哲学思想
これまでの経済学では市場・企業・家庭を一人格に扱い、中にいる個人を取りあげることはなかった。また自然を無限とみなして収奪してきたが(同時に農村の「余剰」人口を労働者に吸収し続けてきた)、再生産も無限とみなして対価をはらわずに再生産の場であ…
2024/04/19 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている 1990年の続き 1の理論編は家父長制と資本制の二元論を共時的にみた。2の分析篇は二元論を通時的にみる。大賞は日本…
自分が感じる生きにくさは、不安定で暴力的な社会に理由はあるが、同時に「男らしく」を深く内面化している自分自身にあるのではないか。そういう問いが老年になって生まれたので、勉強する。まず「ジェンダー」を理解することから。 ジェンダーは「社会的に…
2024/04/16 伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。 2008年の続き 個人の問題からシーン別のジェンダーや「女性問題」につ…
この古典をそのまま読むのは危険。なにしろ1895年の著書。今と同じ前提で書かれていると思うと誤りになる。まず、19世紀末の心理学は20世紀後半の実験や観察、アンケートなどを使った実証的なものではなく、哲学の一分野だった。ニーチェがいう「心理学」み…
イギリス・オックスフォード大学所属の研究者が2003年に書いた政治哲学の入門書。章立てを見ればわかるように、政治哲学の大問題をわかりやすく解説したもの。日本で政治哲学の入門書を書くと、ソクラテス、プラトン、アリストテレスからカントやヘーゲ…
「正しさ」を考えるやり方について。2004年刊行。 第1章 「正しさ」は必要か ・・・ 「正しい」を説明する際に、本書では、「絶対」に依拠しない、内面の問題にしない、約束事を作り上げるというやり方で考える。なお「正しさ」は具体的に語る(あるいは具…
「14歳」は教育学や発達心理学などでは重要な年齢だ。伸びるし、不安定だし。そこで大人が適切に手を差し伸べよう。かつてのような教養主義でも、父権主義でもなく、彼らを人間として対等の立場で助言やアドバイスを行おう。命令するのではなく、自分で考え…
20世紀末の倫理学が何を考えているかを網羅する講義の記録(1997年)。おもには功利主義をめぐる議論になっている。概況はまえがきに書かれているので、まずはそのまとめから。 20世紀末の社会倫理の特長は、脱宗教的な世俗性(功利主義)、市場経済(自由主…
2023/08/09 加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)-1 カントの内面の格率による規範意識も、ベンサムの最大多数の最大幸福も、ミルの自由主義も、道徳や倫理の形式化にはうまくいかない。 1997年の続き 以後は功利主義の限界を明らかにすることと、…
「最近の大学生は本を読まない」「大学生の学力が落ちている」「大学がレジャーランド化している」という言説はよく聞こえてくる。それは、過去の大学生は本をたくさん読んで、勉強をしていて、遊ぶ者は少数だったということを前提にしている。この前提は正…
2023/08/07 竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった 2003年の続き 本書の記述にそって、ある教養主義者を仮構してみよう。 彼は1900年から1910年の間に、田舎の中産階層に生まれた。…
日本人の生活といっても、土地ごとの差異は大きい(それこそ近世までは蝦夷、東国、西国、九州など複数の国が列島にはあったと考えるべき)。でも、ある共通する信仰、観念があるので、日本人の特質を抽出することができるだろう。そういう目論見はいろいろ…
著者が1906年に英語で書いた。没後の1929年に村岡博が翻訳して岩波文庫に入り今に至る。勝手に背景を考えれば、日露戦争の「勝利」によって欧米で日本への注目が集まった。軍事的には注目されるが、経済と文化ではほぼ存在感のない国の文化を紹介する目的が…
新渡戸稲造は、1862年生まれで、物心ついたときには明治政府が樹立していた。東京女子大学の総長になったり、国際連盟の事務局次長のひとりになったり、ユネスコのもとになる機関の設立に尽力したりの活動を行う。1932年は軍部批判を発表してさまざまな圧力…
本書の紹介を出版社のページから引用(2002年刊行)。 軍事大国から,敗戦を経て経済大国へ.そしてその破綻による閉塞感.このような歴史を背負いつつ,百年余にわたる日本の近代は思想において,どのような経験を重ねてきたのだろうか.戦争と平和・民主主…
