odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

奥泉光

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 上海に帝国主義国家の猫が集まり、国の代表のように駄弁をふるう。

まえもって夏目漱石「吾輩は猫である」を読んでおいた方がいい。なので、未読の人は本書を読むのは後回しにすること。 猫の「吾輩」はビールに酔っぱらって水死したはずである。「吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2 テキストで1905年から6年を再現しようという意思が働いていて、蘊蓄・博識を隠さない。

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年 新聞などから解る事情はこういうこと。1905年11月23日。夕方客のあったあと自室にこもっていた苦沙弥氏は翌朝頭を殴られて死んでいるのが発見された。家屋は内から戸締りがされていて…

奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-3 名無しであるという無個性はそれゆえにこそ宇宙的な普遍性を獲得する。しかし猫の普遍性は人間には全く影響を及ぼさない。

2019/11/14 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-1 1996年2019/11/12 奥泉光「『吾輩は猫である』殺人事件」(新潮文庫)-2 1996年 古典的なテキストを基にして、別の物語を載せてリフレッシュさせる文学は、例えばクリストファー・プリースト…

奥泉光「シューマンの指」(講談社文庫) シューマンに取り憑かれた人が本体と影、実体とイデアというような二元論の罠にからめとられる。

音楽好きの高校生たちが、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」をなぞって同じ名前のグループを結成し、シューマンが作った「新音楽雑誌」と同じタイトルの雑誌を発行しようとする。それくらいにシューマンへの愛情がある連中なのだ。というわけで、この小…

奥泉光「グランド・ミステリー 上下」(角川文庫) 錯綜した物語は、登場する人物にはまったく全体像を把握することが不可能。SFでもミステリーでも風俗小説でもある摩訶不思議な小説ジャンル。

物語は真珠湾攻撃準備で太平洋を渡航中の空母から始まる。第1次攻撃に向かった艦爆機が帰還すると操縦手が服毒死している。その直前には機体整備の兵士が理由なく失踪している。また潜水艦では決死の小型潜水艦による真珠湾攻撃準備中、潜水中の艦内で重要書…