odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

中公文庫「日本の歴史」

井上光貞「日本の歴史01 神話から歴史へ」(中公文庫) 列島は人が住むようになってからずっとグローバルだった

さて日本の歴史を勉強しよう。テキストに選んだのは、中央公論社の「日本の歴史」シリーズ。1960年代に当時の碩学や若手を動員して作られた。歴史学は戦前に政府や国家などの介入を受けて、学問として展開できなかった。その壁が取り払われて、資料や事物に…

直木孝次郎「日本の歴史02 古代国家の成立」(中公文庫) 記紀や魏志倭人伝だけでは古代の様子はわからない

対象にしているのは、7-8世紀。天皇家を頂点におく制度はできていて、大和朝廷の権力は東国(今の関東)から朝鮮半島にまで及び、仏教や鉄製農具はすでに伝わっていたがアーリーアダプターだけのもので、地方に行けば数世紀前とほぼ同じ。奈良盆地とその周辺…

青木和夫「日本の歴史03 奈良の都」(中公文庫) 列島が進んで中国化しようとした時代

高校の日本史で最初のつまづきになるのは、奈良時代(本書の記述は704-771年)。法律や官位が煩雑になり、徴税や戸籍の仕組みが細かくなり、人名がたくさんでてくる。およそ1200-1300年前のこととなると、現在に引き付けて考えることもできず、それを数か月…

北山茂夫「日本の歴史04 平安京」(中公文庫) 律令制という中国化が完成したらすぐにほころびだした

770-967年までの200年を扱う。ここも高校の日本史の躓きの時期であって、延々と宮中のできごとが語られる。時間は過ぎているのに、事態はほとんど変化がない。そのうえ、宮中の政治は事なかれの棚あげで、出る杭は打ち、スキャンダルはフレームアップし、談…

土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」( 中公文庫)-2  とてつもないエリートの王朝貴族は(儀式と会議と宴会で)つらいよ。漢文和歌は必須で、日記は一族の重要な資産。

前回読んだのを読み直し。 いわゆる平安時代は800年ごろから1200年ごろまでの400年間続く。さらに3つの期(前期・中期・後期)にわけるようだ。この本で扱っている966-1068年はほぼ中期にあたり、平安文化の最盛期とみていいのではないかしら。すなわち8世…

佐藤進一「日本の歴史09 南北朝の動乱」(中公文庫) 天皇奪権運動の下では社会変革が起きていたのに、本書はそれを書かない

1333-1409年までの14世紀を扱う。ああ、もっと面白く記述できるのに、単調な仕上がりになってしまった。その理由はこの時代の描くのに京都中心にしたこと。そのために、後醍醐天皇と尊氏との正統争いに矮小化されてしまった。これらの関係者がいなくなったあ…

永原慶二「日本の歴史10 下剋上の時代」(中公文庫) 英雄、人気者がいない15-16世紀は大変動の時代

先に杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫)を読んだ。そのために前掲書のエントリーで疑問にしたことの説明がこちらにあった。読む順番をコントロールできないので(入手順に読むから)、そういうこともある。本来なら第9巻の「南北朝の動乱」を読ん…

林屋辰三郎「日本の歴史12 天下一統」(中公文庫) 侍は土地から切り離され独立自営ができなくなる

前巻である杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫)の続き。文庫版は1974年だが、単行本では1960年代初頭の初出。 1550-1600年までの天下統一運動のまとめ。主要登場人物は織田信長に豊臣秀吉、そして徳川家康。この国の人がとても好きな時代と人々。自…

辻達也「日本の歴史13 江戸開府」(中公文庫) 侍は仕業から棒給取に変わる

前巻「日本の歴史12 天下一統」に続いて、1600-50年ころを記述。前半の主人公は徳川家康。後半になると、特長的な個人は登場しない。強烈な個性を持つ人物の栄枯盛衰が、組織や制度の変革にとって変えられる過程に照応する。これは中世が近代の中央集権制・…

