていなくて、今回の文庫は再読とはいえまったく初読に等しい。何も思いだせなかった。 背信の交点 1996.10 ・・・ 信州からの帰りで「あずさ68号」に乗っていると、…

東野圭吾「超・殺人事件 推理作家の苦悩」(新潮文庫) 作者と読者が小説内存在にされると可能になる「トリック」集成

2001年の作。推理作家が推理小説を書いている、あるいは読者が推理小説を読んでいると、さまざまなトラブルと誘惑とアドバイスがやってくる。その先にある売れ行きと賞賛の期待ないし落胆。推理作家はほんと、つらいよ。 超税金対策殺人事件 ・・・ 大いに売…

有栖川有栖「乱鴉の島」(新潮文庫) 乱歩「パノラマ島綺譚」1925年のパスティーシュを2006年に書く。なんか意義ある?

ちょっとハードな読書をしていたので(ジェイムズ・ジョイスを集中的に読んでいる)、息抜きに「孤島もの」の探偵小説に手を出す。ストーリーは常に一緒で、しかし無数のバリエーションがあるので、気楽に読めるのだ。 犯罪社会学者の火村英生は、友人の有栖…