2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧
「−−−これはインクではなく私自身の血と涙の一滴一滴で煉り上げられた作品だ−−−中国文化革命の嵐の中で苦悩し、その抑圧から立ち直ろうとする眼科医師と技師夫婦の、すべてをすてて仕事にかける中年世代としてのよろこび・悲しみを通して、中国がかかえてい…
1933年の作。この前にマルローは1925年にインドシナにわたり、帰仏の途次、中国に渡り国民党政権に協力した。1926年に帰国した。 小説の背景は1927年3月の南京事件。共産党指導のもとに労働組合がゼネストを開始。それにあわせて、党員の武装部隊が警察その…
この小説は、横光利一の最初の長編。1925年の上海騒乱に触発されて、1929年から2年ほど改造に連載されたとの由。この作家は、この20年ほど品切れ状態になっていて、ほとんど入手不可能になっていた。これも2000年の岩波文庫復刊で出版された…
先のコリン・ロス「日中戦争見聞記」(講談社学術文庫)を補完する本。ロスは1939年に重慶に飛び、そこに首都を移動した国民党政府首領・蒋介石と会おうとしている。 こちらは、前年1938年の国共合作時代に武漢で抗日戦線宣伝に携わっていた著者の記録。有名…
われわれが外国を旅したときに、風景・文物・風習がどれも珍しくて、それとわれわれの日常に在るものの差異を考えてしまうことがある。それと同じことは日本を訪れた外国人にも起こっているはずで、彼らが記録したことは、そこに住んでいるものにはあたりま…
砂漠という場所は、なぜかくもわれわれの心を震えださせるのだろうか。そこに住む苦労や苦痛に対して何らの想像力をはたかせることなく、砂漠という場所にあることを夢想し、そこに在ることにあこがれる。 現実の砂漠に住んではいないわれわれにとって、想像…
中国の歴史上のよく知られた人物を史実・史書にできるかぎり近づけて書いた短編集。 彼らの問題をわれわれの問題にからませて書く力、みごと。とりわけ「項羽の自殺」「孟子妻を出す」「賈長沙痛哭す」の3編が知識人のあり方をよく捕らえている。「人、中年…
中国の古典を読むときによくある失敗は、本の中に入り込みすぎ、しかも「神」のような超越的な場所から人物評をするということ。そうなると、項羽はどうこう、劉表はあれこれ、呂后はなんだかんだ、という具合に読者の身の丈を超えて、彼らを評価し、現代の…
「日記」と「PDF自炊」を除いたエントリーの数。 まあ、「ドイツ民衆本の世界」「ヴァンパイア戦争」「銀河英雄伝説」のように複数冊を1エントリーにしたり、「フーコーの振り子」のように上下巻で2エントリーにしたりで、そのまま500冊と同じというわけで…
先に鈴木良一「織田信長」を読んでいたのだが、信長の時代である1500年代の100年間に起きたことは、中国では春秋戦国時代の約500年間(紀元前700年から紀元前200年まで)に起きたことなのだ、と考えた。ということは、中国は日本より約2000年早く歴史を進み…
ふむ、四半世紀前のほぼ同じ月に読んでいたのか。 そのときは、中国の歴史にはほとんど無知だったので、この小説にはほとほと苦労させられたのだった。作者のほかの小説との差異を考えれば、僕らとしては、中国古典と中国古代史を基礎知識として持たないので…
時代はわからないがたぶん1973年ごろ(小説の初出時の年)。100年ほど前から遺伝子の突然変化が形質化したのか、肌の色が緑色の子供が生まれるようになった(肌の色が白・黒・赤・黄のいずれでもないことに注意)。アングロサクソン系の人たち(もちろんイン…
現在の並行世界にあるイギリス。1977年当時のイギリス国王とその一家(架空の家族)。国王ビクター(医師の免許を持っているというのがおもしろい)に王妃イザベラに、皇太子アルバート(高校生)に、王女ルイーズ(14歳)。そこに国王の秘書ナニー(国王の愛…