佐々木潤之介「日本の歴史15 大名と百姓」(中公文庫) 米本位制と保護経済は資本主義も産業革命も起こさない

1945年からの占領期に、占領軍は日本の近代化を阻むものとして地主と大規模土地所有制を解体することにした。そのため、小作による農民運動がさかんになった(山口武秀「常東から三里塚へ」(三一新書))。なので当時は革新政党の支持が高かった。では新し…

児玉幸多「日本の歴史16 元禄時代」(中公文庫) 貨幣経済が盛んになってインフレが起こり米本位制の武士は窮迫する

前の巻になる佐々木潤之介「日本の歴史15 大名と百姓」(中公文庫) は大名と農村から17世紀を見たが、ここでは都市と商人から17世紀をみる。 徳川家光が死んだ1651年から吉宗が将軍になる1716年まで。すでに国内統治体制はでき、鎖国で外国との交通も閉じた…

北島正元「日本の歴史18 幕藩制の苦悶」(中公文庫)-1 18-19世紀。生産能力が上がらず過剰人口を吸収できずゆっくりしたインフレが進むまれにみる停滞の時代。

1780年から1840年ころまで。時代小説、時代劇などはだいたいこの時代を扱う。これらのフィクションを通じて日本のいにしえのイメージが形成されている。町民の仲睦まじい清貧な暮らしに、庶民思いの大名や老中、利権をむさぼる悪代官に悪商人というもの。そ…

北島正元「日本の歴史18 幕藩制の苦悶」(中公文庫)-2 ヨーロッパのグローバル資本主義は極東の弱小国にも到達し、列島は世界システムに巻き込まれる。

2021/04/06 小西四郎「日本の歴史19 開国と攘夷」(中公文庫) の続き この時代に起きた政治的な事件として、蛮社の獄1839年と大塩平八郎の乱1837年が有名。いずれも現政府によって徹底的に弾圧され、首謀者は自死を選ばされる。このような大衆嫌悪・民衆嫌…

小西四郎「日本の歴史19 開国と攘夷」(中公文庫) 帝国主義に対抗できない幕府に失望した下級武士は過激化する。一般庶民はほぼ無関心。

ご他聞にもれず俺もまた司馬遼太郎「竜馬が行く」で明治維新にかぶれたのであって、17-18歳の時に明治維新に関連する小説・新書を数十冊読んでいたのである。奇妙なことに、他の作家や歴史家の本を読むほどに、明治維新は「竜馬が行く」とは別の様相を示して…

井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-1 宮廷クーデターが暴力変革に転化し、天皇制官僚による独裁政府になった。

本書では、大政奉還から西南の役までの10年間を扱う。通常、映画やドラマで「明治維新」を扱うときは大政奉還までで、「封建制力による人民の圧政を主に西国の士族が打倒(ここで「革命」は使わない)した」で終わりにする。しかし、歴史はとどまらないので…

井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-2 日本の排外主義と民族差別はこの時代の「尊王攘夷」がもと。

2021/04/05 井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-1 の続き 明治のゼロ年代で注目しなけらばならないのは、征韓論。明治政府は開国を実行したが、それは幕府時代からの諸外国の圧力、影響にあったため。英仏は日本を領土化しようとはしなかったが(俺…

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 明治政府の目論見は、開明的な絶対主義君主制にすること。上からの資本主義化を進め、軍隊を強化すること。

徳川幕府をクーデターで打倒した下級武士連中。「明治維新」と御大層な名代をあげたが、さっそく二派に分裂して、永久革命志向の西郷派を弾圧、殲滅する。それと同時に、「維新」の元勲として大政治家であった大久保、桂が死去して、リーダーを失ったのであ…

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-2 ヨーロッパの帝国主義競争が激しくなったので西洋列強は日本に介入する余裕がなかった。その間に現在にまで通じる日本の「精神」が形成された。

2021/03/30 色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 の続き この時代に西洋諸国が日本に介入することが少なかったのは、ヨーロッパでの帝国主義競争が激しくなったため。英ロ、普仏の間に戦争があり、植民地での紛争も頻繁に起きていた。そ…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。朝鮮半島と満州への侵略が始まる。

