odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

矢沢永吉「成りあがり」(角川文庫) マーケティング、商品開発、商品のブランド化、マネージメント、ファイナンスなど起業に必要なことを一人で行ったミュージシャン。

1978年初出で当時のベストセラー。聞き取りと構成を糸井重里が行ったのも注目された。 父の家族は本人を除いて広島原爆で死亡。再婚した父から永吉が生まれる(1949年)が、数年後に死去。母は別の男と失踪。永吉は祖母との二人暮らし。貧乏暮らしであったが…

荒俣宏「広告図像の伝説」(平凡社) 明治から昭和にかけてのこの国の起業家たちが商標に込めた機智や思い込み、不思議なイメージ。無機的なロゴやCIにはない味わいを楽しむ。

産業考古学シリーズともいうべき一冊。1987年に雑誌連載されて、1989年に単行本化。 ここでは、図案、商標に注目。すなわち、製造業と販売業の境がなく、消費者は「もの」を購入していた時代。企業は商品のイメージを的確に消費者に伝えるためにどのような工…

村上春樹「辺境・近境」(新潮文庫) ツアー旅行でほとんどの秘境に行ける時代に、「旅行記」が成立するのか

作家には、旅と相性の合う人とそうでない人がいる。最もディープな旅は無銭の貧乏旅行で、辺境深く迷い込み、機転のみが自分の武器であり、運命に翻弄されることを厭うことなく、別地に向かい、もしかしたら帰還することがかなわないかもしれないという境地…

開高健「ずばり東京」(光文社文庫) 1964年東京オリンピック直前の東京をデッサン。江戸を壊して安普請のTOKIOを作っていた。

1963年から1964年にかけて「週刊朝日」に連載されたルポ。毎回15枚くらいで、東京のあちこちにでかけて現在進行していることをデッサンするという仕事。競馬場の下から都庁(有楽町駅前にあったころ)の上まで。紙芝居屋や河渡しから工業倶楽部のトップまで…

四方田犬彦「月島物語」(集英社文庫) 明治に作られた人工都市と共同体がバブルの地上げで壊滅するまで。日本は伝統を大事にしない、むしろ積極的に破壊する。

著者は1987年ころに月島の一軒家を借りることにした。当時、レトロブームとか下町ブームとか都市論とか路上観察とか、そういう町を見て調べるのが流行っていた。それに触発された、かどうかはわからないけれど、月島という町を調べてみた。 月島は佃島と隣接…

G.L.シャックル「楽しい数学」(現代教養文庫) 高校までの数学の復習だが、ときにハイデガーより理解困難な説明がでてきて面食らった。

イギリスの統計学者がかいた若い人向けの数学入門書。 小川洋子「博士の愛した数式」を読んで数の世界がおもしろいと思ったら、この本にトライしてみてはいかが。下記のように高校までの数学の復習になる。 扱う題材は、数(整数、分数、無理数、虚数など)…

レイモンド・T・ボンド 編「暗号ミステリ傑作選」(創元推理文庫) 世界には解けないメッセージが満ち溢れ、暗号を解くことが重要。いや19世紀末にイギリスでは暗号解読が大流行していた。

1947年に編まれた暗号を主題にするミステリのアンソロジー。下にも書いたように、テクノロジーの発達は暗号を機智で解くことを不可能にしてしまった。本書は、ポーやドイルのような暗号小説の幸福な時代だったころを思い出すよすがになる。 序 レイモンド・…

荒俣宏「開かずの間の冒険」(平凡社) 人生を棒に振る覚悟で収集することの熱意。相続税が個人や地方の文化資産を四散させる。

全国の蔵を開けて覗くという贅沢な冒険。当主自身ですら数十年足を踏み入れていないという場所をみるというのであるから。 訪れた場所をリストアップすると、 南方熊楠 ・・・ ブリタニア百科事典のそろいと、キャラメル箱やマッチ箱にはいった粘菌標本。 泉…