「ドーセットにある障害者用の療養所で教師をしていたバドリイ神父が急死した。長年の知人であるダルグリッシュ警視が、折り入って相談があるという手紙を受け取った直後のことだった。はたして神父の相談ごととは何だったのか。休暇を利用して調べをはじめ…
「懐かしい殺人の事件で人類愛財団から高額の賞金を受け取ったミステリ作家クラブの三人が、楽しい船旅を終え、イギリスに帰ってくる―――悪党二人組がこんな新聞記事を読んでひらめいたこととは、この三人のうちの一人を誘拐して大金をせしめとろうということ…
「懐かしい殺人で2万ポンドの意外な大金が転がり込んだ殺人同盟の老作家たち三人は、豪華船サンダランド号に乗り込んで、念願の船旅に出た。彼らの大金を騙し取ろうとした詐欺師夫婦から逆に金をせしめたり、いよいよ旅は順風満帆。思われた矢先、詐欺師の奥…
「英国ミステリ作家クラブの創立者である三人の老作家の経済状態は、まさに逼迫していた。原稿の依頼もなく、ただ世に容れられぬ身の不遇を嘆くだけ・・・そこで協議の結果考え出されたのが殺人請負業《殺人同盟》の結成だった。彼らの本領である伝統的な殺…
高校時代を思いだすと、世界史授業の中で英国が出てくるのは、12世紀のマグナ・カルタと17世紀の名誉革命と19世紀の産業革命と20世紀の2つの大戦。途中に大航海時代と東インド株式会社がはいるか。たぶんそれくらい。「時の娘」がテーマにしている薔薇戦争(…
マンハント(人間狩り)の物語。前半はピーピングと尾行が語られるが、そこに背徳とか罪悪感はない。バルビュス「地獄」との差異は作者の国籍の違いによるのか(実務家のロックと理想家のルソーの違いとか)。主人公が上記のような負の感情を持たないのは、…
「第二次世界大戦下、イタリアの第一二七捕虜収容所でもくろまれた大脱走劇。ところが、密かに掘り進められていたトンネル内で、スパイ疑惑の渦中にあった捕虜が落命、紆余曲折をへて、英国陸軍大尉による時ならぬ殺害犯捜しが始まる。新たな密告者の存在ま…
「1951年3月7日から2カ月間、新聞に続けて掲載され、ロンドンじゅうの話題になった奇妙な個人広告。広告主の「ビスケット」とは、そして相手の「人魚」とは誰か?それを機に明かされていく、第二次大戦中のある漂流事件と、その意外な顛末。事実と虚構、海洋…
「ロンドンの安アパートは、女流画家のケイ、評論家のテッドとその愛人メリッサ、建築家のチャーリーに、作家志望のナオミなど一癖も二癖もある住人揃い。ある日、フランスへ行くとアパートを出たナオミの部屋からピストルが発見された。みんなが不安を煽ら…
「ラナルド・ガスリーはものすごく変わっていたが、どれほど変わっていたかは、キンケイグ村の住人にもよく分かっていなかった……狂気に近いさもしさの持ち主、エルカニー城主ガスリーが胸壁から墜死した事件の顛末を荒涼とした冬のスコットランドを背景に描…
訳者解説によると、英国探偵小説作家は、舞台もの・学園もの・田園ものの3つをたいていものするそうだ。これは舞台ものの代表作。なんて英国人は演劇が好きなのだろう。だれもがシェイクスピアの台詞を暗唱できるくらいに習熟しているなんて。たとえばスコ…
「第一部―陪審。ある殺人事件を裁くために選ばれた十二人の陪審員。彼らのなかには誰にも知られてはいけない秘密を持つ者もいる。そんな陪審員たちの職業や経歴、思想などが浮き彫りにされ、各々が短篇小説を読むような面白さとなっている。第二部―事件。莫…
「推理小説家のフィリクス・レインは、最愛の息子マーティンを自動車のひき逃げ事故で失った。警察の必死の捜査にもかかわらず、その車の行方は知れず、半年がむなしく過ぎた。このうえは、なんとしても独力で犯人を探し出さなくてはならない。フィリクスは…