マックス・ヴェーバー(1864-1920)の学問を近代知の限界を示し知の不確実性をあきらかにするものとして読む。導き手はニーチェ。これまでヴェーバーは近代知の賛美者と見られていたので、この読み方は斬新(であるはず)という。ヴェーバーは小品を二冊(「…
ヘーゲルは高校の倫理社会の教科書くらいのことしかしらない。難解そうなので、これまで手にしたことはなかった。本書はヘーゲルの市民社会論、政治哲学を論じているとのことなので読むことにした。かなり構えてしまったが、著者による図解はとてもわかりや…
タイトルは出版社のものを使うが、以下の感想では高校で習ったように長引きを消して、「プラトン」「ソクラテス」とする。学術的には出版社のものが正しいのだろうが、長年の習性を変えるのは難しくて。 多くの人と同じように本書は学部生の時に読んだ。よく…
2021/12/27 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-1 の続き これが書かれたのは今から2500年以上前のこと。国民国家はないし、資本主義もないし、法の意味するところも異なる。しかし、「国家」「法」「共同体」などは…
2021/12/27 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-1 2021/12/24 プラトーン「ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン 」(新潮文庫)-2 16歳の高校二年生で読んでよくわからなかった。数十年ぶりに読んでも、わ…
本書の概要 『統治二論』(とうちにろん、Two Treatises of Government)は、1689年にイギリスの政治学者ジョン・ロックによって著された二篇の論文から成る政治哲学書である。『統治論二篇』『市民政府論』『市民政府二論』とも呼ばれる。アメリカ独立宣言…
2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年の続き ロック「市民政府論」はパブリックドメインなので、英語の原文はネットに公開されている。たとえば、リンク先のPDF。下記で原文の単語をあたるときの参考にした。 Two Treatises of Gove…
2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年2021/12/20 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-2 1689年の続き ・ ロックは、絶対主義王国や専制は市民社会の一種ではないという。その理由は、これらの国家は構成員の財産権(くどいが…
アダム・スミスは1727-90の生涯で、「道徳感情論」と「国富論」だけを出版し、繰り返し改定した。通常は「国富論」の「神の見えざる手」にばかり注目するが、彼の自由市場は放任ではなく、市場の参加者が一般的諸規則を守り正義を実現する「同感(エンパシー…
2021/12/16 堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-1 2008年の続き エントリーの2番目は「国富論」について。ここでスミスの経済学を詳述しても、現代の経済学のおさらいにはならない。それは別の新書や文庫でフォローしてもらおう。気になるところを箇条…
原著は1762年。今回は桑原武夫 / 前川貞次郎ほか訳の岩波文庫を読み直す。光文社古典新訳文庫で新訳も読める。ルソーの思想を解説した本はたくさんあるので、正確な読解にはそちらを参照されるように。 今回の再読ではアーレントの「革命について」を導…
2021/12/13 ジャン・ジャック・ルソー「社会契約論」(岩波文庫)-1 1762年の続き 半ばを読んでわかったのは、ルソーの民主制はギリシャやローマの政治をモデルにしていること。既存の絶対王政がドレイ状態をつくりだしているとき、それに対抗する政治のあり…
2005年に出した小論集。これだけ密度が高い内容では、サマリーを作るのも素人には難しい。幸いサンデルの薫陶を得た研究者が啓蒙書をだしているので、参考にするとよい。2019/07/19 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1 2010年2019/07/18 小林正…
2021/11/05 マイケル・サンデル「公共哲学」(ちくま学芸文庫)-1 2005年 第2部は法律・政治における具体的な道徳を議論する。注目するのは、市場の道徳的な限界。市場が市民生活にかかわると市民道徳が堕落し、公共部門の品位を落とし、非市場の生活領域(…