odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

哲学思想

小林和之「『おろかもの』の正義論」(ちくま新書) 「生命」「自由」はメタ価値ではない。「特別な」価値だ。

「正しさ」を考えるやり方について。2004年刊行。 第1章 「正しさ」は必要か ・・・ 「正しい」を説明する際に、本書では、「絶対」に依拠しない、内面の問題にしない、約束事を作り上げるというやり方で考える。なお「正しさ」は具体的に語る(あるいは具…

池田昌子「14歳の君へ」(毎日新聞社) 禁止や命令をする昭和の「14際の君へ」本は捨てて、こちらを21世紀のスタンダードにしよう。「私は何者か、何になれるか」の問いはあとになって効く。

「14歳」は教育学や発達心理学などでは重要な年齢だ。伸びるし、不安定だし。そこで大人が適切に手を差し伸べよう。かつてのような教養主義でも、父権主義でもなく、彼らを人間として対等の立場で助言やアドバイスを行おう。命令するのではなく、自分で考え…

加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)-1 カントの内面の格率による規範意識も、ベンサムの最大多数の最大幸福も、ミルの自由主義も、道徳や倫理の形式化にはうまくいかない。

20世紀末の倫理学が何を考えているかを網羅する講義の記録(1997年)。おもには功利主義をめぐる議論になっている。概況はまえがきに書かれているので、まずはそのまとめから。 20世紀末の社会倫理の特長は、脱宗教的な世俗性(功利主義)、市場経済(自由主…

加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)-2 功利主義の限界を明らかにし、次の世代の倫理学の輪郭を作るための問題を洗い出す

2023/08/09 加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)-1 カントの内面の格率による規範意識も、ベンサムの最大多数の最大幸福も、ミルの自由主義も、道徳や倫理の形式化にはうまくいかない。 1997年の続き 以後は功利主義の限界を明らかにすることと、…

竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった

「最近の大学生は本を読まない」「大学生の学力が落ちている」「大学がレジャーランド化している」という言説はよく聞こえてくる。それは、過去の大学生は本をたくさん読んで、勉強をしていて、遊ぶ者は少数だったということを前提にしている。この前提は正…

竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-2 戦後日本の教養主義:教養主義が終りサブカルが始まる

2023/08/07 竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった 2003年の続き 本書の記述にそって、ある教養主義者を仮構してみよう。 彼は1900年から1910年の間に、田舎の中産階層に生まれた。…

宮田登「冠婚葬祭」(岩波新書) 祭儀を通してみる日本人の祖霊感・霊魂感

日本人の生活といっても、土地ごとの差異は大きい(それこそ近世までは蝦夷、東国、西国、九州など複数の国が列島にはあったと考えるべき)。でも、ある共通する信仰、観念があるので、日本人の特質を抽出することができるだろう。そういう目論見はいろいろ…

岡倉覚三「茶の本」(岩波文庫) 茶道(や日本の精神)を説明するのに欧米の思想やことばを使わなければならないのが物悲しい。

著者が1906年に英語で書いた。没後の1929年に村岡博が翻訳して岩波文庫に入り今に至る。勝手に背景を考えれば、日露戦争の「勝利」によって欧米で日本への注目が集まった。軍事的には注目されるが、経済と文化ではほぼ存在感のない国の文化を紹介する目的が…

新渡戸稲造「武士道」(ハルキ文庫) キリスト者が妄想した架空の武士道は、皇国イデオロギーを補完する。「武士道」は日本人の非道の言い訳と、国内の住民の統制に使われた

新渡戸稲造は、1862年生まれで、物心ついたときには明治政府が樹立していた。東京女子大学の総長になったり、国際連盟の事務局次長のひとりになったり、ユネスコのもとになる機関の設立に尽力したりの活動を行う。1932年は軍部批判を発表してさまざまな圧力…

鹿野政直「日本の近代思想」(岩波新書)

本書の紹介を出版社のページから引用(2002年刊行)。 軍事大国から,敗戦を経て経済大国へ.そしてその破綻による閉塞感.このような歴史を背負いつつ,百年余にわたる日本の近代は思想において,どのような経験を重ねてきたのだろうか.戦争と平和・民主主…

山之内靖「マックス・ヴェーバー入門」(岩波新書) ペシミスティックな感情を持って近代の合理化を批判した人。

マックス・ヴェーバー(1864-1920)の学問を近代知の限界を示し知の不確実性をあきらかにするものとして読む。導き手はニーチェ。これまでヴェーバーは近代知の賛美者と見られていたので、この読み方は斬新(であるはず)という。ヴェーバーは小品を二冊(「…

福吉勝男「ヘーゲルに還る」(中公新書) ヘーゲルの市民社会論、政治哲学の解説書。ロック、マルクス、アーレント、ウェーバーらの考えを外挿するとわかりやすい。

ヘーゲルは高校の倫理社会の教科書くらいのことしかしらない。難解そうなので、これまで手にしたことはなかった。本書はヘーゲルの市民社会論、政治哲学を論じているとのことなので読むことにした。かなり構えてしまったが、著者による図解はとてもわかりや…

プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-1

タイトルは出版社のものを使うが、以下の感想では高校で習ったように長引きを消して、「プラトン」「ソクラテス」とする。学術的には出版社のものが正しいのだろうが、長年の習性を変えるのは難しくて。 多くの人と同じように本書は学部生の時に読んだ。よく…

プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-2

2021/12/27 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-1 の続き これが書かれたのは今から2500年以上前のこと。国民国家はないし、資本主義もないし、法の意味するところも異なる。しかし、「国家」「法」「共同体」などは…

田中美知太郎「ソクラテス」(岩波新書) 「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」の引用とその言いかえばかり。

2021/12/27 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-1 2021/12/24 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-2 16歳の高校二年生で読んでよくわからなかった。数十年ぶりに読んでも、わ…

ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1

本書の概要 『統治二論』(とうちにろん、Two Treatises of Government)は、1689年にイギリスの政治学者ジョン・ロックによって著された二篇の論文から成る政治哲学書である。『統治論二篇』『市民政府論』『市民政府二論』とも呼ばれる。アメリカ独立宣言…

ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-2

2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年の続き ロック「市民政府論」はパブリックドメインなので、英語の原文はネットに公開されている。たとえば、リンク先のPDF。下記で原文の単語をあたるときの参考にした。 Two Treatises of Gove…

ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-3

2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年2021/12/20 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-2 1689年の続き ・ ロックは、絶対主義王国や専制は市民社会の一種ではないという。その理由は、これらの国家は構成員の財産権(くどいが…

堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-1

アダム・スミスは1727-90の生涯で、「道徳感情論」と「国富論」だけを出版し、繰り返し改定した。通常は「国富論」の「神の見えざる手」にばかり注目するが、彼の自由市場は放任ではなく、市場の参加者が一般的諸規則を守り正義を実現する「同感(エンパシー…

堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-2

2021/12/16 堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-1 2008年の続き エントリーの2番目は「国富論」について。ここでスミスの経済学を詳述しても、現代の経済学のおさらいにはならない。それは別の新書や文庫でフォローしてもらおう。気になるところを箇条…

ジャン・ジャック・ルソー「社会契約論」(岩波文庫)-1

原著は1762年。今回は桑原武夫 / 前川貞次郎ほか訳の岩波文庫を読み直す。光文社古典新訳文庫で新訳も読める。ルソーの思想を解説した本はたくさんあるので、正確な読解にはそちらを参照されるように。 今回の再読ではアーレントの「革命について」を導…

ジャン・ジャック・ルソー「社会契約論」(岩波文庫)-2

2021/12/13 ジャン・ジャック・ルソー「社会契約論」(岩波文庫)-1 1762年の続き 半ばを読んでわかったのは、ルソーの民主制はギリシャやローマの政治をモデルにしていること。既存の絶対王政がドレイ状態をつくりだしているとき、それに対抗する政治のあり…

マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-1

2005年に出した小論集。これだけ密度が高い内容では、サマリーを作るのも素人には難しい。幸いサンデルの薫陶を得た研究者が啓蒙書をだしているので、参考にするとよい。2019/07/19 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1 2010年2019/07/18 小林正…

マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-2

2021/11/05 マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-1 2005年 第2部は法律・政治における具体的な道徳を議論する。注目するのは、市場の道徳的な限界。市場が市民生活にかかわると市民道徳が堕落し、公共部門の品位を落とし、非市場の生活領域(…

マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-3

2021/11/05 マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-1 2005年2021/11/04 マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-2 2005年 リベラリズムのさまざまなタイプについてと、リベラリズムとその批判の対決について。 第3部 リベラリズム、…

杉本良男「ガンディー」(平凡社新書) 彼は非暴力的抵抗と殉教のイメージの人ではない。21世紀には評価が揺らいでいる。

マハトマ・ガーンディー「真の独立への道」(岩波文庫)1909年を読んだが、ガンディ(表記は揺らぎがあるが、ここでは本書の表記を採用)の考えはよくわからなかった。そこで、2018年にでた評伝を読む。 重視するのは、ガンディの思想のオリジナルを探すので…

森田邦久「科学哲学講義」(ちくま新書) 「科学は信じられるか」という人に科学の方法と特徴と範囲を丁寧に説明する。

科学に信頼を置いているのは、科学の方法が日常生活で知識を得て正当化する方法を洗練させたものだから。でも、詳しく見ると「日常生活で知識を得て正当化する方法」がつねにいつでも正当化できるかというとあやしい。というわけで、そのあやしい理由を探る…

大塚久雄「社会科学における人間」(岩波新書) ロビンソンの個人の経済人、マルクスの類としての人間、ウェーバーの宗教的経済人を考える。

ウェーバー研究の泰斗が行った連続講演を書き起こしたもの。1977年。 序論 ・・・ 本書では人間類型論(行動様式、エートスとも)を検討する。理論的思考の中で、人間がどのように位置づけられ、関連付けられ、取り扱われるか。19世紀の先進国でつくら…

小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1

正義はこれまで宗教や倫理による要請として語られてきたが、そのような権威を人があまり認めなくなったので、功利主義で説明するようになった。個人の幸福の増大が社会全体の幸福につながるという考え方。でも、不遇な人をさらに不遇にさせたり、再分配を拒…

小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-2

2019/07/19 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1 2010年 サンデル、あるいは政治哲学の議論を読むときに、ヨーロッパとアメリカの違いを意識することは重要。本書の指摘をまとめると、社会契約説はヨーロッパでは仮構であるとみなされるが、アメ…