odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

キルゴア・トラウト「貝殻の上のヴィーナス」(ハヤカワ文庫) 生命に終わりがあることの不条理と永遠の命の牢獄とどっちが耐え難いものになるのかしら。

「電気バンジョー片手に”誰も答えられぬ質問”に答えを求め、星星を遍歴する宇宙吟遊詩人サイモン・ワグスタッフ。そのおともは、イヌとフクロウ、そして美人アンドロイド。だが、彼のあった異星人たち−猫から進化したシャルトーン星人、雄は空を飛行船のよう…

ボブ・ショウ「見知らぬ者たちの船」(サンリオSF文庫) しょぼくれた調査船による「宇宙船ビーグル号の冒険」。イギリス人は危機にあっても取り乱さない。

測量調査船サラフォード号は、辺境の惑星をめぐって地図を作る仕事。開発予定もない異境の地であっても地図は必要だというのでひどい条件で仕事をしている。そのため、短期間で金を稼ぐ目的の連中しか来ない。タイトル「見知らぬ者たち」というのはすぐにメ…

ボブ・ショウ「おれは誰だ」(サンリオSF文庫) 善良ではあっても人に迷惑をかけずには旅のできない男の遍歴は「キャンディード」のSF版。

2386年では徴兵に応じたものは過去一年間の記憶を消されることになっていた。しかし、今回応募したウォーレン・ピース(この名前の由来は笑える)は施術に失敗したのか、過去すべての記憶を失ってしまった。まっさらのタブラ・ラサの状態でいきなり兵士にな…

ヴァン・ヴォークト「目的地アルファ・ケンタウリ」(創元推理文庫) 世代間宇宙船〈人類の希望号〉で起きた権力奪取闘争は短縮されたローマ帝国史。

「宇宙における歪みが、太陽系に破滅をもたらすという予測に基づき、アルファ・ケンタウリに向かう宇宙船〈人類の希望号〉。だが、理論上のミスから宇宙船は難航し、船内には不平不満が募り、やがて反乱へと発展した・・・。人類の新天地を求めて果てしなく…

エリック・ラッセル「パニック・ボタン」(創元推理文庫) リベラルなアメリカの物知りおじさんでも、1950年代の悪意や偏見から逃れられない。

追伸1953 ・・・ 人生の晩年を迎えた医師。そこからでたことのない街のコーヒーショップで教え子と出会う。教え子は宇宙飛行士になりさまざまな惑星をめぐっていた。そのときに、不快な惑星の不快な異星人の話をし、その写真を見せる。驚愕したのは、写真に…

Olympia 1936 Berlin(「民族の祭典」「美の祭典」)を見る

薬を飲み忘れたら、やる気がなくなったし、今年はオリンピックがないのを思いだしたので、1936年ベルリン大会のドキュメンタリーを見る。www.youtube.com見ものは総統閣下のお姿であって、民族の祭典では0:16:18 選手入場にこたえる 0:19:17 開会宣言 1:34:1…

エリック・ラッセル「わたしは無」(創元推理文庫) 1950年代SF黄金期のリベラルな短編は21世紀にはアメリカ〈帝国〉の正当化になって手放しで褒めるわけにはいかない。

1905年生まれ1978年没。同じころに生まれた作家にはフレドリック・ブラウンやヴァン・ヴォークトなどがいる。イギリス生まれだけど、アメリカで活躍していたので、アメリカのSF作家のくくりにしてよいかしら。バロウズやスミスと、アシモフ・ハインライン・…

オラフ・ステープルドン「オッドジョン」(ハヤカワ文庫)

「歩くことも這うこともできない発育不全の赤ん坊が、実は五歳だった。彼の名はオッド・ジョン・・・だが、その子供は高等幾何学を解し、一般相対性理論を論じる恐るべき神童であり、テレパシー、催眠術などのさまざまな超能力を持つミュータントだったのだ…

H・G・ウェルズ「モロー博士の島」(創元推理文庫) 進みすぎた科学は人間を先祖帰りさせ、野蛮化させる。

持っている本には、1995年ころ公開の映画「DNA」のカバーがついていた。1950年代の古い映画の存在は知っていたのだが (間違っていた、映画化されたのは *映画『獣人島』(1933年/アール・C・ケントン監督) *映画『ドクター・モローの島』(1977…

ギルバート・チェスタトン「木曜の男」(創元推理文庫) 共産主義や無政府主義に嫌悪と憧憬を同時にもつアンビバレンツな感情

初出は1905年(中島河太郎の解説では1907年)。なので、少し社会背景を知っておいたほうがよい。19世紀後半からの労働運動と左翼運動は支持者を得て、運動が活発になっていた(ザングウィル「ビッグ・ボウの殺人」)。ただ、ロシア革命の前なので、運動組織…

