odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)-3

2019/02/1 ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)-2 1969年 続いて古代・中世から近世に入ってからの変化(なお、古代・中世・近世の区分は評者である自分の区分であって、ヒックスの区分ではないことに注意)。 農業の商業化 ・…

斎藤文彦「フミ・サイトーのアメリカン・プロレス講座 決定版WWEヒストリー 1963-2000」(電波社) テレビ時代に全米のプロレスマーケットをワークホリックなビジネスマンが一社で独占するまで。

著者は高校生でホームステイしていたころからアメリカのプロレスラーにインタビューしていた。記事を書くと、日本のプロレス雑誌が買うようになり、プロのライターになってからは日本のプロレス試合のレビューも書くけど、むしろアメリカのプロレス情報を紹…

斎藤文彦「レジェンド100―アメリカン・プロレス伝説の男たち」(ベースボールマガジン社)

もとは2006年に出版されたものだが、今回は2018年にウェブで連載された版で読んだ(いろいろと加工して、PDFを作成しタブレットに表示させる)。およそ12年たっているので、その後の経歴や消息などをアップデートし、過去の資料の発見などを補足してある。 W…

マイケル・ルイス「マネー・ボール」(RHブックス・プラス) データ重視は野球の技術と戦法を変えたが、球団運営を変えたか

オークランド・アスレチックスは冴えない大リーグの球団だった。資金が少なく、年棒総額はヤンキースの3分の1でしかない。しかし、1999年から数シーズン目覚ましい活躍をみせる。それまで年棒の高いスーパースターを集めれば常勝球団が作れるといわれていた…

石川啄木「雲は天才である」(角川文庫)

石川啄木にはほとんど興味はないのだが(一握の砂などのエントリー参照)、角川文庫の小説集は高校時代に読んで、なんだこりゃと思っていた。青空文庫に入っているのが分かったので、読み直してみた。うーん、少し後悔。石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」(…

柳広司「虎と月」(文春文庫)柳広司「虎と月」(文春文庫) 中島敦「山月記」の後日談。虎になった李徴が人語を解せるのはとても合理的なわけがあった。

中島敦「山月記」には後日談があった! 李徴が虎になったと袁(えん)さんが報告してから10年後、李徴の息子は疑う。失踪当時4歳で詳細は理解できなかったが、母が、世間がそのようにいう。父が虎になったというなら、自分もいずれ虎になるのではないか。事…

中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-1 「文字禍」「悟浄出世」「虎狩」の完成された文体。高校の「山月記」の読み方は現状の肯定と内省に基づく自制を読者に要求

新潮文庫に収録されていたのは、表題作の他「弟子」と「名人伝」の計4編。ここではさらに青空文庫に収録された短編のいくつかを加える。 1909年生まれ、1942年気管支ぜんそくで33歳の若さで没した。 文字禍 1942.02 ・・・ 昔、アッシリアの博士、エジプト…

中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-2 「悟浄歎異」「斗南先生」「狼疾記」他人の旺盛な行動力を羨望する知的エリートたち

2019/01/21 中島敦「李陵・山月記」(新潮文庫)-1 1942年 盈虚 1942.07 ・・・ この難しい字は「盈虚(えいきょ)」と読み、 満ちることと空っぽのことから繁栄と衰退、また月の満ち欠けのことという。さて、紀元前5-6世紀の春秋か戦国の時代。親によって放…

中島敦「光と風と夢」(青空文庫) 本国でうだつがあがらない「二流作家」は植民地でよそ者になってぐだるしかない

「宝島」「ジキル博士とハイド氏」などで知られていたロバァト・ルゥイス・スティヴンスン(本書の表記)は、35歳(1884年)に肺結核で最初の吐血。以来、イギリスを離れて療養に努めてきたが、身体に合う土地は見つからず、1889年になってようやくサモア島…

井伏鱒二「山椒魚」(新潮文庫) 戦前作品集。小説書きという札付き不良のほのぼの小説。いじましい小人物像はいしいひさいちの「バイトくん」を想起させる。

最初に読んだのは高校三年生の受験直前。ぜんぜん面白くなかった。老年に足を踏み入れた今読むと、とてもおもしろい。年齢によって受け取り方が違うというわけだな。なるほど、井伏の小説は人生経験の少ない高校生にはわからんわ、高校生には太宰か芥川か梶…

井伏鱒二「ジョン万次郎漂流記」(角川文庫) 小説から露出した正義や公正、道徳の問題は21世紀の現在にも通じる。でも作家はそこまで考えない。

作家の中編3つが収録されている。戦前、敗戦直後、経済成長開始期のそれぞれの代表作が載っているお得版。 ジョン万次郎漂流記 1937 ・・・ ジョン万次郎(1827-1898)の半生記。15歳でカツオ漁に出たら暴風にあって十日間以上の漂流。アメリカの捕鯨船に救…

井伏鱒二「かきつばた・無心状」(新潮文庫) 戦後作品集。日常の瑣事に注目しながらも、日本人による差別や底意地の悪さなどにはしっかり気づいている。

たぶん敗戦後に書かれた短編を集めたもの。解説には、作家の思い出話をのせていて貴重とは思うけど、書誌情報は必須だよね。 普門院さん ・・・ 昭和の初め、小栗上野介の菩提寺の住職になった坊さんが賊軍であった小栗の供養をするようになる。鎌倉に住む勅…

井伏鱒二「川釣り」(岩波文庫) 密漁、毒流し、発破かけで「よろすぶったくり」、排泄物やごみを川に流す日本の釣り事情

井伏鱒二は川釣りの好きな人で、旅館に逗留して鮎やハヤやヤマメなどを釣っていた。ついでに随筆に書いたり、短編小説にしたりもしていた。それらを集めて岩波新書に入れたのは1952年のこと。収録のうち、「ワサビ盗人」「掛け持ち」は他の短編集にも収録さ…

井伏鱒二「駅前旅館」(新潮文庫) ビジネスホテルにとってかわられた駅前旅館ビジネスの記録。この国の経済成長とはちょっとはずれたところの生活と人を見る。

駅前旅館は1980年代にビジネスホテルにとってかわられてほぼ絶滅している。まあ、我々としては東宝の喜劇映画で森繁久彌や伴淳三郎、フランキー堺などの演技とともに懐かしむしかない。あるいは、1956年に書かれたこの小説を読むしかない。 小説の枠組みは、…

森敦「意味の変容」(ちくま文庫) ここには「神」とか「超越」とかはない、そのような「小説」があるということだけで、これは傑作である。

「光学工場、ダム工事現場、印刷所、およそ「哲学」とは程遠い場所で積み重ねられた人生経験。本書は、著者がその経験の中から紡ぎ出した論理を軸に展開した、特異な小説的作品である。幽冥の論理やリアリズム1.25倍論など独自の世界観・文学観から宗教論・…