荒俣宏「黄金伝説」(集英社) 江戸の終わりから明治・大正のころに起業した独立独歩の人たち。成金ゆえに豪華な建築物や収集品に惜しみなく金を費やす。

「異都発掘」「怪奇の国ニッポン」(集英社文庫)「東京妖怪地図」(祥伝社文庫)の方法を東京や京都のような大都市ではなく、地方都市で行うことはできないか。そのときに、地方都市のモニュメントは人と企業の活動の成果ないし道楽としてできたものが多い…

荒俣宏「異都発掘」(集英社文庫) テクノでポップなTOKYOの時代に「軍事」「風水」「地下」「南洋」「快楽」「怨霊」「幻想」な帝都を発掘する。

もとの記事が書かれた1985年というと、近年の好況を受けて、金の流動性が高まり、結果としてものの価値が高いとみなされるようになった。とくに土地の価値が高いことになり、企業・個人が競って土地と建物を投資目的で購入した。そのとき、古い建物でそれほ…

荒俣宏「奇想の20世紀」(NHKライブラリー) 著者の話題の広さには驚嘆。

クラシック音楽をよく聴くものにとっては19世紀はなじみのある時代ではある。ベートーヴェンの、ワーグナーの、マーラーの各時代のことを多少は知っているものだ。あるいは、ベルリオーズの、オッフェンバックの、ドビュッシーの各時代でもいい。しかし、そ…

ウィノカー編「SOSタイタニック」(旺文社文庫) 事故調査記録の極めて初期のもの、「失敗学」の初期のケーススタディ

1912年4月4日、当時世界最大の客船タイタニック号がイギリス・サザンプトンを出港し、ニューヨークを目指す航海にでた。乗客、乗務員は合計2208人。4月15日午前2時20分、氷山に衝突し、約2時間後に沈没。救助されたものは750人ほど。1400名弱が死亡した。…

INDEX トーヴェ・ヤンソン

2013/03/29 トーヴェ・ヤンソン「ムーミン谷の彗星」(講談社文庫) 2013/03/28 トーヴェ・ヤンソン「たのしいムーミン一家」(講談社文庫) 2013/03/27 トーヴェ・ヤンソン「ムーミンパパの思い出」(講談社文庫) 2013/03/26 トーヴェ・ヤンソン「ムーミン…

INDEX 柴谷篤弘

2013/01/22 柴谷篤弘「生物学の革命」(みすず書房) 2013/01/21 柴谷篤弘「反科学論」(みすず書房) 2013/01/18 柴谷篤弘「あなたにとって科学とは何か」(みすず書房) 2013/01/17 柴谷篤弘「日本人と生物学」(工作舎) 2013/01/16 柴谷篤弘「今西進化論…

ソポクレス「オイディプス王」(岩波文庫) 〈この私〉は探偵であり、被害者であり、証人であり、犯人です。自己を探索すると必ずこれを発見します。

テバイの都は危機に瀕していた。疫病、飢饉、家畜の死。都市の豊饒さが失われ、民が貧困に苦しむ。このようなとき、王はすべての責任を負わねばならない。そこで、テバイの王オイディプスはデルポイの神託を聞くことにした。 プロロゴス ・・・ ここで明らか…

ヨーロッパ中世文学「アーサー王の死」(ちくま文庫)-2 聖杯探索に成功した後、ミッションを達成した英雄はいかに生くべきか死すべきか。

2013/12/11 ヨーロッパ中世文学「アーサー王の死」(ちくま文庫)-1 第18章から最終章までは、聖杯の探求を終えたランスロットがアーサー王に叛旗を翻し自滅するまで。文庫の半分以上を占める。ここはほかの本で読んだことがないので、要約しておく。 聖杯…

ヨーロッパ中世文学「アーサー王の死」(ちくま文庫)-1 ローマに抵抗するケルトの神話。アーサー王とランスロットとアーサー王妃グウィネヴィアの三角関係。

例によって書誌はややこしい。15世紀半ば1469年にトーマス・マロリーという騎士であり罪人が1年で「アーサー王の死」のフランス語版などを参照して書いた。それを同世代のウィリアム・キャクストンが編纂して出版した。どうやら別の版をみると、だれか一人の…