ギルバート・チェスタトン「奇商クラブ」(創元推理文庫) 隠された新規事業を探せ。最も奇妙な謎解き探偵。

1905年初出の最初の短編集。設定がなんともユニーク。これまで(1905年当時)に存在しなかった新しい生業を紹介しましょうというもの。それは何かの事業に似ていてはならず、十分な収入を獲得できるものでなければならない。小説の中で成り立てばよいのであっ…

ギルバート・チェスタトン「ブラウン神父の童心」(創元推理文庫) 神父、上流階級を観察する

ブラウン神父ものの第1作。1911年初出。当時チェスタトンは37歳(1874年生まれ)。 青い十字架 ・・・ ブラウン神父はサファイアのついた十字架を運ぶ使命を持っている。それを大怪盗フランボウが狙っている。フランボウは190cmもある大男。小男と大男の神父…

ギルバート・チェスタトン「ブラウン神父の知恵」(創元推理文庫) 神父、ファンタジーと迷路の国に行く

ブラウン神父ものの第2短編集。1914年刊行。 グラス氏の失踪 ・・・ 子供好きな青年はときに部屋にこもりきりになる。そして誰も見たことの無いグラス氏と口論もしている。そしてこの青年が縛られ、部屋がめちゃくちゃになっている状態で発見された。犯罪学…

ギルバート・チェスタトン「ブラウン神父の不信」(創元推理文庫) 神父、アメリカに行く

ブラウン神父ものの第3作。1926年初出。前作からはすこし間が空いた。この間の大きな出来事は第一次世界大戦。これの影響はヨーロッパの啓蒙主義とか形而上学が深刻な打撃と受けたことと、アメリカが<帝国>として姿を現したこと。後者の場合、アドルノが…

ギルバート・チェスタトン「ブラウン神父の秘密」(創元推理文庫) 神父はテクノロジーを気に入らない

ブラウン神父ものの第4作。1927年初出。「不信」では一編あたりの文字数が多かったけど(創元推理文庫で40ページ)、元に戻る(30ページ)。分量のみならず、文体も変化して、ファンタジーの眼の摘んだ緻密な文章が乾いたジャーナリスティックなものになっ…

ギルバート・チェスタトン「詩人と狂人たち」(創元推理文庫)  犯罪捜査に神学と形而上学は必須?!

1929年初出の短編集を1977年に翻訳、文庫で出版。自分の持っているのは文庫版初版。カバーイラストは現在のものと異なっていて、しおりひも付き(一時期、創元推理文庫は初版のみしおりひもをつけていた)。 おかしな二人連れ ・・・ 背の高い男と小柄な男の…

ギルバート・チェスタトン「ブラウン神父の醜聞」(創元推理文庫) 神父、労働者とボルシェヴィキに会う

ブラウン神父ものの第5作。1935年初出。 ブラウン神父の醜聞 ・・・ メキシコの観光地にアメリカの有名な婦人が逗留していた。脱線すると、1930年代のメキシコはとくに共産圏の亡命者に寛大で、トロツキーやエイゼンシュタインらが亡命していた。若い夫とい…

ギルバート・チェスタトン「ポンド氏の逆説」(創元推理文庫) 英国情報部員はパラドックスで煙をまく

1936年初出。政府の役人をしているらしいポンド氏は、目立たないながらも奇妙なことを口走る癖があった。それが下記のような逆説(パラドックス)。まずポンド氏がなにか逆説をいう。それはおかしいのではないか、と指摘する歓談者にポンド氏は奇妙なことで…

浜村紀道「自転車野郎世界を行く」(秋元文庫) 理由不明で世界に飛び出した若者は理不尽や不便に出会うと天皇を思い出して安心できる。日本型愛国心が生まれるドキュメント。

広島出身の著者が、24歳の1968年から1973年までの5年間をかけて世界一周自転車旅行をした時の記録。 1964(昭39)年の海外旅行自由化によって、渡航は可能になったが、固定相場による円安(1ドル=360円)のためにそう簡単には海外旅行はできなかった。クイ…

小田実/開高健「世界カタコト辞典」(文春文庫) 冷戦時代に貧乏旅行をしてきた作家による海外紹介プラス評論。

1965年初出。海外渡航が自由になってから、積極的にいろいろな国を訪問してきたふたり。小田実は「何でも見てやろう」にあるように貧乏旅行で世界一周をして、そのあと平和運動などにかかわるうちに外に出ていくことが多かった。開高健は文学者の集まりが各…