大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。だいたい司馬遼太郎「坂の上の雲」と一致する時代を描いているが、司馬の小説は記述漏れが多く、小説の通りに近代国家が強化されたとみてはならない。多くの保守論陣はこの時代を懐かしむので…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-2 藩閥は工業化を目指し、国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業とインフラ整備に投資する。

2021/03/25 隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 の続き 明治維新のあと、絶対君主国家を作りたいと思う士族グループ(藩閥)は、工業化を目指すが、そのための資金がない。そこで国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 1913年から1925年にかけて。日本が「ネトウヨ化」していく過程。

1913年から1925年にかけて。大正時代を扱う。タイトルは「大正デモクラシー」であるが、そこにフォーカスしてこの時代を見るのは危険。21世紀の10年代の言葉でいえば、日本が「ネトウヨ化」していく過程となる。すなわち、政・官・財がそろってネトウヨ化し…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-2 軍や官僚が政・官・財の暗黙の了解を取り付けて、植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。

2021/03/16 今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 の続き 大正時代には、軍や官僚が植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。その名をみると、東京軍事裁判で起訴された軍人や政治家(吉田茂もいた)の名前が頻出する。彼らは…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。象徴的な事件もカリスマ的な人物もいないうちにファシズム体制が完成。

1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。大正デモクラシーは「内には民本主義、外には帝国主義」であったが、この10年間で内はファシズムになった。 驚くべきことは、ファシズム体制が完成するまでに、象徴的な事件もカリスマ的な人物もでてこないこと。メルク…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 意思決定のプロセスが複雑で、決定の責任がどこにあるかわからない日本ファシズムの無責任体制が完成。

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 の続き 20世紀前半の国内政治がわかりにくいのは、元老だの元老院だのがあり、選挙で選出されていないものが政治的な決定を下すことができ、首相にいたっては天皇の裁可がないと組閣がで…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-3 関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。先進国がブロック経済圏を作ったので、日本とドイツの侵略行動はブロック経済圏を破壊する行為だった

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 2021/03/01 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 の続き 経済で重要なのは、関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。前二つは、別に読んだ本のエントリーに詳述した…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。日本型経営システムが破綻していく。

226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。 東アジアに日本主導のブロック経済圏をつくり、先進国の仲間入りをすること。これくらいが日本の国家目標であって、ブロック経済圏構想はおもに陸軍によって実施運営されることになった。軍事に…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-2 戦局が悪化し、物資が乏しくなり、長時間の労働を強要されるようになると、人々の参加意欲は失われるが、日本人は抵抗しない。

2021/02/22 林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 の続き 治安維持法、国家総動員法によって日本を運営する<システム>@カレル・ヴァン・ウォルフレンの外にいる人たちは、政治決定に参加することができなくなった。選挙があっても、政党が解党し…

蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫) 1945年の敗戦から1967年までの約20年間。明治維新からの独裁制官僚はそっくり温存され、尊皇と反共、そして大衆・民衆嫌悪は維持される

1945年の敗戦から1967年(おそらく執筆時)までの約20年間。現在進行中のできごと、存命中の人々を記述するので、これまでの歴史研究者ではなく政治学者が執筆する。戦前の昭和3年に東大法学部の教授になり、川合栄次郎といっしょに昭和14年辞任。その後、翼…

杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫) 戦国大名も中国と貨幣経済の変化に無縁ではない。荘園と地頭の解体が人の垂直的移動を可能にする。

ここでは1470年から1570年にかけての歴史がおもに大名の視点で語られる。このあとの天下統一は次の巻の主題なので、織田・豊臣・徳川の話はほとんど出てこない。かわりに、伊達政宗、武田信玄、上杉謙信、北条早雲、毛利元就などの地方大名が語られる。戦後…

土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」( 中公文庫) 平安期は民衆や地方の武士に関する資料が少ないので、歴史記述は貴族ばかりになる。

西暦1000年を境に前後50年の約100年を記載。タイトルにあるように天皇を中心にした摂関政治のことを記述している。それは当時の資料がどうしても貴族の日記や公文書、さらには歴史物語に偏するためで、民衆や地方の武士に関する資料が少ないから(文書が散逸…