odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

高見順「死の淵より」(講談社文庫) 「とざされたままの部屋」にある「おれ」を暴くことが20世紀の日本文学のテーマだったのだなあ、と納得。

高校生の時に、だれもがそうするように、おれも詩を書いたり、読んだりした。自作のものはぜんぜんだめだったので、プロの詩人の作品をあれこれ読んだ。好みがはっきりしたときには、西脇順三郎と田村隆一の二人が気に入った。気に入ると、自作のはますます…

石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」(青空文庫)

著者のことはほとんど知らない。高校生の時に唯一の小説「雲は天才である」を読んだが、ピンと来なかった。 石川啄木「雲は天才である」(角川文庫) それ以外は読んでこなかった。それは短歌をどのように読めばよいのかわからないから。もちろんいくつかの…

ジャック・プレヴェール「プレヴェール詩集」(マガジンハウス) レジスタンスと映画にかかわった20世紀前半のフランス詩人。ナンセンスと路上の人たちへのやさしい視線。

ジャック・プレヴェールは1900年生まれ。10代に第1次大戦で動員され、20代にシュールリアリズム運動にかかわり、30代に映画界にはいって脚本をかいたり挿入歌の歌詞を書いたり、40代にレジスタンスにかかわったり、そのあとも映画にかかわり詩を作った。マル…

ジュール・ルナール「博物誌」(旺文社文庫) 田舎に住んで野生の動植物と一緒に暮らした詩人が、彼らの「ありのまま」を描く。

解説を読んでなるほどと思ったのは、ルナールはビュフォンの「博物誌」を読んでいたのだったってこと。ビュフォンの博物誌L'Histoire Naturelleは当時の博物学研究の総覧(1749-1788ころまで)。数十巻に及ぶ大著で、世界の動物を枚挙しようとする大著。厳密…

ジュリアス・ファスト「ビートルズ」(角川文庫) 年上からみたビートルズ現象。若者の熱狂に大人は眉をひそめていた。

御多分にもれず、自分がビートルズを知ったのは、中学生の時に悪ガキがクラスに持ち込んだラジカセからだった。そこで聞いた「She Loves You」のメロディとビートにびっくりした。さっそく、若いみのもんたのDJで、ビートルズの曲を片端からかけるというラジ…

クラウス・シュライナー「ブラジル音楽のすばらしい世界」(ニューミュージックマガジン社) タンゴやボサ・ノヴァの熱心なファンはブラジルを除くとドイツと日本にしかいないといわれる。ドイツの民俗音楽研究が本気だした成果。

この国の敗戦がもたらしたもののひとつは、外国の音楽がどっと入ってきて、新たなファンを獲得したこと。15年戦争中に禁止されていたジャズほかが演奏できるようになった、占領軍の軍隊向けラジオ放送をこの国の人が聞いて魅了された、戦地の収容所でひがな…

クロード・ピゲ「アンセルメとの対話」(みすず書房) 数学の専門研究をしていた指揮者が現象学を駆使した音楽理論書を書いた。そのエッセンスを聞くインタビュー。

エルネスト・アンセルメ(1883-1969)はスイスの指揮者。ディアギレフ・バレエ団の専属指揮者となったり、スイス・ロマンド管弦楽団を組織したり、Deccaで膨大なレコーディングをしたりと、20世紀を代表する指揮者の一人。若い時からお世話になったが、これ…

パウル・ベッカー「西洋音楽史」(新潮文庫) 1924年にでたドイツ音楽中心史観の音楽史。政治学、社会学、技術史は一切無視。

1924年にラジオで放送された連続講演会をまとめた。内容は和声学・対位法などの音楽学までおよぶ。たしかヤスパース「哲学入門」も時期は異なるとはいえ、ラジオの連続講演をまとめたもので、ヤスパースは自分の考えをぞんぶんに語った。ベッカーやヤスパー…

山根銀二「音楽美入門」(岩波新書) 芸術美を人間が把握できるようになるためには音楽も人間も社会変革の意思も持たなければならない。

著者は1906年生まれの音楽学者、評論家。いくつかの楽譜の校訂や解説で彼の名前をみることがある。この本は1950年初版で、1976年に改訂された。 さて音楽の美に入門するための本であるが、音楽の美はどうもはっきりしない。とりあえず著者のいうことを聞き取…

小泉文夫/團伊玖磨「日本音楽の再発見」(講談社現代新書) 明治政府以降、学校教育は伝統音楽を軽視してきたが、それはこの国の音楽を貧しくしたのではないかという問いかけ。

当時50代前半の作曲家と40代後半の音楽学者による対談(1976年)。この国は明治政府ができてから音楽教育に力を入れるようになった。その一部は堀内敬三「音楽五十年史 上下」(講談社学術文庫)に詳しいが、ようするにヨーロッパ音楽を規範としたが、一方で…

小泉文夫「音楽の根源にあるもの」(平凡社ライブラリ) 伝統音楽や民衆音楽の軽視はこの国の音楽を貧しくし、自由を失わせている。

この国では明治維新のあと、西洋音楽を普通教育に取り入れた(堀内敬三「音楽五十年史 上・下」講談社学術文庫に詳しい)。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jpそれによって、軍歌や唱歌、童謡などの合唱運動がおこり、国民が一緒に歌えるよう…