フランス古典「聖杯の探索」(人文書院) 1220年代にフランスで成立した聖杯探索物語。ドイツ版と異なりパルジファルは副主人公。

最初のミレニアムの後半にケルトの伝承として語られていたものが西ヨーロッパの各地で流行した。それを文書にするようになったのが、12世紀あたり。同時多発的にまとめられたので、似たような話でも微妙に異なるヴァリアントになり、筆写生の誤記や改変で版…

サミュエル・バトラー「エレホン」(岩波文庫) 不合理でめちゃくちゃなユートピアはイギリスの現状をさかさまに書いた風刺文学。

サミュエル・バトラーの詳しい情報がない。とりあえず文庫の解説をまとめると、1835年イギリスで牧師の息子として生まれる。1854年にケンブリッジの聖ジョーンズ・カレッジに入学し、神学を勉強。卒業後、貧民街の牧師になるも、懐疑を抱いて断念。ニュージ…

チャールズ・ディケンズ「ディケンズ短編集」(岩波文庫)「狂人の手記」「ある自虐者の物語」「信号手」 起承転結の明快な近代的な小説

「クリスマス・カロル」は読んだという読者が次のディケンズを読むときにいいだろう。なにしろディケンズの長編はたいてい2分冊、ときには4分冊にもなって、つまらないと感じたら(めったにないけど)苦痛になるほどの長さを誇るから。 墓堀り男をさらった…

チャールズ・ディケンズ「エドウィン・ドルードの謎」(創元推理文庫) 最後の長編は構想を展開できないまま1870年に中絶した探偵小説。奇怪な悪人のキャラは近代人。

長編探偵小説の創始者のひとりの遺作。ディケンズの長編はたいてい探偵小説風味の風俗小説という趣があるが、これは不可解な事件の謎解きがメインテーマのひとつ。たぶん構想の3分の1か4分の1で中絶したために、伏線は張りきれていないし、犯罪捜査が始ま…

アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 下」(講談社) ナポレオンの独裁→復古王政→七月王政という政治の変遷に翻弄された男の復讐譚。父と子の葛藤と和解、女性の自立もサブテーマ。

2013/12/03 アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 上」(講談社)の続き モレル海運会社の若い航海士エドモン・ダンテスは、アラビアへの貿易航海を成功させ、美しい娘メルセデスと結婚することになり、その暁には船長になることが内定していた。それ…

アレクサンドル・デュマ「モンテ・クリスト伯 上」(講談社) 大ヒットした長大な新聞小説を40%に圧縮した簡約版。現代の読者にはこのくらいのサイズがよい。

自分が読んだのは1960年代に発刊された講談社の世界文学全集33と34巻の2冊本。のちに同じ訳者(新庄嘉章)で講談社文庫に5分冊の完訳本がでているが、こちらはたぶんダイジェスト。上下2段組みで一冊480ページの大冊であるとはいえ、大雑把な計算では原稿用…

ヴィクトル・ユゴー「死刑囚最後の日」(岩波文庫) 「私」を語り手にすることによって内面が作られた。

1829年(著者27歳)に匿名で出版され、2年後の再販時にユゴー自身が序文を書いた。 ミステリでいうなら、事件は解決した。しかし関係者には重苦しいしこりが残った。なぜ犯人はあのような事件を起こしたのだろうと内省する。ここで「エンド」の文字がはいる。…

モーリス・ルブラン INDEX

2011/02/19 モーリス・ルブラン「怪盗紳士リュパン」(創元推理文庫) 2011/02/18 モーリス・ルブラン「リュパンの冒険」(創元推理文庫) 2011/02/17 モーリス・ルブラン「リュパンの告白」(創元推理文庫) 2011/02/16 モーリス・ルブラン「リュパン対ホー…