odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

黒岩涙香

黒岩涙香「紳士のゆくえ」明治24年(別冊幻影城「黒岩涙香集」から全文採録)

紳士のゆくえ 黒岩涙香 一 不思議、不思議、煙の如く消え失せて更にゆくえの知れざる一紳士あり。 甲「何処へ行った」 乙「夫が分らぬから不思議じゃないか」 甲「何処で居なくなった」 乙「夫も分らぬ」 甲「ではまるで消えて仕舞った様な者だネ」 乙「爾々…

黒岩涙香「短編集」(別冊幻影城)「無惨」「紳士のゆくえ」「暗黒星」など 言文一致運動にかかわらなかった作家は自我にかかわらないで、物語の楽しさを技術で書く。

ある程度まとまった著者の短編を読むには「黒岩涙香探偵小説選〈1〉〈2〉 (論創ミステリ叢書) 」が便利なのだろうが、ここでは別冊幻影城、日本探偵小説全集〈1〉 (創元推理文庫)、青空文庫で入手できた短編を読むことにする。 無惨 1889 ・・・ 明治22年(…

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 原作はボアゴベの「ルコック氏の晩年」。吉川英治と乱歩がのちにリライトした。

黒岩涙香が1891-92年にかけて「都新聞」に連載した(いや単行本化したときに1回分脱落したとのこと。旺文社文庫版(全129回)は脱落した版とのこと)。このとき涙香31歳。契約の多い月初めからの連載なのは、いかに涙香が原作にほれ込んだかの証。もとはフォ…

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-2 パリで見つかった死美人。容疑は息子にかかったので、老探偵は重い腰を上げる。

2022/04/29 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 1891年 鳥羽(トリハ)探偵は英国出身でしきりに両国を行き来するとか、英国のレビュー団がフランスを巡回巡業しているとか、英国のウィスキー会社がフランスで営業しているとか、両国の民間交流はさかん。当…

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-3 息子の処刑に老探偵は間に合うか・・・。1891年の日本人は現在と大差ない文章で会話していた。

2022/04/29 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 1891年2022/04/28 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-2 1891年 入手が極めて困難。若い読者には難読。すでに100年以上前の出版。なのでほぼすべてのストーリーを記しておく。でも、細部にある風俗、習慣、服…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 原作はボアゴベの「サン・マール氏の二羽のつぐみ」か「The Iron Mask」。ときは17世紀後半、太陽王ルイ14世の時代。

黒岩涙香31歳のときに(明治25-26年1892-93年)、万朝報に全138回で連載された。二人の鉄仮面の正体はだれか、二人の後を追う波乱万丈の冒険、謎の髑髏の怪人等で興味を引き、最後に驚愕の真相が明らかになるなど大好評を博した。戦後もなんどか単行本化され…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-2 1672年2月ルイ14世の圧政に反抗する貴族・有藻守雄は鉄の仮面をつけられて幽閉される。妻バンダは解放に奔走する。

2022/04/25 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 1893年 1672年2月。長年のルイ14世の圧政は一部の貴族の反感を増やしていた。パリは王の配下のルーボア(涙香は日本名にしているがめったに使わない文字はカナ表記にする)が密偵を放っているので活動は制限…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-3 盟友・家臣・支援者がことごとく捕らわれても、妻バンダの愛と貞淑は30年以上も揺らぎはしない。

2022/04/25 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 1893年2022/04/22 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-2 1893年 梅真(ばいしん)処刑の日から8年たった1681年。辺境ピネロルの監獄に、典獄・仙頭麻有(せんとうまある:サン・マール)がいた。もともとはパ…

東雅夫編「ゴシック名訳集成」(学研M文庫) 明治から大正にかけてのゴシック小説翻訳集成。自然主義リアリズムになじめない人たちによるマイナー文学運動の成果。

明治から大正にかけてゴシック小説を翻訳する試みがあり、それを集大成する一冊。 エドガー・アラン・ポオ著 日夏耿之介訳 「大鴉」 エドガー・アラン・ポオ著 日夏耿之介訳 「アッシャア屋形崩るるの記」 ホレス・ウォルポール著 平井呈一訳 「おとらんと城…

黒岩涙香「明治探偵冒険小説集1」(ちくま文庫)_「幽霊塔」所収 涙香翻案の最高傑作。女性目線で見ると、謎の女「秀子」によるマンハント(亭主探し)の物語。

1.「幽霊塔」が収録。ずっと原作不明だったが、1990年代の調査により、A.M.ウィリアムソン「灰色の女」(1898)が原作であることが判明した。いずれは原作の翻訳がでるのかもしれない(これを書いたのは2005年。その後翻訳はでました)。まあ、日本でだ…