孫玄齢「中国の音楽世界」(岩波新書) 中国の音楽を鳥瞰したいが新書では無理なので、古代・演劇と音楽・民謡の限定して解説。

中国の音楽を鳥瞰する新書。なにしろ3000年の歴史を持ち、長江と黄河があって、現在では10億人以上も住んでいる場所だから、こんな新書一冊に収めるのはたいへん。そこで、3つのパートに分ける。 ・第1部は、古代。文献、考古学資料などから音楽の盛んであっ…

武満徹/川田順造「音・ことば・人間」(岩波同時代ライブラリー) 昭和一桁生まれはすでに西洋音楽が染みついていて、それ以外の音楽は異質に聞こえる。日本の伝統音楽でさえも。

武満徹は作曲家、1930年生まれ。川田順造氏は文化人類学者で1934年生まれ。二人が1978年から翌年にかけて雑誌「世界」に往復書簡を公開した。それをまとめたのがこの本(1980年)で、文庫版の出たのは1992年。二人とも40代で、とても行動的。武満は世界各地…

藤井知昭「民族音楽の旅」(講談社現代新書) 西洋中心主義からいかに脱するか。そのために「音楽以前」とみなされた音楽を聴きに行く。

1980年代の後半のいわゆる「バブル」の時代に、この国では「ワールド・ミュージック」のブームがあった。六本木や池袋のWAVEというCDショップに専門コーナーがあったり、世界の音楽を現地録音したCDシリーズが出たり、ブルガリアやバリ島やその他の演奏家が…

ジョン・ブラッキング「人間の音楽性」(岩波現代選書)

「音楽は世界の共通言語」という主張を聴くことがあるが、半分くらいしかあたっていなくて、世界の多くの人が音楽とみなしている語法で書いた音楽を演奏すると、世界の多くの人はそれを音楽とみなしてくれる、ということだ。知っている語法から外れた音楽は…

カート・ヴォネガット「カート・ヴォネガット大いに語る」(サンリオSF文庫) 奇想天外で能天気なほら話をする陽気なおじさんが語るペシミスティックな想念と涙もでてこないほどの絶望と孤独。

作家の小説に一時期はまっていて、著者名に「Jr」がついているころから、ずっと追いかけていた。その当時、翻訳されていたものは全部読んでいたのではないかな。どうやって知ったのかというと、たぶん大江健三郎のエッセイで。「坑内カナリア理論」で知った…

ウラジミール・ナボコフ INDEX

2014/04/10 ウラジミール・ナボコフ「賜物 上」(福武文庫) 2014/04/11 ウラジミール・ナボコフ「賜物 下」(福武文庫) 2014/04/14 ウラジミール・ナボコフ「ベンドシニスター」(サンリオSF文庫) 2014/04/15 ウラジミール・ナボコフ「ナボコフの一ダース…

ウラジミール・ナボコフ「ロリータ」(新潮文庫)-1 最初にすべての解決が示されているのに、「読者への挑戦」の後の解決編で驚愕してしまう驚きのストーリー。

550ページの長い小説を読み終えた後に、充実感ではなくて、読み込み不足を感じて、即座に最初のページに戻り、もう一度読み直さなければならないと読者に思わせる小説。今度は、作者の仕掛けをきちんと読み取ろうと思って読んでいても、たぶんまだ見落としが…

ウラジミール・ナボコフ「ロリータ」(新潮文庫)-2 ハンバートとロリータの互い見がつくる「官能の王国」は社会や共同体を敵視し、破滅に至る地獄めぐりを要求する。

2016/10/07 ウラジミール・ナボコフ「ロリータ」(新潮文庫)-1 の続き。 ハンバートの主張によると、女は子供と成人の間に、<少女>と呼ぶべき特別な一瞬があるという。それをニンフェットと呼ぶ。年齢は9歳から14歳の間。すべての女がニンフェットになる…

ハーマン・メルヴィル「白鯨 上」(新潮文庫)-1 誰でもない誰でもいい饒舌な語り手がテキストで世界を語りつくそうとする。

ひとところには住めない風来坊がいる。とりあえずの名は「イシュマエル」としよう(日本語訳には下記のように揺らぎあり)。商船に何度も載ってきたが、今度は捕鯨船に乗り込むことにする。一度航海に出ると数年は帰れないかもしれない長距離の航海だ。そこ…

ハーマン・メルヴィル「白鯨 上」(新潮文庫)-2 裏返しにされた「ヨナ書」。認識不可能な存在と直接コミュニケートしたいエイハブの狂気。

ハーマン・メルヴィル「白鯨 上」(新潮文庫)-1 の続き そうした引用先でも最も重要なのは「ヨナ書」。旧約聖書の中では最も短いもの(だと思う)なので、リンク先などで読むことを推奨。 口語訳聖書 - ヨナ書 冒頭付近でマップル神父がヨナ書に基づく説教…

ハーマン・メルヴィル「白鯨 上」(新潮文庫)-3 登場人物表。ピークォド号にはほとんど世界中の人種・民族の男が乗っている。

という具合に、イシュマエルみたいにどうでもいいことを書くしかないが、もはやネタは尽きた。なので、あとはこれからハーマン・メルヴィル「白鯨」を読む人のための資料を提供することにする。 まずは登場人物表。だいたい登場順。イシュマエル ・・・ 語り…