odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

深水黎一郎

深水黎一郎「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」(講談社文庫) 日本初のオペラハウスで起きた演劇ものミステリー。オペラの現代的読み替えもミステリー的。

オペラには人が死ぬ話が多くあり、ときには舞台で殺されたりもする。ふと思いつくだけでも、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」「神々の黄昏」、ヴェルディ「オテロ」、ビゼー「カルメン」、ベルク「ヴォツェック」、ショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡の…

深水黎一郎「花窗玻璃 天使たちの殺意」(河出文庫) ランス大聖堂で起こるフランス人の事件を造語能力の高い漢字を多用して記述する。

ランス大聖堂はフランスのゴシック建設で三本の指に入る名建築。これに魅了された少年(18歳をそう呼ぶのは躊躇したいが、ここではそう呼ぶしかない)が、大聖堂を調べる。そうすると、建築様式から始まって室内装飾、浮彫彫刻、ステンドグラス(タイトルの…

深水黎一郎「ジークフリートの剣」(講談社文庫) 日本の「恐れを知らない若者」がバイロイト音楽祭でゲルマンの英雄のように大活躍。

表層の物語は、「恐れを知らない若者」であるヘルデンテノール歌手・藤枝和行がバイロイト音楽祭の指輪チクルスでアジア人初のジークフリート(@ワーグナー)を歌うまで。上演開始の1か月前にバイロイト入りをして、練習を重ね(いちど舞台の装置が近くに落…

深水黎一郎「ミステリー・アリーナ」(講談社文庫) 犯人を決めつける前のシュレディンガーの猫的な状態を小説にする離れ業。

面白かった。でも、感想を書きずらい。というのも、筒井康隆の実験小説と同じように、作品のねらい、技法などが作中やあとがきに懇切丁寧に書かれているから。なので、付け加えることがほとんどない。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jp なる…

深水黎一郎「言霊たちの反乱」(講談社文庫) 言語遊戯を全編に展開する知力と体力に感嘆。マジョリティの差別感や他者への暴力容認に鼻白む。

言葉はたいていは発話者がコントロールしていて、言語ゲームの参加者の中では意味と記号が共有されている。ことになっているけれども、ときに、意味と記号がずれてしまって違和感を持つことがある。ホフマンスタール「チャンドス卿の手紙」では、この違和感…

深水黎一郎「最後のトリック」(河出文庫) 「読者が犯人」という不可能トリックに〈この私〉である読者はどうかかわれるか。

「読者が犯人」というアイデアは昔からあって、この国の作でも自分が収集した中では2例ある・・・と書こうともくろんでいたら、作中でちゃんと紹介されていた。それくらいに、著者はきちんと探偵小説の歴史と作例に造詣が深い。なまはんかな知識で読んでい…