odd_hatchの読書ノート

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久生十蘭

久生十蘭 INDEX

2019/08/06 久生十蘭「ノンシャラン道中記」(青空文庫) 1934年2011/06/03 久生十蘭「ジゴマ」(中公文庫) 1937年2019/07/29 久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」他 1937年2019/08/05 久生十蘭「魔都」(青…

久生十蘭「ノンシャラン道中記」(青空文庫) 1934年の外国にいる日本人は「パリのアメリカ人」とおなじくらいに傍若無人で無責任。

ときは1929年。10年前の戦争の後、インフレに悩むフランスには多数の外国人が群がっていた。「パリのアメリカ人」というようなドルの威力に物申させて、なにもしないことを楽しむ。もちろん芸術家の卵もいて共同生活のうちに切磋琢磨も行う(彼らの才能が開…

久生十蘭「魔都」(青空文庫)-1 1935年軍事都市化した帝都で起こる「犯罪」は庶民のうっぷん晴らしとなり、アンチヒーローの魅力や輝きを発する。

題名「魔都」とははて面妖な。なるほど舞台は1935年の東京であるが、この実在した都市のどこが「魔」であろうか。作者の説明を聞いてみよう。 「この辺が、「東京」を称して一と口に魔都と呼び慣わす所以なのであろう。われわれの知らぬうちに事件は始まり事…

久生十蘭「魔都」(青空文庫)-2 皇帝不在の状況において皇帝を追いかける人々が、それぞれの思惑をもってやたらと空虚のまわりを動き回る。

2019/08/05 久生十蘭「魔都」(青空文庫)-1の続き 物語は1934年12月31日の日付が変わる深夜に始まり、28時間後の1935年1月2日午前4時に終わる。 安南の皇帝・宗竜王が日本名をもってひそかに来日していた。大晦日深夜のどんちゃん騒ぎをするモボやモガの群…

久生十蘭「キャラコさん」(青空文庫)-1 読者(都会の独身男性)の常識をもち同じようなモラルにある「キャラコさん」が上流階級にはいってほぼ孤立無援になり、その階級の異人にあう。

「キャラ子(剛子(つよこ))はキャラコ、金巾(かなきん)のキャラコのこと」だそう。あまり高価でないものをを身に着けている貧乏であるが(とはいえ父は陸軍少将)、しかし上流階級に出入りしているお嬢さん。こういう立場だとひくつになりそうなところ…

久生十蘭「キャラコさん」(青空文庫)-2 キャラコさんの善や正義があまねく普遍的になっていって抽象化していき、八紘一宇の日本に居られなくなる。

2019/08/1 久生十蘭「キャラコさん」(青空文庫)-1 1939年の続き。ここから小説の長さがそれまでの半分になる。1939年7月から。なにかあったのか。紙の配給減少とか雑誌の統制とか。 盗人 ・・・ 卒業後豹変した女学校のクラスメイトから、昔のラブレターを…

久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」他 完璧にすぎ、取りつく島もないほど冷たい短編。

「ハムレット 久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)には「顎十郎捕物帳」全24話と「平賀源内捕物帳」4話が収録。それらは別エントリーで感想を書いたので、残りの短編を読むことにしよう。2019/07/26 久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推…

久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)  顎十郎捕物帖-1 異相の持ち主で、侍の徳義から妙に外れた風来坊は法と権威に頼れない、ノンシャランな探偵。

収録されているのもののうち重要なのは、「顎十郎捕物帖」。これについて見ていこう。この捕物帳の傑作はあまり情報がなくて、雑誌「『奇譚」に1939年1月から1940年7月号にかけて連載されたそうな。戦時統制経済体制になって、紙の配給、割り当てに制限が出…

久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)  顎十郎捕物帖-2 作者は顎十郎に飽き、役人をやめて駕籠かきに身を隠す顎十郎の心根はどうにも計り兼ねる。

2019/07/26 久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫) 顎十郎捕物帖-1 1939年に続けて後半12編。 遠島船 ・・・ 時は文久二年というから1862年。初鰹船が伊豆沖で遠島船(まあ、八丈あたりに罪人を送る船と思いなせえ)にであう。奇妙なのは、飯がた…

久生十蘭「平賀源内捕物帳」(朝日文庫) とても良い文章と巧みな構成の小説を読んでいるのに、余韻を残さない作風で妙に心に残らない。

講談倶楽部に1940年1月から8月まで連載された捕物帳。書かれた時期は「顎十郎捕物帳」と重なっている。 平賀源内は名前は知られているわりになにをしたかはよくわからない男。博物学者で洋学者で洋画家で、コピーライターで戯作者(横田順弥「日本SF古典集成…

久生十蘭「十字街」(朝日文庫) 根無し草の日本人がパリの政治の大状況(1933年スタヴィスキー事件)の中翻弄され、政治的寝技の駒にされる。

1951年朝日新聞連載。 舞台は1933年元日から約3か月間のパリ。このとき、フランスでは「スタヴィスキー事件」なる疑獄から右翼左翼の入り乱れる大事件がおきていた。詳細は、wikiにまかせよう。スタヴィスキー事件 ja.wikipedia.org なるほど社民政権のある…

久生十蘭「ジゴマ」(中公文庫) レオン・サジイが1908年に出版した怪盗小説シリーズの翻案。会話は現代文で地は古い漢文調の文体演習。

パリ市中を震撼させたペルチエ街の惨劇。銀行家モントレイユが胸を抉られ瀕死の重傷を…。ゲエリニエール伯を告発するが対質したとたん供述を翻し、事切れた。悲嘆にくれる兄弟は父の変説の謎を追う。名探偵ポーランは血で記されたZの文字を発見、神出鬼没の…